大きめの街道も通り 交通の拠点として
発展しているそれなりに大きなこの町で







朝も早くから、一つの飯屋で騒動が起こる





「水おっせーんだよ!店主呼んで来いよ!!」





煤ぼけた店内の椅子にふんぞり返り


茶髪の男はうるさくがなり、辺りの調味料や
手にしたコップを手当たり次第ぶちまける







客は困ったように応対する店員への同情や


男への憤りを覚えるものの





"組織の人間"と一目で分かる出で立ちをした
男へ 注意しようというものは現れない







…男の席から遥かに遠い向かいで


不機嫌そうに男を睨む 二人組の客
片割れが手を動かした刹那





「店主呼んで来いっていっで」





言葉半ばに 男は仰け反るように倒れた







男の脳天に深々と潜り込んだ手の平サイズの
投げナイフが、即死を物語る







店内の者達が悲鳴を上げて
男のいる席を遠巻きに囲み始め





何人かが恐怖のためか店を出





悲鳴を聞きつけ、外にいた者達が
入れ違いで中へと入ってくる









その出入りに紛れて


先程の二人組が店を飛び出す







短い茶髪でゴーグルをつけ、咥えタバコで
和装の無精ひげ男が 口を開く





「ちょ羅刹!ナイフ無駄遣いすんなっつの!」


「いきがった野郎が耳障りな声だしてたから
黙らせだだけだ」







答えるのは 紺色の甚平を羽織る
黒髪の、"羅刹"と呼ばれた片割れ





お互いが聞き取れるぐらいの声量で
言い合いながら 次の場所への街道まで駆ける







「せめて店の外に出た時とかにしろよっ
まだ名物のチキンソテー食ってたのに!」


「だらだら食ってんのが悪ぃんだろが」





悪びれも無く 羅刹はこう続ける





「それに飯代も浮いたから文句ねぇだろ
金ねぇって言ったのはテメーだファウスト」





呆れたように"ファウスト"が呟いた





「…お前、まさかそっち目的で
殺ったんじゃねぇよな?」









表向きは旅人のファウストと羅刹







しかし二人は、全てに破壊をもたらす
裏の掃除屋―代行者(クラッカー)











〜「代行者(クラッカー)・出張編」〜











雲の切れ間から覗く日は天頂に座し





街道を少し外れた森の岩場にも光が差す







思わず足を止め、休息したくなるような
光景にも関わらず 誰もそこには立ち入らない





なぜならば、ある組織の基地が近く
関わりのある人間がよく通る場所だから









そんな場所に 二人の姿があった







―羅刹と、ファウスト







「出て来いよ いい加減隠れてねぇでよぉ」





不機嫌そうに吐き捨て、羅刹が鉄下駄を鳴らす







周囲の森から 武器を手にした男達が
二人を囲むように現れる





一様に、殺気をみなぎらせて









「テメェらがウチのもんを殺ったのを
部下が見てたんでねぇ…」







代表格の男が、一歩前に進み出る







「大人しくしてりゃ苦しまず
あの世へ行かせてやるぜぇ?」







粘着質な口調で言うも 二人は無言







「どうやら組織にケンカ売っちまったことを後悔し」


「黙れ豚野郎」





尚も言い募る男の言葉を遮って


冷めた鈍色の目で罵る羅刹





「まーそう言うなって、単細胞だから
台詞もパターンも少ないんだよ」







タバコをくゆらし、宥めるように
あっけらかんと言うファウスト





そんな二人の態度に周囲の男達は
動揺し また怒りをあらわにする







「てっテメェら状況わかってんのか!?」





激昂し、男がマシンガンを突きつけ





「下っ端だろうがウチの組織の人間に
手ぇ出したら それなりの報復が」


「あの野郎一匹殺ったぐれぇでご苦労なこったな」


「まー組織の面子ってモンがあるんだろ?」





小馬鹿にしている二人の態度についにキレ


男達が一斉に銃を構え、或いは武器を
手に二人へと向かい来る









「しかし この手のゴロツキってのは
どこも機械みたいに同じだな」





言いながら、羅刹の右手と左手には
大降りのナイフ数本の投げナイフ







「同感、オリジナリティーがねぇよな」





そしてファウストの両手には
いつの間にやら大型の銃が二丁







「「代行者にケンカ売るなんてよ」」







声を揃え、言った言葉を最後に





二人が地を蹴り―銃弾の嵐が辺りにこだました









弾丸を 武器を避け、或いは斬り
或いは撃ち抜き また或いは獲物で防ぎ







羅刹のナイフが閃く度





全てのものは切り裂かれ、突き刺さり
打ち倒れて鮮血が舞う







ファウストもまた、一発で急所を打ち抜き
かと思えば蜂の巣にし





辺りに硝煙と血飛沫をばら撒く









それは、戦いとも殺し合いとも呼べない







ただただ一方的な 破壊











再び雲間から顔を出した太陽が
僅かに西に傾いた頃、







二人を囲み武装していた組織の者達は





人と呼べぬような死体と化し、軒並み
積み重なって転がっていた







「一丁上がり、しょっぼい組織だな」


「まー下っ端があれだしな でも
昼飯前のいい運動になったな」







一息つき 二人は近くのまっさらな岩に座り
それぞれの武器を点検する





それが終わると、互いの手荷物から


食料を出し 膝の上に乗せて食べ始めた







「…なんで俺の側寄ってんだファウスト
向こう座れ ぶっ殺すぞ


「いやだって向こう死体が風上じゃねーか
そこで食えってか!?」







ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、二人は並んで
弁当代わりの食料を平らげる













茜色の空から薄い夕闇が降り
下限の月が悠々と顔を出し始める







その月の光に晒された岩山は鋭くそびえ





大きく開いた洞窟は暗く、地獄にでも
続いているかのように深い







「ここだなー案外時間かけずについたな」





洞窟の入り口から中を覗きこみながら


まるで観光地にでも来たように
ファウストは青い目を大きく見開く







「金目のモンがそこそこありゃいいな」





強盗さながらの台詞を口にし
羅刹は視線を洞窟から外さずに





「で、何人ぐらいの規模だ?今回のは」


「さー 途中で来た奴等の話じゃ岩場のと
あいつら、合わせて半数らしいとか」







どうやらあの岩場からここに来るまでに





また襲撃があったようだ







「それじゃ、いつも通りオレが倒壊下準備と
金品強奪 羅刹は抹殺よろしく」


「ちっ…たまにはテメーがやれ」


「お?そー言うならやってもいいけど
金目のもんの区別と爆弾設置出来んの?







からかうように言われ、苛立たしげに
蹴りを放つ羅刹だが 空振り







「うるっせぇな、ちゃんと殺るっつの」


「そうそう 素直で結構」







苛立たしげに洞窟へ進む羅刹の数歩後ろから
ブーツを鳴らしてファウストも続く









辺りは静寂が支配し







時折、洞窟の奥から人の悲鳴のような声


銃声のような音や破壊音が微かに聞こえ







再び静寂を取り戻す









月が東端と天頂の丁度真中ほどに
昇りかかった時刻に







羅刹とファウストが洞窟から現れる







二人の洞窟を出て、間を置かずに


爆発音が響き渡り入り口から勢いよく
土埃が噴き出してくる





轟音は岩山全体を揺らし


内部で岩盤が崩れていき


程なくして洞窟は、中のアジトと共に
完全に埋もれて岩山の一部と化した







「うーん、やっぱ洞窟の倒壊は
見ごたえあんなぁ なー羅刹?」





楽しげに声をかけるファウストを置き去りにして





「知るか、それより飯いくぞ飯 俺ぁ腹減ってんだ」





羅刹は次の町へと歩き始めていた







「おいおい、金持ってるのオレだろ」





ため息混じりにファウストも後を追う








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:野良ネコ様にリクをいただいたので
表ですが代行者を書かせていただきました


羅刹:暴れたりねぇ もっと話書け


ファウスト:仕方ねぇって、表仕様だから
グロさを比較的抑え目にしてる結果だ


狐狗狸:殺人描写とかある時点で
十分アレだけどね


ファウスト:それ言ったらこの話も単に
オレらの一日でヤマもオチも意味も


羅刹:まだコイツの悪趣味彫刻のが
マシなぐらいつまんねぇ話だな


ファウスト:おまっ、ピカソもどきの絵ぇ
描いといっ(鉄下駄カカト落とし決まり)


羅刹:永久に黙れ


狐狗狸:…うーん、君らの表向きの顔を
書いときゃよかったなぁ




この二人、普段は旅の彫刻家と絵描き
って設定なのです


代行者の他の話は裏ページにあります


色々説明不足な駄文でスミマセンが
野良ネコ様に贈呈します