向かい来る二人に対し、男達が引き金を引く





手にした魔術銃から 魔力の込められた弾丸
発射され、着弾と同時に炎や氷を撒き散らす







弾丸自体や着弾後の魔法を避けながら


ルチルが男達の手前で立ち止まり、短刀を引き抜いた





「風に潜む刃よ、怨敵を切り裂く光となれ!」





持っていた短刀が白い光に包まれ、それを
空間を切り裂くように振り動かす







白い光が斬撃のような残像を残して真っ直ぐに飛び交い


彼らの身体に同じ形の傷をつける







「しっシールドだ!シールドの弾丸を入れろ!!」





叫んで、ある者は弾丸を込め変え
他の者達はそのままの弾丸で応戦する







攻撃をかわし 相手や魔術銃を切り裂く中





「ちっ、面倒くせぇ…オイおばはん!
いつまでチンタラ術唱えてやがる!!」





ルチルが術を発動させないフリーダに怒鳴りかかる









術を唱えているだけと見て、男達は魔術銃を使わす
フリーダに肉弾戦を挑みかかっている







しかし 油断しきった拳を屈んで避け


カウンターでアッパーをかまし、振り向きざまに
背後の男にニーキックをお見舞いし


悶え苦しむ男を続けざまのカカト落としで昏倒させ





組み付いてきた者の顔面に、袖口から取り出した
魔法薬をぶっかけ 怯んだ所に肘鉄を食らわせ





戒めから抜け出したフリーダの横薙ぎの蹴り
男をふっとばし、他の何人かを巻き添えにする







無論 この間彼女は息を切らす所か詠唱すら途絶えない









「こっ…この女 ただモンじゃねぇ!
テメェら、銃で撃ち殺しちまえ!!





男の一人が呼びかけながら、魔術銃の銃口を向け









そこでようやく、フリーダの呪文が完成した







「ストルペイルト!」







何が来るかと 魔術銃でシールドを張った男に
襲いかかった攻撃は









シールドをぶち破り、同時に頭をもぎ千切るような





信じられない重量の拳骨だった











〜No'n Future A 外伝3「破戒僧と戦女 後編」〜











ただの一発で地面に叩きつけられ、男は意識を失う


何が起きたのか 他の者達が理解するその前に





「ラピットフィード!」





自らに術をかけ、加速化したフリーダが
次々と間合いを詰め 相手を薙ぎ倒していく







『う…うわぁぁぁ!?』







恐慌状態に陥り 魔術銃を乱射するも
全ての弾丸はあっけなく避けられ





ほどなく、全ての敵は撃沈した











息も乱れぬ彼女の様子に口笛をひとつ吹くと
途中から見に回ったルチルが声をかける





「聞き覚えのねぇ長ったらしい詠唱だと思ったが
まさか素手ゴロとは思わなかったぜ」


肉体強化の術に私なりのアレンジを加えたものだ
発動までの時間が長いのが難点だが、効果も長く
生半可な防御呪文などものともせん」





言いながら、フリーダは辺りに倒れる者達から魔術銃を
没収し破壊した上で 縄で縛り上げる







「にしても魔術導師にしちゃ場慣れしてんじゃねぇか」





魔術銃の破壊だけ手伝いながら、ルチルが問いかける







術を扱う者は、心身共に鍛えるべし…我が師の言葉だ
それに肉弾戦なら 加減もしやすいからな」


心身共にか…その信念は気に入ったぜ」







淡々と答えた彼女に、感心したような呟きが漏れた











洞穴の中は長い通路となっており、進むと
道が二股に分かれた場所に行き着く







「この先も恐らく枝分かれしているだろう
二手に分かれて調べるべきか…」


「んなまどろっこしいマネしてられっかよ」







近くの岩壁を指でなぞり、光る軌跡が
複雑な魔法陣を作り出す





完成した陣の中央に ルチルは短剣を突き立て





「我が力と穿つ地にて形を取り、現れよ!」







唱えた言葉に呼応し、閃光と共に陣が振るえ
彼が短刀を引き抜いた直後に二本の腕が壁から生える





腕から先も徐々に壁から現れ


岩壁を抉りぬいて そこから岩で出来た悪魔のような
二メートルほどの魔物が出現し、ルチルの前に平伏した









「ほう その年で岩と己が魔力を媒介に悪魔憑依
やるとはかなりの腕だな」


へん、たりめーだ」





自慢げに返し、反対側の壁で同じ術を施行し





「テメェはそっち、でテメェはこっちを進め
向かってくる奴は全員ぶちのめしとけ」





命令に岩の悪魔は互いに頷くと 重い足音を
響かせながら分かれ道をそれぞれ進んでいく







二匹の姿が消えたのを見届けて





「呼び出した者に先触れをさせるのはいいが
それから先はどうするつもりだ」







たずねるフリーダに余裕を崩さず答えるルチル





「急かすんじゃねぇよ、ちょっと待て」





指先で宙に別の魔法陣を描き出し、彼は
短く呪を唱えると 手をかざす







「西に進みし下僕の、真実を写せ!」





魔法陣が揺らぎ その円形の部分に段々と
別の景色が映し出されていく







「なるほど、呼び出した魔物の目を通した探知の魔術か」


「…やけに呪術に詳しいじゃねぇか」





あっさりと納得され、ルチルは少し不機嫌になる





「これでも全ての術については知識を持っている
使えるものは限られるがな」


「単に知識だけの学者バカって奴か?能書きほざく
ヒマがあんならもう片方も探知してもらいてぇもんだ」





皮肉を込めてついたルチルの悪態に





「それもそうだな」





サラリと返すと、フリーダは魔法陣を宙に描き
彼と同じように呪を唱える







「東に進みし彼の下僕の、真実を写せ!」





そして、描き出された陣に景色が映し出された





「なっ…なんで一辺見ただけで出来んだよ!


「言っただろう、知識は持っている
術の性質を理解していれば多少のアドリブは何とかなる」


「……流石は"賢神戦女"サマ」







面白くなさそうに吐き捨てると、映し出された
光景を見つめ 二人は右の道へと進みだした









進む先に分岐は幾つかあったが





悪魔達を呼び戻し、進ませての確認を
繰り返せば 道を間違えることは無かった











二人が進む先は 岩の悪魔が待つだだっ広い広間







「あの先に、魔導師がいやがんのか」


「それにしても…最初の者達以外に
ほとんど遭遇せんのはおかしく無いか?」


「大方数が少ねぇか ビビって逃げだしたんだろ」









広間へと足を踏み入れた瞬間


重い音がして、入ってきた入り口が閉ざされる





振り返る二人の間に弾丸が飛来し 入り口を
塞ぐ壁に着弾し氷を生み出す







辺りの壁から抜け出たように魔術銃を持った男達が
ぞろぞろと引っ切り無しに現れ


あっという間に二人は部屋の中央で囲まれた状態に陥る





「あの方の研究のジャマは何人たりともさせん!」





男達全員が、銃口と殺気を彼らに向ける







「隠れてやがったのか…この役立たずが!





側にいた岩の悪魔をルチルは叱責する







幻術の壁とはやってくれるな」





お互いに背を合わせ フリーダは続ける





「大勢相手に弧で相対するのは良くないからな
合図をしたら 互いに分かれて片付けるぞ


「命令すんじゃねぇよ 元からそのつも…」







言いかけて、ルチルは男達の群れの奥で





ニヤリと笑って 壁へと消えていくフードの男を見た







「テメェ 待ちやがれ!!」





勢いで追いかけようとするルチルを、彼女は押し留める





「待てルチル 罠やもしれん」


知るか!もしそうだったら今の奴ごとぶっ壊しゃ
それで全部済むだろが!!」







猛る彼を止める事は出来ないと悟って
フリーダは 深くため息をつくと







振り向かず、術者らしき者の消えた方向を指差す







「仕方ない、先に行けルチル」


「言われなくても行くぜ、気をつけろよフリーダ!







叫び 使役した悪魔を先頭にルチルが群れを突っ切る





銃を使い、或いは武器などを用いて男達が阻むが
物ともせずに悪魔は彼らをなぎ倒し 奥へと消える









「まったく…"さん"ぐらいつけんか」





不満げに呟き、そしていまだに周囲を囲む面々を見渡すと





「さて、待たせたな 貴様らは私が直々に
シツケを教えなおしてやる!」








不敵な笑みを称えて フリーダは拳を構えた













幻術で作り出された壁をすり抜けた奥にも
先程同様 広い空間があった





殺風景なその場所には フード姿の一人の男が
佇んで、ルチルを見つめている







「我が発明品をかわし、ここまで来たのは褒めてやろう
しかし この魔術銃ははるかに格上ぞ







男が袖から取り出した魔術銃は黒く、形は
先程まで幾度と無く見た贋作と殆ど変わりない







ルチルは眉間のしわを更に深める





「誰だテメェは?」


「ククク…身の程知らずの小僧めが
よかろう、冥土の土産に教えてやる」







両手を大げさに広げ、男は尊大な態度でこう言った







「我が名はルーデメラ=シートルーグイ
噂に名高い"夢幻の使者"なり」





名を聞いた瞬間、ルチルの表情が歪む







「どうした…恐ろしいのか?」





笑う魔導師に、彼は―







問答無用で持っていた短刀を投げつけた


咄嗟に魔術銃で出現させたシールドで短刀を
弾き返した魔術師に、ルチルが叫ぶ





「よりによってあのクソ野郎の名前を
出すんじゃねぇよ ニセモンがぁ!」






ありったけの憎悪と殺意を漲らせ







「このクソガキが…我が術とこの魔術銃の恐ろしさ
思い知らせてやる!」



「その前にテメェをぶち殺してやるよ ニセモン野郎!」







駆けるルチルに 詠唱を始めた魔導師が銃口を向けると、
引き金を引かず 短い間隔で弾丸が連射される


それを避け 弾かれた短刀を手にすると





呪文を素早く唱え、短刀を地に付きたて





「地に潜む稲妻」


「フィアスメーダ!」







言葉を唱え終えるその前に、魔導師の術が彼を襲った







「ぐ…がっ!?





薄紫の渦がルチルの頭上を取り巻き、頭の中を
破壊するように響く不協和音が彼を苦しめる


唱えかけていた術は当然中断される







「来い…!」





飛来する魔術の弾丸を避けながら、ルチルは
岩の悪魔を呼び寄せ 盾にする







もがき苦しむその様子を、フードから取り出した
魔法薬をぐびりと呷って魔術師が言う







「ハハハ どうだ、苦しいだろう
私に屈服するなら解いてやってもいいぞ!」


「ざ…けんなっ、誰が テメェなんぞに!」





切れ切れに叫び ルチルは呪文を唱え始める







「強がっていられるのも今のうちだ 貴様の精神と
この悪魔モドキ、どちらの崩壊が先かな!?





嘲笑しながら 魔導師は魔術銃を撃ち続ける









思考を乱し ともすれば発狂してしまうような精神攻撃に
耐えながら詠唱を続けるルチル


彼をかばう岩の悪魔が、攻撃を受けて徐々に
その身を崩壊させていく







「これが 最後の一発だ!!」







宣言と共に魔導師が撃ちだした弾丸を受け







岩の悪魔が崩れ落ちたと同時に





ルチルの紡いだ術が間に合った







「クリアスペル!」





発動と共に手を己の頭へとかざすと


見る見るうちに彼を取り巻いていた
薄紫色の渦が 霧散していった





そして、時間差で飛来した光球を紙一重でかわす









「何故だ…呪術師がどうして 僧侶の呪文解除など使える!?」







動揺を隠せぬ魔導師を 憎々しげに射抜く蒼の瞳







「忌々しい術使わせやがって…言っとくが
こんなチンケな術 奴の足元にもおよばねぇよ!





激しい怒りを滲ませて、ルチルが親指を下に付き下ろした













「ふぅ、余計な手間をかけさせおって…!」







囲んでいた集団を、強化の術と己が身体一つで片付けて


ようやく奥へと駆けつけたフリーダが見たのは







苦し紛れの幻術で自らの分身を増やして
魔術銃での迎撃を繰り返す魔導師と





ルーン魔法陣と解除の術を駆使し、相手の術を
無効化させて 魔導師を追い詰めていくルチルの姿







「な…なんだ あのガキは…」





恐れおののく魔導師に、背後から光る紐の様なモノが
飛び出し その身体を縛り付けた


紐の先はフリーダの右手に繋がっている







「奴こそはルーデメラ=シートルーグイの実弟
ルチル=シートルーグイだ」





その名に驚き、そして縛られた現状を理解し
もはやこれまでと降参する魔導師









ルチルは渋い顔つきでフリーダを睨む





「ちっ…知ってやがったのか」


「まあな」





苦笑交じりに呟き、フリーダは視線を返すと





「……争えんな シートルーグイ家の血筋は」







小さくそう口にし まぶたを閉じて感慨にふけった















同じ空の、別の土地にある森の中







「今頃 どうしているだろう…師匠





呟いたルーデメラの一言に、耳栓を
装着しようとした石榴の動きが止まる





あぁ?何だよいきなり?」


「いやー何でか知らないけど師匠のこと思い出しちゃって」


「師匠って…お前にもそんな人がいたのかよ







目を見開いてロコツに驚く石榴





他の者達は耳栓をつけてルーデメラよりも 更に
離れて非難しているため


会話が成立しているのは、二人だけ







「鍛錬と研究にかまけて婚期を逃したオバさんだけど
唯一 僕が師と仰ぐ人さ」


「へぇ〜…お前に師匠ねぇ」







いまだに信じられないといった視線を送られ
少し心外そうにため息をつくルーデメラ







「さ、それよりさっさとマンドラゴラ引いてよ
モタモタしてたら逃げられちゃうし」


「わかってるっつの」





短く吐き捨て、石榴は耳栓を強く押し込んだ








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:突発短編終わりました〜ぶっちゃけ
ルチルよりかはフリーダさん中心で書いた方が楽し


ルチル:切り裂かれて死ね(短刀かまいたち)


狐狗狸:前回と同パターン!?(奇跡的に避け)


石榴:今回もまたかなり展開とんでっし、最後の
俺達蛇足だろぶっちゃけ


ルデ:あとさぁ、長編とか捧げモノとか書けるの?
知らないよこんなくだらない話に労力使って


ルチル:くだらねぇのはテメェだクソ野郎(殺意)


ルデ:何?僕に勝てるとでも思ってるの?(同上)


石榴:ここでケンカおっぱじめようとすんな
そこの兄弟!!


狐狗狸:そうそう、ケンカするなら
フリーダさん呼んできちゃうからね


二人:…チッ(攻撃態勢解除)


石榴:一瞬にして収まりやがった(滝汗)




本編で語られない部分を少し詰めて書きました
楽しんでいただけてたら本当に幸いです


読んでいただき、ありがとうございました〜