彼女のカンが当たり、さほどスタート地点から
離れていない場所に目的の物はあった





「台座っぽいのに乗ってる、あのヘンな形の石
…これもう間違いないっすね!」


「そうですね けれどどうやって取りましょう?」





三つ目を無理やり線で繋いだような、翠色の石を
頂く台座を収める空間がある壁の手前を


飛び越せないような柵らしきモノが阻む





柵を前にして、腕を組みつつフリッセは言う





「こんな"いかにも"なモノを護ってるとしたら
近くに柵をどかすヒントか何かあるっすよ」


「そうかもしれませんね…探しましょうか」


「っす!」







シュド達が周囲を散策すると、求めていたモノは
すぐに見つかった





袋小路の 入り口付近の壁の下方に


意味ありげな紋様が数行分、刻印されていた





「並び方からすると…古代文字みたいっすね
けど、僕じゃコレは読めねっす…」


あからさまに肩を落としてうな垂れたので


しゃがんだフリッセの頭と腰の辺りに 垂れ下がる
犬耳と尻尾が見えた気がして、彼は目を擦る





「古代文字、ですか…あ!


「何か思いついたっすか?」


「この文様が古代文字だとすれば、解読の呪文
唱えれば…読めるかもしれません!」





その言葉に、驚きをありありと浮かべ

彼女は中腰のシュドを見上げる





「シュドさんそんな便利な術 知ってるんすか!?」


「はい、以前ルーデメラさんから"役に立つ"と
教えていただいた術なんです」


ふおぉ〜魔術導師様直伝!そりゃスゴいっす!
ぜひともよろしくお願いしますっす!!」


「分かりました、それでは少し場所を
譲っていただけますでしょうか?」


「了解っす!!」





元気よく立ち上がって下がった相手と入れ替わり


口の中で呪文を紡いで屈みこみ、彼は
文様が刻まれた部位へと手をかざす











〜No'n Future A外伝 第十一話「封印解除」〜











「リディレゲンド!」


発動した術に ゆらり、と蜃気楼のように
紋様を刻んだ黒い壁面が一瞬揺らめいて…





オリーブグリーンの瞳が文面を凝視して





かなりの間を置いて、ようやく離れる





「解読できた…っすか?」


「はい、なんとか」





術の効果が短いのもあってか、集中して
読んだ内容を シュドはざっとまとめて語る





壁面にはこう書かれていた―


[我に触れ、数多の欠片に埋もれる
正しき年の輪を繋ぎて大地へ捧げるべし


供物を過つ時、汝の魂が代わりとなる]








「我に触れ…って、この壁の文字んトコ
触るっつーことすかね?」





再び位置を入れ替わって、フリッセが
篭手で覆われた手の甲で叩くように壁へ触れる





直後、二人の背後でガゴッ!と音がして





「うわあぁっ!?」


「なっ、なななななんすかぁぁ!?


両者は慌てて振り返る







先程まで何も無かった黒い壁と床の一角が崩れて


壁からは高さ五十センチほどの山になるだけの
石版の欠片らしき物体が吐き出され


床には、一枚の石版を納める凹凸が出来る


…壁の方は程なく何事も無かったかのように
元通りとなったが、石版の欠片と床のヘコみ
そのまま残されている





欠片をいくつか手に取り、見比べて彼女は言う





「どうやらこの石版に描かれた絵が"年の輪"みたいっすね
…正しい奴を床にハメれば柵が消えるっすよ」


「でも、正しい図柄も分からないのに
この量の欠片を組み合わせるのは大変なのでは…」





口には出さないまでも、仮にはめ込む石版を間違えれば
罠が作動するであろう事は想像がつく





「とりあえず組み合わせていくのが先っす
まずは石版として完成させていくすよシュドさん」





石版の欠片を形状ごとに分類し始めるフリッセに習って


シュドもまたその作業を始める









最後の壁を外すための宝石を守る仕掛けを
解除するための謎解きに、彼らが奮闘している頃





逃走劇を続けていた 石榴とルーデメラはというと…





「あー楽しかった!」


「…ちっとも楽しくねぇ!殺す気か!?


「大丈夫だよ、致死量レベルまでやってないし
それにクリス君のしぶとさは正銘済みだし」


「だからっていつもいつも俺で
実験(ため)すんじゃねぇこの腐れ魔導師!!」






なんぞと普段通りの会話を交わしながら
先程の袋小路までの道を辿っている


どうやら、彼の気分は収まったらしい





「おいルデ、この道で本当にあってんのか?」


「地図もなく迷宮をうろつく愚は冒さないさ
事前に船長さんのコートへコレを忍ばせといたよ」





言いつつルーデメラが、トランプカードほどの大きさの
白っぽい板を指に挟んで ひらひらと振る





「何だよコレ?なんか書いてあるぞ?
…"十メートル先、直進"??


「本来二枚セットで使う単純な探知道具なんだけどね
手を加えて、正確さと確実性を特化させたんだ」


「分かるように説明しろ」


「平たく言えば、コレの片割れの場所まで
道順つきで導いてくれるってコト」





ああそう、とだけ返す石榴の脳内では

"カーナビ"のイメージが浮かんでいた











黙々とパズルの製作作業が進んで行けば


まともに石版となる組み合わせは思ったより少なく


更に紋様が示唆していた図柄として
成立する絵が限定されてきて


柵の解除まで、あと一息といった所であった





「……石榴ニャ!石榴とルデメがもどってきたニャ!!


「えっ!それホントっすか!?」





滑り込んだ、思わずといった叫びに

フリッセも釣られて大声で反応する





マジニャ!でもルデメすっきりしてるから
心配はなさそ「…シャム」ごごごゴメンニャさいっ!!





悲鳴のような声を最後に、シャムの声はめっきり
聞こえなくなってしまったものの


二人の表情には安堵が色濃く浮かんでいる





「ともあれ、これで後は壁の仕掛けを
解除すればみなさんと合流できますね」


「この三つの石版のうちのどれかが正解っすからね
…よーし、これにしてみるっす!


「え、ちょっとフリッセさん!?」





シュドが止める間もなく、一枚の石版が
床の部分へとはめ込まれた


ガタン!と一度周囲が揺れて―







身を縮こませた二人の杞憂を余所に、柵が
左右の壁へと吸い込まれていった





「い…いきなりは止めてくださいよ!」


「あいすまねっす、でも合ってたんでよかったす
結果オーライっつーやつっす!」





ニカッと笑って宝石を手にした彼女へ

呆れた視線と苦笑と、ついでに疑問が投げかけられる





「…それにしても どうやって正しい"年の輪"が
分かったんですか?」


いやー全然わかんなかったっす、けど見てください
この石版の絵って 情報屋さんに描いてもらった
地図とそっくりじゃないすか?」





言われて彼が床下へ注目すると


はめ込まれた石版には、確かに簡略化された
遺跡の内部が描かれていた





「ほ…ホントだ…!」


「で、関係があるんじゃないかと賭けてみたんすよ
無事当たってよかったっす〜!」


「もう…」





無邪気なフリッセを見やって、シュドは

共に組んでいたであろう魔導師の苦労を思った









宝石によって壁を床へと引っ込ませれば


二人と四人が、久方ぶりの再会を果たしていた





「ざ…石榴さん、大丈夫っすか?!」


「なワケねぇだろ…シュド、治療頼むぜ」


かしこまりました!ただ今手当ていたします!」





真っ青になりつつ駆け寄る相手へ、石榴は
そこまでヒドくないからとツッコミたい気分を抑える





「クリス君たら本当に頑固でさぁ〜僕が貸し一つ
治癒の使える助っ人を喚(よ)んであげるって」


「嫌だから断ってたんだろうが」


「まあ別に泥棒猫君でも構わないんだけどね…」





横目で見られ、シャムは肩を大きく震わせ
顔から汗をダラダラ流しながら言う





「おおオイラもシュドにたのむからおかまいニャく!」







全員の手当てが終わったのを見計らい、地図へ
目を走らせていたカルロスが口を開く





「これで私達は、情報通り全ての壁を
解除した事になるな…」





指で壁の位置を指し示し、更に地図上で
自分達の現在地を全員へと指し示す





「条件を満たしたなら この大部屋…"真の石室"か
ここへ入れるようになるだろうね」







…まるでルーデメラのその言葉を待っていたかのように





今までとは比べ物にならないくらい重々しい
歯車の動くような音が、振動が遺跡の内部を揺るがし



あっと言う間に小さくなっていく





「何が起こったのでしょう?」


「まだ音がしてるニャ…あっちニャ!





シャムの耳と地図、カルロスの方向感覚を頼りに
六人は通路へと駆け出して行く







「ところでよ…あのローブ野郎、どこにいやがるんだ?
俺らがこれだけうろついても見かけなかったぞ」


「僕やシュドさんも見かけてねっす…まさか」


「この先にいるかも知れない、と?」





頷かずにいる彼女に代わり、ルーデメラが答える





行ってみればわかるさ 恐らくはね」









一、二体ほど異形が飛び出してきたが彼らの敵と
なるどころか足止めにすらならず





音は潰えたものの、たどり着いて周囲を散策すると





行き止まりであった箇所が開き、新たな通路と
先へと進んで大きな空間…そして


部屋の中央に 下へと続く階段が微かに見えた





「…あの階段の下が、"真の石室"ってとこか」


石榴が低く呟く





「あの部屋、一見何も無いみたいっすけど…
誰が様子見するっすか?いや別に僕が行っても
全然おかまいないんすけどね?」


待て…迂闊に入るのは危険だ」





今までの道行きから見て、この先にも罠が
仕掛けられている可能性は高い


足を踏み入れたそうにするフリッセを
彼が止めたのも無理は無いだろう





「魔力は感じられないから、術による罠は無いだろうね
…けど妙なカラクリがあったからねぇ」


「でもこのままジッとしてたってニャんにも
ならないニャ、オイラがまず室内をしらべるニャ」


「待ちなよ それならいっそクジで決めない?」


「何でだよ」


「その方が後腐れないし、万が一何かあったら
後の全員でフォロー出来るじゃないか」





クジで決めた一人が先に室内を調べ、その後

残った全員が付いて行く方針に決まったようだ





公平を期すため、シュドがクジのこよりを作り
目をつぶりながら手の中で混ぜて握りなおす





「出来ました 先端に印がついたモノが当たりです」


「俺が先頭を当てるんじゃ…」


「引きが悪いのは運命だと思って諦めなよ
ほら、さっさと引く」





皆が一斉にこよりを掴み





『せーのっ!』


引き抜いて 覗きこむ







「…決まり、だな」





内心ほっとしつつも、後ろめたさからか
石榴が遠慮がちな目で相手を見る





多分シカケニャんてニャいニャ!
もしニャんかあったらすぐ助けるからニャ!」


「無理はするなよ」


あ、もしよかったら僕が代わりに」





彼女の申し出を…シュドは首を横に振って断る





「大丈夫ですよ それでは行ってきます」







恐る恐ると言った様子で、彼は通路から
大部屋へと入って辺りを調べる





慎重に しばらく探ってみても何も起こらない





「どう?」


「この室内には特におかしなものは無いみたいです」


「そっか、じゃあついでだから階段の下も
ちょっと見てきてもらえる?天使君」


「分かりました」





一歩、また一歩と階段を降りて


シュドの姿が消えたと同時に、五人が
室内へとなだれ込む





「おいおい、そのままシュドに
探索続けさせていいのかよ」


「そうっす もし何かあったらマズいっすよ
今からでも僕がついてくっす!


フリッセが階段を一歩踏み出したその時







「……うわああぁぁぁぁぁ!?





下から響いた悲鳴に、全員の顔色が変わる





「シュド、どうした!?」







下へ呼びかけるも返答が無いので





「何かあったかっ、待ってろ!今行く!


「僕も行くっす石榴さん!!」





武器を手に二人が段差を駆け下りて行く





「やっぱり一人でいったのがマズかったニャ!
ルデメのハクジョーのせいニャ!!」



「クジは平等に引いただろう?それに提案に
従ったのは彼だよ」


言い争いは後だ、行くぞ」





一喝したカルロスに続いて、残ってた二人も
階下へと降りて行く








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:繋がってるから遠回りして石榴達をシュド達と
合流させてもよかったですが、展開と迷い込む可能性
双方考慮して 便利道具に出陣していただきました


ルデ:風の系統を組み込んで干渉しているから
空気の流れで障害物を極力避けて移動できる道順を


石榴:聞いてねぇ、てかいつの間に取り付けたんだか…


シュド:あの…結局"年の輪"の謎については
分からないまま解決してしまったのですが…


狐狗狸:遺跡ってさ、大抵は昔の人が使ってた
施設とか街とかだったりするよね


カルロス:…間違ってはいないな


狐狗狸:で、あの文面を書いた、当時住んでた
(利用してた)人にとっちゃ 遺跡は"遺跡"じゃ
ないワケ…つまりはそーいう事


フリッセ:つまり…どーいうコトすかね?


ルデ:回りくどいね、単なる語呂合わせでしょ?
ウィト遺跡の規模はかなり大きいし恐らく―


シャム:そ、そーだニャ 全くあんニャ
あからさまなマチガイ見のがすワケが


狐狗狸:はいはいシャム君知ったか乙
ルデ君はそれ以上いけないからね?




やっとこさ本丸へ乗り込んで…きますが
もちっとだけ面倒が続きます


彼の悲鳴の理由は…そして下にあったモノは!?