風に翼を任せ、狙い定めて滑空するクチバシを


割り込んだ左腕が弾き返した





「遅くなってすまな」


言いかけて、大きく身を仰け反らせたカルロスの頬を


炎の球が掠めて通り過ぎ 空中に留まっていた
一羽の右翼を燃やして墜落して行く





「おっと、急に飛び込んだら危ないよ?船長さん」


「構わずぶっ放すお前のが危ねーだろアホ!!」





注意をつけた石榴が 左右から飛び来た鳥の爪を
撃ち落とそうと銃を構えて





「うぉ危ねぇえぇぇ!」





寸前で身を仰け反らせ、フリッセが振り下ろした
ロングソードをどうにかかわす






まともに喰らった一羽はボタリと砂の上へ落ち


バランスを崩したもう一羽は慌てて宙へ逃げていく





「助けに来たっすよ、大丈夫っすか!


「むしろ今お前にやられかけたっつーの!
お前ら攻撃する前にちったぁ周り見ろ頼むからっ!!」



「ともあれ一端この場を離れるぞ、立てるか?」





声をかけられ、縛られたままの男は首を縦に振り
よろよろと立ち上がる







加勢に入った二人による牽制で鳥の群れを引き離し
距離を取ろうと進む五人だが


水晶の柱を中心に、鳥獣は足を休めては
彼らを取り囲むように旋回を繰り返しており


数羽の撃墜も大して痛手にはなってないらしく


どころか一羽、また一羽とどこかから
音も無く飛び来て群れへと加わってくる





「くそっ、これじゃキリがねぇ…!」





弾や術を撃ち込んでも、身をかわして避けられて


水晶の柱から数メートルも離れられずに
防戦を強いられ 石榴は焦れていた











〜No'n Future A外伝 第七話「遺跡潜入」〜











「土地柄だとしてもこの数は妙だね…やっぱり
あの柱に何かあるのかな?」


「おい、何をする気だ…?」





呪文を唱え ルーデメラが柱へ手をかざした途端





柱の頂上に止まっていた一羽が気付いて視線を向け


まるでそれが合図だったかのように


包囲していた鳥獣が、一斉に五人へと特攻してきた





「うわわわっ!?」





爪で身体のあちこちを掴み、容赦なくクチバシが
頭や腕などをつつき回す





振り払おうとするが 密集した鳥達の攻撃はヒドさを増し


顔面や眼球などへ抉りこむように先端を捻じ込ませようと
勢いをつけて身を反らせ―







「スロミル!」





そこへ、駆けつけたシュドの呪文が間に合った





薄い青の光に包まれ 見る間に動きの鈍くなった
鳥獣の大半がカルロスとフリッセによって一掃される





みんニャ!ダイジョブかニャーっ!!」





シュドと共に、ようやく復調したシャムが
爪で鳥を払うようにしながら五人の元へと走り寄って行く





直後 群れていた鳥が全て


彼を避けるようにして後方へと飛び退った





なっ!?なんでいきニャり下がったニャ?」


「助かったっすけど 一体全体どーいうコトっすかね」





二人の合流によって猛攻は止まったものの


鳥獣の群れによる包囲は未だに解かれておらず
七人を砂漠で立ち往生させている





依然として変わらぬ事態に戸惑う彼らの中


ルーデメラだけは、確信に満ちた笑みで水晶の柱と
頂点の鳥獣とを見つめて呟く





「ふぅん…どうやらあの柱とこの鳥どもは
しっかり関係してるみたいだね」


「何か策でもあるのか?」





訊ねるカルロスへ、彼は軽く答える





「とりあえず、柱に居座る鳥を退けて
調べてみなくちゃ分からないね」


言いつつ蒼い瞳をチロリと向けられ





「…アレをぶっ飛ばせってか?ったく人使い荒いな」





文句交じりに石榴が銃の照準を柱へ合わせる





鳥獣たちが柱を庇うかのように固まりだすが

彼は構わず引き金を絞り、光弾をニ発放つ





群れ固まった数羽を散らした空間を縫って


間を置かず魔術銃から発射された三発目が
柱の頂上に佇んでいた鳥を 見事に撃ち抜いた






掠れる様な鳴き声と共に鳥が砂の中へ落ちた瞬間


眼前の水晶の柱が、光を内包して白く濁りだす





ニャ?!なんニャこの音っ!」


「えっ、何か聞こえるんすか!?」


「ルーデメラさん、この柱から魔力が…!」


「やっぱりね それにしても不可解だ…」





思案しだすルーデメラの言葉を遮るように
フードの男が唐突に声を上げる





マズい!急がなければ!!」


「へ…ちょっ、待てコラ!!





我先にと柱へ身を寄せたフードの男が光に包まれ


その場から姿を消した







「なっ…何が起きたっすか!?


「分からないけど…どうやら後を追うしか
無いみたいだね 行くよ皆





慌ただしく柱へと集い始める鳥獣の群れに気付いて


ルーデメラの指揮によって六人全員は
大急ぎで柱へと駆け寄り、その表面へ手を触れる





直後 眩いばかりの光に一瞬にして包まれ





『わああああああああぁぁぁ…!!』





先程の男同様、彼らも砂漠から姿を消した











―光から闇へと暗転し





『…ぁぁぁぁああああああああ!!







上の空間に現れた全員は、重力に従って


石畳の上へと積み重なるように落下した





「お、重いっす…上の人 早く退いてくださ…
ひゃうっ!?だっ誰っすか今ヘンなトコ触ったの!!」


「うニャっちょ、ゆらすニャ落ちるぅ〜!」


「痛いですシャム君 上で暴れないで下さいっ」





一番上のルーデメラから順に、重なっていた人間が
身を起こして移動し 魔力や道具で灯りを生み出して





「立てそうか?」


「まだ無理だな…踏んづけられたアリの気持ち
今なら分かるような気がするぜ」





全員が退いてから、一番下にいた石榴が
這いずるようにして移動した壁際へ寄りかかる


先程の戦闘や、落下の衝撃などで受けた
怪我の治療にシュドが当たり





それでようやく皆 ひと心地ついた







「ここは…遺跡の中か?」


「素直に考えれば、情報屋さんの言ってた
ウィト遺跡の未踏エリアに転移したって事だろうね」





両端を闇に閉ざされた通路の壁面と床は
地上で見た遺跡と同じ素材らしき黒い石で造られており


天井部分はやや高めのアーチ状で構成されていて


数人が固まって移動しても余裕のありそうな通路の幅も
相まってか さほど閉塞感は感じられない





ほとんど風の動きは無いが、六人が特に息苦しさを
訴えないのを見る限り 空気穴は存在しているようだ







おずおずと手を挙げ フリッセが言う





「僕、一体何が起きたのかさっぱ分からないんで
説明して欲しいっすよ」


「別にそれはいいけど…何から聞きたいの?」


「まず、シャム君が来たとたんに鳥が
はなれてったワケが全く持ってピンと来ないす」





その問いに、答えを返したのはカルロス





「単純な話だ 猫は鳥にとっての天敵だからな
本能的に退がったのだろう」


「…おおっ!


納得してか、ポンと彼女は手を打った





「ニャるほどニャ〜…で、あの水晶でニャんで
オイラたちここに来れたんだニャ?」


「そっ、そーっすよ!むしろそこ重要っす!!


「忙しいなお前」





コロコロと表情の変わるフリッセを眺めつつも
確かに石榴も、その一点は疑問に思っていた







魔法や魔物が日常にあるラノダムークでさえ

可能である現象や行動などには範囲があり


空間を転移する…いわゆる"テレポート"の術は


どれほど高位な魔術導師でさえも成し得たことの無かった
究極の術だ、と認識されている





「推測するに…どうやらあの柱には魔力による
空間干渉がされているんじゃないかな?」





その一言に、シュドがハッとして石榴と
ルーデメラへ交互に目を向ける





「ルーデメラさん、それってやっぱり…」


「そう、天使君の考えは正しいよ
あの場所と同じ現象が起きてると思えばいい」


「ふぇ!?どどど、どーいうコトっすか!!」


「落ち着きなよワンコちゃん 今から君にも
分かりやすく端折って説明してあげるって」





強大な力を持ったモノの干渉によって、一部の空間を
繋いだ"通り道"が出来る事がある






その一例として石榴がラノダムークへ来た事を語り


先程の水晶の柱でも、同じ現象が起こって
遺跡の内部へ転移した事への説明とした





「ついでにあの鳥達は、転移のための"フタ"として
配置させられていたんだと考えているよ」


「ふへぇ〜…な、なるほど…」


目を点にしながらも こくこくとフリッセは頷く





「お前本当に分かってんのか?」


「えーと…よく分かんねっすけど、なんとなく
分かったと思うっす…」





煙が上がりそうな頭をプルプルと振った相手を
呆れたように見やってから立ち上がり


辺りを見回して、おもむろに石榴は呟く





「にしても…あのローブ野郎どこ行きやがった?」


「ニャんも音がしないから、近くには
いニャいみたいだニャ 多分」


「やっぱあの人クレスト様達の行方について
何か知ってたんじゃ…ちょっと悔しいっす


「モノは考えようだよ、情報源にも盾にもならない
お荷物と別れられたと思えば そんなに腹も立たな…

おや?どうしたのかな皆」





穏やかに問いかける彼の発言に、全員は
引きつった笑みを浮かべて固まるくらいしか出来なかった









休憩を終えて、一行は辺りの探索を始める





「前人未踏の遺跡となると、恐らくは罠なども
多数設置されているだろうな…」


「ええ、慎重に進みましょう」





地図を片手に、周囲へ気を配りながら通路を進む中


思い出したかのように 上から微かに零れる砂が


床の隅に溜まり、踏みしめるたび
ジャリ、と小さく足音を立てる





少しばかり歩いた先の角を曲がってみれば


左右に分かれた通路が伸びているのが見えた





「どちらも行き止まりっすね…あ!


「アレって登りの階段じゃねぇか!
…って、砂に埋もれてやがる」





左側の行き詰った通路には、上へと伸びる階段
段差が砂の山から顔を覗かせている


砂を掘れば 恐らく地上の遺跡と開通するのだろうが


位置関係も分からず下手に砂を掻き出しては
生き埋めになる危険性もあるので迂闊に手は出せない





「どうやら、地図のこの地点が現在地のようだな」


カルロスが 広げた地図の端を指差す





「なるほどね…まずはここから近い、術の施された
壁面へと行ってみようか…ん?」





反対側のどん詰まりに佇むフリッセに気がつき
笑顔でルーデメラが歩み寄る





「何やってんの?ワンコちゃん」


「いや、このボタンなんすかねーって気になって」


「じゃあ押してみれば?」


「って待てオイ!押させるなあぁぁ!!





しかし注意は間に合わず、彼女の伸びた指は
思いっきり壁のボタンを押していた





ガキョン、と仕掛けめいた音が響いて


間を置かずに六人の立っていた通路一帯に穴が開き





『うわああああああぁぁぁぁぁぁ…!!』





成す術もなく全員が飲み込まれ、床が閉じても尚


カタカタと仕掛けの作動音が続く







……しばらくして







先程の通路から、数メートル離れた地点の壁から
二人が吐き出された





身を起こし 彼らは頭を振って立ち上がる





「び…ビックリしたニャ…みんニャ ケガは…
ニャ!?シュド!カルロス!フリッセ!ルデメー!?


「どーやら…他の奴らとバラバラにされたらしいな」


「ま、まままマジかニャ…うあー最悪ニャ…」





頭を抱えるシャムに同意しつつ、石榴は言う





「さっきの罠で怪我がねぇだけマシってトコか
ったく何考えてんだルデのバカ野郎は」


「きっと思いつきだニャ…と、とにかくここに
いるより先にすすんでみんニャに会おうニャ」


「だな アイツら無事だといいな」





新しく灯りを用意し、二人は暗い通路を歩き始める


ついさっきの事もあり 罠への警戒も働いて
進みは随分と慎重だった





…のだが、緊張も長くは続かず





石榴!さっきムコーの方でニャんか光った!
さっそく行ってみるニャ!!」


「ってオイ!待てっつの警戒心はどーした!
てゆうか仲間と合流するんじゃねーのかよっ!!」


「せっかくイセキにつきもののお宝があるのに
アサらニャいのはもったいニャいって!ちょっとくらい
おくれたってみんニャゆるしてくれ」


ねーよ!むしろ明らかに罠だろが!!おら行くぞ」


「ウニャアああぁぁぁお宝ぁぁぁぁぁ〜…!!」





未練がましく通路の先を見つめるシャムの首根っこ掴んで
引きずるようにして 石榴は迷路を進むハメになった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:積み重なった順は、上からルデ・シャム・
シュド・フリッセ・カルロス・石榴です
原本ではカルロスと石榴の間にフード男が挟まってました


シャム:あ、あとゼツミョーなバランスだったって
つけたしといてニャ オイラ マジで落ちかけたし


石榴:何にしても俺が一番下は変わんねぇのかよ…
つーか毎度ながら改変に時間かけ過ぎだろ?


狐狗狸:オリジナル要素とかスルーされてる矛盾を
解決しなきゃで毎度四苦八苦してる結果なんだってば


ルデ:大して変わってないけどねぇ…それより
本当にさっきの話は理解できたの?ワンコちゃん


フリッセ:ええと、は、はいバッチリっす!とりあえず
犯人のスゴい魔力で鳥とか操って この場所に
転移したり出来たってコトっすよね!


シュド:そ…そうですね


石榴:あーうん そうだな




フード男の存在だけまだ消化不良?
…次回をお楽しみにネー(/スンマセン)


それぞれのフロアで、内部の探索を始める彼らだが…