スーマ大陸のとある山中、よろよろと石榴は歩き回っていた





彼の服は所々破け、身体にも生傷が残っている





「あのヤロ 手加減なしで薬ぶっかけやがって…」


呟いて 石榴は痛みに顔をしかめる







山の中を歩き回っているのは、彼一人


共に旅をしている筈のルーデメラの姿はない






…話を、少し前の


二人が山のふもとにあった村に
辿りついた辺りまで戻そう







「…何か ヤケにさびれた村についたな」


そう?宿は有りそうだし まだマシな方だよ」





活気も無く シンと静まり返った村の入口で

石榴とルーデメラは言葉を交わす





「まあ、贅沢はいってられねぇか この際
身体を休められれば何でもいい…」





ボロボロの自分の身体を見つめて 石榴が呟く





と、ルーデメラが妙な猫なで声を出した


「クリスくーん、ちょっと


「断る」


「まだ何も言ってないよ…?」





微笑しながら近づいてきたルーデメラから
微妙に距離をとり、石榴はずっと睨みつけている


彼の視線の先は ルーデメラの右手―





いや、右手の薬ビン





「言わなくても、その手にしてる
ショッキングピンクの薬でテメェの思惑丸分かりだ」





言って急いで更に距離を取り 身構えて
キッパリハッキリと言ってのけた彼へ


ルーデメラはニッコリ花の微笑を浮かべ





「さっすがーじゃ遠慮なくv


そう言うと 宣言通り正に遠慮なく


手にしていた薬を彼に向かってぶちまけた





「やめろー!!」





こうして石榴はルーデメラの薬攻撃を必死でかわしながら


山の方へと逃げ込んだのだった







「…ここに来てから 生傷がどんどん増えてきてやがんな」





実際 ラノダムークに落とされてからの
石榴の怪我は絶えなかった





魔法道具の材料を採取する為や 依頼や道中などで

魔物と戦う機会が多くなってきているのもあるし


何より ルーデメラの魔道実験が
昼夜問わず行われるせいで


通常の薬草などの効果が

全くと言っていいほど追いつかないのだ





「ルデの奴なら 回復する方法を知ってそうだが
奴に借りを作りたくねぇし…」


「イ イタイヨウ…」


近くで聞こえた弱々しい声に反応して


辺りを見回した先に大き目の茂みを見つけて





「オイ、誰だかしらねぇが大丈夫…か…」





掻き分けた石榴と、そこにいたモノの目が合って


両者は驚いたようにその場でお互いを凝視していた





青みがかった 半透明の大きめな身体


子供とカエルを足して2で割って
さらに角を幾つかくっつけたような姿





あちこちに、痛々しい傷を作って


目に涙を潤ませている 異形のモノ





「これは…魔物……なのか………!?」











〜No'n Future A 外伝1 「天雫を乞う者」〜











一方 石榴を見失ったルーデメラは





先程の村の真ん中で、村人達に囲まれていた







「お願いです魔導師様!どうか魔術で雨を降らせてください」


「このままでは ワシらは飢え死にしてしまう」





どうやらこの村は、日照り続きで作物の成長が芳しくないようだ


畑の土もすっかり乾いてひび割れ 申し訳程度に
生えている葉や茎は茶色くしおれている





「悪いけど 天候を操る程の大技は僕にもできない」


「そっ、そんな そこを何とか!」


必死にすがる村人達に ルーデメラは
溜息を一つ落として呟く





「…出来るとしたら伝説上に存在するモノ位だよ」







その時、ルーデメラの脳裏に魔術銃と石榴の姿


ありありと浮かんで消えた





(こういう大切な時に限って クリスくんが
姿をくらますとはね…)







「お願いします魔導師様 お願いします…!





余りにも必死な村人の様子を見かねて





「試してみないと何とも言えないけど…
策がひとつ、無くはないよ?」


「ほ、本当ですか!?」


「ただ それには山の方に逃げた
僕の連れの協力が要るけどね」





そう言って ルーデメラは石榴を見失った
山の方に視線を向けた











『ザクロ タビ、シテル?』


「ああ 元の世界に戻る為にな」







あの後、石榴と魔物は 言葉を交わし





お互いに傷付き 敵意も無い事が分かり
少しその場で座り込んで話をしていた







(俺もこっちに来てから、随分この
ファンタジー世界に馴染んで来やがったな)





内心溜息をつきながらも





『ケガシテ ヒトリ、サミシカッタ
ザクロ ハナシカケテクレテ、ウレシイ』


「そうか…ありがとよ」


『ザクロ ナンデボロボロ?』


「俺はお前みたいに偶然じゃなくて
主に腹黒魔導師による人為的な怪我だ」


似たような境遇からか 二人の会話は弾んでいた









…ふいに、ガサリと葉擦れの音がして







「ああいた ようやく見つけたよクリスくん?」


げっ!るるる ルデ!?」





ひょっこりと現れたルーデメラを見て 石榴は
立ち上がりロコツに嫌そうな顔をする





『ダレ!?』


魔物も怯えて 身体を引きつらせて後退さり





「ルデっ こいつ怪我してるんだ、だから
見逃してやってくれよ!」



この後の展開を色々と予想して、石榴は魔物を庇う









だが、両者の予想に反してルーデメラは
それ以上近寄らず


じっと 魔物の方を見ていた







「魔術師様 お連れ様は見つかりましたか!?」





彼の後ろから 村人達がやってきたが





『ああっあなた様は!!?』





ルーデメラと同じ様に 足に根が生えたように
その場に立ち止まってしまった







「お、お前等 一体どうしたんだよ…?」





石榴の呼びかけるも しばらく沈黙が続き







ようやく、ルーデメラが口を開いた





「まさか伝説をもうひとつこの目で拝めるとは
思ってもみなかったよ、クリスくん」


伝説?お前 こいつのこと、知ってんのか?」





問いかけに 彼は一つ頷くと





「この魔物はフルウルといって 古くから
ワッサイディンの使いと言われていてね」





驚きと興味をありありと宿した眼差しで


魔物―フルウルを見つめながら続ける





「お目にかかる数こそ少ないものの
雨を降らす能力があると言われているんだ」


「ま、マジかよ…」







感心したように石榴がフルウルを見やれば
当人は、照れたように身体をモジモジさせている


…が突然ビクっと身体を硬直させたので


いやな予感を募らせて彼がルーデメラの方に向き直ると





彼について来ていた村人達が


全員土下座して フルウルを伏し拝んでいた







魔導師様のおっしゃってた策は、この
フルウル様の事だったんだ!」


「フルウル様…どうぞ どうぞ村に雨を降らせてください!!


「村は雨が降らず 日照りが続いています」


「どうかお慈悲を!!」





口々に飛ぶ村人の嘆願の必死さに 二人は
何も口を挟めないまま様子を見ている





しかしフルウルは 申し訳なさそうに首を振った







『ケガ、イタイ アメ…フラセラレナイ』


「…怪我が治れば 雨を降らせられんのか?」





石榴の言葉に フルウルが頷くと同時に





『皆の者!何としてでもフルウル様の
お怪我を治して差し上げるのだ!!』



村人達が活気だって 止める間も無く行動を開始した





「あんなに必死になっちゃって、切羽詰った人間は
行動が面白いよね」


「…お前はとりあえず口を閉じとけよ」









村人達が、こぞってフルウルの怪我を癒すために活動し
様々な薬草が怪我の治癒に用いられたが


どれも著しく効果は無かった







村人に頼まれ ルーデメラが渋々
回復魔法を使える召還獣を呼び出してみても


特殊な肉体構造の為か 治りが芳しくない





「ルデ お前魔導師だろ、なんで
回復呪文ぐれぇ使えねえんだよ」


「生憎、修行時代に興味なくてサボってたから」





"術の機密保持"と偽り、召喚している間だけ後ろを
向かせた石榴の背中へ


ルーデメラは 悪びれもせずあっさり言ってのける







「フルウル様 我等の僅かな蓄えから作り出した
健康料理をお食べくだされ!」


「我が家に伝わる 秘伝の療法はどうでしょう!」


「この薬湯をお試し下され!!」





己が村の将来がかかっているからか、村人達は躍起になって
色々な治療方法をフルウルにすすめる


しかし、身体も心も限界を感じたのか







『ヤダ モウヤダ!』





ついにフルウルが激しく首を振り、回復を拒否した









「ダメだ フルウル様のお身体がどうしても
治らないばかりに…」


「このままじゃ、村はおしまいだ…」







村人達が嘆く中 ルーデメラもまた頭を悩ませる





「回復呪文や薬草が ここまで効き難い魔物
初めてだよ…どうしたもんかな」







(フルウルの怪我さえ治してやれりゃ、アイツも
村の奴等も 両方幸せになれんのか…)





石榴は自分の中で 思考をまとめだす


(けど フルウルに回復呪文や薬草なんかは
効果が薄いみてぇだな…)





有無を言わさない強力な回復呪文か薬草
あれば別なんだろうけど…」



ルーデメラのその呟きを耳にして 彼の脳裏に
ある一つの考えが閃く







(…認めたくねぇけど、ひょっとしたらアレの力
この状況を切り抜ける手かもしれねぇ)









石榴はフルウルと自分の身体を交互に見比べ


そして宝珠を取り出すと、それをじっと見つめ…





決意した顔付きで 唱えた





「リオスク アーク!」





彼の言葉に反応し 宝珠が光を放つと


伝説の武器、魔術銃へと姿を変え
村人達が驚いて目を見開く





「ルデ、この銃は確か使う奴のイメージ
弾の効果が変わるんだよな?」


「…今更確認しなくても 君自身が分かってるはずだろ?」





頷いて 石榴は更に問いかける





「だったら 身体が回復するイメージをすりゃ
回復できる弾が撃てねぇか?」







その言葉に、ルーデメラが少し考え込み


やがてこう答えた





「…フルウルの怪我を治せる保証は無いけど
試してみる価値は あるだろうね」





『ヤダ!ゼッタイ ヤダッ!!』





前代未聞の試みのせいか はたまた銃のせいか


フルウルが青い顔を、更に青ざめて
千切れんばかりに首を振る







(やっぱり、信じさせるには…これしかねぇ


少し目を瞑り…眉根を寄せつつ目を開けて





怯えるフルウルに顔を向けて 石榴は静かに言う


「フルウル…俺を見ろ





フルウルが自分へと目を向けた瞬間を見計らい


石榴は念を込め、銃口を自分の体に向け引き金を引いた





銃から発射された光球が身体に当たり


石榴の身体を淡い光が包む





『!?』





フルウルが、村人が、ルーデメラまでもが
彼の行動に目を疑った







しかし 彼の身体に、銃での傷はつかず


それどころか、身体の傷が 見る見るうちに治っていく







淡い光が段々と弱くなり、収まったそこには





「……上手くいったみてぇだな」





石榴が 五体満足になった自分の身体
確かめている姿があった







周りにいる皆を、少し眺めてから





同じ様に唖然と石榴を見つめる
フルウルに、彼は笑いかけた


「これでもまだ、信じられねぇか?」







しばし 両者は黙ったまま視線を交わし―







『…ワカッタ ザクロ、シンジル』





覚悟を決めたフルウルに 石榴は頷いて、銃口を向けた













程なくして、天から雨が大地へと降り注ぐ





傷がすっかり癒えたフルウルが、その場で
雨乞いの能力を使い この地に雨を呼んだのだ







「やった…雨が降った!!


「これで日照りから 村が救われる!!」





乾いた土に雨の雫がゆっくりとしみこんでいき


村人は天を振り仰ぎ、口々に天の恵みを喜ぶ





「フルウル様 万歳!」


「ありがとうございます 魔導師様、お連れ様!!」


「あなた様方とフルウル様のおかげで村は何とかなりそうです!!」







涙を流さんばかりの村人達に拝まれて、石榴は
居心地が悪そうに顔を赤くしていた





「お、俺達は何もしてねぇよ…
今回はこいつが役に立ってんだし」


「それについては、僕も同感だね」





指し示されたフルウルは 石榴にニッコリ微笑む





『アリガトウ ザクロ』


その一言が終わるか終わらないうちに


身体の透明度が増して―見えなくなった









二人は程なく 雨が降る中、村を後にした







「あの村 大丈夫かな」


「心配ないと思うよ、フルウルが呼ぶ雨は
割と長く降りつづけるらしいから」


「…魔物の中には あんなのもいんだな」


「そりゃ、魔物にだって知能がある奴とか
人間に協力的な奴だっているさ」





ぽつりと呟く石榴の言葉に返事を返し





「それにしても…魔術銃で魔物を回復させるのに
自分から試すなんてねぇ」


呆れたように、ルーデメラが石榴を見る





「仕方ねぇだろ アイツを信じさせるには
俺が見本になるしか無かったんだから」







ルーデメラは しばし石榴を軽く睨むと、





興味を無くしたように顔を背けた





「…ま いいけどね、今度から
怪我を自分で治せるようになったんだし?」


「お、おう」


「だったら僕も今まで以上に、遠慮なく
君を実験体に出来るって事だね!」





打って変わって 嬉しそうにルーデメラが
薬品を取り出していた





「結局はそーいうオチかよ!!?」







この後 必然的に出来た石榴の生傷は


治した時よりえげつなくヒドかったとか








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:6月に入ってようやくノンフュ更新しました
雨ネタ便乗って事で 短編です!


石榴:なあ、フルウルの記述に"大きめな身体"ってあるが
実際 どのぐらいの大きさだよ


狐狗狸:そだね よく遊園地で見かける着ぐるみが
一〜二回り程大きくなった位


石榴:意外にデケェ!!


ルデ:…今回の話は 僕が余り活躍してないね


狐狗狸:仕方ないじゃん、話のメインは回復弾だし
今後の伏線とかも色々盛り込んだし


ルデ:まあいいさ、次は僕が主人公の話
書いてもらいたいな?


狐狗狸:あの ノンフュの主人公はあくまで…


石榴:俺だぞ


ルデ:…二人とも 僕に逆らうんだ?(黒笑)




大乱闘が始まったので強制終了