フタを押し上げ、地下から這い出すと
日光が強く目を灼いた





ニ゛ャー!まぶしい!!」


まともに直視したらしくシャムが目を抑えてうずくまる





「だ、大丈夫か?シャム」


「無理もない、今まで闇に目が慣れていたからな
…ましてシャムは猫獣族だ」


「いやーでもコレ、僕らでもキツいっすよ?」


手で光を遮りながらフリッセも眼を細めている





気まずそうに何度か口を開閉させてから
シュドが、言葉を乗せる





「あの…フリッセさん、女性の方だったのですね?」


「えーと、まあ特に言うコトでもなかったんで
だまっちゃってたっす…スンマセン」


「いいんですよ、気にしてませんから」





苦笑する彼の側から、目をしぱしぱと瞬かせながらも
視力が回復してきたシャムが会話に参加する





「けど…お前ホントにニャのか?
オイラよりガッチリしてるしセも高いニャ」


「これでも剣の修行は一通りしたっすからね
あとはまぁ、生活のタマモノっすよ」





はにかんだ笑みや言葉の端々に自信を覗かせるフリッセ







カルロス程ではないものの、剣を扱うもの特有
物腰や立ち振る舞いの違いに納得しつつ





ふ、と思い出して石榴は問いかける





「そういやフリッセ お前確か魔導師の一番弟子とか
なんとかルデに言ってたんだよな?」


「言ったっす」


「だとしたら、何か術とか使えんのか?」


「あー…お恥ずかしながら、そっちは僕
からっきしダメっすね」


「だろうな…」


いままでの反応もあってか、そちらに対しても
石榴はすぐに納得していた





「とにかく、まずは目撃情報と遺跡の位置が
一致してるらしい地点へ行ってみようじゃない」





取りまとめるようなルーデメラの台詞をきっかけに


一同はウィト遺跡西北西へと歩を進め始めた











〜No'n Future A外伝 第六話「不審発見」〜











防護用の布や呪文で熱気を遮断していても


真上で輝く日の光は、沈まぬ限り
広大な砂の海へと容赦なく降り注いでくる





目印のほとんど乏しい平坦な光景が天と地の熱で歪み


旅慣れたモノでさえ、ソレによって距離感や
道順を惑わされてしまう





「なぁ…あとどれぐらいで着くんだ?」





地図と周囲を比べて、カルロスが呟く





「方角は間違っていないから…もうすぐ
到達するハズだ」







口数も少なくひたすらに砂を踏みしめて


情報屋の示した場所へと たどり着いた一行は
異様な光景を目撃した







…砂の他には、石か岩かシャベタスという
植物しかなかったハズのこの土地には不釣合いな


氷のような水晶の柱が一本突き立っている





その柱の頂に鷲に似た立派な鳥が一羽

留まったまま身動き一つせず空を睨みつけている





柱から1メートルほど離れた辺りには


鳥の気を引こうと、手にした干し肉を
ちらつかせるフードつきローブ姿の人影があった







「な…何だありゃ」


「キレイな柱っすねー」


そっち!?フツーあのフードのヤツのが
アヤシイって思うだろニャ!!」






もっともなツッコミに彼女以外は皆 頷いた





「そっすか?案外動物が好きな人かもしんないっすよ?
ちょっと聞いてみるっす おーい


「いやいやいやちょっと待てって!!





駆け寄ろうとしたフリッセを彼らは慌てて止める





「なんで止めるんすか?」


「場所が場所ですし、あの人がどんな方か
分からない以上 少し用心した方がいいと思います」


「もしアイツがハンニンの一味だったら、アレは
オイラたちをハメるワナかもしれニャいだろ?」







柱の方を見ると、鳥獣もフードの人物も
まだ六人へは気付いていないようだ





「大勢で行くと警戒されるかもしれないし
偵察がてら、二人で聞くのはどう?」


「…悪くは無いが 誰が行く?」





怪しさ丸出しの異様な光景に、フリッセ以外は
ほとんど二の足を踏んでいるようだが





眺めていても動いているのは人影の方だけで


誰かが行動を起こさないと、事態が進展しないらしかった







「じゃ…ジャンケンで決めるニャー」





ようやく出てきたシャムの提案に納得し





「っし行くぞージャーンケーン


"ジャンケン"って何すか?」


「石榴さんの世界で言う "ルニサンステル"ですね」


ああ!それっすか!!」





全員の同意が得られた所で、彼らはそれぞれ
決まった手の形を一斉に出し合い…







結果 負けた二人が偵察&聞きこみを開始する





「なんか悪いっすね〜」


「気をつけてくださいね」


「分かってるって…ほらため息ついてないで行くよ」







四人に見送られ、石榴とルーデメラが
尚も干し肉を振りかざすローブの人物へ歩み寄る







おい、アンタ何してるんだ」





不機嫌そうな声色に、相手の肩が跳ね上がり


顔を向けたかと思った…刹那





干し肉を放り出し 一目散に走り出して行く





慌てて石榴が追いかけ出して―







「フリーズィート!!」





ルーデメラが発動させた魔法がフードの人物へ
直撃し、氷漬けにしてその場に縫い止める





「ひいぃぃっ!!」


「おま…もう術使う気マンマンだったのかよ」


保険ってヤツだよクリス君、おかげで
情報源に逃げられずに済んだだろう?」





じたばたとローブの人物がもがくけれども
ロクに自由の無いその状態で逃げられるハズも無い









氷を溶かして拘束し、改めて相手を見れば

ドコにでもいそうな中年男のようだった


座り込んだポーズでガタガタと小刻みに震えながら
二人をジッと睨みつけている





「改めて聞くけど アンタ何モンだ?」





男は、口を閉ざして黙り込む





「あの場所で何やってた?どうして俺らから逃げた?





二度、三度と訊ねる石榴だが 相手は頑として
口を利こうとはしない







「おい聞いてんのかよオッサン!」





苛立ちが増した口調で脅しかける彼へ


代わりに答えたのはルーデメラだった





「まだるっこしいねクリス君、小鳥を
さえずらせたいなら火にあぶれって言うじゃない」


「言わねぇよ」


「まあまあモノは試しだよ?さっきの術で
このオジサンも寒がってるし暖めてあげれば
きっと色々教えてくれると思うなぁ僕は」


「ここ砂漠じゃねぇか…てか、何用意してんだよ
ひょっとしてマジでやる気かオイ!







"浮遊している透明ザック"という自前の便利アイテムから
嬉々として手荷物を物色し





「あ、コレもいいなぁ…こっちも捨てがたいかな?
いっそ全部試すのもいーかなー


などと口走りながら怪しげな道具やら薬やら
男へ見せびらかしてはニタニタと笑って





「やっぱり初志は貫徹するべきかな」





と朗らかに言って、相手の頭上へ向けて手の平をかざし


ワザとらしく呪文の詠唱を始め―







「ななな何でも言う!言うから
頼むから何もしないでくださいぃぃ!!」



悲鳴に近い声で、男は弾けたような叫び声を上げた





「そっか〜じゃ教えてもらおっかな?」





詠唱を止め 続けてルーデメラはにこやかに釘を刺す





「くれぐれも嘘は吐かないようにね、じゃないと
君が五体満足で済む保障が少なくなるから♪」


「今更ながら鬼かテメェは」





渋い顔で言いながらも、石榴は目の前にいる
敵かもしれない男に 内心同情していた









会話の詳しい内容は聞き取れないまでも


さほど二人から離れていない位置にいた四人にも

そのやり取りの一部始終は 大まかに見て取れた





「オイラ…ルデメが敵じゃなくてよかったって
改めてジッカンしてるニャ」





シャムの一言を否定するものも、否定できるものも
誰一人としていなかった







「じ、実は私、外回りでの調査を行ってまして
たまたま偶然 この下にウィト遺跡のフロア
存在するのを術で知ったんです」


「ふーん、調査隊の人間だとしたら
たった一人で行動するのは少し不自然だねぇ」


「おおお仰る通りなのですが、何分 人員の失踪で
人手が足りなくなっているようで…」


「それで?何であんな事してたんだよ」


「いやその…許可証を無くしてしまって、再発行には
時間もかかるし、内部は許可証ナシには入れないので
抜け穴でも無いかと探してたら、あの目立つ柱と鳥
目に入ったものですから…」


「餌付けをしてみた、と?」


「はい」





男の動揺ぶりも相まって、かなり胡散臭い話である





「…一応聞いとくが、行方不明事件について
心当たりはねぇか?」


「あ、ありません」





どもりながらも、しっかりと男が答えたのを見て
石榴は言葉を続ける





「よし、じゃあ更に質問を」


「いいや、質問は一端ここまでにしよう」


「えっ…何でだよ?」





彼の背へ回り、立ち上がらせてルーデメラは言う





「調査隊の人達にこのオジサンの身元の確認
してもらえば、裏づけが取れるからね」


「…なるほどな」


「さて、このまま遺跡までご同行願…」


言いかけた言葉が、止まる





フードの男も顔面を硬直させている





あん?どうしたんだよお前ら、後ろになんか…」


訝しげな石榴が 振り返ってみると







水晶の柱を中心に、一羽だったハズの鳥獣が
何十羽と音も無く集い 群れを成していた






い、いつの間に…!?
おいルデ、お前いつ気付いた?」


「君と対して差は無いね」





干し肉に惹かれてか はたまた先の一羽に呼ばれてか


集った鳥達の 鋭い複数の視線が三名を捉え


ほとんど聞こえない羽ばたきをしながら
今にも飛びかからんと構えている





「オイ…アレってもしかして、肉食の魔物か?」


「普通の鳥獣だよ 肉食で好戦的だけど」


「それ俺達が餌になるかもって事じゃねぇかよ
とっとと追い払っちまおうぜ」


「何かで気を逸らした方がいいんじゃない?」


「俺は手ぶらなんだよ、あと囮になる気も
オッサン囮にすんのもナシだからな」


「じゃあ 貸し一つで手伝ってあげるよ♪」





その一言が、思い切り石榴の神経を逆撫でした





いらねぇよ!あんな鳥ども一発ビビらして
追っ払ってやらぁ!!」








魔術銃を具現化させ、彼は虚空へ向けて撃つ





「"響け"!」





光球が天へ登り 弾けてけたたましい音が
辺り一帯の空気を激しく振るわせる








鳥獣の群れは一斉に反応して飛び上がり





…彼らへと襲いかかって来る





「どわあぁあ!!」


「あーあ、やっぱりね
ダメだよクリス君 コイツら音じゃビビんないから」


「だったら先に教えとけよテメェ!!」





掛け合い漫才のようなやり取りをしながらも
二人は迫る鳥達の襲撃を防ぐ







一方で、離れて見ていた四人も慌てていた





「シャム君!大丈夫ですか!?」


「み…ミミがキーンてするニャ…!」





猫獣族ゆえの耳のよさが災いし、マトモに音の波状を
くらったシャムがその場にへたり込む





「魔術導師様と石榴さんが襲われてるっす!
早く助けにいかないと!!」



「わかってます、けどシャム君が…」


「治るまで背負ってやる 乗れ





すかさずシャムの目の前へ屈み、背を差し出す
カルロスだが 彼は首を横に振る





「だ…大丈夫ニャ、もう少ししてミミが直ったら
オイラも後からいくニャ」







シュドとカルロスとが顔を見合わせ、頷く





「僕がシャム君の側にいます、お二人は
先に石榴さん達へ加勢してください」


「分かった…行くぞ、フリッセ


「合点っす!!」





立ち上がり、砂を蹴って走る彼の背を
ためらう事なくフリッセが付いて行く








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:再び砂漠に戻って来てからの急展開ですが
次回にはちゃんと遺跡へ行きます


ルデ:女子キャラが少ないのは自分のせいなのに
無理やりワンコ君を女子にしなくてもねぇ〜


狐狗狸:ほっといてちょーだい


石榴:"ルニサンステル"なんて初めて聞いたぞ


狐狗狸:ジャンケンだって国が違うと名前も違うけど
類似したモノは万国共通であるじゃない、ソレと一緒


シュド:星空を背に輝く月・月を追う太陽・太陽を
制する星空
、の三すくみを手の形で表しますね


ルデ:仮に似たようなモノがどこかにあったとしても
それはパクりでなく管理人の脳ミソがスカだから
悪いってことで納得しとくといいよ


狐狗狸:よくねーよ(涙目)




怪しげなモノ達の存在理由は、次でさくっと
明らかになります(てーかします)


鳥獣達の猛攻を防ぐ傍ら 水晶の柱に異変が…?