これはアスクウッド王国を目指して進んだ六人が
パイラへ辿り着く少し前


アンヴァという中規模の町に立ち寄り


ちょうど鳥獣族二人組が魔物達の動向について
噂していた話を 聞き終えた直後のお話…







「あ、悪ぃ オレそろそろパープラの方へ
配達しなきゃなんないからまたな〜」


「おー、気をつけろよ〜」





彼ら二人が背中の羽を数度羽ばたかせながら
地を蹴り、宙へと舞って飛び去ったのを見届け







「しかし、早い所アスクウッドに
着きたいもんじゃのう…」





歩きながら 思い出したようにノールが呟く





「またそれかよ…自分で家出したくせに
戻るとなると現金な奴だなお前って」


「きっとノールちゃんも不安なんですよ」


「お前だって、元の世界に戻りたいと
言う時もあるだろう?」





諭すようなカルロスに図星を突かれ





「まぁそうなんだけどよ…」





気まずげに視線を横の路地へと逸らし


石榴の歩みだけが 唐突に止まった





「アレ?石榴が固まったニャ」


「どうしたんだいクリス君」





釣られて五人も足を止め 彼に近寄ると


まるでドッペルゲンガーにでも会ったような顔で
唐突に石榴が叫んだ





「ななななな…何でこんな所にあんなものが!?







視線の先―横の路地にいたのは





誰にとっても予想外のモノだった











〜No'n Future A 外伝4「異神遭遇? 前編」〜











彼のいた世界では 世界的に有名な
某白猫のヌイグルミに酷似した小さな生き物


そして五人の世界で、それは…







「あれはまさか…」





シュドの呟きにシャムの叫びが重なる





「ニャンコインにほられてるのと 同じ猫ニャ!」


「まっ、真か!?」


「ああ…間違いが無いようだ」





驚くノールに、手持ちのコインを取り出し
確認したカルロスが答える







己が発見したにもかかわらず


いまだに石榴は、シワのよった眉間に手を当てている





「新手の魔物とかじゃねぇのか?アレ」


「変化系の魔物が神を真似るのも出来なくは無いけど
それならもっと有名な相手を選ぶでしょ」





とは言うもののルーデメラ自身も
少し目の前にいる生物について懐疑的なようだ







彼らの視線に気付いたのか、生き物が円らながら
どこか歪な瞳をこちらに向け





微かに黄色い鼻を動かした…と思った次の瞬間







「いぃぃいニオイがするニャァァーーー!!」





信じられないボリュームの声を張り上げながら
短い足をこれまた信じられない速度で動かし


白い弾丸のようにシュドへと突進した





「うわああぁ!?」


「「「シュド!?」」」


「シュドに何するのじゃ!離れぬか!!」









必死で引き剥がそうとするノールの手にも
ソレは見た目の小ささに似合わぬ頑強さを示し







ニャ!?そっちの緑色アタマからも
甘いニオイがプンプンするニャ〜!!」





無謀にも、不意にルーデメラに矛先を
変えようとしていた辺りで


その生き物が空腹である事に気が付いたらしく







「何か食べさせれば落ち着くのではないか?」





と、カルロスが言った途端







その通りニャ!お礼はちゃんとするから
ニャーをお店に連れてってほしいニャ!!」





生き物は歯の無い口を大きく開け
今にも食いつかんばかりの勢いでせがんだ











駆け込んだ定食屋のメニューを二順した辺りで
ひと心地がついたらしく





ゴメンニャ〜この町に着くまでにタチの悪い
魔物に追っかけられてロクにゴハン食べてニャくて…」





口の周りを食べカスだらけにしながら
小さなその生き物はそう言った







「それにしても、スゴい食べっぷりですね」


「この身体の何処にあれだけの量が…」





積みあがったテーブルの上の皿を見て呟く
二人の言葉は、周囲の客達の心中を代弁している







お前食いすぎニャ!オイラたちの手持ちじゃ
こんニャに払えニャいぞ!?」





頭の中で勘定を終えて真っ青になるシャムへ


生き物はむしろ自信満々に胸を張る





それニャら心配御無用!食べた分は
ちゃあんと払えるニャ!!」


「何か当てがあるのかい?そもそも
僕らは君が何者かすら聞いてないんだけど?」







ルーデメラの込めた皮肉に全く気付かず
生き物はもったいぶったように咳払いを一つ







「実はニャーは お忍びでこの世界にやって来た
貨幣神なのニャ」



絶対ぇ嘘だ、電池かなんかで動いてんだろ」


「失礼ニャ!デンチってニャにニャ!!」


るせぇ!版権的にヤバそうなヌイグルミが
目の前にいるだけでアレなのに言うに事欠いて
だとぉ!?巫戯けんのも大概にしやがれ!!」







…ここまでヒドくはないが


生き物を疑っているのは、石榴だけではない







「お主が神である証拠がどこにあるのじゃ?」





ノールのその一言に、憤慨したように
ぷぅっと頬を膨らまし





「そんニャにうたがうニャら証拠を見せるから
ちょっと離れるニャ」







言って生き物を中心に3メートルほど
石榴達は距離を取る









「食い逃げとかしねーだろーな…」


「しようとしたらオイラがまっさきに
とっつかまえて売り払うニャ」


「いやいや珍しい生き物として僕が魔導師協会に」


「あの…あまり物騒なことは…」







小声でささやく彼らに構う事無く


やや広めに開いたその空間で





「ニャンニャかニャンでニャンニャンニャン♪
カネカネフレフレニャンニャか〜!」






自称貨幣神は歌いながら短い手足を
バタつかせて踊り始める







すると…踊る自称貨幣神の周囲1メートルに





煌く雨が派手な音を立てて降り注いだ







「ニャニャニャニャン♪」





踊りがスローテンポとなるのに合わせ


降り注ぐ雨も徐々に緩やかとなり、ようやく
何が降っているのかが人々の目に判別出来た





「アレは…硬貨か…!?」







カルロスの言葉通り、ソレは硬貨のようだった


どこからともなく降り注ぐソレが


ジャリジャリと重そうな音を立てて
積みあがり、山となりつつ広がってゆく





床に散った金・銀・銅 三色で彩られた
硬貨らしきものの一つを拾い


マジマジと見つめ、シャムが叫んだ





「こここっコレ本物のニャンコインだニャ!!







店中の人という人の視線が踊る自称貨幣神と
降り積もる硬貨へ集まり







踊りと雨が同時に止んだ その直後







「うぉぉ!金だ金だぁぁ!!」





立ち止まっていた人垣が一斉に、積みあがった
コインの円に向かって群がり奪い合う








その中でも一際盛んに動いているのが





「あーっ!取るニャ!この金全部
オイラのニャんだっ さーわーるーニャ!!






…真っ先に飛びついていったシャムだが









とりあえずカルロスと石榴とシュドの三人が
場の収拾に努め





積もっていたコインに貼りついたシャムを剥がし


そっくりそれを店の支払いに当ててから
六人は生き物へと向き直った







「ニャーの力ニャらざっとこんなモンニャ!」







数少ない伝承や偶像、コインに掘られた通りの
姿形やその食欲魔神ぶり…





そして先程目にした現象が


最早 目の前の生き物は貨幣神だと告げていた







「本物の貨幣神じゃったのか…」


「そうとは知らず大変失礼致しました」





感心するノールと頭を下げたシュドへ
低い鼻をツンと上に向けて貨幣神は言う





「分かればいいんだニャ!」


「マジでカヘイシンが目の前にいるニャんて…
ご利益あげるためにアクシュしてほしいニャ!!」


「いいニャよ?」





差し出された短い手を握って軽く上下に
振るシャムは とても嬉しそうだった





「しかしこんな所にお忍びで来るなんて
どマイナーな貨幣神サマは余程ヒマなんだね?」


「仮にも神にそこまで言うとは…」


「お前、本当怖いもん知らずだな」





カルロスと石榴は ルーデメラに呆れたような視線を送る







「本当は冴えない連れと二人で旅をしてたニャ
でも連れが、別の世界に用があるからって…


仕方ニャいから ニャーが単独でこの世界を
見て回っていたんだニャ」







そこで少しだけ沈黙していたが


思い立ったように顔を上げ、貨幣神は言った





「ここで会ったのもニャにかの縁だし
一つ頼みを聞いてほしいのニャ!」



「頼みって何だよ?」


「まずはニャーについてくるニャ!」











…連れてこられたのは六人が泊まっている
簡素な宿泊所が見える通りで





宿の一階の隅の窓を おもむろに貨幣神が
指し示して呟く





「…ニャーはあの男の子に恋をしてしまったニャ」







固そうな寝床に腰かけた彼は
恐らく18、9くらいだろう





それなりに中肉中背で浅黒く
無精ヒゲやすねや腕の毛がやや濃い目だが





右目のモノクル越しに覗く目や顔立ちも


どこか知性を感じさせる





己の武器なのか商品なのかは分からないが
膝に置いた剣を、しきりに磨いているようだ







「つまり彼と付き合えるように
僕らに仲立ちを頼みたいってワケだ」





小バカにした目で笑うルーデメラへ


食らいつくような勢いで飛びつき、叫ぶ貨幣神





もちろんタダとは言わニャい!
ちゃんとお礼だってタップリするニャ!!」


「タップリ!?マジかニャ!!」


「そこで反応すんな!!」





銀色がかった青い目をキラキラさせて


今にも頷かんとしていたシャムを
石榴が小突いて黙らせる







「今の所頼めそうニャのはお前たちしか
いニャいんだニャ〜頼むニャ〜!


「いくら神といえど、わらわたちがそこまで
付き合うギリなど何もないぞ!」


「のっノールちゃん…」


「そこをニャンとか〜!!」


「生憎だが 私達は急ぎの旅をしている
…分かってはもらえぬだろうか」







雲行きが怪しくなったと見て取ると





急に、貨幣神のトーンがグッと下がった







「断るニャら ニャーの持てる力を使って
お前達へ金欠の呪いをかけたり出来るニャ…!」







恐らく定食屋での一件を見ていなければ
誰もその言葉を信じなかったろう


が、相手はマイナーながらも間違いなく
貨幣をつかさどっている神様





その気になれば六人…


いや、彼らの周囲に至るまで
お金関連で呪いをかける事も可能だろう





それだけでなく仮にも神様の力で
かけられた呪いであるなら


例え二つ名つきの魔術導師でさえ
解除が不可能かもしれない







単純な作りのハズの顔が 急に恐ろしく見えた








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ずっとご無沙汰していましたが、長めの話が
終わったので書きたかった短編を書いてみました


石榴:…マジであの猫もどきはどーにかなんねぇのか


狐狗狸:なりません(キパ)元はこの話と
貨幣神のビジュアルはMからのアイディアですし


ルデ:本当は一話で終わらせるつもりが
またいつもの如く二つに分かれちゃったんだよね
何度書いても進歩しないよね 君ってさ


狐狗狸:…そーですね甘いモノ買い込んでたルデ君
オリジだとつい長くなるの
このクセ直した方がいいのかなぁ


シュド:あああのでもっ、お話が続けばそれだけ
たくさん読めてお得だと思いますよ?


シャム:よみたいヤツがいるニャらニャー


ノール:全くじゃな


狐狗狸:………船長寝てるし(涙目)




貨幣神の力は"踊るとその世界の貨幣が降る"です
原理などについては追求しない方向で


"連れ"との旅で色々必要なのでそうしました
(彼については次回以降で…)


次回 彼女の恋の行方は…?