しばらくの間、驚きも露わに黙ったままで
視線を相手へ硬直させていたけれど





歩み寄る彼の 見覚えのある笑みを認めると


ようやく石榴も…待ち侘びたように笑み返す





「……ったく遅ぇんだよ
どこで道草食ってやがった、ルデ


ゴメンね あのバカ来るの遅くてさ」


肩を竦め、ため息混じりに小さく呟き返す
ルーデメラの声音もまた、幾分和らいでいた







―時は石榴達がラグダス島へ到着した辺りまで遡る





「…自らオレを呼ぶとはいい度胸だな
そんなに死にてぇのか?


宿敵を見つけ、短刀片手に凄みのある笑みを
浮かべるルチルに対しても





「救いようの無い方向音痴だからワザワザここまで
導いてあげたってのに…どれだけ待たす気?」





淡々とした表情のまま、慌てず騒がず
嫌味を一発かますルーデメラ





いつもの憎らしい笑みも気配も無い事に
若干違和感を覚えたものの


その程度で萎える程軽い殺意や闘争心など

ルチルは端から持ち合わせていない





「その憎まれ口も二度と聞けねぇとなると寂しいぜ
安心しろ、テメェもアイツと同じ地獄に」



「生憎僕には用事がある…早い所この子を
預かっておいてくれないかな?」





手と言葉で相手を制し、彼が背後を示せば


そこには仰向けのまま眠るハーメリアが





瞬間 蒼い双眸が驚きに見開かれて


「て、テメェ…ハーメリアに何しやがった!?





強烈な殺意を宿らせ、一瞬の内に距離を詰めて

胸倉を掴んだルチルが糾弾する





だが、ルーデメラは眉一つ動かさず返す





「その少ない脳味噌で思い出してごらんよ

僕がメリーに何かするほど堕ちた奴だと思ってる?





視線がしばしの合間、ぶつかって…







ルチルが掴んでいた手を乱暴に離す





「テメェは最低のクソ兄貴だ、その面見ると
グチャグチャにぶち殺したくなるほどのな」


「その言葉そのままお返しするよ」





だが怒りの混じる瞳が 静かに寝息を立てている
ハーメリアに向けられた瞬間


少しだけ…ほんの少しだけ、優しげに緩んだ





「でも、こいつを傷つけるような真似だけはしねぇ」


「そこだけは 僕らの唯一分かり合えてる部分だね」











〜No'n Future A 第六十二話「悪意終焉5」〜











渋々同意し、眉根をしかめて彼は問いかける





「で、オレとの殺り合いもハーメリアも
放ってまでの"用事"とやらは何なんだよ?」


「…詳しい事を話す時間はないけど、僕は彼らを
助けに行かなきゃいけないんだ」


「彼らって…あの愉快な仲間どもの事かよ」


こくり、と一度だけ頷いてから





「だから…代わりにハーメリアを護って欲しい」





真剣な顔つきでルーデメラがそう言ったので

ルチルは二度目の衝撃を受けた





「おいテメェ本当にあのルーデメラか?
その言葉っまるで…!


「本物だよ、冗談を言ったつもりも無い…頼む





生まれて初めて託された"信頼"と"頼み"に
罠の可能性を強く疑っていたけれども


突っぱねるにはあまりにも…兄の瞳は真摯過ぎた







チッ、と舌打ちを一つして斑に金髪の入った
銀髪を掻きつつ彼は 短剣を相手の足元へと投げ刺し


こんこんと眠るハーメリアの横にドカリと座り込む





「……今だけは ぶっ殺すのを延期してやらぁ

どこにでも行けクソ兄貴





不機嫌ながらも頼みを承諾したその態度に

ようやくルーデメラも、普段の不敵な笑みを取り戻す





「そこで大人しく待ってなよルチル
必ず戻って、今度こそお前を返り討ちしてやるから」











…そんな経緯を経て、召喚獣で大空を駆け
彼は一気にラグダス島まで辿りつき


「君達の危機を救ってみせた…ってワケ!





語りを終えつつルーデメラが手を振り上げれば


背後から突進し、飛び上がったグリフィクスが

何らかの動作を起こそうとしていた覇王を阻む





『ぐっ…!』





時を繰り 突進や爪の一撃をかわすも


合成獣であっても上位魔獣としての能力が
変わらぬグリフィクスは忠実に主を護り続ける為





覇王はしばしの合間、二人への手出しを中断される







「さて、少しの間は時間が稼げそうだ…」





その一言が流れ込んだ所で


置いて来た仲間達の事を思い出した石榴が
痛む身体にも構わず詰め寄った





っおいルデ!シャムとカルロスと…それに
シュドは無事だったか!?あいつらムグッ


「クーリス君 人の話聞いてた?
言ったろ、"君達の危機を救った"って」


途中で口を塞がれ少しばかり眉が釣り上がるが


弧を描く彼の口端を見て取り、たちまちの内に
その顔が希望に輝く





「って事は…あいつら助けてくれたんだな!


「当たり前じゃない、彼らだって僕と君の旅に
付き合ってくれてた"仲間"なんだから」







危機に瀕していた際に現れた魔術導師の術が





地を潜る竜の頭を砕いて盗賊の少年を救い


一つ目巨人の怪力により、劣勢を強いられた
隻眼の剣士を勝利へと導き


石像へと代わりつつあった少年の呪いを解いた





けれど…流石に負傷も多く疲弊した状態の
仲間を連れて行くわけにもいかず





「僕かクリス君が戻るまで安全な場所に
避難してて…必ず、決着つけて戻るからさ」






それだけを約束し 三人を城から遠ざけさせた







話を聞き…安心すると共に僅かな疑問が
石榴の中に振って沸く





「待てよルデ、他の二人はとにかくとして
シュドの呪いはどうやって解いたんだよ?」


「その種明かしは今するのさ、君の怪我も
治すつもりだったからね…出ておいで





ささやきに、ルーデメラの背後の空間が

否、透明化していた荷物入れの一つが
小さく震えて"何か"が飛び出す


それは闇を圧しのけ純白に輝く…鳥に似た生物





「この鳥っぽいの…お前の召喚獣なのか?」


「そう "ライティスフライヤー"…白神の使いでも
下位だけど 大概の傷や呪いを消し去る力を持つんだ」


言うルーデメラに反応し 白き鳥は傷だらけの
石榴の周りをふわりふわりと舞う


その軌道によって生まれた柔らかな光が身体を包み…





「…本当だ、傷が消えた





光と鳥とが消え去った後、彼の身体からは
すっかり傷が消え去っていた







それを合図に甲高い叫び声と形容しがたい打突音が響き


二人の目の前に ボロボロになったグリフィクス

重い音を立てて倒れ付す





『この程度の魔獣でワシを阻めるとでも思うたか…
甘いわ、メードラルの子孫よ!





長い棒状の闇としか見えない物体を手に嘲笑う覇王へ


ルーデメラは傷ついた召喚獣を帰還させつつ返す





思ってないけど?それといい加減さ
僕の古臭い祖先の名前持ち出すの止めてくれる?」


『ほう…ならば姿ならよいのか?』


呟いた途端、覇王の手に握られていた闇が
縮んで…見る間に形を変えていく





程なくしてそこに現れたのは


「あ…アイツっ、あの港町にいた…!


「いいやクリス君 アレこそがかつての
伝説の勇者…メードラル=シートルーグイさ」





みすぼらしいローブに身を包んだ、一人の男





そうとも、懐かしかろう子孫よ…出会いし頃
貴様へ預言として命じた言葉の数々が』


「勘違いしないでよ 僕はあの時も今も…
自らの意志に乗っ取って行動している」






眇めた視線に物騒なモノを感じ取りつつも


低く哄笑を漏らし覇王は、手の中の幻像を
ぐしゃりと握り潰して闇へと還す





どういう事だよテメェ さっきから俺の魂に
半分テメェの力があるだの言っといて
この上更にコイツの先祖も操ってんのか!?」


『それは違うな、今やメードラルの力は
ワシと同化し…もはや同一の存在となったのだ!』



意味が分かんねぇ…!大体テメェは昔その
勇者って奴に倒されたんじゃなかったのかよ!!」





思考停止寸前に陥りかけた石榴へ





「そのハズだったんだけど…仕損じたのかもね」


淡々と、ルーデメラが言葉を返す





「あの神話にはね…僕の一族だけに伝わる
呪文と 続きが存在するんだよ」


「続き…?」


頷いて口を開きかけた彼を手で押し止め





『その先は、ワシが語ってやろうぞ…』





冥土の土産とばかりに、闇の城の主が
遥か昔の過去を紡ぎ出す









……覇王を滅するべく 神が勇者に与えたのは
使命と神器だけではなかった





古代封印魔法―エターナリティエンド―


神から伝授されたその術は、大きな代償と
引き換えに対象者の力を全て封じる






その二つが覇王を追い詰め打ち滅ぼした…筈だった







『奴の術が不完全で無ければ、ワシはあの時
この世界から滅び去っていたであろうな』






止めを刺しきれず、不意を突かれた勇者は

覇王に我が身を乗っ取られてしまった







「…平和になった島の、城のあった跡地には
冷たくなった勇者の骸が転がっていた」


「じゃあ そいつは自分で…!?」


『そう、メードラルはワシの意志を振りきり
銃を自らの身へ打ち込み 果てたのだ





己の命を引き換えにしてまでの攻撃へ


彼の力を奪ったとはいえ、本格的に
滅ぶ寸前まで追い込まれた覇王は


消え去りかけていた魂を二つへと分けた







―取り込んだ力と記憶の一部が、異空間の壁を
越えて石榴へと転生し


―残った力の一部と記憶全ては 異界の時神

"ラクリィミィロワー"へと受け継がれた








『そうしてワシは再び君臨する為、残りの半身と
勇者の力を安定させる為の子孫の血と…

何よりも 強大な力を欲した









ジロリ、と見下ろす赫眼にさらされながら





「…なるほど、大体事情は飲み込めてきたぜ」


「迷惑な話だね 大昔の闇属性程度の魔族
ズイブンと出張ってくれるじゃないか」





話によって彼らの中で数々の疑問が氷解した







異世界にいた石榴をラノダムークへと呼んだ"存在"


勇者でない筈の彼が魔術銃を扱えた理由や
銃を使う際に"赫く"変わる瞳


一介の高校生には出来ない筈の芸当も


時折、ちょっかいをかけて来た魔物達の行動も

それが全て答えとなる







「古い伝承の再来をしたいが為に、魔物を操り
負の力を取り込む一方 僕らを見張ってたワケか」


『ご名答…貴様らはワシの糧となるべくして
力を着けながら、ここまでやって来たワケだ』






音もなく手を上げた覇王の周囲から


漆黒が滲んでわだかまり…心無き騎士が生み出される







さあ昔話も終わりだ…大人しく我が糧となれば
せめて意識は遺してやろう』


次々と影の騎士を具現化しながら、一際強く
赫眼を輝かせながら重厚な声が振る





それともワシを滅ぼしてみるか?

…もっとも、神の力を手にしたワシに勝とうなど
土台無理な相談だろうがな!』






かつてラノダムークの全ての生きとし生けるものを
恐怖で震え上がらせた圧倒的存在感を前に





二人は迷うことなく、魔力の球を叩き込む







具現化された闇色の盾で防ぎ 顔面を歪め
見下ろした覇王の視線の先には





「高々ファンタジーの魔王のクセにざけてんじゃねぇぞ

テメェの魂が混じってようが 俺は自分の運命ぐらい
自分で切り開いて生きてやらぁ!



クリス君の意見に賛成だね 僕もアンタみたいな
死にぞこないに従う気なんて更々無いよ!」





しっかりと自らを睨み返す、蒼と赫の瞳があった





『ほう…ならば二度と這い上がれぬよう
絶望を味あわせてやろう、来るがいい!!






今ここに "第二の聖戦"の鐘が打ち降ろされた








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:さて、大まかな伏線も全部引っ張り出したし
次回辺りは流石に覇王とのラストバトル入りまーす


ルデ:予定では それも含めて三話くらい
終わらすつもりだっけ?


石榴:…終わるのか?三話


狐狗狸:……少なくとも年内には決着つけたい


石榴:しかし本編が終了したら、オリジ話は
これで終わっちまうのか?いよいよ


ルデ:それはどうだろうね 決定するのは
まだ早いんでないかなクリス君


石榴:…え、懲りずにまだ続くのか?第二部とか
続編とか言って


ルデ:いやいや、流石にそれはやらないだろうけど
短編とか番外とか あと別の話とか作ったりして
コンテンツ継続はしそうだよ?バ管理人は


狐狗狸:ちょっとぉぉ!内部事情でなくて
話の内容を語ってくださいよ!!(涙目)


二人:やかまし黙れバ管理人


狐狗狸:(/△;)




何はともあれ年内終了に向けて怒涛の展開を
書ききれるように気合入れ直しときます


二人の勇者が、蘇りし覇王へ立ち向かう!