"虚を突かれた"と言いたげな四人の視線が集まった





へ?!ちょ…どーいうコトっすか魔術導師様!」


「ルーデメラさん、確か覇王は滅びたハズでは…!」





細部が違っているものの、同質の問いかけに





「そうさ、僕とクリス君とで一度は滅ぼした」


けどね と前置きを置いて 真剣な顔で彼は続ける





「死んでもしつこかったアイツが、余計な保険
前もって仕掛けてても おかしくは無いだろう?」


『貴様の推察通り、我は意を継ぐべく残された
"王"の一部…しかしソレはどうでもいい事だ』






異形達の攻撃の手を休めさせないそのままで

クレスト…いや、彼に取り憑いた"覇王"が答える





『あの男が貴様らをここへ導いた時には驚いたが

…まさか、その小僧が 我を完全に封印から
解き放ってくれるカギとなるとはな』



「…やはり、砂漠に居たローブの男は」





カルロスの呟きに反応し 青き魔導師は頷く





『ヤツもさぞかし本望だろう…到達した念願の遺跡で
我が配下となり、朽ちたのだから』



「ど…どういう意味っすか…?」


『分からぬなら 見せてやろう』





彼の掲げた手を合図として、部屋の闇からフードつき
ローブの…調査隊と思しき魔導師が一人歩み出る


茫洋とした瞳で佇む魔導師へ 黒い帯が突き刺さり


魔導師が無言のままで悶え始める





「ニャ、ニャんだアイツ、様子が…!」





五人の目の前で その身体は見る見る内に闇の色へ
染まりながら生々しい音を立てて変貌し…







「う…うわああぁぁぁぁぁ!!


「そんな…まさか、あの魔物達は…!?





生み出された新たな異形が 防御壁の破壊に参加する











〜No'n Future A外伝 第十四話「行きがかり最終決戦」〜











行方不明のモノ達の末路を目の当たりにし


これまでの道程で戦ってきた異形の魔物の姿を
思い出した彼らのほとんどは 青ざめたまま言葉を失った





『これこそが我が力だ…まあ、ワシは気分がいい
例え死しても貴様らは配下に加えてやろう』






クツクツと邪悪な笑みで"覇王"が笑う





そして…全員を包み込んでいた半円状の光の壁が
巨大な異形の拳を弾いて 消えた





「来るぞ!」





いち早くカルロスが身構えて叫ぶが





音も無く腕を振り上げ、牙を剥く魔物達は
硬直しきった彼らへ狙いを定め


黒い拳も 固まっていた一行へ真っ直ぐと降ろされる







―暗い遺跡の最深部に







「"一斉掃射"っ!」


「レイズトフライアス!」





一際強く 二人の声が響き渡った







魔術銃から放たれた光球は、拳に当たる直前で無数に分裂し


三日月形に象られた弾丸から更に放たれた弾幕
取り囲んだ巨体を削り潰す





同タイミングで天井高く放られた一塊の炎は

空中で制止し、急速に膨れ上がって


放射線状に放たれた直線の炎に貫かれ 魔物達は
成す術も無く燃えて行く







あまりの展開に四人は呆然としたまま立ち尽くし





『チッ…!』


顔を歪め、"覇王"が呪文を唱え始める





「シュド!ボサっとしてねぇで黒いの抑えろ!」


「っはい!





呼びかけられ、彼は我に返ると浄化の呪文を口走る





術が完成し 魔導師の背後から うねり狂う黒い帯の
大群が飛び出し 四方八方から全員へ迫り来る







だが間一髪で 呪文を唱えきったシュドが


帯を阻むように手の平をかざした





「セラフィシールド!」





眼前の光る壁に当たって砕けたかのように


六人を突き刺そうと飛び込んだ帯が、先端から
崩れて解け消えていった





『く…どこまでも小賢しい真似を』


「"神の紡ぎ糸 捕縛の鎖 礎を絡めとれ"!」





間隙を縫って投げつけられたコインから 光る網が
伸びてクレストの身体を絡め取る









「さて、少しばかり大人しくしてもらってる間に
事情を説明しとこうか…クリス君?





悠々と振り返ったルーデメラへ首を振り







「悪ぃが…大体は把握した 余計なモンまで含めてな」





身を起こしていた石榴は、機嫌悪げに眉を潜めた





「石榴さん!気がついたんすかっ!」


「ああ…何とかな とはいえかなりヤバかった
もう少しでアイツの二の舞になる所だ」


「そんなこったろうと思った…残留思念といえど
"覇王"に違いないんだから気をつけないと」


「元はと言えばテメェのせいだろが!」





掴みかかろうとしかかる彼を遮り、シュドは訪ねる





「ざ…残留思念?一体どういうことですか?」


「それこそが"覇王"の保険であり…恐らくは
今回の事件の、本当の発端なのさ」







蒼い瞳にさらされ、もがく魔導師の動きが止まる





『貴様…いつから気付いていた…!』


「もちろん、最初からさ とはいえ確信を持ったのは
君の"赫眼"と力でだけど」


「めめめめ魔術導師様っ…じ、自分にも分かるように
説明して欲しいっす!封印されてたハズの覇王が
事件を起こしたとか もう思考力限界っすぅぅ!!





オーバーヒート寸前と言った雰囲気全開で
涙目まじりに訴えるフリッセへため息をつき





「仕方ないね、ワンコちゃんにも分かるように
まずアイツがどういう存在かを教えておこう」





ルーデメラは 淡々とした言葉で語りだす







―古に滅びたとされる"覇王"が、滅びる以前に

自らの力と意志を分散させ 何らかの依り代へと
乗り移らせる事で力を蓄えていた事



過去、そういった"存在"にかち合った石榴達が
死闘の末に相手を打ち倒した事





その一件により "通り道"が出来た事を







「そ…そんなコトがあったんすか…」





どれほど荒唐無稽であろうとも、今まで彼らと
行動を共にしていた彼女は 故に事実を受け入れた





あの柱は"覇王"の力が干渉していた…それはいい
しかし、わざわざ事件を起こした理由は何だ?」





カルロスの疑問を皮切りに 三人はハッとして
辺りを見回すが 部屋の様子は何も変わっていない





「そ、そーだニャ!さらわれたみんニャの姿が
見えニャいのはどーしてだニャ!」



「まさか…もう既に皆さんは…「いや」


再度膨らみかけた恐ろしい疑念を、石榴が否定した





「拉致られたヤツら全員が魔物どもに
変えられたワケじゃねぇ…恐らくまだ あの中だ





釣り気味の瞳が、"覇王"達の背後に控える"石室"の
闇に閉ざされた空間を示す





「何故 断言出来る」


「言ったろ?"大体把握した"って…乗っ取られねぇよう
必死でもがいてる最中、奴の記憶が流れてきたんだよ」







―意識下で抵抗する石榴が 刹那垣間見たのは


目が妙に大きく、鼻の突き出た顔つきと
茶や翠などの鱗に覆われた コブのような背を持った巨体





…どこか あの情報屋を髣髴(ほうふつ)とさせるような


二本足で行動し 生活を営んでいる壁画の"生物"の群れ
ウィト遺跡の一室らしき場所





そこから場面が激しく切り替わって





"生物"同士が争って血を流す様 閉じられていく壁と光


中に残った"生物"達が、倒れ伏して屍となり


時が過ぎ行き…外から現れた みすぼらしい
ローブ姿の"分身"によって僅かばかり力が解放される光景


中の様子を探るべく、遺跡に転がっていた屍が動かされ


闇と水晶の柱 怯えた顔つきのフードつきローブの男
呼び集められた鳥獣達


様々な土地の光景に あの男と、あるいは一人ないし
数人単位で映し出される行方不明のモノ達が


黒い帯に貫かれたり 別のモノに連れて行かれる情景





目まぐるしいまでに映し出されて行った―










彼らの視線を受けて"覇王"の口の端が歪む





『そう…貴奴等は、地の底と地上を繋ぐ大事な奴隷
戦いなら骸の兵どもで事足りる むざむざ兵に
変えて減らす道理もまだ無い』



「テメェ…!」


「だったら…だったら、どうしてクレスト様に
乗り移ってるんすかアンタ!






フリッセの一言へ、"覇王"は当たり前の如く答える





『単純な事だ小娘 "力"あるモノとは波長が合う
…魔導師や魔術導師ならば、尚更だ』






ギロリと赫い眼が部屋の闇を見据えると


繰り返すように様々な姿の異形が音を殺して
現れたので 一行は戦う構えを取った





『さて、封印が解けたおかげで計画が早まった
速やかに邪魔者の排除をさせてもらお』

「あっっっったま来たっす!」


爆弾でも炸裂したかのような怒号が室内に轟く





怒りを惜しげもなく全面に押し出したフリッセが

剣を突きつけて堂々と言い放つ





「こーなったら絶対クレスト様から
追い出してやる カクゴしろっす悪モン!!」






しばしの合間、その場の空気が沈黙に包まれ







場違いな拍手が一人分 パチパチと鳴った





昔のクリス君とそっくりだ〜♪まあ今だって
変わる事なくバカなんだけどね」


「ここまでヒドくねぇぞ俺!つかさらっと貶すな!」


『愚かな…出来るモノならばやってみろ!!』





宣言した魔導師が、呪を紡いで闇を放ち
絡んだ網を黒く侵食し始め


声を合図に一体 また一体と魔物が進撃を開始する





…とはいえ、先程に比べれば若干数が少なく


時間を稼ぐかのように 様子を伺いながら
ジリジリと距離を詰めている







得物をショートソードへと持ち替えて 彼女は
肩越しに石榴達へこう告げた





「ってコトで僕がアイツら足止めするんで
クレスト様をよろしくお願いしますっす!」


「オイこらタンカ切っといて他人(ヒト)任せか!?」


「まあでもワンコちゃんの判断は正しいさ…
奴を追い出さない限り、手下は際限なく現れる」





魔物達から意識を逸らさぬままに、カルロスが呟く





「この状況、あの岩山の時と類似しているな」


「たしかに…ってコトは、あニョ岩山の時みたく
とりついたヤツがはがせるんじゃニャいか!?」





二人の言葉で五人は、旅の道中で起こった
闇属性の魔物との"戦い"を思い出す





だが シュドの顔色は冴えない





「浄化の術を使えば可能性はあると思いますが
仮にも"覇王"と名乗る相手に通じるかは自信が…」







じっと魔導師の背後にある部屋を見つめて


ルーデメラが石榴へ軽く目をやり 呼びかける





「クリス君、ちょっとあの部屋に明かりを
一発ぶち込んでみてくれる?」


「…分かった」





彼の真剣な表情(かお)と台詞に何かを感じて

敢えて問わず 石榴は魔術銃の引き金を引く





放たれた光弾は、まだらとなった網を
取り払いつつあるクレストのすぐ側をすり抜け





闇に閉ざされた室内に到達して辺りを一瞬の内に照らす







…しかし、次の瞬間に光は黒く欠けながら消えた





「光が消えた…!?」


『その程度の光で、我が力が弱まるハズもなし…!』





不敵な敵の態度に 確信を得て





「やっぱりあの闇は、奴が作り出していたモノ
アレを取っ払うのが勝利のカギだ…よし」


「何か思いついたのか?」





魔術導師は自信に満ちた笑みで、簡単な指示を下した







「よーし、クレスト様のためにも
精一杯働いてくるっすよ!」



「私も…引っ掻き回してくるとするか!





勢い込んだフリッセの後に、義手剣と赤いコートを
颯爽(さっそう)とひるがえした彼が続く







「オイラもがんばるニャ!」





猫獣族の脚力を十二分に発揮したシャムが二人の剣士と
異形が切り結び、弾丸の飛び交うフロアを駆け回る


片手に握り締めた皮袋から出た白い粉で 床に線が描かれ


もう片方の手には 透明度の高い石が鈍く輝いている





『ワシを倒せるモノを召喚する気か…させるか!





戦線復帰した"覇王"が 呪文を紡ぐも







「イリュード!」





ルーデメラの術によって、自らの見ている風景が
おかしな具合に歪んで迎撃を阻害される





「君の相手はこの"夢幻の使者"がしてあげよう
精々光栄に思うんだね?みっともない残りカス風情」


『この…!』





本体と動きを共にする"分身"数体の幻影

赫い瞳をぎらつかせて魔導師が唸る









彼らが戦い、稼いだ時間によって
床に魔法陣が描き終わり





「セレスティウィスプ!」





シュドの呪文から生み出された、白く柔らかな
浄化の光が辺りを照らす





すかさず魔術銃から放たれた光球がそれを飲みこみ


勢いを殺さず "真の石室"へと真っ直ぐに向かう





「あとはオイラがアレをこの道具で受け止めれば…!」


『させるか!』





"覇王"の手から飛び出した黒い帯が空を駆ける





ギリギリで身をかわしたシャムだったが


軌道を変えた帯が、手にしていた石を穿って砕く





石の欠片が黒い床へと散らばって 距離を取った
シャムの側をすり抜けた光球があらぬ方へ通過する







どうだ!これで貴様らの企みは潰え…』


だまされたニャ!オイラはオトリニャ!」





八重歯を覗かせて笑い、銀色がかった青目が彼を見る





「"曲がって割れろ"っ!」





石榴の声に呼応し、光球がその場に制止して





ぐにゃりと大きく歪曲したカーブを描いて
"真の石室"へと入り込み


小さな無数の弾へ分裂して、辺りに着弾する






増幅された聖なる光が 眩しいくらいに満ちて

部屋中に充満していた闇を掻き消す







『ぐうぅっ…!?』





二人が対峙していた異形は光に当てられて
溶けるように全てその場に崩れ落ち


彼もまた大きくよろめき、身じろいで







「セレスティウィスプ!」





二度目の浄化呪文が光に怯んだその隙をついた





『ギャアアアアア!!』





断末魔の咆哮をあげ クレストの身体が床に落ちる








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:伏線回収に散々苦しめられましたが、何とか
次回でこの話 終わらせられそうです!


シュド:まさか"覇王"の分身が あの戦いよりも
以前の時点でここの封印を解いていたなんて…


石榴:とんだご都合主義だな全く、つーか
封印解くなら普通は全部だろ?おかしくねぇか?


狐狗狸:あくまで奴がやったのは 干渉した事で
封印を損傷させて力を放出して、残留思念が
サブ戦力に育つための手助けって事なんでOK


フリッセ:ふえ〜そりゃスゴ…ん?でももしお二人が
分身の"覇王"やっつけてなかったら


シャム:ハオウが二体いるコトになるニャ!


狐狗狸:その時は、封印を解きに来た方
きっとウィト遺跡にいた方を吸収してたと思うよ?


カルロス:よく出来ている…それにしても
あの魔物達の内、何体かが行方不明者かと思うと
やるせない気持ちになるな


ルデ:知らなきゃ仕方ないでしょ?それに奴等の九割が
かつて遺跡にいた"生物"達の成れの果てらしいから
然程気に病む必要も無いでしょ


狐狗狸:間違ってないけどドライだなー…
フード男(調査隊員)×2よ 安らかに眠れ




"覇王"との戦いの真実を知っている二人は

故にこそ、三人には最終章での"覇王"の実態を
本体から生み出された"分身"として伝えています


事件の元凶を打ち滅ぼし 物語は終わりへ向かう…