ざわつく人込みを掻き分け、







石榴は声のした方へと進んでいき―





声が出ないくらい驚いた







後から来た三人も、同じように驚く









「さっきヘンな子が僕の目の前に現れて
いきなり術をかけてきて…」







そう言ってべそをかくシュドの姿は





つい先程までは地神の衣装を着ていたのに





今は可愛らしいフリルのロングスカートに身を包んでいて







何処からどう見ても立派な女の子だった









「僕の姿を元に戻してください…さっきから
ずっと男の方がこっちを見てて、恥ずかしくて…」







そう言った側から シュドに声をかけようと
する男が次々と現れる







「ねぇカーノジョ せっかくだから一緒に
ルーニヴルアウト楽しまない?」


「え、あの僕…」


「そんなダゼー奴よりオレと一緒に
お祭り見て回ろうよ、ね?







オレと いいやオレと、と次々に現れる男を
断りきれず困り果てるシュド







見かねてルーデメラが口を挟む







「あのさぁ この子はおと「何だよ ちょっと顔が
いいからって調子にのんなよ彼氏テメェ」






言葉の途中で 一人の男が不機嫌そうに言い放ち





他の男たちも露骨にガンを飛ばしている









どうやら、ルーデメラがシュドの彼氏だと
二重の勘違いを引き起こしたようだ











〜No'n Future A 外伝2
「闇気祓い祭(ルーニヴル・アウト) 後編」〜












「…僕の台詞を遮るとは いい度胸だよキミ」


「ダメですルーデメラさん、ケンカはやめてください!」







早速呪文を唱えようとしたルーデメラを
シュドが慌てて取り押さえる







「やんのかコラあぁ?


「言っとくけど腕っぷしには自信あるぜぇ?」







腕を鳴らしながら男達も臨戦態勢に入る







「今日は折角の祭だ、ケンカなど止めておけ」





カルロスがため息混じりに男達を諌めはじめ
石榴とシャムもそれに続く





「それにこいつにケンカ売ったら ヒドイ目に
あうのがオチだぜ、今ならまだ間に合う!


そうニャ!ルデメが怒ったらマチがカイメ…」







叫ぶシャムの横を掠め、男達に衝撃波が炸裂した









殺気立つ男達とともに 反射的に四人は
ルーデメラに視線を向けた







「…悪いんだけど船長さんと泥棒猫君に
クリス君 あいつをとっちめてきてくれる?







刺さる視線を艶然と受け止めるルーデメラ





しかし その笑顔には黒いモノが滲んでいる









「あ、あの…落ち着いてください 話しあいま」







怯えながらも平和的解決を望むシュドの一声は





男達の怒号とルーデメラの攻撃呪文の爆音に飲み込まれた













「…とにかくこれ以上の被害が出る前に
何とかあの子供を捕まえんとな」


「だな このままじゃ折角の祭が台無しだぜ」







慌しく動く人ごみの中、カルロスと石榴が辺りを
警戒しながら移動する







「オイラだけでニャくオイラの仲間にも
イタズラするニャんて…許さニャいぞ!







二人のやや後ろで、シャムが右手の拳を
左の手の平にうちつける







「シャムの気持ちも分かるが、なるべくなら
あまり手荒なマネをしたくはない」


カルロス!子供だと思って甘く見ちゃダメだニャ!」


「けど、問題はどうやってあいつを捕まえるかだな」


「あらかじめオイラがワナをはるニャ!
で、そこに追いこんでみんなでつかまえるニャ!」



「追い込むって…あいつ姿消せるんだぞ!?
それになんか変な術も使えるみてーだし」


「も、モンダイはそこだニャ…」







姿を消せる術などを使う相手をどう捕まえるか…?









悩む三人の横手から 一際大きな声が沸きあがった







ちっきしょー!あのガキのせいで
本場モルポ焼き屋台店じまいだぜ!」








店の店主らしきオヤジが、グシャグシャになった
屋台の前で 悪態をついていた









「またアイツの仕業かよ…」







チッ、と不機嫌に舌打ちする石榴





グシャグシャの屋台と 周囲に散乱する材料を
カルロスは無言で見つめ続けている







「カルロス どうかしたかニャ?」





さすがに気になって、シャムがたずねると





「大丈夫だ…二人とも、私に 考えがある







カルロスがその屋台に歩み寄り、側に転がった
材料の一つを手に取って







二人の所に戻るやいなや 説明を始めた







「まず 騒ぎが起きたら皆で取り囲み、あの子供が
姿を消したらこれを一斉に…」







その説明に、シャムと石榴がポンと手を打った







「…なるほど カルロス、アタマいいニャ!
したらオイラがあいつを追いつめるから石榴が…」


「そういう作戦か、それなら上手くいきそうだな」













夕暮れ時にまた一つ上がった悲鳴を合図に
三人は行動を開始した







広場にある噴水に、人だかりの中心があり





次々と人が浮き上がって 噴水の水の中に飛び込んでいた









…むろん、本人達の意思ではない











三人はそれぞれ複数の紙の袋を手に、人ごみから進み出て







噴水のモニュメントのてっぺんで笑う子供を取り囲んだ









「オイお前 そこから降りてきやがれ!!







石榴の声に、子供が顔を向ける





少し距離があり、金髪が目を隠すようにかぶさって
顔はわからないが 裂けた口はハッキリ笑っている









三人がじりじりと距離を詰める







子供は笑みを深くすると、モニュメントから飛び降り
同時にスゥ…と 姿が空気に溶けるように消えた









「投げるぞシャム!」


おうニャ石榴!カルロス ジュンビは?」


「無論 出来ている」







短く互いに言葉を交わし、三人は一斉に手にした紙の袋を
子供が消えた空間を中心に放り投げる





そして、カルロスが左手の義手に剣を差し替え





大きく跳躍すると 左手を二度、三度閃かせた







高く投げられた紙の袋が落ちきるより早く
次々と切り裂かれ その中身を晒していく









「ナニヲキッテルン…ブワ!?







直後 真っ白い粉が当たり一面に降り注ぎ









それが終わると、ある一点にうっすらと
白い子供の人型が現れた











「協力を感謝する、二人とも」







着地しカルロスは振り向かずに 義手の剣を鞘に収める







「ありがとニャカルロス!
これニャらあいつの姿がよく見えるニャ!」



「ワザワザあの店から小麦粉を分けてもらった甲斐があったな!」











三人は 崩れた屋台にあった材料の小麦粉をぶちまけて







透明になった相手を白く浮かび上がらせたのだ









「さーて、とっつかまえてやるからカクゴしろニャ!」







両手のツメをむき出して、シャムが地を蹴った







白い子供が跳ねるようにして逃げていくが
猫獣族の素早さはそんなものでは振り切れない





ましてやスラム育ちのシャムは人ごみなど慣れっこだ









追いかけるシャムが時には反対側から追い上げ、
時には相手に石を投げて方向を誘導する











街中の二人の追いかけっこが徐々に距離を縮め







術の効き目が切れて子供が姿を現した時には





家と家の間に高い壁がある
行き止まりの通路に追い込まれていた











「さーカンネンするニャ!」











壁の方へと追いつめられた子供の真下から
カチンと音がした







かかったニャ!そこにはオイラのしかけた
ワナがあるニャ!!」







シャムの言葉と同時に 隠れていたトラバサミ
子供の足めがけてその歯を閉じようとする









歯が閉じられる前に子供は地を蹴り、







落下するよりも早く 右手の指を一本立てて
ぐるぐると回し始めた









たちまちふわりと子供の体が浮きあがり







壁の向こうへと―











飛んで逃げようとする途中で









「"粘つけ"!」







壁の向こう側に待ち受けていた


魔術銃を具現化させた石榴が 子供に弾丸を命中させた







着弾した光弾は瞬時に巨大トリモチに変わり





その粘つきと重みで、子供は壁の向こう側に落下する







「ワナはひとつじゃニャい、そこにもオイラが作った
おとし穴があるニャ!」








壁の向こうで圧し掛かるトリモチにもがく
子供の真下の地面が ベキリと音を立てて穴を開けた









「ウワァァァァァァァ…!!」







向こう側で 子供の悲鳴とベシャッという落下音が重なった















カルロスが穴から子供を引っ張り出し
縛り上げて三人がルーデメラの所へ戻ると







辺りはもう夜の闇に包まれ、街の灯りが
キラキラと輝いていた





その灯りに照らされる ボロボロの周囲と男達の死屍累々に、





「ごめんなさい、僕達のせいで ごめんなさい!





すっかり術が解け 涙目で謝りながら
回復呪文をかけて回るシュド







「あ、ようやく捕まえたんだ 遅かったね





その光景を眺めながら悠々とお菓子を食べるルーデメラ








一言で言えば阿鼻叫喚の地獄絵図が出迎えたのだった







「今更ながら…やり過ぎだろルデ」







石榴が端的に地獄絵図の感想を口にする







「仕方ないじゃないか、これでも手加減したよ
その証拠に死人はいないでしょ?」


ケガ人はオーゼイいるニャ」







ボソリと呟くシャムに、ルーデメラはニコリと笑って







「君もその一人に混ざりたいのかな?」


「ごごごごゴメンニャサーーーイ!





瞬時に怯え カルロスの後ろへと隠れるシャム





「ルーデメラ、冗談はそれ位にしておけ
シャムが怯えている」







とにかく、シュドの作業がひと段落したあと







縛り付けた子供の前髪を上げ、





ルーデメラが生み出した灯りの下で
五人はその子供の姿を改めてじっくりと見た









金髪で赤い絹のコートを着た しわくちゃの
ブルドックのような顔をした子供は







耳が尖り 口が横に裂けていて







誰がどう見ても、人間には見えなかった











「やっぱりコボルトか」


「人間じゃねぇとは思ってたけどな」


「どうして、こんニャことをしたんだニャ」







コボルトは 裂けた口を動かして、ポツリポツリと語り始めた







「ボクモ…ミンナトイッショニアソビタカッタンダ」


「遊びたかったって やりすぎだろあれは?


「ボクハイタズラダイスキダカラ、ツイイタズラ
シスギチャッテ…」


「構って欲しいのはわかるが、そのやり方では
ますます嫌われてしまうだけだぞ?」







カルロスが穏やかな口調で コボルトを諭す







「そうそう、そして人間に退治されるんだよ?」


お前ちょっとは自重しろ 空気読め」





茶々入れをするルーデメラを石榴が叱る









「ゴメンナサイ モウシナイヨ」







悲しそうな顔で落ち込むコボルト







どうやら、本気で心から反省しているようだ











「…皆さん、この子をもう許してあげましょう?」







懇願するシュドに、みんなは同意するように頷いた







「もう過ぎてしまったことだしな」


「まー僕は被害ないし 憂さ晴らしも出来たから
文句ないけど?」


「あやまったし、さっきので チャラにしてやるニャ」


「………ユルシテクレルノ?







コボルトが 不安と期待を込めて五人を見る







「まあ 反省してるみてーだしな」


「せっかくのルーニヴルアウトなんですから
僕らと一緒に お祭を楽しみましょうよ!」









笑顔で答える五人に コボルトは嬉しそうに微笑んだ









「アリガトウ…デモボクモウカエラナキャイケナイカラ
オワビニキレイナモノ ミセタゲル







コボルトが右手の指を一つ立て ぐるりぐるりと大きく回す







指から一筋の光が空に舞い上がり









漆黒の夜空に 大輪の光の花が咲いた











五人だけでなく街の人々全てが、空を見上げ
その光を消えるまで眺めていた











「光の花火か…!」


「魔物の割には ロマンチックなことをするじゃないか」


「すごくキレイだニャー!」


「ありがとう コボルトさん」


「私からも礼を言う ありがとう







口々に出る賞賛と感謝の言葉に、コボルトは
裂けた口を もっと嬉しそうに吊り上げた







「ジャアマタ オマツリノトキニアオウネ」







その呟きを最後に コボルトは姿を消した











「…ああ また、きっとな」








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ルーニヴルアウトの話もこれで終了です〜
いやー書けてよかった シュドの女装ネタ


石榴:終わった早々そこかよ!


狐狗狸:でも、君らだって女の子に見えてたでしょ?


石榴:そ…そりゃ そうだけどよ


シュド:……僕、どうすれば男らしくなれますか?(泣)


ルデ:泣かないで天使君、どうしてもって言うなら
僕がヒゲの生える薬でも何でも提供してあげるから


シャム:おそるべしルデメ、なぐさめてるフリして
クスリすすめてるニャ


狐狗狸:だって本質はドSですから、自重しない発言
すべては彼だからこそなせる業です


カルロス:魔物であっても、ああいう心優しき者と共に
祭を楽しむのも…悪くはないな


石榴:大人だなカルロスは


狐狗狸:だって26歳だもの〜作中では年はそのままで
時間軸が動いてることになってるけど(爆)


ルデ:作者も気をつけないと、あっという間に
船長さんより年上に―


シュド:るっルーデメラさん それだけは!!


石榴:お前 本当に自重しやがれ腹黒魔導師!!




こういうドタバタ話、結構好きなんです


読んでくださってまことにありがとうございました〜