ラノダムークのとある海域を のんびりと
浮かんでいる船が一隻あった





青々とした空と海に 翻るのは


白ではなく、真っ黒な帆







大きな帆とマストの先にかかる旗に描かれた
海賊旗が 船の素性を物語っていた





その船の甲板では 船員達がめいめい上を
見上げてざわめいている


原因は―自分達の船のはるか上に、先程から
浮かんでいる大きな鳥のような生き物







「あの…さっきから船の上を飛んでんのは何なんです?」





船員の一人が、不安げに隣の人物に話し掛ける


筋骨隆々として浅黒くまさに海の男と言った風格が
そこはかとなく漂うその人物は、訝しげな顔で髭をなでた





「わからん…」


「も、もしかしてこの船を狙う怪物なんじゃ…」





別の船員が より不安を濃くして男に問う





「うろたえるな、例え怪物だとしても
どうと言う事はない…我等には船長がいる





船員達を落ち着かせようと 男が言葉を放った時だった


その船のはるか上空から





「ぁぁぁあああああああああああああ!






何故か少年が落下し、マストの舳先に引っかかる





全員が引きつった顔で少年を凝視した











〜No'n Future A 第八話 「眠りの海賊旗」〜











「何だこのガキ どっから出てきやがった!!







船員の一人が マストに今だ引っかかっている
少年を見上げながら叫ぶ







「連れに落とされたんだよ!頼むから早く降ろしてくれ!!







少年―石榴は手足をぶらつかせながら言う









そんな状態の石榴の横に、いつの間にか
召喚獣に乗ったルーデメラが浮かんでいた







「あはは いい具合に船に引っかかってるね〜
僕の勘とコントロールも中々捨てたもんじゃないでしょ?」


「うるせぇ もう少しで海にダイブするとこだったじゃねぇか!





上空に浮かんでいたモノが間近に来たせいか
船員達のざわめきはかなり大きな物になっていた















魔法道具の材料を早速集めようと、とある海域に出る
怪物の体液を求める為に二人は召喚獣でやってきた









「で どうやってその怪物を倒すんだよ」





目的地である海域を遥か下方に見下ろしながら
召喚獣の上で ルーデメラに問う石榴





「やっぱりおびき出して、すぐさま戦うんなら
船の上が一番手っ取り早いよね」


「そんなら船にのりゃよかったんじゃねーのか?」


「僕は余計なお金や力は使わない主義でね」







どうせ君が戦うんだし、と付け加える
ルーデメラの言葉に 石榴は軽く不条理を感じた









唯一伝説の武器を使うことの出来る石榴だが、まだ扱いに
なれないのか 戦闘時以外は殆ど発動できないようだ





おまけに 力を使用した後の体力消耗が激しいため
迂闊に戦力を使うことが出来ないのだ







そのため、必然的にルーデメラの力を借り
その分彼の言動に従わなければならなくなるのだ









(…元の世界に戻れるようになったら、
絶対ぇ一発ぶん殴ってやる





と、心の中でのみ石榴は呟き ルーデメラを睨みつ拳を握る









そんな事などお構いなしといった感じで ルーデメラが
下方に広がる海原の一点に目を留めた





「ああ、あそこに丁度よく船があるね」







ルーデメラが指差した所を、石榴は少しかがんで見下ろした







「…って あれどう見ても海賊船だろ!?











遠く離れていても 船の外観はまごう事無く海賊船









「船である事に変わりはないよ、それじゃ行っといで」







そう言うと ルーデメラは早口で呪文を唱え
石榴に術をかける







「Σちょっ、ちょっと待て!おい、こらルデっっ!!









ルーデメラの指の動きと共に 石榴は
何もない空中へと浮かされ、そして





指が勢いよく 海賊船に向かって振り下ろされた















「ほら、うるさいのが騒ぎ出してるよ〜
早く下りなよクリス君 何なら下ろしてあげるよ」





「誰のせいでこんな騒ぎになっ…っておい!
ちょっと、やめ……わーーーーーー!







マストに引っかかっているシャツの部分を外され


石榴は甲板にめり込むようにして叩きつけられた













「おーい…大丈夫かよ;」







船員達が落ちてきた石榴の周りを囲む中、


ルーデメラが召喚獣から甲板に降りると 石榴の側によってきた





慌てて彼の周りから飛び退く船員達










「クーリス君、ひょっとして死んだ?





こんなわけわかんねーファンタジー世界で死ねるかー!
いきなり落っことしやがって この緑頭!!







ひょいっと身を起こし、ルーデメラに食ってかかる石榴









「それより、お前達…何者だ?」







ケンカ腰の石榴と笑みを湛えたままのルーデメラの横に


割って入るように、男が仁王立ちで佇んでいた







「この船が海賊船"スリーパーズ"だと知っていて
乗り込んでいるのだろうな?」


「知るかんな事、文句ならコイツに言ってくれ」





睨みを利かせる男に臆する事無く 石榴はルーデメラを指す





テメェ!副船長に向かって何つー口の利き方を…!!」







船員の一人が石榴を殴りかかろうとするが、それを
男、もとい副船長が手で制し







「フム…中々度胸の据わったガキだ、だが
ここで余り騒がぬ方が良いぞ?


「そうだそうだ!船長にかかりゃ、例え魔術導師だろうが
あっという間に海の藻屑だ!!









船員の言葉に ルーデメラが眉をひとつ動かすと


早口で呪文を唱え、その船員を金縛りにした









「よく喋る口だねーいっその事カナリヤに変えてあげようか?







言いながら懐から怪しい色の薬が入ったビンを取り出す





周りの船員達は ゆっくりとそいつに近づく
ルーデメラから急いで逃げる







「オイコラ、騒ぎを余計ややこしくしてんじゃねーよ
緑頭腹黒魔導師!!






背中に浴びせられた石榴の罵声で、ルーデメラの動きが止まる









くるーりと振り向くと 影を帯びた微笑を浮かべ











「よく考えたら君の方が騒がしかったねークリス君











石榴は青ざめて甲板を走り出した







ルーデメラがそれを追い、船員達は被害に遭わぬよう
逃げ回っている











「うわっ…!」


「お似合いな位無様だよ クリス君!







足を引っ掛け つまづいた石榴目掛けて
ルーデメラが薬ビンを投げつけた







その瞬間







白銀色の残像が閃き、一瞬遅れてキン、と澄んだ音と


中の薬がパシャと甲板に染み込む音がした









ルーデメラと石榴を結ぶ直線状に、男がいた





眼帯のかかった右目と額や左頬にある傷、


目立つ赤い外套と左手の袖から見える義手の剣







…どうやら この男が薬ビンを切ったらしい











「…随分騒がしいと思ったら、誰だお前等は







男は低い声でそう言うと、群青色の左眼で
石榴とルーデメラを一瞥した









「すっスミマセン船長!お眠りの所をお起こししてしまって!!







慌てたように声を張り上げて 船長に近づく副船長







「船長って…見たまんまかよ」


「コラそこのお前!船長になんて無礼を!!





先程の威厳は何処へやら、副船長は石榴の頭を
思い切りぶん殴ると 船長に向き直り







「本当にスイマセン、さっきまでの騒ぎは
全てこいつ等のせいでして!





『そうそう、どうぞ船長のお気の澄むように
してやってください!!』








副船長の言葉に被せるように船員全員が声を張り上げる







副船長と船員達の慌てぶりに 何か恐ろしい予感を感じたらしく
慌てて弁解しようとする石榴





「ちょっちょっと待ってくれよ!
俺はただこいつに落とされただけで!


「やだなぁ クリス君、素直に魔法道具の材料集め
ために船に乗ったって言えばいいじゃないか」


「勝手な事言ってんじゃねーよ!!」







弁解する石榴の横で水を差すルーデメラ









『船長!さあどうぞお好きなように!!』





周りの船員達の叫びはどんどんヒートアップしていきー











「まぁ待てお前達」







その場に静寂をもたらしたのは、他ならぬ
船長その人だった









「よく見ればまだ子供ではないか…話を聞こうではないか」





「話をしたいなら、まず自分から名乗るのが礼儀だけどね」







ルーデメラに詰め寄る副船長を 船長は目で制す









「よかろう、私の名はカルロス この船の船長だ」









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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:新展開!つーかやっと出てこれますよ寝不足船長!
何を隠そうあと3人のスタメンのうち初めに出て来るだけあって
本当この人出したくて出したくてしょうがなかったんです!!


石榴:おい…この話は俺が主人公だぞ、一応


狐狗狸:そりゃそーだけど、ぶっちゃけノンフュ内で一番好きなのは
何気にカルロスさんだったりすんのさー!


船長:…そう言ってもらうのは 悪い気はしない(照)


石榴:起きたのかってかいつの間に;


ルデ:でも幾ら船長さんが好きだからって、睡眠の取り過ぎ
目の下の濃いクマまで似せる必要ないんじゃない?


狐狗狸:それはいわないでええぇっ 気にしてるのよー!(号泣)


石榴:それなら時間配分ちゃんと決めて早く寝りゃいいだろが


船長:…とりあえず 私は寝足りないから寝に入る
騒がしくして起こしたら殺すから、覚悟するように


石榴:って 人が真面目に言ってる側から寝に入んな!
大体カルロスお前 散々寝てただろ!


ルデ:クリス君 聞こえてないみたいだし、いい加減
船長さんにその手のお説教は無駄だって悟りなよ


狐狗狸:そうそう 下手に起こしたら半殺しにされるよ(汗苦笑)



船長が睡眠に入ったため 起こさないように静かに終了


とりあえず次からは海の話が続くと思います…まぁ頑張って
後の2人もちゃんとした形で出してあげます