ある時 神が落とした果物の実が大陸となり





果汁が水へと変わって川や海に、へたや皮が樹木などを象り





そして 残った種が人となった…







これがラノダムークの成り立ちである









初めの一月ごとに様々な神の使いと神が訪れ、





出来たばかりのラノダムークと人々に
色々な祝福を与えていった







しかし11番目の月、


闇の神の使いを殺し 闇の神の使いと偽り





世界に負の感情を振りまいたルーニヴルという魔がいた







11番目の月の間、人々は底知れぬ恐怖と
絶望を味わいづつけていた







だが12番目の月に変わる日、





闇の神シェイルサードが訪れ、その剣技を以て
ルーニヴルを滅ぼした







彼が去る最後の日、人々は闇の神や全ての神への
感謝の意を込め 盛大な祭を行った









以来、その日はルーニヴルアウトと言われ





人々は全ての神への感謝と
一年の間にたまった負の気を祓う為





神々やその使い達の格好に扮し 一日かけて祭を行うのだ











〜No'n Future A 外伝2
「闇気祓い祭(ルーニヴル・アウト) 前編」〜












ラノダムークでは明日がまさに、ルーニヴルアウトの日







旅の道中、ある街の宿に泊まった石榴達のパーティーも
その話題で持ちきりであった









「僕の家は代々地神信仰ですので、大地の精霊の
扮装を作ったんですよ」







緑色を基調とした衣装を見せながらシュドが微笑む







「そうか、もうルーニヴルアウトか 早いものだな」


「カルロスさんは 仮装をするんですか?」





聞くと カルロスは首を横に振って





「さすがにこの年ではな、だが まだ別の海賊団で
下働きの頃は、ごく稀に闇神の装いで祭を見物した覚えが…」


「カルロスさんは闇神信仰なんですか?」


「剣を習っていたから 強いて言えばそうかもしれん」







ベッドに腰掛け、話に花を咲かせるカルロスとシュド







「明日の祭りかなんか知らねぇが、シャムの奴
帰ってくるの遅ぇな…」





ルーデメラが外に出ようとした石榴に呼びかける





「クリス君 明日は一緒にルーニヴルアウトの
お祭、見て回らない?」


「…それとお前が手に持ってる怪しげな衣装と何の関係が?」







石榴がしかめ面でルーデメラの持つ―









妙にボロボロで所々にドクロや毛皮が見える
悪趣味な衣装を睨みつける





ルーデメラはその視線に笑顔を返して





「酷いな、折角君に似合うと思って さっき
完成させたのにこのルーニヴルの衣装」


「Σ手作りかよそれ!?」


「そんなわけで試しに着てくれる?
それとも僕に無理やり着せられるのがお望み?」







にじり寄るルーデメラに 石榴は観念して







「着りゃいいんだろ…!」











それから少し間が空いて シャムが宿の部屋へと戻ってきた







「ただいまニャ〜たのまれてたもの買いおわったニャ!
やっぱり明日がルーニヴルアウトだからこむニ…」







荷物を両手に抱え ドアを開けて





目に飛び込んできたものに驚き、シャムは
荷物を取り落とし―







「ブニャハハハハハ!!」


「笑うなシャム!!」







ルーニヴルの衣装を着た石榴を指差して爆笑する







「ほら、やっぱり似合ってるでしょ?
天使君も船長さんもそう思ってるみたいだし」







ニマニマ笑うルーデメラが二人を指すと





二人も申し訳なさそうにしながらも 腹を抱えて震えていた







「テメェら俺をおちょくってんのか!!」







顔を真っ赤にして怒り心頭の石榴だが、
格好のせいか威力は半減していて







しばらくその部屋から笑い声が絶えなかった















次の日、ルーニヴルアウトが始まり
五人はそれぞれ別行動する事にした







衣装を着たシュドは劇を見に行くと言い





シャムはカルロスと一緒にお菓子を買いに、





残る石榴は強制的にルーニヴルの衣装で
ルーデメラと出店回りをすることになった









街は辺りから叫び声が聞こえるほど賑やかだった









そこかしこに菓子や料理の屋台があり







広場では扮装した人たちによる神話の劇や
道化師の芸があったり とても凝った趣向が多く







歩く人々や石榴達の目を楽しませた











「やっぱ、祭ってのはどの世界でも賑やかなもんだな」







遠くの方で上がる歓声や人ごみでごった返す通路





まさに祭りといった雰囲気に、珍しく石榴は
機嫌を良くしていた







「当たり前でしょ?
そもそもお祭はそういう目的があるんだし」







果実アメを五本買ったルーデメラが
珍しく片手に携えた袋は





既に 溢れんばかりのお菓子の山





しかし、出店のモノを買う時には何故か
半分位に減ってきている







「…お前 よく菓子だけそんなに食えるな」


「甘いものは別腹って言うでしょ?」







別腹も何も甘いもんだけだろ、と心の中で
呟いて 石榴は辺りの景色を見る事に決める







彼の視線は人ごみをすり抜け、





度々民家らしき家の前で止まった









『供物を 無ければ災いあれ』







衣装を着た者が 家の者にそう言い、





家の者が何かを手渡している光景が
そこかしこで見えたからだ









「何やってんだアレ」


「アレは負の気を祓うのと祝福をもらう意味を込めて、
扮装した人がああやって尋ねまわって 食べ物をもらってるのさ」







お菓子を食べるペースをゆるめず答えるルーデメラ







へぇ、と一言呟き





ふと 石榴が懐かしそうに呟いた







「…何か ハロウィンみてーだな」


ハロウィン?
君のいた世界でもこういうの あるの?」


「ああ、時期は違うんだけど 意味合いは
似たようなものなんじゃねーの?」







言いながら石榴の脳裏には、





去年 学校のオカルト研究部で友人虎目が
行ったハロウィンパーティーの悪夢がよみがえる









(そういやあの時も虎目にヒデェ目に合わされたな)









後ろの方で聞こえる悲鳴のような高い声が、
その時のワンシーンであげた石榴の悲鳴とダブった







「ふぅん…出来ることなら君のいた世界に
行ってみたいもんだねぇ」







興味深そうに言うルーデメラの台詞に
石榴は心底嫌そうな顔をした







「どうやってだ てか来れたとしても絶対くんな


「ケチだなぁクリス君は、ちょっとくら―」











ルーデメラの言葉は、すぐ後ろで響いた悲鳴にかき消された







「何だ今の悲鳴は!?」


「劇の悲鳴にしては大げさすぎるねぇ」


「…今から確かめにいくぞ!」







石榴はすぐさま悲鳴の聞こえた方に向かって走る







「面倒くさいからヤ…って、聞いてないねクリス君」







菓子を一つ口に放り、ルーデメラも石榴の後を追った











自分達の方に流れてくる人ごみを掻き分け









騒ぎの中心らしき場所に二人が辿り着くと、
そこには 男の背中に張り付いた―







「ガキ…いや、違ぇ!」







赤いコートの小柄な体格は、小さな子供と大差は無い…が





金髪からはみ出した尖った鋭い耳





わずかに見えるその笑い顔は、口が耳まで裂け
まるで悪魔のようだった







「わあぁっ離れろ!こいつ!!」


「ヒヒヒヒヒ、オカシタクサンメシアガレ!!







振り払おうと必死で暴れる男にへばりついたまま


子供は右手の指をひとつ立て、グルグルと手ごと振り回した





小さな光が散り、側の屋台がガタリと震え―









並べられていた菓子が全て男に降り注いだ







「ぎゃああああああああああ…」









手を離し 男が菓子に埋もれたのを見届けると







子供は満足そうにニヤリと笑い、文字通り姿を消した











人々のざわつきと不安が消えない内に







少し離れた別の場所から悲鳴が上がる











「…何だありゃ!?」





先程の一部始終に、ようやく石榴が口を開いた







果実アメの最後の一個を頬張りながら
ルーデメラは事も無げに返す





「あー、今のは初歩の幻視系の術だね
自分の姿を短時間透明に出来る」


そっちじゃねぇ!あのガキの方だよ!!
あいつ 口割けてたぞっ人間じゃねぇだろ!?」







ツッコむ石榴に ルーデメラはアメを飲み下して







「ああ、アレね 奴は」


石榴!キンパツで赤いコートのガキが
そっちに来なかったかニャ!!」







ちょうどそこに息を切らし、何時にない剣幕で
シャムがやって来た







「今さっき俺らの目の前で消えやがった」


「ちっくしょう…あニョヤロウ…!


「シャム あいつに何かされたのか?」


「なにかもニャにもあいつ、オイラのシッポを
こともあろうにチョウむすびにしたニャ!








石榴がシャムの後ろを見ると









確かにシャムのオレンジ色の尻尾が
途中でチョウ結びされていた







「うわっ、こりゃヒデェな…」


「ほほう、これは中々見事だね」







ルーデメラがその尻尾を両手で掴んで引っ張る







「イダダダダ、イタいニャ!なにするニャ!」


「尻尾がイタズラされて可哀想かなーって
思ったから 親切心から解いてあげようと」


「解くどころかよりキツく結んでねぇか?」







張り付いたような笑顔のまま、ルーデメラが
無言の圧力を石榴に向ける





次に起こる行動をなんとなく察してか





石榴が二歩、三歩と後ずさった背後から







「お前たち こんな所でどうかしたのか?」







声とともに、カルロスがぬっと現れた







「おっおおカルロ…ス…!?


「ニャっニャニャニャニャ…ニャんてこった!?


「…船長さんこそ、何それ?







顔を上に向けた石榴が目を見開いて固まり
シャムも同じように目と口を最大に広げ





ルーデメラは笑いを堪えていた









全ては、現れたカルロスの格好のせいだ







銀髪の三つ編みに所々がついていて





いつも来ている外套もピンク色のラメ入り蝶々
至る所に描かれている





更に右目の眼帯が ウサギちゃん型
妙にファンシーなデザインになっていた









三人の様子に カルロスは困ったように頬を掻きながら







「寄ってきた子供にイタズラされてしまってな」


「かっ、カルロスもあいつのエジキに…!」







ワナワナと震えだすシャムに追い討ちをかけるように









「カワイクカワイクナァレ!」


「わあぁぁっ!?」







遠くの方で 絹を裂くような男の悲鳴が聞こえた







「あの声は…シュド!?








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ノンフュの短編第二段、だいぶ遅くなって
申し訳ありませんでした


石榴:だいぶって…これ 大晦日の話だろ、
季節外れにも程があるぞオィ!


ルデ:しかも勝手に前・後編に分けちゃうし


狐狗狸:はーいその辺の文句は聞かないので、みんな
他に気になったことをどんどん聞いて聞いて!


シュド:あの…お話の中ではもう冬なんですよね?
石榴さんの普段着は 寒くないんですか?


狐狗狸:寒いよ ただそれを書かないだけ


石榴:書けよ!てゆうかなんか上着とか着せやがれ!


カルロス:私も気になっているのだが…石榴の服は
あの異界のもの一着なのか?


狐狗狸:しばらくの間はあれ一着だけだったけど、
今はシュドが洗ってる間はラノダムークの服を着たりする


石榴:だからここで語らず作品に書けっつの!!


シャム:石榴はマツリを見てただけニャのか?


狐狗狸:その通り、雰囲気を味わってるのが好きだし
屋台で菓子を買うルデに付き合わされてるんで


石榴:それは作中に書けっつってんだろ無視かテメェ!
つか、さっきから俺の質問ばっかじゃねぇか!!


ルデ:クリスくんの友達の名前 久々に出たけど
彼って一体何者なんだい?


狐狗狸:虎目はファンタジー大好きムード&トラブルメーカーで
オカ研副部長、色んなバイト経験や怪しい能力とか持ってて―


石榴:人の話を…これだからファンタジーはぁっ!!




ザ・石榴無視大会 後編はすぐ載せます(謝)


シュドの身はどうなる、そして 祭は!?