船長―カルロスの船室で 石榴とルーデメラ、
そしてカルロスと副船長の四人がその場に集まった







「ふぅん…頭の足りない海賊の船長にしては意外に
本を読んでいるんだね」





ルーデメラが蔵書のぎっしり詰まった本棚を見つめて呟く





「…確かに 何か地図とか小難しそうな本がやたらあんな」


海賊船なんてモン初めて乗るけどよ、と付け加える石榴





「フン、ウチの船長とそこ等の雑魚海賊どもを
一緒にするんじゃねぇ」


「…とりあえず、お前達の名前と目的を聞こうか」





小さな欠伸を一つ噛み殺して カルロスは言った





「あ、ああ 俺の名前は緑「長ったらしいからクリス君て
呼んだ方がいいよ 僕はルーデメラ=シートルーグイ」


「何サラっと自己紹介遮ってんだこのヤロー!
つーか俺の名前は石榴だ ざ・く・ろ!!


「とりあえず君達の頭が事実を理解できるか疑問なんで
クリス君との出会いを端折って説明するけど」


「Σ無視かよ!つか俺が説明するからお前黙っとけ!!」







こんな調子で 石榴は渋々ながらもルーデメラの茶々
にもめげず、自分達の目的を話した











〜No'n Future A 第九話 「微笑む魔術導師」〜











「…つー訳で、その怪物の体液を取る為に
このヤローがワザワザこの船に俺を落としやがったんだよ





そういい終えて 石榴がルーデメラをギロッと睨む


しかし、当人はいたって平然と微笑んでいる







話が終わるまで カルロスは眠そうに聞きながら
何やら考えていたようだが、





石榴が話終えると 副船長に二言、三言交わして


何かを確認してから ややあって口を開いた





「その話からすると…"コンクーアン"がお前達の探す
怪物と同じかもしれないな」


"コンクーアン"?


「最近この海域に現れた怪物だ、そいつに襲われる船が
後を絶たないらしくてな…」





オウム返しに問う石榴に 副船長が代わりに応える





「海が荒れるし 船も魚も寄り付かねーし
主にこの海域が根城のこっちとしても、商売上がったりだ」


溜息つきつつ 肩を竦める副船長







「…そいつを仕留める為に ここ暫く目撃例の多い辺りを
重点的にうろついているのだが、中々収穫が無くてな」


カルロスも同じく 浮かない顔で言葉を発する…と





「君達 海賊なんだよね?何でこの海域に拘るわけ?







唐突に放たれたルーデメラの言葉に 石榴が
呆気に取られた顔をする





「はぁ?普通は海賊にルールなんて無いもんだろ?」


常識知らずなクリス君に、分かりやすく説明するけど」





石榴が怒鳴るより早く ルーデメラは人差し指を
彼の目の前に突き出して、





「この辺は怪物の出現率が高いから 普通の船は
好き好んでうろつかない…通るのは大抵 軍の船
同じ様な海賊船くらいだ」







かんで含めるような説明の後 ルーデメラは
カルロスの方をチラリ、と見やって





「別の海域にうつれば、貨物船がよく行き来するし
この辺りで無くたって効率のいい場所は幾らでもあるから
普通ヘタレな海賊どもはここを根城にしない筈だけどね?





微笑を浮かべたまま こう言ってのけた







ルーデメラの不遜な発現に 石榴が言葉をかけるより早く


副船長が片手を揚げ、彼を押しとどめる





「勘違いするなよ、オレ達は海賊船しか狙わねぇ」


はぁ?何じゃそりゃ」





首をかしげる石榴にカルロスが淡々と説明する





「確かに、海賊船であろうとも海賊行為には相違ない…
しかし 私は堅気の者を巻き込むのは好まない


「…とまぁ船長がこう言うんで、オレ達も海賊船専門
ここらで海賊をやってるって訳だ」





お陰で怪物退治とかで生計立てなきゃいけねーし、

役人に気をつけなきゃいけねーから時折海域を漂流しなきゃ
いけねーしよ、と副船長が愚痴を漏らす







「ふうん…よーするに義賊みてえなもんか」


「まー有り体にいやぁ そうなるな」





頷くそこに、出し抜けにルーデメラが口を挟んだ





「思い出したよ "スリーパーズ"…市民から好感を
持たれてる義賊気取りの偽善者海賊、だったっけね」


「なっ…テメェ さっきから聞いてりゃナメた口を!!





副船長がルーデメラに掴みかかろうとするのを
今度はカルロスが押しとどめる







よせ、どう思われ様とも私は構わん
それに…私も思い出した」





言いつつ濃い群青の瞳が ルーデメラをじっと見やる





「ルーデメラ=シートルーグイ…何処かで
聞いた名と思ったが、お前が"スマイルクラッカー"か」







その一言を聞いた途端、カルロスの言葉を遮って

副船長が青ざめた顔で腰を抜かす





「うわわわわ!て…テメェがあの、"スマイルクラッカー"!?


「どうせなら"夢幻(ムゲン)の使者"の方で呼んで欲しいな〜
まぁ 雑魚海賊のくせに随分世情にも詳しいじゃないか」


「…何なんだよ その"スマイルクラッカー"とか
"夢幻の使者"とか」





イキナリな展開についていけない石榴の問いかけに
ルーデメラは事も無げに言った





「ああ クリス君は僕の二つ名、知らなかったんだっけ?」


二つ名ぁ?







額にしわ寄せた石榴に答えたのは カルロスだった





「魔術導師の内 飛びぬけた実力の持ち主には
二つ名がついて回る…二つ名を持つ魔術導師は
五人程と言われている」





ここで左手の義手で 口元を押さえて一旦言葉を途切り





「平たく言えば、著名な魔導師の呼称だな」







淡々と告げられた説明を聞いて、石榴が
げっ、と嫌そうな顔をしてルーデメラを見やる







「…お前って ただの腹黒魔導師じゃなかったのか」





どういう意味かな?とルーデメラが口を開きかけるが


またそれを遮るように 副船長が叫び出す





「船長!"スマイルクラッカー"なんか船に乗っけた
日にゃこの船が沈んじまいます!!
こいつら追っ払いましょう!!








必死の形相で訴えるが しかしカルロスは腕を組み思案顔





「…しかしこの者達も"コンクーアン"を追っているなら
ワザワザ乗り込んだこの船を アッサリ去るとも思えん」


いやしかしですね!何もこの船でなくたって」


「それに獲物が同じならば…むしろ旅路を
共にした方がこちらとしても好都合だろう」


「せんちょおおおおおぉぉぉぉ!!」





カルロスに縋りつきながら副船長が涙を流し

首を千切れんばかりに振って 訴えかける







…その様子をじっと見ながら ルーデメラにささやく石榴





「うーわ…お前どんだけ悪評立ってんだよ
強面の海賊にまで嫌われてんぞ」


「有名人の噂に尾ひれがついて回るのは当たり前だろ?」





しれっと言う相手の態度と、必死な副船長とを
交互に見比べ…彼の中に罪悪感がどっと芽生える





「…つか、あの副船長が言うように 怪物退治やんなら
この船じゃなくてもいいんじゃ「君に決定権はないよ





が、キッパリそう言って石榴の会話を打ち切り


ルーデメラが追い討ちとまでに容赦ない台詞を吐いた








「これ以上文句をつけるんなら、船を壊してでも
強制的に同行させるよ?








カルロスと副船長、そして石榴がルーデメラを見やると





いつの間にか彼の右手にはスイカ大の爆弾っぽいものが…







「自主的だろうと強制だろうと結果に代わりはないから
僕はどっちでもかまわないけど?





"スマイルクラッカー"と呼ばれたその二つ名に
相応しい笑みを浮かべながら


ルーデメラは駄目押しの一言まで付け加えて












やがて、諦めきったようにうな垂れながら





「……分かった "コンクーアン"を倒すまで
お前達を乗せてってやる…これでいいんだろ?」





溜息と共に副船長は言葉を搾り出した







よくできました、最初から素直にそう言えばいいんだよ」







ガックリと肩を落とした副船長の姿は、カルロスと石榴を
同情させるには十分すぎた





「いつも気苦労をかけてすまん、バンザ」


「…何つーか マジ申しわけねぇ


「い…いいって事よ……」







暗く沈んだ三人とは対照的に ニコニコ笑ったルーデメラは





「何沈んだ空気かもしだしてんのさ?幽霊みたいだよ?


と、確信的に人を逆なでする台詞を口走っていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:海の話に入ったってのに 今回どっちかっつーと
ルデが活躍してるーよ(汗)


ルデ:いいんじゃないの?僕がキャラとして
一番動かしやすいんでしょ?(ニッコリ)


狐狗狸:それはそうなんだけど…君の腹黒さは話を
根本的に破壊するって言うか、石榴が主人公としての
影薄くなるって言うか…(ゴニョゴニョ)


ルデ:だったら今からでも書き直しちゃえば?
僕が主人公に(ニヤリと黒笑み)


狐狗狸:う…うーむむ……(腕組んで悩/むな)


石榴:ちょっと待ちやがれ(勢いよく挙手)


狐狗狸:ちょっ…大きい声だしちゃだめ、前回から
後書きの船長眠ってんだから…(声潜め/何)


石榴:黙ってられるか!この話の主人公っつーのは
俺としても不本意だけど…


ルデ:だったら丁度いいじゃん主役交た


石榴:(遮って)だからってこの腹黒に話を乗っ取られたら
絶対ろくな事になんねぇから却下だ 却下!!


狐狗狸:だだだだから そんな大きい声出したらっ


船長:…うるさくて眠れやしない 騒いだのは誰だ
(殺気オーラで左手義手剣を構え/危険)


ルデ:クリス君とそこの狐だよ?(物凄いいい笑顔)




殺気だった船長に 石榴と一緒に追いかけられてるため
強制終了


次回 ルーデメラの意外な弱点が…!?
(注:この次回予告 マジで当てになりません