気を取り直した情報屋が、テーブルへ
羊皮紙とペンなどを用意しながら彼らへと言う





「まずあの遺跡だが、例の事件のせいもあってか
警備はかなり厳しくなってるズェ…忍び込むなぁ
正直言ってオススメできねぇな」


マジっすか!情報早いっすね!」


「それが仕事なモンでな、それでも中へ
押し込もうってんならもうちっと時間がいるが…」


「遺跡に入ることじゃなく、中がどうなってるか
知るのが第一なんだよ」





遮った石榴へ"もっともだな"と返し





「じゃーアンタらに質問だ…
ウィト遺跡については、どこまで知ってる?


大きな一対の瞳で見やって情報屋が訊ねる





「事前に聞いてはいるから…ま、調査隊の功績として
公表されている程度のことぐらいはね」


「なら話は早ぇや 要するに現状はその内部に
砂をちぃと掻き出した程度しか進展してねぇらしい」


「妙な連中やら抜け穴が出来てるって事は?」


「ねぇな むしろ砂を運ぶ人手が
全く足りてねぇようだズェ」


「ミニャれニャいヤツらがそこで
はたらいてるってことは…」


「それもねぇズェ」


キッパリと否定され、シャムとフリッセは肩を落とす





彼は両者を気にかけず淡々と言葉を続ける





「次に妙な連中の足取りだがよぉ、目撃情報を
集めたらチト妙な具合になったんだぁね」


「妙…ですか?」


「ああ、見てもらった方が早ぇなコレっぱかしは」





言いつつテーブルの上へ一枚の地図が広げられる


それはどうやら カルサ砂漠の全体
寸分違わず縮小したものらしかった





その地図上へ、情報屋はペンで×印を書き込む







…特に規則性の無さそうな複数の印は


ウィト遺跡を中心に円を描けば、九割がその内部
もれなく集中するようなカタチで散らばっていた





「って…妙どころじゃねぇだろこれ!
明らかにこの遺跡が怪しいじゃねぇか!!


「そう!そこでお前さんらの最後の依頼が
絡んでくるてぇワケだ」





おどけるように、情報屋は砂漠と遺跡に
関しての変事をつらつらと述べる











〜No'n Future A外伝 第五話「地図と取引」〜











行方不明事件はもちろんの事


博物館へ展示されていた出土品の盗難や

砂漠で響いた奇妙な鳴き声


遺跡の内部に関する資料の幾つかが大量に紛失








目立ったものを取り上げてまとめれば


ウィト遺跡が関係しているのは
ロコツなまでに明らかだったが





「ここまで大がかりだと、術者一人程度が
実行してるとは到底思えないね」





ルーデメラが示唆する通り、事件の背景には


大がかりな"目的"とそれに見合わせるだけの
膨大な"力"が動いている事を匂わせる





"伝承を現実に再現しようとした"


旅立つ前に言ったフリッセの言葉が
余計に現実味を帯びるぐらいには







「でも…あのイセキの連中が
アヤシイってコトはニャいのか?」


「そうだとしても、あからさま過ぎるだろう
自らの首を絞めるようなものだ」







ガタン、と無言でフリッセが立ち上がる





「要するに悪人が事件を起こしてるんすよね?
面倒なんで本拠に乗りこんで来ますっす」


「待てよ 遺跡に一人で突っ込んでって
何やらかす気だ!」


「悪人ぶっ飛ばせばクレスト様もいなくなった
人たちも戻ってくるっす!!」



「早まっちゃダメですよフリッセさん!!」





外へ出て行こうとする若者へ、二人が必死に
張り付いて説得を試みるも


相手は全く聞く耳持たずに両者を跳ね除け







「慌てなさんな、こっからが本題だズェ?」


「……どういうコトっすか?」





足を止めて、振り返ったフリッセへ
情報屋は言葉を続ける









残る一割の×印は 全て生還した行方不明者


九割の連中がどこから現れ、そしてどこへ
消えたのかは未だに判明されていないらしいが





特に印が集中している…ウィト遺跡西北西付近





そこを調査して彼は―遥か地下に存在する
未到達のフロアを確認したらしい







「そ、そんニャところがあるニョか!?


「なーんか胡散くせぇな…」


「信じても信じなくても、頼まれた以上
オラはお代をいただくだけさね」





不敵に笑ってみせる情報屋であったが


元が間の抜けた面なので、どうにも
とぼけたようにしか見えなかった





「ともかく、せっかくだからそのフロアの
内部についても教えてもらいたい」


ハイよそーこなくっちゃ!んじゃー
チャチャっと描き上げてくズェ〜!!」





地図をどけて、情報屋はペンへインクを浸すと
羊皮紙の上へ思い切りペン先を走らせる





定規で測ることもしないで


けれども正確に、そして順調に空白が

線に埋め尽くされて"遺跡の未到達内部"となる様





半信半疑だった全員は思わず黙って見守っていた







程なく、彼がペンを置くと





「丁寧な構図ですね…」


「スゲー キレイだニャー」





覗きこんだシャムとシュドが、図面に
それぞれ賛辞を述べる





前人未踏のフロアなのに、仕掛けも含めて
よくここまで詳しく描けるもんだね?」





ルーデメラの問いへ彼は堂々と答える





「自慢になるが、オラ鼻だけでなく
いくつか術も知っててな」


「なるほど、精巧な地図の理由に合点がいった」


「それにしても…複雑そうな構図っすね」







フロアは全部で四つほどに分かれており


複雑な迷路となった三つのフロアに囲まれるように
大部屋が一つある、
といった具合だ





フロアを区切るそれぞれの壁面には

術が施されているらしい旨と


それを全て解除するコトにより四つ目への進路が
開くと言った情報も、地図の中に書き込まれている







「このヘヤはニャンもニャいのか?」





大部屋を指差して、シャムが訊ねるが


返ってきたのはため息交じりのぼやきのみ





「どうやら結界が張ってあるみてぇでな…内部の
仕掛けも、壁の三つぐれぇしか視えなかったズェ」







地図へと目を落としながら、彼らは言葉を交わす





「行方不明になった方々がもしいるとしたら
どうやって、この中へ入ったのでしょうね…」


「そこは全くの謎っすね」


「でももし、この大部屋こそが伝承にあった
"真の石室"なんだとしたら…調べる価値はあるね」





予定調和のごとく進んで行く話に、石榴が
誰にとも無く呟いた





「これだからファンタジーは…」









唐突に 部屋へ小気味よい破裂音が響いて
六人は一斉に顔を上げた







情報屋が、叩いて合わせた手を大きく開いて言う





「さて、一通り情報は出したんで今度ぁ
料金(ブツ)の話といこうじゃねぇか?」






嬉々とした様子でそう言われて


ルーデメラ以外の全員の身体が強張る





「ええと…どれぐらいになりますでしょうか?」


恐る恐る訊ねるシュドへ にこやかに笑いかける
情報屋だが、何故かその笑みが黒いように見える





「なんせこれだけの情報だ、少ーし大目に
取らせてもらうかね?なぁに取って食やしねぇさね」







ニャンコインの手持ちがないと事前に聞いていたので





彼は"食料と水 計5キロ"という形で、石榴達へ
報酬を要求する





「秤(ハカリ)をお借りしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、いいズェ」


「足りないなら遠慮なく言ってくれて構わないよ?」


「絶対ぇイヤだ」





キッパリと言い切り、優雅にくつろぐルーデメラと
テーブルを片付ける情報屋を他所に石榴は言う





「5キロってことは…一人1キロが分担だよな?」


あくまでルーデメラはカウントされない





「とにかく、出せるだけ出してみるっすよ」


「…そうだな」





各々が各自の持ち物を調べ、その中から
あるだけの食料と水分を出し合う







フリッセは携帯食と水の半分を持っていかれて
若干涙目になっていた


シュドは手持ちの薬草の内から負担していた


カルロスは寝酒用のワインを1キロ分提供した


シャムは、情報収集時にちょろまかしていた食料を全て吐き出し

その上で石榴に拳固を頂戴していた







…が、肝心の石榴自身は 何も持っていない





「まあ…ほぼ手ぶらで拉致られりゃ当たり前か」


「ど、どうするニャ石榴!まさか…「心配すんな」





不安げなシャムの言葉を遮って、腰に巻いていた
ウェストポーチへ手を突っ込むと





「俺には、これがある」





七色に輝く宝珠を取り出して…唱える





「"リオスク アーク!!"」





言葉に呼応し、手の平にあった宝珠が輝き





次の瞬間 石榴の右腕には一つの銃―


"魔術銃(メイストガン)"が具現化される


同時に茶褐色であった彼の瞳は、赫く変わった







「ざ…石榴さんの目が赫く!?
いいい一体、どうなってるっすか!!」



「それって…勇者が使ったっつー伝説の武器
魔術銃か?まさか本物かぃ…!





驚き戸惑うフリッセと情報屋を見やって


「まあ…そんなトコだ」





困ったように返し、石榴は眉間にしわ寄せ頭を掻く





ふへぇ〜スゴいっす!本物見るのは初めてっす!
よく分かんないけど とりあえず触らせてもらってもいいすか!!」



「ちょっ、止めろフリッセ!


「いーじゃないすかちょっとくらい〜てゆうか
秘密にしてたなんてズルいっすよ!」





詰め寄ったフリッセの肩を、カルロスが叩く





「あまり石榴を責めてやるな」


「そーだニャ 石榴だってイロイロあるニャ」


「え、あ、そうっすか…」







何とはなしに言いくるめられる若者を
ルーデメラが冷めた目で見つめていたが





静かにお茶を注いだシュドの眼差しと会釈に気付き


無言のまま笑んで、表情を和らげた





この一連のやり取りで 情報屋も少し
落ち着きを取り戻したらしい





「なんつーか…お前さんらもワケありか」


「察していただけると助かります」


「まあ必要がないから深入りはしねぇさね
…で、どうやって使うだぁ?ソレ





興味津々な一声に、石榴は気を取り直して





「暴れたりはしねぇよ、水を造ろうと思ってな」


銃口を…ゆっくりとある一点に向けた







「……クリス君、おふざけがすぎるんじゃない?」





顔面に突きつけられた銃口へ ため息混じりに
ルーデメラが抗議する





「さっきから大人しすぎだろ、夏バテか?
とりあえず試し撃ちで冷やしておいてやろうか」


「やれやれ、笑顔で人に危害を加えるなんて
君もヒドいヤツになっちゃったね」


「鏡見てみやがれ緑頭魔導師」


「石榴、日ごろのウラミをはらすニャー」





調子に乗ってはやし立てたシャムは、笑顔を
向けられ 怯えてカルロスの影に隠れる





「ま 冗談はソレくらいにしておきなよ
天使君、そこのバケツを抱えて」


「は、はい」





言われてシュドは、近くに置かれていた
バケツを胸の辺りで抱える


受け口は石榴に向けて やや傾斜した横向き





大砲の砲身のような状態になったバケツへ
彼は狙いを定める





「それじゃあ、いくぞ」







言葉を合図に立て続けて引き金(トリガー)が引かれ


派手な銃声と共に発射された弾丸(タマ)は全て

バケツに入った途端、水に変化しバケツに満ちる





並々と バケツ一杯に水が満たされたのを
見て取ると石榴は銃を降ろす





「…こんなもんだろ」







一拍遅れて、フリッセと情報屋が拍手をする





「すげーっす!マジすげーっす!!」


「あー、大した兄ちゃんだぁな」


「相変わらずお見事ですね」





賞賛に、彼は照れくさそうに頬を赤らめた







「確かにお代はいただいたズェ、毎度あり〜」


「いえこっちこそお世話になったっす
じゃ、早速行きましょう皆さん!!





立ち上がった彼らを、フリッセは一秒も惜しいと
いった様子で出入り口へと追い立てる





「き、気持ちはわかるけど落ちつくニャ」


「急いては事を仕損じるぞ」


「でもだからってのんびりしてたらクレスト様が


分かったから押すなっつの!
ったくホント落ち着きのねぇヤツ…悪ぃな」





けれども情報屋は気にした風も無く こう告げる







「仲間が心配なんだろ?焦るのも無理ねぇさ…
いや、恋人っつった方が正確か?お嬢さん


『…え?』





五人が 情報屋とフリッセを交互に見比べる







のんきな笑みに対向するのは





円らな翠色の瞳を零れんばかりに見開いた


虚を突かれたと言わんばかりのきょとん顔





「な、何でわかったっすか!?


「これでも情報屋暦が長ぇんでね、モノを
見極める目は培われてるてぇワケよ」





呆気に取られた面々へ構わず 彼は
人懐こそうな間抜け顔で笑って言った





「またオラが必要になったら、いつでも
ここに来なよ〜待ってるズェ?


「あ…ありがとうございました」







シュドが、どうにかそれだけを言って


それきり一同は 無言で地上の砂漠へと戻っていく








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:遺跡の名前やら情報が集まったトコロで次回


石榴:オイオイオイ待ちやがれぇぇぇ!
どーいうことだよ、終盤のアレはっ!!


狐狗狸:どうもこうもありません、ソレについては
次回本人から語られる…予定


シャム:ヨテイニャのか!?ま、まあそれより
あニョ 情報屋、どうやってあんな情報を…?


狐狗狸:彼の術については企業秘密ですよ
ついでに調べた経緯とかもね


ルデ:僕にもノルマ渡してくれてよかったのに
優しいんだねぇ〜皆


カルロス:…余計に借りは作りたくな…(欠伸)


狐狗狸:眠いなら寝ててください頼むから




何気に情報屋の口調は苦労しました…なんとなーく
世捨てっぽいオッサンになってりゃいいな


情報を手に再び探索へ向かった一行が見たのは…!?