「石榴もルデメもも…やりすぎニャ」





シャムの言葉は、どこか空しく風に消えていく







名指された石榴とは周囲を見回して


互いにどこか引きつったような笑みを浮かべた





ちなみにその状況を引き起こした張本人は
罪悪感ゼロで手に入った鉱石の質を確かめている







「目的の鉱石は手に入りましたが、この状態では
しばらくこの港は機能しませんね…」


「いいんじゃない?
こういう無法地帯は案外しぶとく復興するだろうし」


「そーいう問題かこれ」







幸い、死人はいないようだが


辺りの地面や建物に穿たれた破壊痕やあちらこちらで
上がる呻き声が どうにも生々しい







「とにかく、早くここから出ましょう
町の人達に知られたら そちらも色々マズイでしょうし」





改めて周囲を見回し、それぞれ思考を巡らせて
石榴とシャムは首を縦に振る





「…ああ これが俺達のせいだなんて
口が裂けても言えねぇよな」


「それにカルロスももうケガからカイフクしてるだろうしニャ」





が言い出す少し前から、
すでに召喚魔法の詠唱を行っていたらしく


三人のやや後ろに現れたグリフォンのような生き物の上に
乗った状態で ルーデメラが問いかける





「さて、僕らは船に戻るつもりだけど 剣士君はどうする?」


「僕はこのまま地続きでソゥエレスティスに向かいます
そこから船で、さんのいる大陸へとんぼ返りしようかと」







浮かぶ微笑が、石榴には少し哀しげに見えた







「そうか 気をつけてな


「ありがとうございます、石榴さん達もお元気で」











〜No'n Future A 番外 「無法と異邦の配下」〜











「じゃあな兄ちゃん、精々気をつけるこって」





船の甲板から架け橋を回収した船員が
どこか他人事の様に 桟橋の少年にそう言った





アダマス大陸の港を巡航する定期船は


大勢の乗客を乗せて逃げるように 港を後にする







唯一そこで降りた黒髪の少年は、その船を羨ましげに
眺めてから ため息をついて大陸の土を踏んだ







「うぅ…ようやく港に着いた さっさと
目的の鉱石を手に入れて」


「お前…ひょっとしか?







声のする方に視線を向けた黒髪の少年―





駆け寄ってくる二人の少年の姿を目にした瞬間
憂い顔を瞬時に綻ばせた







石榴さんにルーデメラさん!お久しぶりです!」







再会を喜び合おうとして、彼は石榴とルーデメラの
やや後ろについてきているもう一人の少年に気付く







「あの…そちらの猫獣族はここの住人ですか?」


初対面で失礼なヤツだニャ!オイラの住んでたトコは
ここよりはずっとマシなとこニャ!!」


「五十歩百歩でしょ、スラム出身なんだし
ちなみにこの泥棒猫君は僕らの仲間だから」


「そうなんですか 挨拶もせず失礼しました、僕は」


「お前の話はカルロスからきいてるニャ
オイラの名前はシャム=バステト よろしくニャ」







差し出された手を、は握り返し





握手を終えた瞬間 シャムの手には―







お〜、ケッコウ金持ちだニャお前」


「あ!僕の財布!!」





目を丸くしたを、ルーデメラは楽しげに笑う





「泥棒猫君は盗賊モドキだけあって手癖が悪いから
気を抜くと全財産すっぱ抜かれるよ?」





中身に手をつけようとしたシャムを拳骨で殴り
石榴は財布を持ち主へと返しながら





「そういえばはどうしたんだ?」







彼と共に旅をする桃色髪の相方の不在を指摘する





はハァ…と少し深いため息を落とし







「話せば長いことながら、僕とさんは大分前
別の大陸である魔導師協会から依頼を受けたんですけど…」







魔術の研究に必要な調合薬が枯渇しかかっており


原材料から作り直す上で、どうしても必要な鉱石が
規定量より足りない為 緊急で取り寄せねばならず





手段問わず、必要分の鉱石の調達を頼まれたとか







「ボウケンシャなのに、そのイライは関係ニャくニャいか?」


「だよなぁ どっちかっつーと俺達みたいな旅人とか
そーいったヤツの仕事じゃねぇか?」





怪訝な顔をする石榴とシャムに





「…まぁ、さんが食費ワガママを自重さえすれば
僕ら正式な職だけで十分食べてけるんですけどね」







苦笑交じりでは簡単に自らの職を説明する









ラノダムークでも冒険者の生業は、宝の発掘や保護
奪取などが一般的とされている





が、宝に関する知識はもちろんのこと


各地に生きる魔物への対処や 宝の安置場所の特定
仕掛けられた罠の解除、時には真贋の見極めも必要とされ





よほどの腕がなければ大抵は貧窮極まる生活を強いられる







その為、半ば万屋的な仕事を引き受け糊口をしのぐ
冒険者も多くいる







…もっともそれは冒険者に限らず 流れの剣士や
魔導師なども同様で


故にか冒険者の職としての境界は曖昧だったりする









「とにかく、依頼を受けたさんと僕は
共に船に乗るはずだったんですけど…」







日頃の行いのせいか、依頼を受けた翌日に
は風邪でダウンしたのだとか







…鉱石の方、よろし…ゴホゴホっ」


「一人で行けっていうんですか!?」


「仕方ない…じゃんゴホ、チケット明日限り
ゴフゲフっ、有効だし…」







彼女の言う通り、乗船チケットは次の日限り





しかも今月は運悪く、ソゥエレスティスの観光シーズンの為
次のチケットは来月半ばまで取れない









「…それで 僕だけモルダに来ることになったんです」


「船に乗るのってチケット制なのか」





半ば感心したように言う石榴を、ルーデメラが
普段通りの調子で見下し始める





「当たり前だろう、その方が効率的なんだから
まさかクリス君の所には定期船も無いワケ?」


「馬鹿にすんな、あるに決まってんだろ
船どころか空飛んだり馬車より早い乗りモンだってあらぁ!」


えぇっ、そんな物が石榴さんの世界にはあるんですか!?」







しばしお互いの世界での交通に花を咲かせ
落ち着いてから改めて 彼は訊ねる





「ところで石榴さん達はどうしてモルダに?」





の言葉に、三人はそれぞれ違う顔をする







爽やかに微笑むルーデメラ 渋い顔をする石榴
そして罪悪感を浮かべるシャム







「僕も、目的は剣士君とほぼ同じかな」


「俺はルデに強制連行されたけどな」









パープラからの船旅の間、船酔いによって
船室に引きこもっていたルーデメラは


憂さ晴らしに道具や魔術の実験へのめり込んでおり







今日の実験の被害にあっていた石榴とシャムが
船内・甲板を問わず逃げ回り、





「お前達 船は遊び場じゃないんだぞ
あちこち走り回ったら怪我をs」





沸き起こる混乱を納めようとしたカルロスが

ルーデメラの放った術の被害者となってしまった







「ギニャー!カルロスーごめんニャ〜!!」


「いっ今治しますカルロスさん!!」








急いで治療を始めるシュドや慌てふためく周囲に構わず







「アレはモルダか…外出たの久々だし気づかなかったなぁ」





遠くに見える港町を一瞥し


現在地…船上での微妙な居心地の悪さ
(自業自得だが)を認識すると、彼は





「あの鉱石を混ぜた薬での実験はまだだったし…
まぁ、船の旅の気晴らしと息抜きにはもってこいか」





召喚獣を術で喚び出し、石榴の襟首引っつかんで





「君が大人しく僕の被検体になってれば船長さんは
怪我しなかったんだよ 罪滅ぼしに僕の手伝いをすること
さーグリフィクスに乗った乗った」


「お前それ腹いせだろ単なるっ
ロクに説明もせず召喚獣に乗せんな!!」



「ルデメっ オイラも行くニャ!」







…そして モルダへやって来たらしい









「水の上を揺られる乗り物にずっと乗ってたら
たまには大地だって恋しくなるじゃないか」


「ルーデメラさんの気持ち、分かる気がします」







小さなの呟きを、耳聡く聞きつけ







「…ひょっとしてカナヅ


「何か言いましたかシャム君?」





問いかけた直後


ほんの一瞬、黒いオーラが吹き出た事を感じ





「ニャ、ニャんでもニャいです」





シャムは言いかけたことを飲み込む









ともあれ あらかたの話…というか
自分達の事情を終えて、四人は歩き出す







「礼金とは別に調達用の費用もそれなりに
もらってるので モルダの闇市でも買えると思います」


「闇市って…なんか非合法なモンでも扱ってんのか?」


「当たらずともとおからずニャ」







このモルダという町は、元は普通の港町だったのだが





政権の変化や魔物達の侵略などによって廃れ


今では子捨てや人殺しなども少なくないほどの
無法者の行きかう 治安的に物騒な場所に成り下がっている







全体的に荒廃している町の裏路地の奥の方に





公にはあまり出回らない品や非合法品などを取り扱う
闇市が、しっかりと存在していた







「…想像してたのよりは 意外と普通だな」


「まぁね、それにこういう闇市もそれはそれで
重宝したりするものなんだよ?」


「ええと…たしかこの辺りに…ああ、あった!」







辺りを見回していたは、やがて一軒の店に目を留めた







「入手した情報によればあの店に置いてあるそうです」


「したらさっそくゲットだニャ!」







早速中へと入ろうとした四人の前に







オゥオゥオゥ!青っちろいガキ二人と
ソトモンと猫野郎が何のようだぁ?」


「まさか生意気に闇市で買いモンでもしようってか?
テメェらガキのこづかいで買えるシロモンはねーよ」





いかにも柄の悪いゴロツキ二人が寄ってきた









シャムは小さな悲鳴を上げ、慌てて三人の後ろへ隠れるが







「うるっせぇんだよドチンピラが あ゛ぁ?


「術を唱えてないのに獣の言葉をしゃべれる君らって
見た目よりもハイレベルなケダモノなんだねぇ」


「こちとら修羅場潜ってっから、テメェらみてぇな
三下バラすぐらいワケねぇんだよコラ 刻むぞ







三人の方は、逆に険悪なオーラを放ちながら
挑発返しをお見舞いする







「「んだとぉ!?やってみろやクソガキャぁぁぁ!」」





パターン化されたような台詞と共に
挑発を受けたゴロツキ達は食ってかかり


言葉通り瞬く間に片付けられた







、お前性格変わってねぇか?」


「そりゃ裏の世界も見れば人間スレますから
それに、さんにも苦労させられてますし」


「お、おっかないヤツなんだニャーって…」







気を取り直して 四人は改めて店に入る







「剣士君、お探しの品はアレのようだけど…」


「届きそうに無いですねー…脚立ないかな…」







目当ての鉱石は、棚の一番上…


というよりむしろ
天井に近いような位置にあった


だがしかし





「オイラにまかせるニャ…っと!


狙いをつけて、思い切りかがんでから
シャムがその場で飛び上がる





彼は石榴達の頭の上まで難なく飛翔し


伸ばした手で、置いてあった鉱石を掴んで
危なげなく着地した





「これでいいんだよニャ ?」


「あ、はい ありがとうございますシャム君」


「ニャんのニャんの、その代わり一割お礼を」





言いながら手を出したシャムは、石榴に小突かれる







「どうやら間違いは無いようです…あの
この鉱石を、20ほど欲しいのですが」





手にした鉱石を見せながら、
カウンターにいる店主に問いかける


無愛想な親父は 低い声で即答した





「二千億」





シャムとと石榴の三人が噴きだす





「えぇぇっ、に、二千億ぅ?!


いくらニャんでもボりすぎニャ!
どこのヤミイチでもそんな値段のモノはおいてニャいぞ」


「てか物売る気あんのかオヤジ!」





口々から上がる不満に、しかし店主は眉一つ動かさない





二千億、それ以上はまからねぇ イヤなら出てけ」









話にならず、四人はその店を出る







「何だあのオヤジ!」


「あのアイソの悪さも値段もジンジョーじゃないニャ」


「どうやら、裏になにかありそうだね」


「…兄ちゃんたち、相手が悪いよ」





響いたその声に、四人が一斉に顔を向けた







横手の路地から現れたのは


薄汚れたボロをまとった
見るからに浮浪者姿の女





「お前、だれだニャ?」


「あたしゃここに住む見た通りのモンさ
不注意過ぎるあんた等に、ちょいと忠告したくなってね」


忠告…ですか?」


「そー、聞くだけでもソンは無いと思うよ?」







浮浪者が言うには、ある組織がこの闇市を
最近になって取り仕切り始め


やたらに物価を釣り上げたり


店を出す許可として毎月のように法外な金銭を
納めさせたりしているそうだが


魔物やら魔術師を従えているため


住んでいる者たちや店の者達は


組織のやり方に、不満を持ちつつも
怯えながら暮らしているらしい







「あんた等が倒したのもそいつらの飼ってる
下っ端だ、だから」





言いかけた彼女の言葉が途中で途切れる





思い切り ボロボロの服の後ろエリを引っ張って





「テメェ!何余所者に教えてんだ!!」





背後から現れた厳つい男が、浮浪者を睨みつける





「ひぃぃ…お助けを…!」


「ダメだね、お前は制裁決定だぁぁ!」





言いながらその場で彼女へ
殴りかかろうとする男を地面に沈め


四人は解放された女へと駆け寄る





「大丈夫か?」


「ああ、ありがとうよ ぼ」





笑いかけた浮浪者の動きが止まった







首筋に添えられた剣と、かざされた手の平に





「お、お前ら何やってんだよ」





戸惑う石榴に 態度も体勢も変えないまま

ルーデメラとが答える





「クリス君、この世界には君みたいな
お人よしだけとは限らないんだよ?」


「この手の事に慣れない石榴さんはともかく
僕らまで欺けると思ったら大間違いですよ」





浮浪者は困ったような顔を二人へと向ける





「あ、欺こうだなんて そんなワケ」


「石榴、コイツ後ろの手にこれ持ってたニャ
しかも…ドクのニオイがプンプンするニャ」





いつの間にか背後に回ったシャムが見せたナイフに
浮浪者の笑みが 凍りつき…







「囲めテメェラアァァァァ!!」





女は恐ろしい形相で声を張り上げ


それ合図に、周囲から間髪いれず現れた連中へ
悠然と命令を下すのだが


有象無象の軍勢と、女とを


まったく慌てる事無く四人はしばき倒した







「ファンタジーだろうとこういう薄汚ぇ奴等
転がってんのか…」


「キレイごとが通用しニャい世界だってあるニャ」





淡々とシャムが呟く横で、が尋問していた
ゴロツキを放り捨てる





「どうやら組織うんぬんの話は事実みたいですよ」


「鉱石も持ってそうだし、何より…僕に牙を向けたら
どうなるか 知らしめてやるのも悪くないね」





そして四人と組織の者達との抗争が始まった







向かってくるチンピラゴロツキの類の大半を
石榴とがぶっ飛ばし


シャムの罠で生け捕ったヤツにアジトの位置を聞き





そこに乗り込んで、石榴とが騒ぎを起こし


後の二人が鉱石を盗み出す







行け、奴等の命を刈り取ってくるのだ!」


「噛み千切って来いトロール!!」





途中、悪魔や魔物を召喚して 襲いかからせる者もいたが





「爆ぜろ!」


「遅いっ!」


「メルティボム!」






三人の相手をするには荷が重かった







「たかがガキ四人になめられて溜まるか…アレを出せ!





いきり立ったボスらしき者が、子飼いにしていた
ヒュドラの合成獣を放ち四人の殲滅を試みるも


途中で術式が暴走したのか


合成獣は、アジトの外へと出てしまった







ニ゛ャ〜!町がこわされてるニャ!!」


チンケな組織のボス程度で下手に合成獣を使うから
こうなるのさ、このまま行けば一時間で町は灰に」


「したらマズイだろ!俺らで何とかするぞ!!」


「不本意ですが 止むを得ませんね」





行き掛かり上、町中で暴れ始める合成獣を





四人で手分けして撃退した……まではよかった







しかし合成獣を相手取る彼らの攻撃も
どっこいどっこいで町にダメージを与えており


気がつけば、アジトはもとより闇市もモルダの町も

等しく再起不能の状態に陥っていたのだった







「石榴もルデメもも…やりすぎニャ」








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:大変遅くなりました ぶっちゃけ色々と
キてる仕上がりでスイマセン本当スイマセン


石榴:つーかいつにも増して無理くりな展開が
多すぎ 誰もついてけねーぞコレ


狐狗狸:だね…さんもうっかり(つかしっかり?)
出演させちゃってるし 本当私はダメな管理人だ


石榴:それより、何で船降りたのだけなんだよ


狐狗狸:普通の旅人や観光客は観光客はモルダの先の
ソゥエレスティスで大抵降りるからです


シャム:ケッコウすさんでるからニャ〜ここに来るのは
ガラの悪いヤツかよっぽどの命知らずぐらいニャ


石榴:なるほどな てゆか鉱石がどうやって薬になんだよ


ルデ:必要なのは鉱石を砕いた粉だけど、
鉱石のままの方が販売はやりやすいだろう?


狐狗狸:ちなみにシャムが着いてきたのは、カルロスが
怪我をした責任を感じて 何かしたかったからです


あの後 船に戻った三人はカルロスの体調回復とかを
鑑みて、海上で一日過ごし それから入り江へ上陸し
二十九話へと繋がる…つもりです


事件の全容は三人としか知らず 話すのが
憚られる内容の為 互いの胸に事実をしまう形になります


石榴:あっコイツ面倒だからって一気に説明しやがった


シャム:手抜きニャ!手抜き〜!!


狐狗狸:シャーラッピング!!




説明文が多すぎる話になってしまい
本当に申し訳ありませんでした…


様が様好きっていう設定を
書けなかったのだけは唯一の悔いです


こんなんでよろしければ野良ネコ様に
進呈させていただきます!