取り囲む五人は悲しげに見下ろし
ハーメリアはボロボロと悔恨の涙を流す





「ごめんなさいシャム様 わたくしのせいで!」


「いいニャ…オイラ…
コウカイ、してニャい…ニャ」


引きつったように口を歪めて笑い





「みんニャとの…タビ…たのし…か…」





か細くなっていく声がふつりと途切れ


静かに…シャムが目を閉じた







何よりも重い沈黙が じわじわと五人を侵して行く





「オィ嘘だろ…そんな笑えねぇ冗談、やめろよ」





言葉をかける石榴だが答えは返らず


場の空気はただただ重くなるばかり







目の前のことが信じられない、と言いたげに





笑みを浮かべて必死に彼は言葉を紡ぐ





「どうせファンタジーなんだから死人を
復活させる術くらいあるんだろ?なあ」


「石榴さん…申し訳ないですけど…」


「気にすんなよシュド お前は悪くねぇよ
まだまだ修行中だから術を知らないだけだよな?」


石榴…魔術は確かに万能に見えるが
死者を甦らせる呪文は、存在しない」


「っおいルデ!この際お前のデタラメな発明や
召喚獣でも何でもいい!貸しも必要なだけ払う
だから…だから……!!


「クリス君、悪いけどこれが現実だよ」





語る言葉を無くして沈黙が戻り





「わたくしの…わたくしのせいで…!


さめざめと泣くハーメリアの声だけが
彼らの心へと突き刺さる







「……こんな終わりがあってたまるか」





低く 吐き捨てるように石榴が言うと
魔術銃の銃口をシャムへと向ける












〜No'n Future A 第五十五話「悪意感染3」〜











驚き、或いはその行動が理解できず


また或いは行動自体を止めさせようと
四人は思い思いの動きをするけれど







「もう、もうこれ以上…
俺の目の前で誰かを死なせてたまるか!」






そんな周囲の様子など解する事無く


血のように赫い目に 決意を宿して






「生き返れ シャム!」


石榴は魔術銃の引き金を引き絞った







撃ち込まれた弾丸は、今まで見たことの無い
不思議な色合いをしていた





虹を閉じ込めたような七色の―


宝珠の状態の魔術銃に酷似した光球
血に塗れて力無く伏せるシャムの身体を包み





光が徐々に 吸い込まれるようにして浸透していく







……輝きが収まった後


閉ざされていたまぶたが、ひどくゆっくりと
押し上げられていく





「え……オイラ…生きてるニャ?





普段と変わらぬ調子で身を起こしたシャムを


石榴以外の人間が放心したように見つめ返す





「シャム君…身体の具合は大丈夫なんですか!?」


「う、うん、自分でもフシギだけど…
ニャんか…ニャんともないみたい」


答えながらシャムは手を握ったり解いたりを繰り返し

刺されていた傷口を軽くまさぐって
うっすらとしか残っていない跡を確かめる







安堵の微笑を称えたカルロスが、オレンジ色の髪を
慈愛を込めてくしゃりと撫でる





「そうか、あまり無茶はするな…それと
石榴に礼を言っておいてやれ」


「うん…ありがとニャ、石榴





礼を受け取った赫眼の少年は…まなじりに溜めた
涙を隠そうともしないままで微笑んだ





「よかった…本当によかった」





釣られる様に笑うハーメリアにハンカチを渡しつつ





「今回ばかりは少し君の事を見直したよ
…やるじゃないか、クリス君」





呟いたルーデメラは柔らかに苦笑してみせた







「相手を復活させる弾丸まで創れるなんて…
スゴイですね石榴さんって」


「ああ、大した奴だ」


「よ…寄せよ、そんな褒めたって何もでねぇぞ」


「目だけじゃなくカオまで赤くニャったニャ〜」


「おまっ…復活した途端に調子コキやがって!」


茶化した相手を軽く小突こうと歩み寄る石榴







重たかった沈黙が反転し、明るい一団に
戻った旅の衆の様子を微笑ましげに見つめる内…





「…あーーーーーーーー!!


悲鳴じみた大声が辺りをつんざく





「なっ…何だよいきなり」


「どうかされたのか?ハーメリア嬢」







全員の畏怖と緊張の視線に晒されながらも


構わず震える指でハーメリアは、石榴の手にした
魔術銃を指し示した





「あなた…あなた様がどうして
魔術銃を持っていらっしゃるのですか!?」






銃に目をやり"何だそんなことか"と言いたげに
小さく息をついてから

左手で後ろ頭を掻きつつ彼は答える





「あー、ちっと面倒な事情があってな」


「しかもその赫い目…ううん、それよりもどうして
異界人のあなたがその銃を使えるんですか?」





説明に窮し、問われた当人は仲間に視線で助け舟を求め

近くにいたシャムとシュドがこくりと頷く





「よくわからニャいけど、今のところ
この銃を使えるの石榴だけニャんだよニャ」


「ええ…不思議ではありますけれども
魔術銃を発動できるのは石榴さんだけなんです」





両者の告げる事実に しかし相手は納得が
いかない様子でふるふると首を横に振る





「そんな事…ありえませんわ!
だってこの銃は元々、ルーデメラ様の」

「メリー」





発せられたただ一言が彼女の口を塞ぐ







「君と泥棒猫君は、一度は瀕死に陥った身だ
少し休んだ方がいい」





続けられたルーデメラの言葉は柔らかで
耳障りがとてもよく、表情に合わせてあったが


ついさっき浮かべた苦笑に比べて
微かな違和感があった





それに気付く間も指摘する隙も与えぬかのごとく


彼は仲間達を更に促していく





「さぁ、拠点に戻ろう…天使君においしい料理を
作ってもらわなくっちゃね」


「お、おいルデ、取られた宝珠はどうすんだよ」


まずは二人の回復が先だろう?取り返す算段も
立てていくのもあるし、少し落ち着く事も必要だよ」


「そ…そうですね」





並べられた正論に彼らは渋々と移動を始める







が、どうも納得できない石榴が彼女へ歩み寄り
声を潜めて訊ねた







「なぁ…さっきの続きって何だったんだよ?」


「それは…あの…」





チラチラと自分に目をやり、俯いて言葉を濁す
ハーメリアに気がついて


尚も口を開きかけた彼を制してルーデメラが言う





クリス君?無理に答えさせないの
再三言うけどメリーは復活したてなんだから」





有無を言わせない妙な強さを持った言葉に







「答えづらいのならばその問い、私が代わりに
口にしてやろう」







異議を唱えたのは…石榴ではなくカルロス





「え…か、カルロス?」


「…勝手な真似は止めてくれないかな?船長さん」


「悪いが、脅しに屈する気は無い」





冷気を孕んだ蒼い視線を受け止め、当人は
静かに言葉を紡いでゆく





「シートルーグイの名は聞いたことがあった…
古い伝説には詳しくてな」





足を止めた全員が注目する中





静謐な色を称えた群青の瞳がすぅっと眇められた







「ルーデメラ お前は勇者の子孫だろう


「「「え…ええええええええええ!?」」」





三人が生まれた中で一番の驚愕面をぶらさげて
ルーデメラを中心に数歩後退さる





「るるる、ルデメがユウシャの?う、ウソ〜!!


おいカルロス!それってマジなのかよ!?」


「本当なんですか…ルーデメラさん?」







珍しく眉間にシワを寄せて





「…はーあ、とうとうバレちゃった
仕方がないから教えてあげるよ」





大きく息をついて 両手を広げたルーデメラが
もっともらしく答え出す





「僕の家系は、覇王を倒した勇者"メードラル"様の
由緒正しい血を受け継いだかび臭い歴史があってね
…ソレに縋って成り立ってる腐れ貴族の一族なんだ」







淡々と、他人事のように突き放した言葉が
刺を含んで淀みなく流れていく





「頭まで勇者信仰にどっぷりの親達は揃って
一族の人間を"勇者"にしようと血眼でさ

とりわけウチの親父は騎士上がりだけあって
頑固さだけは一級品だったよ」


そんな!旦那様は立派な騎士団長で
名誉の戦死をされた、高潔なお方でしたのに…」


「外面はね でも僕にとってはアイツも
奴もあの女も…みんな殺してやりたかったさ」





浮かべた笑みは無邪気と冷酷が同居した 正に"嘲笑"





「生まれた時から僕は勇者、アイツは支えの
僧侶として育てられた…奴が死ぬまでずーっと


「まさか…それがお嫌で家出を…?」


「正直、天使君が羨ましかったね
煩わしい親がいないし…家族の人はきちんと
君の事を"子供"として大事にしていた」


「ルデメだっていいウチに生まれたんニャら
ダイジにされてたんじゃニャいニョか…?」


「大切にされてたさ、"世界を救う勇者"という
体裁と虚栄を背負った駒の一つとしてね」





楽しげに放たれる皮肉は、居並ぶ面々の心に
鋭い針として深く長く突き刺さってゆく







「その生活に嫌気が差して、魔術銃を
持ち出して家出をしたというのか?」


半分正解ってトコかな…船長さん」


「何だよ半分って…お前、一体何考えてんだ」





確信に触れない相手への不信を露に
荒々しく問う石榴へ







「悪いけど僕の本当の目的は、時空魔法
ミッシンガルティモルを行うことじゃないんだ」





返された言葉は 完膚なきまでに
これまでの旅路を全否定していて


四人がその事実を飲み込むまでにしばしかかった





「なっ…話が違うじゃねぇか!





真っ先に我に返った石榴が、怒りに任せて
胸倉掴みかかろうとするのを寸前で押し留め





「心配しなくても望み通り…君にこの世界から
おさらばさせてあげるよ!」





言いながら ルーデメラが不意打ちで


問答無用の蹴りを鳩尾に向けて放つ





「ごはっ…!?」


痛みに身体を曲げながらも
大きく距離を開けて飛んだ彼へ

容赦のない薬品と爆弾の嵐が降り注ぎ


そのまま立て続けに唱えた呪文の攻撃が
着弾し、派手な音と光と煙を上げる






あまりにも唐突過ぎる出来事に

四人は動き出す間も止める間もなく立ち尽くす







攻撃の手が一旦納まり


煙が晴れて彼等が見たのは―





「…何のつもりだ ルデ!」





光る防御壁の中に佇む 無傷の石榴








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:石榴の決死の想い(?)によりシャム復活!
そしてついに語られるルーデメラの過去〜


石榴:自分でやっといてなんだが…傷まで回復って
デタラメな弾丸だな アレ


シャム:まーいいじゃニャいか おかげで
オイラ助かったんだしっもーけもーけ♪


シュド:けれど…よくルーデメラさんが勇者様の
子孫だなんてご存知でしたね


カルロス:古い伝記には興味があってな…
稀に勇者の名が記されてるモノもあるんだ


狐狗狸:おお〜流石はカルロス船長!博学!


ハーメリア:でも…ルーデメラ様があんなに
冷たい態度を取られるなんて…


狐狗狸:その辺りの原因は、次回くらいに分かりますよ




まさかの連続シリアス展開…こっから色々と大掛かりな
伏線回収を行っていく(予定)です!


次回 命懸けの"ケンカ"が幕を開ける!