…そこには 信じられない光景があった





「これは叫ぶっすね、仕方ないすよ」


「流石は"真の石室"ってトコか…中々に
頑丈で悪趣味な警備じゃないか」





唖然とした表情で固まるシュドの側で

それぞれがのんきな感想を述べて







「ちょっと待てぇぇぇ!何だよあの浮いてんの!?」





思い切り顔を引きつらせた石榴が、眼前にある
奇妙な物体へ指を突きつけながら叫ぶ







だいたい10m四方ほどあるだろうこの空間の
黒い壁一面には、一面に 姿形の歪な二本足の生き物
主としたおどろおどろしい壁画が彫りこまれており


階段から対峙する様な位置の壁には


赫眼輝く、今にも動き出しそうなくらいにリアルな
"覇王"の彫刻が口を固く結んでこちらを睨みつけている


その壁の手前の空間で 脇を固めるようにして


四つくらいの、異形の頭部…というよりは頭蓋骨と
断言しても遜色の無い物体が 虚ろな眼窩(ガンカ)を
六人へと向けたまま浮かんでおり





それらが、天井の辺りで輝く魔力の明かりに
照らされる様は一層に不気味でホラーめいていた





「敵か仕掛けの一部だろ?室内共々趣味は超絶に悪いけれど
今更驚くモノでも無いじゃない」


「んな悠長に構えてる場合かよ!?
どう見たって敵じゃねぇのかアレっ!!


「いやでも石榴さん、あの首っぽいの
全くこっちに近づいて来てないみたいっすよ?」





フリッセの指摘を受け 落ち着いてよく観察してみれば


四つの首は僅かに上下に揺れてはいるものの

今の所は、こちらへ近寄る素振りすらない











〜No'n Future A外伝 第十二話「封じられた部屋」〜











「確かに…けど、用心に越した事はねぇな
っと それよりシュド、大丈夫だったか?」


「あ、はい、ご心配おかけしてすみません…」





ようやくショックから立ち直ったシュドが頭を下げて





「見た感じケガとかもないみたいだし 安心したっす」


「僕らのために献身的なトコは天使君の長所だけど
あんまり無茶しすぎちゃダメだよ?」


「率先して無茶強いたテメーが言うな」





普段のテンションを発揮しだす彼らとは別に


カルロスがざっと室内を見渡し、呟く





「頭と壁画、それとあの彫刻の他には
目立つものは無いようだな…どうした?シャム」


「…あの時の音だニャ!このオクできこえた!」





真剣な顔つきで耳をそばだてたシャムの一言に
彼女も反応する





あ!そーいやシャム君、音がどーとかって
言ってたっよすね!?」


「そうニャ!まちがいなくあの音だニャ!」


「いやお前らだけ通じても分かんねーよ」


「申し訳ないですが、ご説明いただけますでしょうか…」





妙な相互確認を取り出した両者へ、石榴とシュドが
合いの手をくわえた







転移した混乱と、その後の騒ぎがあったので
訊ねられぬまま忘れられていたが





水晶の柱が光りだし ウィト遺跡の内部へ転移する直前


シャムの耳が奇怪な"音"を捉えており


同音と思われるモノが…彫刻された"覇王"の顔面の
奥から響いてきたのだ、と当人は言う







「聞き間違いって事は無いよね?」


ありえニャいニャ!だってオイラ猫獣族だし!」


「つーことは、まーた何か仕掛けがあんのかよ…」





いい加減げんなりした様子の石榴の肩へ、カルロスが
労わりを込めて手を置いた







「それにしても…誰が何のためにこんなトコまで来たのだ貴様ら?


えっ!?ふ、フリッセさん!?」


表情と全く噛み合わない台詞に、シュドを始めとした
全員が驚愕の眼差しをフリッセに向け





ふぇっ!?ぼ、僕なんでこんなコトを?!」





彼女自身もまた 自らが放った言葉に驚いた





「本当に覚ザザ…いのかいワンザザザッ!


「何ていってるのか分からんザマスドンがバチョ」





問いかけた自らの言葉にも齟齬(そご)が生じて
ルーデメラとカルロスが眼を見開く





「何だよコレ…」


「お二人の言葉が、どうしてこ        」


「シュド!?ニャんて言ってるニャ!!」





パクパクと懸命に口を動かしているにもかかわらず

彼の声は、全く聞こえてこない





「い、一体何が引き返せ貴様ら!おかしいっすよ!?
こんなの僕の台詞さもなくば八つ裂きにしてくれる!


必死に事態の原因を求めるフリッセだが
自らが放つ不釣合いな文句に邪魔され、意図が伝わらない





おろおろとシュドも視線をさまよわせていたので





「お、落ちつくニャ二人ニョニャ…ニャーン!
ニャっ、ウニャアッ?!





なだめようとして放った言葉が、猫が話しているような
鳴き声に変化してしまい


シャムもまた混乱の渦の中へと放り込まれる





「なんだ、何が起こってんだっ!


「どうやらこザザザの部屋の仕掛けザザーッ!





耳障りなノイズにまみれて、なお淡々と語る彼の言葉を

どうにか拾い その内容に石榴も納得しつつ首を捻る





「だとしても、一体なんだってこんな事に…!?」


「ニャンニニャッニャニャンニャーンニャアウニャッ!
(オイラたちの言葉を変えてニャンの得があるニャっ!)」



「悪ぃ、何言ってるか分かんねぇ」


「どうしようもない諦めろ!石榴さん、僕ら
このまま引き返すのださあ!!



悪ぃ、お前はしゃべんな余計混乱する」


それでも口を開くコトを止めない二人を振り切れば





しゃべれないながらもシュドが、懸命な面持ちで
宙に浮く四つの首を示す





「何だよ?あの首が怪しいってのか?」


ザッ…ん天使君はあのザザザ魔力のザッザザザー!
恐らくはザザザザせいで僕らのザザーッ!


っだあぁぁお前らもう黙ってろっ!
こんな調子で会話されたら頭がどうにかなりそうに」






手で耳を塞いだ直後に背を叩かれ







振り返った彼の鼻先へ、インクのニオイも鮮やかな
羊皮紙が突きつけられた






落ち着け 無碍に不安になってどうする』





そう書きつけられた用紙を掲げ、カルロスは
口を閉ざしたまま彼らへと見せて回る







一端 静寂が訪れたのを見て取ると





シュドとフリッセにそれぞれ紙と木炭とが手渡され





両者は手の中のソレへ視線を落としてから、相手の
意図に気付いて 文字を書き連ねて行く







『お見苦しいところをお見せしてしまいました…』


『あいすまねっす』


「いやまあ、そりゃいいけどよ…それでシュド
さっきは何を伝えたかったんだ?」


『あの四つの首から魔力を感じましたので
恐らく、この事態を引き起こしている原因ではないかと…』





かざした羊皮紙を読み取って、石榴が銃を構える





「ってコトはあの首全部落っことしゃー解決か」


『そう考えた方がいいだろうな』





仲間の意思に後押しされ かけられた指が引き金を…







『口で言うのはいいけどさ、それって簡単に行くかな?』


その動きへ待ったをかけたのは、光る文字を
相手の中空へと描いたルーデメラ





あん?どーいう意味だよルデ」


『今はまだ効果が出てないみたいだけど、言葉の効力を
変える力が君にも影響して来ないとは限らないでしょ?』


「…なら尚更、使える内に決着つけるべきだろ」


落ち着いた様子で返す石榴へ、ルーデメラは一つ頷いて





それについては異論は無いさ だからこそ
まず君にやってもらいたい事がある』


「何だよ」


『それは』


指示を描く すらりとした指先へ視線が集中し





それが、唐突に鳴り出した音へ移り変わる





「ふあっ?!」


「うるさっ…!?







耳を塞いでしまうほどの異音は、宙に浮く
四つの頭が牙を打ち鳴らしている音であった





全員の視線に晒されながら首達は輪になって
一回転すると、一段高く舞い上がり


素早く四隅へと移動して…停止した


のも束の間、首の影から滲み出すように
身体だけの歪な異形が生み出され


それが猛スピードで一行へと音も無く迫ってきた





こうなっては首を狙っている余裕は無く


カルロスとフリッセが剣を取り、残る者達は
攻撃が及ばないように四方八方へ逃げる





しかし鋭い剣撃によって異形の身体が倒される一方





「ニャーニャニャニャンニッ!!
(ギャーこっち来んニャっ!!)」






今度は首の方が、牙を剥き出しながら飛びかかってくる





「やばいっすよコレ死を!この者達に死をっす!」


「キリがなっしー、倒しても援軍でるでーるザマスっ」





影から現れる異形の身体と、飛来する異形の頭蓋の
攻撃にジワジワと彼らが押されてゆく





だが、呪文の詠唱が阻害されてしまう現状では


ルーデメラの火力やシュドのサポートが
期待できそうに無い







"爆ぜろ"っ!"爆ぜろ"!だあぁ、くそっ!





音も無く迫ったカギ爪を 光球で蹴散らす隙を突き





石榴の側頭部目掛けて首のひとつが突進してきた





「…げっ!





魔術銃の銃口を向けるも、間に合わずに

異形の口が石榴へ喰らいつこうと開かれ―







せり出した牙が刺さる寸前で


投げつけられた物体に弾かれるようにして
勢いよく首が吹っ飛んで行く






それが、スイカ大の爆弾らしきものだと


ギリギリで彼が視認したのを見計らって





後を追うように 同じ方向から炎が一陣駆け抜けて
物体へと命中した






引火した中身から起こった眩い閃光と、凄まじい爆発により


モロに直撃した頭部は半分以上砕け散って黒い床に転がる





「なっ……?!」







一瞬 敵も味方も全員がその場で動きを止めた







光の効果が薄らいでいくにつれ


落下した頭部の残りを完全に踏み砕いて





「―全く、勉強不足なヤツばっかでやんなっちゃう
僕を誰だと思ってるわけ?





朗々と、ルーデメラが言葉を口にする





「仮にも魔術導師である僕に、"詠唱しなきゃ術が使えない"
なんて概念が通じるとでも?」



ニギャーニニニーニャッ!ニャニャニャアンニャニャッ
ニャニャンニニニニャ!!(ってルデメ、ユーチョーに
言ってるバアイじゃニャいニャ!ヤツらまだのこってる!)」






台詞は分からないが、縄を手にしたシャムが

すり抜けるようにして異形達の合間を駆け抜ければ


足元に垂らされた とりもち状のコーティングが
施されている複雑な絡み具合の縄につまづき


敵の動きが鈍くなっていく





「クリス君、天使君の声を取り戻させといて
天使君は二人の補助 泥棒猫君は引き続き足止め頼むよ?」





言いながら、別の道具を片手で用意しながら


開いた手でルーデメラは 光る文字を描いた要領で
"ルーン魔法陣"を作り出して行く









「…ったく、先にやっとけよそう言うのは」





失念していた事に自嘲して、今一度冷静さを
取り戻した石榴が 想いを込めて撃ちこみ





「俺らは首をぶっ倒すから 身体頼んだぜ


「…はい!任せてください!」





声を取り戻したシュドは呪文の詠唱を始めた











…普段の勢いと連携を取り戻した彼らにとって


数体の異形と、宙を舞うだけの頭部全ての撃破は
難しく無くなったのだった









「一時はどうなることかとあせったっすよ〜
けど、さすがは魔術導師様達っすね!





異常も解決し、彼女はホッと胸を撫で下ろす





「君らが慌てすぎなのさ あと泥棒猫君
使った罠の残骸は撤去しといてね」


「わ、分かってるニャ…」





手際よく縄をまとめるシャムを、シュドと共に
手伝っている最中 カルロスが気付く





「この壁画…どうやら、過去にこの場所で
何が起きたかを示しているようだ」


「ほ、本当ですか!?」


「暗くて ハッキリとは分からんがな」


「それなら明るくすればいい話さ、クリス君が」


「俺かよ!」







ぼんやりとしか照らされていなかった室内に光が満ちれば


壁画には、二本足の生物が繁栄する様や
"赫眼の覇王"らしきモノに怯える描写





やがて"覇王"につくモノと対するモノとが戦い


部屋の奥へと追いやられるも、敵対者を退散させ


疲弊した生物達と"覇王"らしきモノとが

外と内とで数対ずつ別れて壁を閉ざしている光景


ハッキリと見る事が出来た







封印らしきものを匂わせているけど…それにしては
色々と矛盾が多いね」


「この壁んトコの横に古代文字書かれてるっすね
もしかしたら、ここに開け方のヒントとか乗ってたりして」


コクリと頷いて ルーデメラが素早く呪文を唱えだす





「―ここは、赫き王を奉り鎮める部屋なり」





だが…内容を読み上げたのは、石榴だった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:こっからは伏線回収&クライマックス
まっしぐらのターンとなります!


石榴:いよいよ原作とかけ離れてくるな


ルデ:こっからも無視した展開で進んでくみたいだけど
本当に収拾つけられるか、些か疑問だね


狐狗狸:年を経ても自分のキャラから信用を
得られない私って何なんだろ…


カルロス:自業自得とは言え、気にかけられて
いるのだと思うぞ?


フリッセ:そうっすよ!たとえ書くの遅くたって
いい話に出来上がってたらそれでオッケーすよ!


シャム:それよりカンリニン、あの首のヤツら
どーやってオイラたちのコトバ変えてたか
セツメイしといた方がいいんじゃニャいか?


狐狗狸:あー…アレについては、異形の特性と
今回の最大のネタバレかかるから今は語れません


シュド:あの魔物達の…特性、ですか?


石榴:あんま間に受けねぇ方がいいと思うぜ


ルデ:この管理人のことだからねぇ




いい加減、今月辺りで外伝長編終了のメド
立てれるべく気合入れます


封じられた"壁"の奥で待っていたのは…!!