ガパン!と勢いよくフタが開かれ





どわっ!?…何だぁ?」


人一人が余裕で入れる空洞の、暗闇の奥から
間の抜けた声が聞こえてきた





「えーっとスンマセン、情報屋さんっすか?」


へ?ああ、そうだけど」


「シャベタスのカンバンを拝見したので
情報が欲しくてここを開けたのですが…」





覗き込むようにして語りかけるシュドに対し

それほど経たずに返事が戻ってくる





「いーズェい、交渉するなら入ってきてくれよ
側にハシゴかかってると思うから」


「ハシゴぉ?…ああ、コレか」





穴の内側の縁に 杭で打ちつけられた縄梯子
壁面に沿って落とされている


しかし、かなり縄の色合いに年季が入っており

所々朽ちているように見える





「ニャんか、ふんだらブチっと切れそうニャー」


「まーボロだけどそこそこ丈夫だから安心してくれぃ
あ、足元には気をつけてくんな」





縄をきしませながら、恐る恐る皆は穴を降りて行く







底につけばすぐ側に横穴が広がっており


その横穴に繋がる空間は、ちょうど一つの
大きな部屋みたくなっていた


壁面に配した光る石のおかげか内部は明るい





地下だからか熱も遮断され、奥にも通路を一つ
真っ直ぐに構えてる部屋の内部はテーブルと
椅子が備え付けられていて快適そうだ





その椅子の一つに…"情報屋"は腰かけていた











〜No'n Future A外伝 第四話「砂漠の情報屋」〜











「久々のお客だと思ったら、なんともまぁ
珍しい取り合わせだぁね」





大きな黄色い目と突き出た鼻のとぼけ面で
友好的な笑みを浮かべているが


ずんぐりとした巨体に 民族衣装のような
簡易服から出た腕や足を覆う薄茶まだらの鱗


おまけに不自然に盛り上がった背は

見ようによってはトサカにも見えて





「ど、どどど竜鱗族(ドラグ)だニャ!?」





引きつった顔で叫ぶシャムへ、彼は手を振り否定する





「違ぇって 確かに見た目はあちらさんと
近いけど、ちょいと事情があってねぃ」


「あの…失礼ながらそのお姿は、元から…?」


「そっ、生まれつきだぁね この姿は
鼻も効くからこの稼業に意外と便利でね」





立ち話もなんだし座りなよ、と言われて


とりあえず六人は室内へと足を踏み入れる





それでどんな情報(ネタ)が欲しい?
ちなみに報酬は内容によって決めさせてもらうズェ」


言いながら情報屋は、テーブルの上にリストを置く





「何だコレ?」


「とりあえず初見さんにゃ、オラの腕前と情報を
信用してもらうトコから始めてる」





リストに表記されていたのは、今まで彼が
手がけたらしい件の表題と簡素な詳細


…及び 大まかな料金表だった





「依頼人への義理もあるし細かいコトは勘弁な」





ほとんどは砂漠と近辺の情報ばかりだが


くっついた地図の精巧さが 彼の実力を証明している







何気なく手を伸ばして、ざっと目を通した
ルーデメラが感心したように呟く





「ふぅん…これは中々の情報だね」





テーブルへと戻されたリストへ、今度は全員が
手を伸ばして掴み 覗き込む


もっぱら注目するのは料金表である







―そこには金額に混ざって、料金表に
あるまじきものが書かれていた







「料金て、ニャンコインだけじゃないんすか?」





頓狂な声で、四人の気持ちを代弁するように
フリッセが質問を投げかける


表記されていた金額以外のモノは…





水や食料といった、生活必需品だった





「主な活動は砂漠中心なんでね、金よりも
そーいったモンのがありがてぇんだ実際」


「お支払いするものを決める基準などはありますか?」


「基本は情報の質と相手の懐具合、あとは
まーオラの気分かね?見た通り金で無くても構わんよ」





石榴達にしてみれば、それはかなりありがたいモノだった





「申し訳ないが手持ちが無くてな…便宜を
図っていただけると助かる」







彼らのような客も少なくないのだろう





「はいよ」


小さくため息を吐いて、情報屋は返事をした





そこでようやく安心してか、立ったままだった
彼らは各々手近な椅子へと腰かける





「にしても砂漠に店があるなんて今まで想像したことも
なかったっす、生まれて初めての経験っすよ!


「そいつぁ光栄だぁね で、お求めの情報は?」


「もちろんあの遺跡の情報だな」


「場所が場所だけに色々あるっすよね?」


「逆を言やぁ、場所が場所だけにピンきりだがな
最近じゃ砂漠も妙な連中がうろついてるし…」


「そ、そのミョウな連中ってひょっとして…!





シャムとフリッセの顔色が変わり、ほぼ同時に
情報屋へと詰め寄った





「あのっ、その中に真っ青な髪した魔導師みたいな人
いなかったっすか!?」



「ついでにそいつらはイセキに入ったニョかどうか
知ってたらおしえてほしいニャ!!」


「おーい落ち着けって、何が聞きたいだお前さんら」





たしなめられ、二人は戸惑ったように口を閉じる





「巷の行方不明事件を耳にした事は?」


あるとも!この大陸が被害がデケぇからな
そーすっと…アンタらの目的ってなぁ」


「察しが早くて助かる、手がかりはあるが情報が少なくてな」





助け舟を出したカルロスは、情報屋へ次の調査を依頼する


遺跡の内部についてと 砂漠で目撃されたモノ達の足取り


そして砂漠や遺跡に関しての変事
の三点を







「今度のお客はちと人使いが荒いね
この料金、高くつくズェ?大丈夫かい?」


「もしもお支払いするものが足りなければ、僕がここで
働いてでもお返しいたしますので…どうかお願いします」


「ぼ、僕もっす、頼みます!!





精一杯頭を下げるシュドに釣られ、フリッセも
同じようにペコリと一礼する







「ハイよ、そんじゃ少し時間をもらうズェ〜
ちょっくらここで待っててくんな」





のそりと立ち上がった情報屋が、呪文のような
呟きを口ずさみながら奥の通路へと歩を進め





その身体が闇に飲まれるよりも早く


幻であったかのように姿が消えうせる





「すげっ…今のも魔法か?」


「だろうね、恐らく姿を消す類だろうけど…」









六人は席に座って、情報屋の帰りを待つが





うち二人が五分もしないうちに落ち着きを無くし始める





「あの情報屋がもどるまで ヒマだニャー」


「クレスト様…大丈夫かな、やっぱり僕も
一緒に情報屋さんについてった方が」


「行っても邪魔になるだけでしょ?ワンコ君
暑さで脳ミソがやられちゃってない?」


「お前そこまで言う事ねーだろ!」





辛辣なルーデメラを、ギっと睨んで
掴みかかろうとする石榴をシュドがなだめる





落ち着いてください皆さん、情報屋さんが
戻るまでの間 少し身体を休めておきましょうよ」


「そう言われましてもっすね」


「焦っても仕方ないさ…少し肩の力を抜け」







助言されるも、シャムは足や尻尾を無意味にぶらつかせ


フリッセも行儀よくヒザ上で組んだ手を
しきりにいじったりして気もそぞろの様子だ





「…そうだ!お茶でもいかがですか?」





思い立って、シュドが手持ちのカバンを漁り始め


程なくテーブルへルーン文字が施された銀色の筒
木で出来たコップが人数分 取り出された





途端、フリッセの目が輝きだす





なんすかコレ!面白いカタチっすね〜」


「祖母からもらった異世界の品物なんですけれど
入れた飲み物がこぼれない上に、中身の温度が
変化しない優れものなんですよ」


ふえぇ〜!ソレはスゴい!上等の皮袋の水筒でも
そこまでいかねっすよ!!」



「俺のいた世界じゃ"魔法瓶"っつーんだけどな」


へ?!ざ、石榴さんトコにこんな便利なモノ
あるんすか!?そりゃースゴい!!





注がれた尊敬の眼差しに、石榴は照れて頭を掻き





「始めて見た時 同じよーなアホ面してたくせに
今は赤い分もっとアホらしいねクリス君」


「やっかましい!!」


即座に冷やかしてきたルーデメラを怒鳴る





「とにかくノドかわいたから、オイラにも
お茶くれニャ!」


「分かりました、少々お待ちください」





水筒の注ぎ口から注がれた液体はほのかな紅色で


ふわりと漂う柔らかい香りは、皆の心を和ませる





生き物を観察するかのように 翠色の瞳が
じっとカップの中身を眺めている





「これって何のお茶っすか?」


水出しのハーブティーですよ、砂漠に
赴くと伺ってたので用意しておいたんです」


「いやーありがたいっす ゴチになりまーす」


笑ってフリッセが、すかさずカップの中身に口をつける





他の四人も お茶が入った側からカップを
手にとって喉を潤していった





おいしい!これって本当にハーブなんすか!?」


「はい、ウチで取れたカムマイリィとズマリーロを
独自にブレンドしてます」


「そうなんすか〜ま、おいしいから何でもいっす!
シュドさんスンマセンおかわり!!





柔和な笑みで彼は二杯目をカップに注ぐ





「やっぱり天使君のお茶はおいしいねぇ」


「全くだな」


「これでおカシとかあったニャらカンペキだけどニャ」


「望みすぎだっつーの」





出されたお茶を飲みつつ、石榴はそのおいしさと
シュドの心遣いとに改めて感心する







熱気自体はしのげているとはいえ


眩い日光の照りつける砂漠を延々と歩いていた
一行にとって、不意に出来た休憩場所と


振舞われた冷たくておいしい飲み物は何よりも
嬉しいものであった





(こうしてっと、あの頃とほとんど変わんねぇな…)





ハーブティーを口にしながら 石榴は以前の
旅の記憶をぼんやりと回想して口元を緩める







二杯目も飲み干したフリッセがニコニコしながら言う





「シュドさんって料理得意なんすね!
将来スゲーいい嫁さんになれるっすよ!!





瞬間 言われた当人はちょっとだけ固まり


引きつったような複雑な顔で答える





「あの…僕、男なんですけど…」


ええっ!?そんな可愛らしいからてっきり…
申し訳ないっす!本当スイマセンっす!!」


「いえあの、そこまで謝らなくても」


「ひょっとしてフリッセ シュドがだったら
声かけよーとか思ってたニャ?」


「いやソレはないっす、だって僕には…」


そこで言葉を途切り フリッセは顔を赤くして俯く





ニヤニヤしながらシャムは更に茶々を入れた





「わっかりやすいニャ〜…トコロで石榴は
あっちでカノジョぐらいできたニョかニャ?」


ぶっ…ど、どうでもいいだろ俺のことは!」


「察してあげなよ泥棒猫君、モテる要素皆無
クリス君が女の子と仲良くなれるわけ無いじゃない」


余計なお世話だ!お前だって女っ気ほぼねぇのに
人の事言えた立場か!!」



「モテない男の僻みは醜いね〜ねぇ船長さん


「何故私に振る」









一同が取りとめの無い事で騒ぐうち





お待たスェ〜おや、いいニオイがすらぁ」





ゆらりと空間が揺らめき、奥の通路から
唐突に姿を現した情報屋が彼らへと歩み寄る





「お戻りになられましたか 今ちょうど皆さんと
お茶を飲んでいたところなんですよ」


「そりゃいい、ノドが渇いてるから好都合でぃ
さっそくオラにももらえるかな?」


「はい、ただいま」





シュドがお茶を満たしたコップを手渡し


情報屋は短く礼を告げ、くぴくぴと飲んで一言


「こりゃハーブティーか!話にゃ聞いてたが
こうして飲むとうまいモンだ」


「ありがとうございます」





ここまでの一連のやり取りを眺め


さっきまでの会話もあってか、周囲の五人は
胸中に同じ事を思い浮かべ







「そうしてると、本当に奥さんみたいだよ天使君」


ワザワザ口に出したのは…やはりルーデメラだった







「え…ええと、大丈夫っすよ似合ってるすから!」


それフォローになってないニャ フリッセ!
大体シュドにはノールがいるニャ!!」


「へ?もう付き合ってる人いるんすか?!


ぽかんとするシュドへあたふたとフォローを
試みるシャムとフリッセ





「この際だから一度性別を変化させてみない?
よければ研究に付き合「わせるかぁぁ!」


そんな彼らをも巻き込んで混ぜっ返す
ルーデメラを石榴が叱責する





…室内は、情報屋が戻る前よりも騒がしくなった





「何だ何だ、どーいうこっちゃ?」


「いつもの事だから気にしないでやってくれ」





冷静にそれだけを告げるカルロスへ視線を向け

情報屋は気の無い返事で続ける





「よく分からんが…言われた情報は集まったんで
話をさせてもらうズェ?」


「は、はい ありがとうございます
あの…少し待っていてください」





礼を言って、シュドとカルロスが事態を
どうにか沈静化させるまでの間


情報屋は立ち往生を余儀なくされた








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:一話ズレこんだけど情報屋登場です
彼には、特に名前がありません!


石榴:堂々と言うなよな…


シャム:それより、情報をホイホイ他人の
オイラたちに見せても平気ニャのか?


狐狗狸:当人曰く、支障のないトコだけを
抜き出しているとか何とか(笑)


フリッセ:にしてもシュドさんうらやましいす
もう付き合ってるヒトがいるなんて…


シュド:いえあの、お付き合いと言いましても
お手紙をかわすのが通常ですし…(照)


フリッセ:それでも十分センボウのマトっすよ!


ルデ:おやおや、君も嫉妬かな?ワンコ君


狐狗狸:ある意味では間違ってないです




次も(一応は)情報屋のターンです


もたらされた情報は、砂漠に向けて収束する