強く意識を集中させ銃口を向け 石榴が吠えた





「"貫け"ぇぇ!」


発射された光は瞬時に"球"から"直線"へと変化し

壁や空間の闇を凝縮させたような異形の騎士をも
巻き込み、虚無へと戻しながら覇王へ迫る







ほう…その様な使い方が出来るとは中々面白い』





余裕を崩さず相手は 玉座の時を凍らせる


スレスレで停止した光線を避けて石榴の死角へ
回った辺りで再び世界は動き出し


光線は壁を貫き穴を穿っただけで終わった





『だが、ワシには通じぬ「ミスィルオクティア!」


並べていた口上の途中 飛来した光の帯が腕を貫き
思わず覇王は身を翻す





「さすがのアンタでもコレなら通じるでしょ?
僕もいるってこと忘れないように!」


『ぐっ…やるではないか子孫!


僅かに顔を歪めながらも、煙を上げる片腕を
振り払うようにルーデメラへ向けた





残っていた騎士達が一旦闇へと融け戻り


瞬く間に彼の周囲の床から生えるように具現化するが





「レイズトフライアス!!」





呪文と同時に手の平から頭上へ放出された炎が

空中で急激に膨れ上がると、放射線状に散って
一直線に異形の影を次々貫き焼いていく


息つく間も無く凄まじい火柱を突き抜け覇王の爪が迫る


が、それよりも石榴の行動が早かった





「"一斉掃射"っ!」


床スレスレの低空に放たれた弾丸が直前で無数に分裂し


それぞれ三日月型を象って、相手の領空全てを
隙間無く取り囲んで砲撃する





『ぬぅん!』





しかし覇王は手元に闇を具現化し

一振りの剣の体裁を持たせると 信じられない速度
迫る弾丸を全て叩き落し蹴散らした





げ、アイツまた急に素早く動きやがった!」


『違う 貴様の弾を遅くしたのだ





術の特性を理解した瞬間、周囲の時を遅延させ

生み出した剣でことごとくを切り伏せたらしい











〜No'n Future A 第六十三話「悪意終焉6」〜











『時間差に包囲の術か…中々考えたではないか
だがそんなものでは我が力に及ばぬ!!


剣を振りかざす動きに身構えた刹那

すかさず時を止めた覇王は、手にした闇を
一直線に石榴へ投げ放つ





彼の眼前の中空で止まった剣を見やったのち


『まずは一匹…』





留めていた時が再び動きを始め、石榴は
唐突に現れ突進する剣先に瞠目し





「ディヴォラディン!」


咄嗟に放ったルーデメラの雷撃が寸前で
剣を迎撃したお陰で 彼は串刺しを免れる





「くそっ、時間操作なんざデタラメ過ぎだろ!
これだからファンタジーはぁぁぁ!!


「何、そうヤケになる事も無いさクリス君」


『ほう…この期に及んでまだ足掻くか子孫よ』


「確かに時間を操られるのは厄介だ…でもそれは
あくまで限られた範囲と間隔の話だろう?」





指摘され、相手は忌々しげに眉根を寄せる







滅ぶ寸前だった覇王が時神を依代と出来たのも
元々は瀕死の体だったからであり


裏を返せば神もまた力を失い消えかけていた





つまり…完全に"時神"としての力を戻すまで

時を操る力も 不完全なままなのだ







『それが…どうしたというのだ!』





せせら笑い、下僕を生む覇王に対し





「イリュードフェメノス!」


彼は自ら得意とする幻術を持って答えた





空間が捻じ曲がるような錯覚と共に、室内に
石榴とルーデメラの姿が何十人と現れ


それぞれが玉座中に散らばりながら個別の行動を行う





『小賢しい真似を…一つ一つ潰して幻ごと
貴様らを虚無へ還してくれようぞ!』






異形の影達と禍々しき王者が手当たり次第に彼らを襲い


反撃に合いながらも、幾人もを引き裂き貫き押し潰して
偽りの存在を消してゆく







次々に減る分身達を見つめつつ石榴は叫ぶ





「おいルデ、本当にアイツを倒す方法なんてあんのか!?」


あるじゃない 神話と僕のご先祖様が
効果を保障してくれてる方法がたった一つ」





側にて笑うルーデメラが示す言葉の意図は明白

石榴も彼が何をするつもりか大まかには理解した





即ち―古代封印魔法エターナリティエンドの施行





「でも封印魔法って…不完全で終わったんじゃ」


「彼の失敗は魔術銃も併用しなきゃならず
また、奴の力を完全に把握してなかったからだよ

…逆に言えば 僕なら封印魔法を完璧に発動できる





皮肉交じりに笑う彼へ 石榴はただこう問いかける





「俺は……何をすればいい?」


「…封印魔法は術者の魔力の全てを引き換えに発動する
おまけに、かける相手の身体へ触れなければならない」


一発勝負か…何気に難易度もバカ高ぇ」


「仮にも伝説級の魔法だもの 合図をしたら
呪文を唱え始めるから…後は分かってるね?





チラリと差し向けられた蒼眼は、これまでの旅で
幾度と無く見慣れたモノだったので


半ば諦観しつつも石榴は…いつもの様に笑った





「へいへい、精々がんばってあの野郎の注意
引きつけとくから 死ぬ前に済ませてくれよ?


「任せたよ」


『そこにいたか貴様ら!!』


横から薙ぎ払う一撃が彼らへと繰り出されるが

スレスレの所で身を伏せて回避する


同時にルーデメラが丸い弾を床へ叩きつけ
距離を取りつつ詠唱を始めた





一瞬にして辺りへ紫色の濃い煙幕が広がるが





『こんな煙が効くものか!』


かざした白骨色の腕から豪風が呼び起こされ





煙を巻き上げながら吹き荒れて、幻影のほとんどを
壁や床へ叩きつけて消滅していく


直後 ライフルに似た鋭い弾丸が凶悪な風に逆い進み


覇王は時を早めて ギリギリで攻撃を回避する





「テメェの相手は俺がしてやるよ、デカブツ!」


『付け上がるな小僧!ワシの糧の分際で!!』





挑発する石榴へ激昂し 覇王が恐ろしい咆哮を上げた









……奥深くの玉座で行われている激戦を思い


暗雲と瘴気の立ち込める闇色の城を見上げながら





「…あの二人 もどってくるかニャ」


不安げに耳を下げてシャムが呟く







その側に寄り添い、同じ様に城へ視線を注ぎ





「大丈夫ですよシャム君」


「きっと帰ってくるさ、何故なら」





シュドとカルロスは柔らかく笑って答える





「「(僕・私)達は仲間(です・だ)から」」







彼もまた ニッと笑って頷いた









闇色の壁や床 柱のあちこちが無残に崩れ

玉座が元々の華々しい外見を留めなくなっても





『しぶといではないか…下等な人間風情が生意気に


「長ぇ旅路のおかげで、頑丈さにゃ自信アリだぜ」





尚平然と振舞い続ける覇王の猛攻を避け続けながら
強気に言い放つ石榴だが


いくつかかわしきれずに食らった攻撃に足はふらつき

顔には冷や汗が幾筋も伝っている





「くそっ、まだかよルデ…!







幻術で作り出されていた石榴の分身は既に全て消され

ルーデメラの分身も残り少なく消滅は秒読み





「アンスル、ウンジョ、カノ、ハグァラズ…」





その内の一体は 硬く眼を閉じ未だに呪文を唱えたままで


そちらへ照準を定める騎士達の攻撃はバリアーで
辛うじて弾かれてはいるものの限界が近い





『そろそろ貴様に終わりをくれてやろう…』





パチン、と鳴らされた指を合図に騎士達が砕け散り
伸ばした覇王の手に巨大な槍が握られる


持ち上がるそれを防ぐべく防御壁を生み出す石榴







…が、予想を裏切って槍は天空へと放られ


無数に分裂し黒色の雨として降り注ぎ





―"ルーデメラ"の姿を全て貫いた







「な……そんなっ、ルデ!!


バリアーを貫通し…ゆっくりと倒れる彼へ


駆け寄るよりも早く、闇色の槌が下ろされ
石榴は呆然と立ち尽くす






その隙を 奴は当然見逃さない





『貴様らの企みなどお見通しだ!』





今までの礼とばかりに力を振るい石榴を痛めつけ
床へと引き倒した覇王は

足に力を込めて骨を軋ませ、肋骨を折る


「ぐ…が、ぁ…!


『てこずらせておって…これで終わりだ





苦悶の表情を浮かべる彼を虐げる足元から
滲む闇がその身体を取り巻き、徐々に浸透していく





「や…やめろっ、やめろぉぉぉぉ!!





もがく石榴へ覇王は愉悦の笑みを浮かべ







次の瞬間それは 後頭部からの派手な爆音と
閃光によって驚愕へと変わった






『な…っ!?』





気の緩んだ一瞬、石榴が弾丸を打ち出す





「は…"爆ぜろ"ぉぉっ!!


必死の一撃は見事顔面に直撃し


狂い悶える覇王の足下からどうにか抜け出し

石榴は取り込まれるのを瀬戸際で防いだ





グオォォッ…き、貴様ァァァ!!


牙を剥き出し 吼えた覇王が両腕を恐ろしい勢いで
振り下ろして石榴を捉えんとして





―背の部分に触れられている気配を感じた刹那







「悠久の時よ、彼の者を縛れ…
エターナリティエンド!」






唱えられた術が その手の平を通して奔り

紫色の閃光が数秒ほど覇王の身体を駆け巡る








『ば…バカな、バカなァァァァ!!





身を翻し様に薙ぎ払われる爪を避け


少し離れた空間に、"空気の覆いを剥がしたように"
表れたのは他の誰でもない…ルーデメラ





『貴様は、貴様は確かに殺したはず…!』


「理解力の無いバカは嫌いだよ…僕の二つ名は?


『"夢幻の使者"…ではアレは!


「そう全部囮さ、踊ってくれてご苦労様」





視界から姿が消え、意識が逸れたあの時


彼は生み出した幻術の分身とバリアーを囮に使い
魔法道具で姿を隠し…呪文を完成させた





「後は隙を突いて近づいて終わりってワケ
アンタはもう、ただの馬鹿力の魔物同然さ!


『正直ここまでやるとはな…だが疲弊しきった
貴様らに、最早ワシを倒す手など存在せんわ!!



不敵に笑うルーデメラを引き千切らんと 足に
力を込めて床を蹴り瞬時に覇王は距離を埋める





「"神の紡ぎ糸 捕縛の鎖 礎を絡めとれ"!」


しかし、引き絞られた腕の一撃は

投げつけられたコインから飛び出す光の網
二メートルほどの総身を絡められて封じられた







「魔術導師たる者、魔力が切れた際の供えは
怠らずってね…今だよ石榴!





叫ぶ彼に答えるように 石榴は身体を起こすと





「えっ…らそうに、指図すんな、ルーデメラ!





赫眼を輝かせ足掻く覇王へ、より強く光る赫眼に
力を込めて睨みつけ 魔術銃の照準を合わせた






『たかだか糧の人間なんぞにワシが、

この覇王がァァァァァ!』



「うるせぇバーカ、テメェなんかとっとと滅却ろ!





発射された最大級の弾丸が 紅蓮の輝きを帯びて

覇王の巨体を包み込んで爆ぜた








『グオアアァァァァァァァァァァ!!』







壮絶な断末魔が玉座を越え城を超えて島中に響き渡り





二人の視界は、真っ白に染まった…








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:覇王との死闘、これにて終結です
…後はお話の総まとめと幕引きを残すのみです


石榴:幻覚についてはどうこう言わねーが…
姿を隠した道具については伏線、殆ど無くねぇか?


ルデ:そう?透明化の出来るザックを作れるなら
それの応用品くらいは簡単だと思わない?


狐狗狸:単純に"透明マント"みたいなシロモノだと
思ってくれればそれで万事解決します


シュド:あの…ルーデメラさんは封印魔法で魔力を
全て使い果たしてしまったんですよね?


ルデ:ああ、"光使の投網"は先に魔力を充填して
いつでも発動可能にしておいたんだよ


石榴:また都合のいいコトを…まあいいけどよ


カルロス:…ところで、前回語られた勇者と覇王の話だが
あの時も勇者は魔力を使い果たしていたハズだよな?


シャム:そ、そーニャ!なのにニャんで魔術銃が
うてたんだニャ!おかしーニャ!!


狐狗狸:あの時は…融合してた覇王の魔力と自らの命
力として撃ったってコトだと思います 多分




残り二話で終わればいいな…ああでもやっぱり
終わってほしくないかも(どっちだよ!)


激闘が終わり、目を開けた二人がいたのは