フュリオン大陸のストネ湿地帯と雑木林を挟んだ村 ヴラド







小規模ながらも活気のあった面影も今はない
寂れた村の入り口に、一人の旅人が佇んでいた









後ろで一つにまとめた長い髪に紫色の瞳





軽装鎧を着けたその背には、年月を刻み
使い込まれた二振りの剣が負われている







「ここがヴラドの村ですか…」





落ち着いたよく通る声に、微かな決意期待が滲む





「例の魔物はどこにいるのでしょう…まぁ
とにかく 情報を集めなくては」







言いつつ、一歩足を踏み出す旅人の背後から
空気を裂くような叫び声が響いた





「危ねぇ、しゃがめ!」





反応し振り向くよりも先に、同時に起こった
予感にしたがい 旅人がその場に屈みこむ







その頭上スレスレで、氷の槍が通り過ぎ







運悪く直線状にいた村長に直撃し、一瞬のうちに
氷漬けとなってしまった









「ぎゃああ村長が氷漬けに〜!!」





悲鳴が起こり 村人達が村長の回りを囲む







立ち上がり、呆気に取られた旅人に





悪ぃ!大丈夫だったか!!」







言いながら先程の声の主であろう少年が駆け寄る









緑がかった黒髪と茶褐色の目、黒いTシャツを中に着込んだ
長袖のYシャツに黒ズボンといういでたちは


この世界では珍しいらしく、旅人だけでなく
村人達の視線も集める









「だから言ったのに 避けちゃダメだよって」


普通避けるわ!つーか術かける方がおかしいだろ
この腹黒緑頭魔導師!!」







彼の後ろから、笑いながら歩み寄る少年も





緑色の髪に青い目、ゆったりとした魔導的な
服装で整った顔立ちのため 別の意味で目を引く







「いえ、私は大丈夫だったのですが…」







旅人が言って 氷漬けになった村長を指差す







集まった村人達が途端に 二人に険悪なオーラを向け







「お前たちの仕業か!」


「よくも村長を!!」


「責任とって村長を元に戻せ!!」






すぐさま二人を取り囲んで村へと引っ張ってゆく





「オイオイマジかよ…テメェのせいだぞルデ!」


「とりあえず村長さんを戻せば何とかなるでしょ
というわけで頼んだよクリス君」


「何で俺がお前の尻拭いなんだよ!
これだからファンタジーはぁぁ!!







氷漬けの村長と二人が 村長の家へと運ばれ







「いきなり何なんでしょうあの二人は
…まあ、ある意味好都合かもしれませんね」







旅人も、その後をついて行った











〜No'n Future A 番外 「二人と剣士と、時々魔物」〜











「ここから雑木林を抜けた湿地帯に
凶悪なトロールが住み着いてしまいましてのう」







氷漬けから何とか助け出された村長は
開口一番に二人へこう言った







「時折村までやってきて暴れまわることも
あるので、退治をお願いしたいのじゃが…」


「いきなり言われても」





戸惑う黒髪少年に ねぇ、と返す緑髪少年





「無論ささやかながらお礼はさせていただきます
それとも…ワシを氷漬けにしておいて頼みが聞けぬと?」







村長の最後の言葉と同時に、集まっていた
村人達も二人に重圧をかける







「…退治しに行きゃいいんだろ、チクショー」


「まぁ路銀も少ないし丁度いいよ」







村長を氷漬けにした罪悪感村人達の雰囲気に断れず
仕方が無い、と二人が腹を括ったその時









「その魔物退治、私もお供させてもらいます」







いつの間に現れたのか 部屋の入り口から
村の入り口にいたあの旅人が 名乗りを上げた









「あの時の…!お前いつからそこに」


「ついさっきです」







旅人に視線を向け 村長がやや困ったように呟く





「人が増えるのは構わんのじゃが〜、お礼の方は
三人分もご用意できるかどうか…」


「気にしないでください、私の目的は
お金などではございませんので」





その一言に村長一同がおお、と感嘆のうめきを漏らす







「おいっいいのかよ!てゆうか何でそこまでして」





戸惑う黒髪少年の言葉を遮り、答えたのは緑髪少年





「いいよ」


「ちょっルデお前」


「別にいいじゃない、剣を持ってる以上は
自分の身ぐらい守れるでしょ?」







そう言われれば 最早旅人の同行を止める理由は無かった









「しょうがねぇな…俺は、緑簾 石榴


僕はルーデメラ=シートルーグイ よろしく」







二人が互いに自己紹介をしたので





旅人も、軽く会釈をして自らの名を語った







「私は でいいです
よろしくお願いします」













魔物退治を任された三人はすぐさまストネ湿地帯へと出発し
ヴラドの村を出て雑木林を歩く間





どうしても腑に落ちないらしく、石榴はたずねる







「…なぁ どうしてタダ働き覚悟で
魔物退治について来るんだ?」







はニコッと笑って答える







「私の目的は、その魔物退治の方ですから」





その言葉にルーデメラが、少し興味を持つ





君、どういう事か教えてくれる?」







いいですよと言って は歩みを止めず話し始める







「訳あって私は天下無双を目指しています」


へぇ、いいじゃねぇか 俺はそーいうの結構好きだぜ」


「そのため強そうな魔物を倒し 己を鍛える
必要があるのです」







雑木林から湿地帯の境目を進みながらも
は話を続ける







「この大陸で、ストネ湿地帯に巣食う魔物の話
小耳に挟んだので こうしてやって来ました」


「それはまた 随分とヒマなんだね





相手の話をぶち壊すような物言いをする
ルーデメラを睨みつける石榴







だが、さして気にした風でもなく





「では逆に私からお尋ねしますが、石榴さんと
ルーデメラさんの旅の目的はなんですか?」





が二人へ問いかけを返す









「僕はある魔法道具の材料集めであちこち
旅しててね それでクリス君と出会ったわけ」


「俺は元の世界に戻る為に、こいつに協力してんだ」







順番にお互いを指し示しつつ理由を語る









だが、は話の途中で





ようやく湿地帯に入ったことに気が付いたらしく
辺りをキョロキョロと眺め回していた









「って人に聞いた以上ちゃんと最後まで聞けよ!







話を聞いていなかったことが気に食わないらしく
目を吊り上げて石榴が怒鳴る





しかし、相手は全く答えない







「おいっ聞いて…」





聞こえた物音に、石榴はあとの言葉を飲み込む







やルーデメラも互いに目を合わせ
無言で辺りを警戒し





三人が一斉にその場を離散する







一瞬遅れて 飛来した巨木が突き刺さる









体勢を整え、三人が巨木の来た方向に目を向けると
そこには一体の魔物がいた





大人よりもふたまわり大きな体に四本の腕を生やし


腕の内の二本が近くにあった岩を易々と持ち上げる





餓鬼のようにでっぷりと膨らんだ腹に
遠めでもハッキリとした傷跡が見える







いかにも魔物って奴が現れやがったな」





渋い顔をして呟く石榴





「見たところ普通のトロールと変わらないね
まぁ、腕に気をつけてよクリス君、君」


「そうですね」







ルーデメラの呼びかけにも短く返し





魔物が岩を投げつけたと同時に三人が
それぞれ走り始める











戦いは かなり苦戦を強いられるものだった







湿地はあまり視界が良好ではなく、





辺りに転がる岩や木 それにぬかるむ地面が
三人の移動を制限する







対する魔物の方は、存外素早い動きを見せ





四本の腕がどんな距離にも柔軟に対応し
休む事無く三人を攻撃する







そして何よりも







「クリス君 なにサボってんの?」


こっちだって必死なんだよ!
なんで俺の方だけやたら物飛んでくんだぁ!」







何故か石榴にばかり集中的に物が飛んでくるため





彼が避けるのが精一杯で反撃の糸口が
見つからないことが大きい











埒が明かないと悟ったらしく







に近づいたルーデメラが、ボソリとささやく







君、悪いんだけどクリス君を
後ろから力一杯 蹴飛ばしてくれる?」








問いかけようと振り向く





彼の不敵な笑みに"策アリ"と見て取り 頷いて
石榴の背後へと回り込み―





思い切りその背中を蹴飛ばした







「どわあぁぁぁぁーーー!?」







石榴が勢いよく地面へとダイブし





隙だらけのその姿を好機と見た魔物が大きめの岩を掴む









その動きをルーデメラは見逃さなかった





「フリーズィート!」





呪文が発動し、生まれでた氷の槍が魔物の腕へと
突き刺さり 岩ごと地面へ縫い付ける







続けさまに彼は虚空に魔法陣を描き


そこから放たれた無数の氷の飛礫が魔物へとぶつかり





腕二本と足を氷に閉ざす







「ギギィ!」







うっとおしそうに声を上げ、構わずに魔物が
氷を引きちぎるその間





間合いを詰めたの剣が数度閃く







残った腕の攻撃を大きくかわし、
後ろへと距離を取れば







氷をまといつかせた腕が根元から切り落とされ





地面に重い音を立てて転がった







「やるねぇ君」


「これでも天下無双を目指してますので」







ルーデメラに答えながらも、油断無く構える











しかし、







「ギギャギャギャギャーーー!!」







耳障りな笑い声をあげ、魔物がの方に
頭を向けた―その瞬間





魔物の頭が勢いよく胴から切り離され





首だけが目掛けて飛来してきた









「「なっ!?」」





とルーデメラ、二人が驚愕の声を上げる







飛んでくる首が大きく口を開き


の喉笛を食い千切らんと襲いかかる







余りの事に反撃も防御も間に合わず





首に牙を―突き立てられる刹那







横手から空を裂いて疾走してきた光の弾丸が
着弾し 首は跡形も無く消滅した












「ったく、人の背中蹴っ飛ばしといて
油断してんじゃねーよ 





弾丸が放たれた場所にいたのは





「石榴さん…あなた、その目にその銃は…!







白銀色の不思議な形状の銃を携え





茶褐色の目を、今や血のように赫い赫眼(セキガン)
変貌させた石榴







「流石に魔術銃くらいは知ってたみたいだね」


「魔術銃…やはりあれは伝説の?」


「ギャゲェェェェェ!」







耳をつんざく咆哮は、魔物の腹の辺りから聞こえた





見れば 腹の傷跡がバックリ開き、そこから
鋭い牙がむき出しにされている







「話は後 どうやら、あの出っ張ったお腹に
アイツの核があるみたいだね」







ルーデメラの言葉に、石榴は魔物へ視線を移しながら





、残る腕を切り落としてくれ 後は俺がケリをつける


「…わかりました!」





首を一つ縦に振り、が駆ける









頭を飛ばした魔物が残った腕を振り回すも
その速度は目に見えて遅い







双剣で切り付けられて残った腕が落ち





がら空きになった魔物の腹に、石榴の弾丸が貫通する







「ギィエアァァァァァァァァァー…」







断末魔の悲鳴を周囲に響かせ





魔物が地面へと倒れ付し、やがて動きを止めた











「まさか魔術銃の使い手ルーデメラさんほどの魔導師
お会いできるとは思いませんでした」







紫色の瞳が、感心のためかキラキラと輝く







「いや…別に使い手ってわけじゃ…」


「ようやく僕の実力に気付いたなら、それでいいよ」





石榴は複雑な表情をし、ルーデメラは満足そうに微笑む







その言葉が終わるが早いか剣を抜き放ち両手に構え





「早速ですが、私とお手合わせしてください


「なんでイキナリそうなんだよ!」





石榴が思い切りツッコむも





「天下無双を目指すためです、さぁ!





は全くといって聞き入れる様子が無い







「落ち着きなよ君、まずは村に戻って
お金を受け取ってからでも遅くないでしょ?」


「…それもそうですね、では参りましょう」







納得し、剣を納めて歩き始める





ため息つきつつ数歩後ろをついて行く二人







途中 ルーデメラが石榴に耳打ち









「石榴さん、ルーデメラさん もしよければ
戦った後に一緒に旅を





が振り返った時、







石榴とルーデメラの姿はそこにはなかった











村へ戻る道とは反対の方向を、二人は歩いている


どうやらワザと後ろを歩き こっそりを撒いたようだ







「あれでよかったのかよ…」


「金は惜しいけど 面倒ごとに後々まで
つき合わされるよりマシでしょ?」





言われて口を紡ぐも、石榴はすまなさそうな表情をしたままだ





「まあ、今度もし会えたなら
二人で君に謝ればいいじゃない


「……そうだな








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:"夢主とノンフュキャラで共演"とのリクで
野良ネコ様にこの小説を書かせていただきました〜
いやー初めてオリジで夢小説なんて書いたよ


石榴:待てぇぇ!頭が飛ぶ魔物なんてアリか!?
に対する夢要素もほとんどねぇし!


狐狗狸:私的には全然アリです


石榴:テメェの意見は聞いてねぇ!


ルデ:何を今更 ラノダムークのトロールは腕が飛ぶし、
首が飛んで来たって


石榴:ねーよ!しかも飛んだ首が口開けたり
残った体が動いてたりってあり得ないだろ!


狐狗狸:トロールは生命力が高いからって事で


ルデ:これくらい常識だよ〜クリス君?


石榴:だぁぁこれだからファンタジーはあぁっ!




一応 時間軸はシュドと会う前となってます


様はこんな感じでよろしかったでしょうか?


こんなんでよろしければ野良ネコ様に
進呈させていただきます!