岸から飛び上がり、着地した彼の姿は
やや海賊の下っ端に近いルックスで


半袖半ズボンからはみ出した手足は健康的に
焼けてはいるが常人よりも若干長い


ついでにズボンの尻から生えた尻尾も長く


短めの髪や、耳と同じオレンジの毛並みをしている





「あ、石榴とルデメも来てたニョかn「ほぁっ!
だ、ダメっすよ無断乗船したりしちゃ!!」





二人に気付いてかけた少年の挨拶は


フリッセの場違いな発言によって遮られた





へ?だ、ダレだニャこいつ?」


「ルーデメラが連れてきた客人だ」





端的ながらも適切なカルロスの一言をきっかけに


シュドや石榴、ルーデメラも彼の側へと歩み寄る





「けど、無事に戻ってきてくださって安心しました」


「それにしても、お前しばらく会わないウチに
すっかりカルロス一味っぽくなってねぇか?」


あったり前だニャ!オイラだってリッパに
スリーパーズのメンバーだニャ!!」


"一番非力だけどな"と通りがかりの船員が
野次混じりに揶揄して、彼らも笑い





取り残された形でフリッセが呆然と佇む





「えーと、皆さんこの猫獣族(キャッツ)の子と
お知り合いなんすかね?」





耳聡く聞きつけて、銀色がかった青く丸い瞳が

指差して言った"青年"へ向けられる





「さっきからちょいちょい失礼なヤツだニャ
オイラには"シャム"って名前があるニャ」


ほへ〜君がシャムっすか!
なーるほど、それは失礼しましたっす!」







手を引っ込めて軽く謝罪が成された後


お互いに簡単な自己紹介がかわされる





「そっかーアンタも知り合いをさがしてるニョか

…って、オイラの顔にニャんかついてるかニャ?」





注がれた視線へ、シャムが訝しげに問うと





「いやー僕ぶっちゃけ実は間近で猫獣族見るの
始めてなんすよ、とか尻尾どうなってるか
ちょこっと見してもらっていーっすか?」


極めてにこやかに返して、相手はほとんど
答えを待たずに手を伸ばす





頬に生えたヒゲや耳や尻尾などを際限なく
つかまれ引っ張られいじくり回され





ニ゛ャー!イタイイタイイタイ!
やめるニャっ!ちょっ…助けてニャ〜!!」


たまらずシャムは石榴の陰へと隠れるが


フリッセに止まる気配が微塵も見当たらないため


彼を支柱とした追っかけっこが始まった











〜No'n Future A外伝 第二話「砂漠の伝承」〜











おいコラ止めろお前ら!
つーかシャム、人を盾にすんな!!」


「じゃあソイツ止めてニャ!」


「スマねっす、さっきはちょっと手加減
あやまったっす 今度はちゃんと加減するっす」


「そーいうモンダイじゃニャいニャ!!」





もはや動物同士のじゃれ合いのように
走り回る二人に困らされる石榴を救うべく


カルロスとシュドがそれぞれの間へと割り込む





「あのフリッセさん、シャム君が嫌がってるので
止めてあげてくださいませんか?」


「そっすかー…けど、結構フワフワしてて
さわり心地バツグンだったしなぁ…」


未練ありありの翠色の視線を向けられて


シャムが若干怯え気味になりながら
赤いコートの背へと隠れる





それを見てルーデメラがニヤリと笑い





「ワンコ君、その望み手伝ってあげようか?」


更に事態をややこしくしようと悪魔の
ささやきを持ちかけて





「えっ!本当っすか魔術導師様!!」


「もちろんだとも♪もっともその後は僕に服じゅ
「耳を貸すな!すっぱり諦めろ!!」


寸前で石榴に阻止される







軽くため息をつき、オレンジ色の頭を撫でながら
カルロスが静かに呟く





「客人よ…あまり仲間を困らせないでやってくれ」





寂しげな顔をして、フリッセは素直に頭を下げた





「分かったっす スイマセンした
そこまで言われたなら もうしないて誓うっす」


「ちぇーつまんないの、もう少し粘りなよ」


「本気で最低だなコノヤロ…それでシャム
お前んトコの仲間もまだ帰ってこねぇのか?」





気を取り直して石榴が問いかければ


途端にシャムの表情が、深刻なものへと代わる





「そうニャんだニャ…サイショに消えた一人も
ほかのみんニャもいつの間にか消えたらしくて…」


「僕の時も同じっす、一緒にいたハズの
クレスト様がいなくなって…皆さん!


そこで言葉を切ると フリッセは姿勢を正す





「改めてお願いします、クレスト様と
行方不明になった人達の救出に力を貸してください!」








連れて来られた時点で面倒ごとが起こるとは
想定していた石榴であったが


困った仲間と、頭を下げて頼みこむ者とを見て

今更断れるほど薄情にはなれず





「しょうがねーな…ここまで来たら
協力でもなんでもしてやるよ」





呆れ混じりに息を吐いて、覚悟を決めた





その様子にシュドとカルロスも
懐かしさと安堵から笑みを浮かべる





「それじゃあ、ここらで泥棒猫君とワンコ君の
状況についておさらいしておこうか」







始めにシャムが行方不明事件について耳にしたのは


通達人として訪れた鳥獣族(バーズ)から聞かされた

古巣のスラムでの、知った顔の消失から





パープラ大陸を中心に徐々に広がって行く
行方不明者の足取りを調べるべく


様々な街や村などでの情報を集めていたけれど


大した情報も得られず悪戦苦闘していた





「そんなに多くの方が行方不明に…?」


「そーニャんだ、見たヤツの話ではニャにも言わず
一人でにスガタを消しちゃうらしいニャ」


「戻ってくる人も、住んでる場所とは
関係ないトコで発見されたりしてるっす」





クレストとフリッセの両名も、行方不明となった
人物の救出と原因解明のためあちこちを移動していたが


気がつけば…共にいたはずの魔導師が姿を消しており





困り果てたフリッセが、ウワサを頼りに

近くの街にいる魔術導師へ助けを求め





カルロスから手紙で事前に情報を聞いていた
ルーデメラは、この件を深刻に捉え


備えとしてシュドと石榴の召集を決めたのだそうな





「恐らく術で操られているっていうクリス君の
見解は間違ってないだろうね…問題は、相手が
そこまでして何を企んでるかだ」







言い方が悪いかもしれないけれど一件が
行方不明だけならば、特別おかしな事ではない





しかし 無差別かつ不可解
大勢の人間と亜人とが消息不明となり


著名な魔導師まで失踪を遂げたとなれば





不吉なものを感じたとしてもおかしくは無い







頷いて 石榴はシャムへと訊ねる





「それで、何かいい情報は見つけられたのか?」


「相変わらず 足取りについては全くもって
つかめずじまいだったニャ…」


けど、と言葉を置いて続いたその声色は

僅かながらの希望に満ちていた





「もどってきたヤツで、うっすらとキオクが
あるヤツがいたニャ!」








汗と砂にまみれて、疲労困憊の体で戻った
ある女性からどうにか聞き出した唯一の手がかり





―おぼろげながらに残った記憶は





"熱気に満ちた、広大な砂漠の風景"


"ほとんど闇に沈んだ遺跡の内部に佇む
イビツで奇妙な生き物のシルエット"
だけ





「砂漠と遺跡ぃ?」


「それだけだと、残念ながら場所の特定は
難しいですね…」


唸る彼らの様子に、シャムは意気消沈し…







「…シャム、確か住んでいる街はロウライツだったな」





低く、静かなカルロスの声がそこに滑り込む





「そ、そうニャ」


「何か心当たりでもあんのか?」


「パープラ大陸の、ロウライツから南には
大規模な砂漠地帯が存在する」





その一言に触発され、フリッセが声を上げる





カルサ砂漠!たしかあの場所には昔の遺跡が
あるって聞いたことがあるっす!!」


「そうなんですか!?」


「じゃ、じゃあみんニャはそこに!


「可能性としては一番高いだろうね…ちなみに
そこにまつわる伝承があるんだけど、聞きたい?







反応し、集まった全員の目線に満足し





「…そうこなくっちゃ」


微笑んでルーデメラは口を開く





「カルサ砂漠に伝わる伝承っていうのはね…」





ゆっくりと、もったいぶった口調の後に
タメが挟まれ…皆は息を呑む、が







「やっぱり教えてあげるのやーめた♪」


唐突に ルーデメラが手の平を返したような
軽い口調でそう言い放ったので


思わず全員はずっこけた





「ちょっそりゃないっすよ魔術導師様〜!」


「お前、こんな時にふざけてる場合か!?」


「やだなぁ〜ちょっとしたジョークで
場の空気を和らげただけじゃない、怒んない怒んない」


ひとしきり笑ってから、ルーデメラは
前置きを含めて語り始める







…ラノダムークにいくつか点在する砂漠は

どこも、それなりの規模と土地独特の熱気を持ち


順路を確立しているキャラバンや旅人でさえ


迂闊に迷い込めば、二度と出る事なく
朽ち果てて砂に埋もれることもある





カルサ砂漠は二番目に広大な地域であり


件の遺跡は、"赫眼の覇王(セキガンノハオウ)"
全盛を誇っていた頃から


強烈な熱気と莫大な砂とに護られて在ったと言う





「何度か調査した結果、壁画などから遺跡には
以前 何らかの生物が住んでた痕跡が認められたんだ」


「それで、いつ伝承とやらの話になんだよ」


「せっかちだねクリス君は…もう少し大人しく
話を聞いておいてくれない?」





遺跡の構造上から鑑みて、もっぱら地中を中心に
活動する生物ではないかと想定されており


文献などから魔術を使用した可能性を示唆する
記述が報告されているのだが


出土した物証や遺跡には魔術を施された形跡がなく


崩れた箇所や土砂の詰まった通路も多いため

現在も細々と調査は続けられている





「って事は、行方不明の人をさらったのって
そこを調査してる人っすか!?


「話はそう簡単じゃないよワンコ君 調査を
行ってる魔導師からも失踪者は出ているからね」


「話が長ぇよ、さっさと伝承の内容を話せっての」


「ここからさ…早い段階で見つかった壁画に
刻まれていた古代文字の内容が、近年解読されてね」


「それには 何て書かれてあったんです?」





シュドを始めとした、期待に満ちた眼差しに





「伝承って言うより、予言と言った方が
より正確なんだろうけどね…」





彼は訳されていた文面を苦々しげにそらんじる







[赫き王が滅する時 その御霊は真の石室にて
ただ眠りに着かん…いずれ地の底と上とを結び
我らは果てより現れん


その時こそ、我らはこの地を統べる者とならん


赫き王を継ぐ者と共に]








「赫き王って…やっぱり」


"赫眼の覇王"、でしょうか…?」







ラノダムークに語り継がれた恐怖と絶望の象徴


そして、石榴とルーデメラにとって
因縁浅からぬ名前が出た事により





漂う空気が ぐっと重さを増す





「よく分かんねっすけど、もしかして誰かが
伝承通りに覇王の復活を考えてるっつーことすか!?」


「断定は出来ないが…今回の事件はその為に
起きているのかもしれないな」


「とりあえず、現地に行って調べてみようぜ」





石榴のその発言に、しかしルーデメラは
呆れたように言葉を返す





「簡単に言うけどね カルサ砂漠の熱気は
他の砂漠よりも気温の高さが尋常じゃないんだよ?

ついでに遺跡へ入るにも、調査隊の許可がいる」


「けどよ…行方不明になった奴らが
その砂漠にいるかもしれねぇんだろ?」


「遺跡に関して言うなら…抜け穴や調査隊の関与
考えられる可能性はいくつかあるが…」


そこまで告げて、カルロスは大きな欠伸を一つ





濃い隈をつけた藍色の左眼が 重そうに
まぶたを下げている





「すぐに現地に行くかどうかはもう少し
話し合うといい…決まったら起こしてくれ」


「え、ちょっと待ってくださいっすカルロスさ」


自室へ引き返す彼を留めようとしたフリッセの肩を
石榴が叩いて引き止める





止めとけ、ヒデェ目に合うぞ」


「そーだニャ ネブソクのカルロスは
すっげぇコワいんだニャ!」





必死な彼らの様子にフリッセが納得した所で







誰にとも無く シュドが訊ねる





「…どうします?皆さん」


「決まってるっす、遺跡に直行っすよ!


「だな 抜け穴を探すにしろ、まずは
一番可能性の高いトコから進めてこうぜ」





盛り上がる三名とは真逆に、緑髪の魔術導師だけは
やはり気乗りしない様子を見せる





「君達さ、砂漠をちょっと甘く見すぎ
下手を打つと全員彷徨った挙げ句ミイラになるよ」


「それニャらルデメがジュツつかって
オイラたちを助けてくれればいいハナシだニャ!」


「…仮にも魔術導師の僕を気安く頼りすぎじゃない?」


「人を巻き込んどいて自分だけ楽しようなんて
思ってんじゃねぇよ、この辺で役に立っとけ」


少しばかり意地悪げに石榴が笑い





「仕方ないなぁ…じゃその分貸しね?





その一言に、笑った顔のままで固まった







しばしの沈黙を挟み…シャムが彼の肩を叩いて





「その辺りはたのんだニャ!石榴」


「ちょっ、俺一人に押し付けんな!


「安心してください骨は拾うっすから!」


「うれしくねぇんだよ」


「僕も火傷や傷に効く薬草、用意します!」


「シュド…」





切なげな茶褐色の瞳と対極に


青空のように最高に晴れやかな顔つき
意気揚々とルーデメラは宣言した





「これで万事問題はないね!さー目指すは
カルサ砂漠、張り切って行こうねクリス君!」



「テメェさてはコレがやりたくてワザと…」


「ハハハ、あったり前じゃない」





さらりとすらりと言い切られ





「やっぱりこんな役割か!
これだからファンタジーはぁぁっ!!」






石榴の叫びは船中に木霊した








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:なにやら大掛かりな展開を匂わせつつ
次回に向けて引いております


石榴:フリッセのヤツ、シュドとカルロスは知ってて
シャムは知らなかったのか?


シュド:僕と船長さんは少し前に合流して
シャム君は昨日早くから船を出ていたんですけど…


フリッセ:いやー僕、船長さんの船に着くまでに
色々寄り道しまくって お二人とは昨日やっと
顔を合わせたばっかなんすよ


カルロス:始めは大変だったな…海賊船と知って
客人が船員に挑みかかろうとしていた


狐狗狸:そうなの?!


シュド:何とか説得して、納得してくださったので
皆さん軽いケガで済んだみたいですけど…


フリッセ:いやーいい海賊さんだって知らずに
成敗しようとしてたっす、ご迷惑おかけしました!


石榴:突っ走りすぎだろコイツ、大丈夫か?


狐狗狸:悪気は無いんだけどねーてゆうか
ルデが事前に説明しなかったのが悪いんじゃ


シャム:しかも石榴のあニョ顔が見たいが
ためだけにサバク行きをしぶってるしニャ…


石榴:しかも演技だしな つくづく悪質だ


ルデ:ふふん、最高の褒め言葉ありがとう♪




次回からは砂漠のターンです、遺跡の存在
あまり一般的じゃ無い設定です


砂漠へやってきた一行が、出会ったのは?