それは、五人がアスクウッド王国を経って
アダマス大陸を横断しつつ国境を越え


そろそろ三分の二と言える位置での夜営中から端を発した





「無事クリプトメリアの領地も通過できたようだし
後は適当な所から この大陸とおさらば出来そうだね」





地図を照らし合わせつつ呟くルーデメラの言葉に

申し訳なさげに、シュドが頭を垂れる





「スミマセン…その、僕のせいで」


気にすることニャいニャ!あの王子がカッテに
オイラたちのことうらんでるだけニャんだし」


「そーそー、それにアスクウッドの王様だって
ノールとお前の仲を認めてくれただろ?」


「手紙でのやり取りも盛んなようだしな
…ノールは元気でやっているか?」





訊ねるカルロスに、彼は一つ頷いて答える


「はい、国も平和で王様方もご健勝だそうです

相変わらずノールちゃんはお城の日々が
タイクツだとおっしゃってましたけど…」


「けど何だよ?」


「まさか またダッソウしたいとかじゃニャいよニャ?」







灯りの側で思い思いに座り込んだ彼らが腰を
浮かしかけた所で 彼は思い切ってその先を吐き出した





「いえその…今までの皆さんとの旅路や…

ぼ、僕の顔を思い浮かべてガンバっているそうです





瞬間、照れたように顔を赤くするシュド

三人は笑みを浮かべて見つめ返している





「ラブラブで微笑ましい限りだねー」


「だな…俺も彼女が欲しいぜ」


そう言えば、クリス君の好みのタイプを
聞いたことが無かったね」


「…何だよその眼は言うわけねーだろ」





突っぱねるように言う石榴だったが





「って、お前らまで何でこっち見てんだよ!?


計七個の目が自らに注がれて顔色を変える





「あの…さしつかえないのでしたら僕も
聞いてみたいのですけれど」


「はずかしがらずに言っちゃえニャ〜」


「ざっけんなよ誰が言うか!」


「さてクリス君に質問です 正直に吐くのと
無理矢理吐かされ「あ゛ーもう!わーったよ!!」











〜No'n Future A 外伝6「外見に気をつけろ」〜











ヤケ気味に叫びを上げてから当人は


今まで漠然としたイメージで捉えていた
"理想の女性像"を仲間達の前で暴露した





「お…俺はその…大人しくて優しいけど
案外しっかりしてて、料理のうめー女…ってトコか?」





茶褐色の目がやや逸らされ 顔が赤くなってるのを
見て取って約二名がニマリと笑みを深めた





「おやおや、性別以外は天使君と一致してるねぇ」


「言われて見ればそーニャ!
じゃシュドが女だったらホレるってことだニャ」


「えぇっ!?」


何でそーなる!そー言うお前はどうなんだよ」





誤魔化し混じりで怒鳴り返した石榴だが

ルーデメラはいたって涼しい顔でこう言うのみ


「僕は恋愛より研究の方が興味あるだけさ

まぁ強いて言うなら、年上狙いって所かな?」


「それって、もしかして前いってた師匠もか?」


「…いまだに行き遅れてんなら考えなくも無いね」


「ルーデメラさんのお師匠様なら、きっと聡明で
素晴らしい女性なのでしょうね」


「どーかニャ ルデメにワをかけて
すっげーイジワルってカノウセイも」


「泥棒猫君は実験体になりたいのかなぁ?」


「そ、そういやカルロスはどんニャタイプが
スキ…アレ?」


言いつつ視線を向けるシャムであったが





頼みの綱のカルロスは、器用にもその場に座したまま
眠りこけていたのだった





「いつの間にか寝てやがる…」


「起こさないように静かに会話しましょうか」


「…偶然にしろ故意にしろ、やるねぇ船長さん」







少しだけ眠れる獅子から距離を取り





「さて 後残すは泥棒猫君だけだね」


声のトーンもぐっと抑えての詰問が再開される





「あのニャー…スラム育ちのオイラが
イロコイにうつつ抜かせるわけニャいだろ?」


「お前な、俺らだけ聞いといて自分だけナイショは
通用しねーぞコラ!」


ニギャー!イタイイタイイタイ!!」


「ざ、石榴さん 乱暴は止めてあげてください」





ヘッドロックから解放されたシャムは観念して語り出す





「…ジツは一人、わすれられニャい相手がいるニャ」









当人曰く それはとても寒い日で





温かなチキンを衝動に任せて盗んだものの



熱すぎて手をヤケドして窃盗にも逃亡にも失敗し

店の従業員に囲まれて袋叩きに合ってしまった





そうして寒さと空腹と痛みで参りそうになりかけた彼を







やめなさいよぉ!
大人が寄ってたかって子供イジめるなんてサイッテー!』






背に負って庇った女性が、一人だけいた









「その時はにげるのに必死で そのあと相手は
どっかいったから礼も言えずじまいだったけど

…あのウシロすがたは、今でもわすれられニャいニャ」


「また、その方とお会いできるといいですね」


「だな ひょっとしたら案外すぐ会えたりしてな」


「そうだといいニャー」


「まあ相手は君のこと忘れてるかも知れないけどね」


「お前はそーいう夢のねぇこと言ってやるなよ」





ツッコまれながらも、水を差したルーデメラは
続けてシャムへ問いかける





「で、その相手がどんな姿だったかは
本当にちゃんと覚えてるわけ?」





気分を害したように彼は眉間を少し寄せて言う


「あったり前ニャ!コシまでのキラキラした長いカミで
背が高くて、チョー美人だった!!」



「って手がかりそれだけかよ!」


「せめてもう少し特徴がありませんと…」


「あ、あと少し低くてよくとおるイイ声だったニャ!」


「いやそれあんまり特徴になってねー」





指摘に合わせてついついトーンが上がる石榴の叫びを


唸り声に気付いたルーデメラとシュドとシャムが
慌てて口を塞ぐ形で止めたのだった









……自然とお開きになったその話は、彼らの中では
すっかり完結していたのだが





数日後 それが予期せぬ形で再び浮かび上がった







「お、シャムじゃねぇか!」


ヴェント!久しぶりだニャ〜!!」





岩山を越え 次の土地へ近い大陸の端か港町への
中継地点として逗留した村の宿で


早朝から郵便物を回収しに来た黒い鳥獣族とシャムが
親しげに語り始めるのを見て、カルロスが問う





「知り合いか?」


スラム仲間の鳥獣族だニャ!ハイタツの担当
いつのまにアダマスに変わったんだニャ?」


「つい最近ってトコか、つってもこの大陸広いし
大体この辺からソゥエレスティスまで位だけどな

ああラドゥロの奴もその辺に縄張り変えたらしいぜ?」


「アイツもか!なつかしいニャ〜」





またもや出てきた馴染みの無い名前に
今度はルーデメラが口を挟んだ





ラドゥロって誰だい?」


「スラム仲間のトウゾクだニャ!」


「あ、あの洞窟で言ってらした
色々な盗賊知識を教えてくださった方ですよね?」


「あーアレか…そういやそんな事も言ってたな」







四人を置いてけぼりに、両者はしばし話に花を咲かせ





「そんじゃオレまだ仕事あっから…そうそう
お前、前に助けてくれた後姿美人の話してくれたよな?」


「したけど、それがどうかしたかニャ?」





訊ね返したシャムへ 彼はクチバシを歪めてささやいた





「ラドゥロがさ、見たらしいぜ…ソゥエレスティスで」


「ま…マジで!?


「あくまでお前の話を聞いて"それらしい"って
思っただけらしいけどな、じゃーな!」







翼を羽ばたかせて鳥獣族が去ったその後で





ソゥエレスティスか…ここからだと半日でつくな」


呆然と佇む彼の背に向けて、呟くカルロス





「でも引き返す形になるし、目的地からは
遠回りにもなるんだけど?」


「まーいいじゃねぇか、どうせ素材集めも
あと少しなんだし たまにゃ寄り道してもよ」


「そうですよ、それに今の時期は観光シーズンですし
きっと色々面白いものも見れると思いますよ?」





ピクピクとオレンジ色の耳を動かして
彼らの会話だけを聞いていたシャムが


ゆっくりと振り返って、言葉を紡ぐ





「みんニャ…お、オイラにつきあってくれるかニャ?」





答えは 苦笑をも含めた笑みでの頷きで返された









観光名所として名高い港町は大きく


夕暮れの茜が混じった時刻であっても

通りのあちこちで昼と変わりない賑わいを見せていた





「ウワサには聞いてましたけど…スゴいですね」


「灯台から見られる夜景と、この時期に産卵の為
海上に現れるライトイカの群れも目玉の一つだからな」





しばらく人垣を見つめていた石榴だったが


気を取り直して 隣の少年へと話しかける





「おいシャム、たしか女の特徴は腰までの
キラキラした長髪と高い背の美人…だっけか?」


「それに低くてよくとおるイイ声だニャ」


言っとくけど、見つかっても見つからなくても
明日は目的のルートに戻る事を忘れないでよ?」


「わ、分かってるニャ」







各自で集合する時間と場所を決めて散開し


露店や町の人へ訊ねたり、それとなく周囲へ
注意を払いつつ路上を行き来して





「あのースミマセン…」





それらしいと思われる人物へさり気なく
声をかけて 心当たりを訊ねたりもしたけれど







「俺の方は空振りだ」


「こちらも…姿だけなら一致しそうな者はいたが
誰もがシャムの話に覚えが無いそうだ」





目当ての相手を見つけられぬまま


刻々と夜が迫ってゆく







「目に付く場所はほぼ回ったと思いますけど
さすがに規模が大きすぎて、町全ては一日じゃとても…」


「やっぱり 今会うのはムリそうかニャー…」





ガクリと落ちた肩を叩いて、ルーデメラが告げる





「そろそろ僕らも行こうじゃないか」


「…どこに?」


「観光名所の一つ、海と町とを見渡せる灯台の展望台へさ

ほーら今だって人が集まり始めてるじゃないか」


チラリと蒼い瞳が 灯台へと駆ける人々を示して





あ!ひょっとしたら探してる女も…!!」


「可能性はあるかもな」





彼の言わんとすることに気付いた四人もまた
最後の可能性にかけて、その場へと赴く







果たして―展望台の隅の手すりに 探し人の姿はあった





「………いたニャ!あの背中…まちがいニャい!!





スラリとした長身に、腰まで届いた蜂蜜色の髪が
灯りを受けてキラキラと輝いている





「へぇ…あれは確かに美人だねぇ」


「だな、声かけてこいよ」


「いっ言われニャくとも!」





四人に見守られる中


緊張した面持ちでシャムは相手へと歩み寄り…





「あ、あのっ!





かけられた声に長い髪と淡い色のワンピースが翻って







「あっらぁん♪カワイイぼうやねぇ〜
アタシに何かご用かしらぁ?」








記憶通りの、低くよく通るイイ声が発せられたのは





―濃ゆいヒゲあとの目立つブ男顔からだった







あまりの事態に真っ青になりながら硬直した当人に





アラ?アナタもしかしてずーっと前に
ロウライツでイジめられてた猫ちゃん?」





追い討ちをかけるような台詞が吐き出された





「あの街の大人達ったら乱暴でアタシもすぐ
追い出されたから、アレからスゴい心配だったのよ?
でも元気そうでよかったわぁ〜」


「…ひ、人チガイですニャ さっさよニャら!!


「あっ待って猫ちゃん!!」


彼が止めるのも聞かず、シャムはその場から
逃げ去るように駆け出していた







「……無理もない、探し人が男とはな」


「しかもニューハーフって…不幸な巡り合せだな」


「シャム君、泣きながら走ってましたね…」


「ダメだなぁ泥棒猫君は ちゃんとお礼言わないと
僕が変わりに伝えておこうかな」





この後 三人はルーデメラの残酷な試みを

決死の覚悟で防いだのだった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:別に書かなくても良かったんですけど
本編がシリアスっぱなしなんで、緩和できる話を
挟もうかなーと軽いギャグっぽいものを一つ


石榴:シャムに謝れお前は てか本気で
無理矢理感が漂ってんだけどいーのかコレ?


ルデ:いーんじゃない?管理人の自己満で書いてるし


狐狗狸:うん…単に君らスタメンの女性のタイプ
Mと話してたネタとを書きたかったのが本音だし


シャム:お前のツゴウのせいでオイラのハツコイ
コナゴナニャ!イシャリョウよこせー!!
(爪乱舞)


狐狗狸:ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ…!!


シュド:しゃ、シャム君…悲しいのは分かりますが
そこまでしなくても…


カルロス:いや、立ち直るまで好きにさせてやれ


シュド:え…はっはい…スミマセン回復は後でします


狐狗狸:え゛えぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ…(血塗れ)




これにて短編は見納め…のつもりですけれども
何かネタが浮かんだら書くかもしれません


読んでいただき、ありがとうございました〜