やむを得ず貨幣神の頼みを引き受けることと
なった六人は 近くの教会の礼拝堂へやって来た





「お祈りや告白以外の用途でこの場所に
集っていて 怒られないでしょうか…」


「大丈夫だって、ここは神サマのバショニャンだろ?
ニャらここに本人もいるし平気ニャ」


そうとも!わらわたちは何もやましい事は
しておらぬから心配は無用じゃ!」





何処か不安げに呟くシュドへ隣と後ろの
二人が楽観的に声をかける







シャムの隣に腰かけるカルロスの左目は


早くも重たそうに下がり始めている





ふぁ…やはり静かな場所は苦手だ
何も無いと眠気が強くなる…」


間違ってもこんな場所で寝るなよカルロス」


「船長さん よかったら発言するまでの
間持たせに僕の蔵書でも一つ貸そうか?」


「ソレは遠慮する、気持ちだけもらっておこう」


「はいはいはいミンナ注目するニャ〜!」





その一声に長椅子に座る六人は


器用にも、一番先頭の椅子の背の淵で
バランスを取って立つ貨幣神へ顔を向けた





「それじゃー早速ニャーと彼が仲良くなる為の
作戦会議を始めるニャ!」


「その前に質問いいか?」


「発言する時はちゃんと手を上げるニャ!」







ビシ!と短い手で指され、渋々片手を上げながら
石榴は訊ねる





「そもそもアイツに惚れたワケを俺達は
何一つ聞いてねぇぞ」


「ニャ!?」





小さな三角耳を尖らせ、途端に貨幣神の
口調がどもり始める











〜No'n Future A 外伝4「異神遭遇? 後編」〜











「そ、そんニャこと話さニャくても
作戦会議にシショーは出ニャいニャっ


大アリじゃ!わらわも気になるのじゃ!」


「あの…ぼ、僕も少し…」


「僕らに協力を仰ぐ以上、その辺の理由
キチンと話してもらわないとねぇ?」







期待に満ちた視線×3に耐えられず





モジモジと小さな身をくねらせ、貨幣神は
短い手をつつき合わせて口ごもる







「りっ理由ニャんてニャいニャ
一目見た瞬間にこう、ビビっと来たっていうか…」


「いわゆる一目惚れという奴か」





瞬間 貨幣神の真っ白な顔がバッと赤くなる





「タンジュンだニャ〜そういうレンアイにカギって
すぐ冷めたりするモンだニャ」


でもこの気持ちは本物ニャ!
ニャーは彼を追ってこの町まで来たんだニャ!!」


「一目惚れ程度で男付けまわすってお前…
神様として終わってねーか?」







ボソリと呟いた石榴の一言は
彼女の勢いに 余計火を注いだようだ







「ニャまいきな事を言うくらいニャら
ちゃんと意見を用意してるニャね?」


い゛!?俺が言うのかよ!!」


「当たり前ニャ!さぁさぁさぁ
意見があるニャらさっさと吐くニャ!!」








長椅子の淵から落ちそうな危ういバランスで
石榴に向かって迫る貨幣神へ





実に軽やかに、ルーデメラはこう言った





「クリス君に聞くのは止めときなよ
色事には無関係の生涯送ってるんだし」


何勝手に人の生涯決めてんだよ!?
俺は恋愛だのなんだのに興味がねぇだけだ!!」


「おやおや、そう言う奴に限って
全くモテない寂しさを誤魔化してるんだよねぇ」


黙っとけ!俺だってこういうのの
意見くらいはマトモに言えらぁ!!」





…助け舟かと思いきや、単に彼を
からかって楽しんでいただけだったようだ







ともかくルーデメラの口車に乗せられる形で





「恋愛だろうが知り合うきっかけだろうが
直接言って告白すりゃ済む話だろ?」





キッパリと石榴が提案した、その直後







「それが出来たら苦労しニャいニャ!」


「そうじゃこの愚か者め!!」


「ニャーの気持ちを考えてほしいニャ!」


「全くじゃ!!」






女子二人組の猛反発が彼に向けて巻き起こった







「貨幣神様はともかくノールちゃんまで…」


「まーノールはシュドのことがイダっ!?


「余計な口を聞くでない!!」


「いきなりニャにするニャ!イシャリョウ払え!!」


「シャム 今のはお前が悪いと思うぞ」


「そんニャカルロスまでぇ〜…」





微妙に二次災害にまで飛び火しつつも





「二人とも落ち着きなよ、超鈍感なクリス君なら
こういうアホなこと言い出すって分かってたろ?」





いさめるルーデメラによって、二人の非難は
あっさりと沈静化したのだった







「何でここまで言われなきゃいけねぇんだよ
しかもさり気にルデまで便乗…ムカツク」





口ではそう言うものの彼の目には
うっすらと涙が浮かんでいた







「てゆーかエラそうに石榴に文句言ってたけど
そういうノールこそ、ニャンかいいアンあるのか?」







殴られた仕返しとばかりにシャムが
ノールをけしかければ 顕著な反応が返って来た





「わっわわわわらわにその様なことが
分かるとでも思っているのか無礼者め!!」



「あ〜テレてるニャ、そーだよな
ゲンザイシンコウケーでコイしてるもんニャ〜」


「こら止さないかシャム」


「からかうでない無礼者!わらわをノーリディ
『ストップ!!』





流れで身分を明かそうとしたノールの言葉を


貨幣神以外の全員が押し止めた







…人の数こそ少ないとは言え


祈る為に礼拝堂にいる人間や、教会を
管理している神父が出入りしている





「マイナーな貨幣神ならともかく、君は
自分の立場をもう少し自覚しなよ五才児ちゃん」


「…む、すまなかった」





謝るノールと、周囲に点在する少数の人々に
気付かれていないと安堵する五人







が出会ったばかりの貨幣神には
彼らの事情は分からず 立ち尽くすばかり





「ニャーを置いてきぼりにするニャ!」


「申し訳ありません、あの…
僕から一つよろしいでしょうか?」





おずおずと片手を上げてシュドは言う





「直接声をかけるのが恥ずかしいのでしたら
手紙を書くというのは どうでしょうか?」


「天使君の案は中々悪くないね」


「特に初対面ならば、文から入るのも手だな」







良作かと思われた"文通作戦"だったが







「でもニャーはペンがうまく持てニャいんだニャ…」





彼女の思わぬ一言によって、あっけなく瓦解した







「まったくしょーがニャいニャ〜
オイラがいいアイディアをテイキョウしてやるニャ!」


「ほほう、ズイブンと自信があるようじゃの」





揶揄に負けず 自信たっぷりにシャムは口を開く





「レンアイだろうがニャんだろうが、世の中は
ソントクカンジョーがキホンニャ」


「ふむふむ、それでどーするニャ?」







訊ねる貨幣神に一呼吸の間を置いて





一気にシャムはこう語った







「だからまず アイテにこっそり食べ物を送るニャ!
食べ物を送られてヨロこばニャいやつはいニャい!
ってことでレンシュウを今からオイラと」


餌付けかよ!つか提案にかこつけて
お前がメシおごってもらいてぇだけだろが!!」


「ニャかニャかいい案だったけど、ニャーが
ユウワクに耐えられニャいから却下ニャ」


「って採用しかけんな!」





石榴の言葉が終わるのを待ってから


満を持してルーデメラは彼女に告げる





「正攻法で行くからまどろっこしいんだろ?
僕だったら即座に解決できるよ」


「ほっ本当かニャ!?」


「なーに、魅了の術でもかければ一発さ
ただ先立つモノや下準備がいるけど?」


「ニャーはなんだってやる覚悟ニャ!!」


「そうと決まれば早速彼の髪の毛か爪を…」


「魔法で無理やり解決は無しだろ!
これだからファンタジーはぁっ!!」








それから様々な案が検討されたものの
どれも決定打とは言いがたかった











「…貨幣神よ、やはり己が直接気持ちを伝えるのが
一番ではないのだろうか?」


「そ、そんニャの無理ニャ…」


「けど今のところ、イチバンカクジツだニャ」


「面と向かって話せば きっと相手だって
わかってくださるハズです…」


「ニャーにそんなこと出来るわけニャい!」





千切れんばかりに首を振る貨幣神の
円らな両目を見据え、石榴が諭す





「あのなチビ猫 何をするにしても
まずは自分が動かなきゃ話にならねぇんだよ」


「で、でもニャーには恥ずかしくて勇気が…」







戸惑う貨幣神に、ため息をついて





「仕方ないダメ神様だねぇ…じゃあきっかけは
僕らが作ってあげるよ」


「わらわたちに出来るのは、そこまでじゃ」





六人が彼女のお膳立てを申し出た









結局、会議の結果は極単純な流れにまとまった





六人が彼に話しかけつつ 信仰者のフリをして
さり気なく貨幣神に興味があるかどうか問いかけ


そこそこ好意的なようだったならば


折を見て本人と対話をさせる…というもの







それまではヌイグルミのフリをすると言う事で


貨幣神を抱きかかえるのはノール





「思ったよりも軽いのう…柔らかくて
結構さわり心地がよいのじゃ〜」


「あんまりさわんニャいでニャ
最近ちょっぴりお腹周りが気にニャるから」





ヌイグルミは太んねぇよ、と石榴が
心中でツッコミを入れた













そして…六人は宿の扉を叩いた







間を置かずにドアが開き、そこから


右目モノクルに無精ヒゲの男が
愛想の良さそうな笑みと共に現れ





「あなたが、最近アンヴァに来られた方だろうか?」





カルロスの問いに彼は笑みを崩さず答える







「あ〜はい商売の為に長旅して来たんどす
僕のん名前は ダニエール=グートいいます」





おっとりとした、何処となく京都弁のニュアンスが
交じったような口調で続けた





「それで あなた達は僕に何の御用でひょか?」


「僕らは貨幣神信仰を広める為、貨幣神様の
偶像と共に旅人へ布教をしております」





しれっと語るルーデメラの言葉を
疑いもせずに納得し、ダニエールは手を叩く





「あーそれで貨幣神のヌイグルミ持って
はるんですか〜いやぁ かわっとりますなぁ」





見つめられ、ちょっぴり貨幣神は頬を染めた







「あの…貨幣神様に興味はおありですか?」


勿論ありますわぁ マイナーながらも
商売には欠かせない神様やもん」





やや力強いその一言に、脈があると
六人は俄かに活気付いた







「あのっそれじゃあ…」







言いかけようとしたシュドの言葉を遮り







「でも僕代々鍛冶屋なんで、戦神様
信仰しとりますねん スイマヘンねぇ」





斬り捨てるように、ダニエールは言い放つ





「風神を…信仰しておるのか…」


「そうなんよ、だから貨幣神信仰には
入れないんどす〜本当申し訳ありまへん」







笑顔のままの、あっさりとした最後の言葉が


貨幣神の淡い恋心を無残に砕き散らした









そのままニ、三話をしてダニエールと別れ


六人は沈んだまま失恋ヤケ食いハシゴを
行う貨幣神に付き合わされた







そして日も暮れ アンヴァの店のほとんどが
臨時休業となった頃…







「…ニャーはダニエールさんよりも素敵な彼を
見つけて幸せになるニャ」





ようやく踏ん切りがついた貨幣神が
幾ばくかのお礼を施して、六人と別れる事となった







「まぁその…ガンバレよ」


「きっといい相手が見つかるのじゃ」


「気をつけてな」


「次は、自分でチャンスを掴みなよ」


「あんまり気を落とすニャよ?」


「…元気、出してくださいね」







口々に言う彼らの心境を内訳するなら





どうにも居たたまれないような心持ちと


ようやく貨幣神の失恋大食いツアーから
解放される安堵感とで半々だろう







「それじゃあニャーは連れのところに戻るニャ…」





トボトボと去っていく貨幣神の後姿はどこか物悲しく


しばらく、六人は黙ったまま見送っていた







―――――――――――――――――――――――







「あネーニャお帰り だった?どう、そっちは」





ラノダムークとは違う とある世界で


長い黒髪を一括りにまとめた青年が
やって来た貨幣神に尋ねた







貨幣神―ネーニャは 首を振りながら





「スウィードル様の欠片は、あの世界には
なさそうだったニャ」


「繋がりが俺達と深いあの世界はあるから
思ったのにな、空振りかぁ…あるかもって」





残念そうに溜息をつき、青年が続ける





「そっちもネーニャ落としたらダメだよ、気を
振られたから お目当ての子にって」


「なっ 何でそれを知ってるニャ!?」







白い顔が見る見る赤くなるのを、青年は
ニヤニヤ笑いながらこう言った





「言い出すのって珍しいからだってネーニャが別行動
つけてたんだよね〜ずっと 後」


「ヒドイニャ!シェイルサードのバカーーー!!」





ネーニャが短めの手をグルグル振り回して


青年―シェイルサードに殴りかかってきた





「ゴメン悪かったってゴメン」





彼は笑いながら その行動を受け流す







……彼らの旅の目的については
別の機会に、語ることにしよう








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:後編の方がより長くなりましたが
貨幣神の初恋(?)はコレにて終了です


石榴:結局、俺の案が通ってんのになんで
あそこまでボロクソに言われなきゃなんねぇんだ(怒)


狐狗狸:そこはまー君のニブさが原因でしょ


ルデ:同感だね、しかし惚れ薬を試す機会が
失われたのはちょっと残念


狐狗狸:(案外本気だったよこの子…;)って
シャムとノールとシュドがいないし


カルロス:ああ、シュドはシャムを追い回す
ノールを止める為 走って行ったぞ


狐狗狸:ええええ新手の三次災害?




微妙に別のネタも盛り込んだ駄文で失礼しました
最後の"彼"の話は 後々書く予定です(殴)


読んでいただき、ありがとうございました〜