荒野を後にした五人は勢いに乗って
アダマス大陸を横断し





幾つかの島や大陸を挟みながら素材を集め…







「今までお疲れ様みんな
お陰さまで ようやく全ての材料が揃ったよ





ラピス大陸のレオパード半島にかかる雑木林の中


うっすらと潮風を帯びた曇り交じりの日差しの下で





静かに発されたルーデメラの第一声は
旅の目的が達された喜びを滲ませていた





マジか!っしゃああああ!!
したらすぐにでも魔法道具とやらを作ってくれ!!」



「言われなくてもそうするさ」





しかし喜び沸き立つ石榴と


早速道具類を用意し座り込む
彼の間には圧倒的な温度差が生まれている





「ニャんかルデメの応対、そっけニャい…
もーちょっとオイラたちを労ってくれてもー…」


「いいではないか 石榴があんなに喜んでいるし」





微笑むカルロスの呟きを追うように


何かが崩れ落ちるような音が、遠くから
空気を震わせ辺りへと轟く





「あの…ルチルさんに見つかる前に
ここから離れた方がよいのでは…」


「大丈夫だよ天使君、アイツ極度の方向音痴だから
手を引く奴さえいなきゃ顔をあわせることも無い」


「そーそーアイツが近づいて来てたら
イヤでも分かるからな、音で





再び音が距離を置いて鳴り響き


これまた合わせたようなタイミングで
雑木林の遠くに見える山から、細い煙が立ち昇った





「…今日は昨日とは反対のホーガクからニャ」


人間狼煙だな、アレでは」


「上手いコト言うね船長さん」





目の上に右手を当てて煙を眺めるカルロスへ
楽しげな笑いが向けられた







魔物に邪魔されぬよう張り巡らされた結界の内部で


怪しげな光や煙がたびたび起こり、それに
四人が驚いたりちょくちょく咽る一幕があったが





空の縁が茜から藍へ染まる間際の虹彩を表し





木々に囲まれた現在地が薄闇へと包まれた頃







「出来た…ついに完成した!!





ルーデメラが珍しく 嬉しそうに叫んでみせた





「本当か!?」


「ぜひとも見せてください!」





この時ばかりは四人とも興味の色を露にして
出来上がった完成品を見物しようと歩み寄る











〜No'n Future A 第五十三話「悪意感染1」〜











決して短くは無かった旅と、苦労の末に
手にしてきた素材の数々を使い





様々な精製の過程を経て


幾重にも厳重に文字が引かれた魔法陣の
中央に鎮座していたのは







不思議な光彩を放つ 一抱えの球体







「え…あんだけ苦労してあつめたザイリョウが
たった一個の宝珠にニャったのか?」


「ただの宝珠と侮らないように、これには
今まで培ってきた魔道技術の粋を集めてあるんだ」


「確かに…こうして側にあるだけでも
相当の高い魔力が感じ取れます…!」





シュドの台詞に呼応するかのように、宝珠は
内部の色をオレンジから鮮やかな紫に変える







刻一刻ごとに発光する色を変える球体を眺め


それまでの疲れが吹き飛んだような
会心の笑みが、ルーデメラから漏れた





「後は、この宝珠を使って儀式を行うだけだ」


「長かったぜ…これでようやく俺は
元の世界に帰れるんだな!」





期待を込めた石榴の眼差しに


しかし返って来たのは、笑みの消えた
冷め切った眼差しだった





「…さあ それはどうだろうね」


「一々突っかかる野郎だな…まぁいい
とっとと時空魔法とやらをやってくれよ」


「まあそう慌てるな石榴、ルーデメラとて流石に
疲れているハズだ 術は明日でも遅くは無い」


「そうですよ 皆さん大分お疲れでしょうし
ここは旅の疲れをいやしてから」





やんわりとシュドがそう言った直後







林の向こうから ガシャ、と
金属同士のぶつかる異音が薄闇をつんざいた







ついにルチルがこちらの姿を見つけたのか
少し身構えるも五人だが





緊張を帯びるこちらへと迫ってくるのは


鎧の足音にも似た、不規則な騒音だけ







「…物々しい装備を考えるに、これは
ルーデメラの弟ではなさそうだが」


「わかんニャいぞ もしかしたらリビングメイルを
テイサツに使ってるかもしれニャいニャ」


「こんな雑木林の中で、ワザワザ目立つ魔物を
偵察にする理由を教えてほしいなぁ泥棒ネコく」
「ルーデメラ様!?」







彼の冷やかしを甲高い声が遮った





同時に金属音がピタリと止まり


ややあって少し遠くの茂みが鳴ると
そこから一人の少女が姿を現した







石榴やルーデメラとさほど変わらぬ
年代であろうその少女は





少し特殊な編みこみ方をした桃色の長髪や


そこそこ仕立てのいい町民の服のあちこちに
カギ裂きや汚れを覗かせて





緑色のクリクリとした瞳にうっすら涙さえ浮かべ
真っ直ぐに彼だけを見据えている







「あの…お知り合いの方ですか?」


「あながち間違ってはいないんだけどねぇ…」


「ああ…やはりそのお姿にお声は正しく
ルーデメラ様!探しておりまし」



感極まって駆け出した彼女の接近と言葉は





五人の元へ着く前に、張り巡らされていた
バリアーによって阻まれ


背負ったバックパックから鳴り出す盛大な騒音と共に


顔面を思い切り強打した彼女は地面へ突っ伏した





「ごっごごごごめんなさい!
結界をまだ解いてませんでした!!」



「あっはっは、全くメリーったらドジだなぁ」


和やかに笑うなよ!大丈夫かアンタ!!」







慌ててバリアーを解いたシュドと駆け寄った石榴が
彼女を助け起こして介抱した





とは言っても大した怪我などはなく


単にぶつかった衝撃と、背負っていたバックパック内の
調理器具一式の重さに起き上がれなかっただけのようだ









「本当にご迷惑をおかけしました…」


「いえ、こちらこそ申し訳ございませんでした」





適当な石の上に腰かけ 振舞ってもらった
ハーブティーを両手に抱える彼女と同時に


側に立つシュドもすまなさそうに頭を下げる





どうやら二人は似たようなタイプらしい







「所で そちらはルーデメラとどのような…」


「申し遅れました、わたくしはハーメリア
シートルーグイ家に仕える家政婦の一人でございます」





優しさの滲む、しかし誇らしげな笑顔で
そう言ったハーメリアの言葉を





理解するのに、四人はしばし時間を要した







「え…シートルーグイってまさか
ルデ、お前ん家ってひょっとして金持ち?





代表するように問う石榴へ







「…まあ、そこそこには有名かな」





驚きの視線を浴びながら ばつが悪そうに
座したままのルーデメラは頷いた





「ルーデメラさんは高貴なご貴族の
生まれだったんですね…」


ずるいニャ ルデメ!
オイラたちにかくしごとするニャんて!!」


「てか探してる奴がいるだなんて、お前
一言も口にしてなかったじゃねぇか」





いまだに信じられないといいたげな表情で
口々に言葉を発する三人と





木に寄りかかったまま無言を貫く
カルロスを無視し 彼は口を開く







「…どうでもいいけど、メリーは
どうしてここまで来たわけ?」


決まってるじゃありませんか!あなた様と
ルチル様をご実家まで連れ戻しに来たのです!!」





キッパリと言い切った返事に





ルーデメラは心底嫌そうな顔で深い息をついた







「あのさぁメリー、出て行く時にも言ったけど
僕はあんな所にもう戻る気はないの…諦めてよ」


いーえ引き下がりません!様々な場所で
お話を聞き、ようやくお二人の居場所を
突き止めたのですから このまま帰るわけには!」


「帰ってくれ」





低い声音に、説得に熱を上げていた彼女が肩を震わせる





僕は家にも場所にもあの女にも愛想が尽きたんだ
…無事帰れるよう手配はするから、黙って帰れ」







淡々と続けるルーデメラの表情には
いつものようなふてぶてしさや余裕はなく





何者も寄せ付けぬような


冷気に似た気配だけをまとっていた







「…おいルデ、この人はお前らの為に
ここまで来たんだろ?なのに冷たすぎじゃねぇか?」


「人のことに口出ししないでくれる?
どうせもうすぐここからいなくなる君が」


「言っていいこととワルいことがあるニャ!」







挟まれた二人との口論が始まる中


ショックを受けたのかハーメリアは黙り込み
すっと顔を俯かせたので


慌ててシュドはフォローへと回る





「ごめんなさい きっとルーデメラさんは
少し疲れてて気が立ってらっしゃるんですよ
本当はあんなに冷たい方では「…黙れ」





己の言葉を押しのけるように吐き出された言葉の
思いがけぬ強さと低さ


瞬間的にシュドはギョっとした







俯いたそのままでハーメリアは立ち上がり





無言のままスタスタと、ある場所へ一直線に
歩みを進めてゆく







ダメだ客人!それは大切な魔法道」


止めようと腕を掴んだカルロスの手を
強く弾き飛ばして





彼女は魔法陣の上に置き去りにされていた
宝珠を無造作に手に取った








「何すんだこのアマ!それはオレが帰るのに
必要なモンだ、返せ!!」



「こんなものがあるから ルーデメラ様は
お戻りになられないのです!!」






激昂するように叫んだ彼女は、その場から
踵を返して走り出す







「待ってくださいハーメリアさん!」


「くっそ、追っかけるぞ!!









五人が相手の姿を頼りに雑木林を抜ければ







海へ突き出た崖の縁に佇んだまま
彼女がこちらをじっと見つめていた







メリー、君は自分が何をしてるのか
わかっているのかい?」


「ええもちろん あなた様がとある術の為に
必要な魔法道具の精製の旅に出たことも
わたくしは存じ上げておりますわ!」





藍に染まった空気に差し出されたのは


乳白色に発光する 一抱えの球体





「これを海の藻屑とされたくなければ
ルチル様と共に お家へお戻りください」


「…取引が成立してると思ってる?
君一人ぐらい 力ずくでどうにでもなる」


「それならばわたくし、ここで宝珠を
道連れに海に飛び込ませていただきます」





しっかりと宝珠を胸に抱いた姿は 本気で
飛び込むつもりだと伺わせるには十分だった





やめて下さい!どうしてこんな事を」


「分かるものですか…お二人が去られてしまった
あの方の悲しみが…ずっと成長を見守っていた
わたくしの悲しみが!」


「あんたらの苦労もルデん家のいざこざも
知らねぇけど、いきなり現れて何様だテメェは!」


「何だト…!」





反応し、殺意のこもった目が石榴を捕らえた刹那







シャムがハーメリアの手から
輝きを放つ宝珠をかすめとった





「とりかえしたニャ!」


「でかしたぞシャム!!」





そのままクルリと身を翻し、四人の側へ
戻ろうとした―次の瞬間







「邪魔をスルナ!」





地を蹴ったハーメリアの右手が煌いて





シャムの腹から 血飛沫が飛ぶ







「ニ゛ャ…!?」







顔を強張らせ、まるでずた袋か何かのように
彼の身体が地面へと落ちた








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:年明けで色々ありつつも、創作だけは
ペースを乱さず邁進中です最終章!


石榴:どんだけ展開速いんだよ!


ルデ:突入するにしてもご都合主義過ぎ…これじゃ
三流どころか四流にすらなりゃしないよ この話


狐狗狸:い、いいの!きっかけはいつでも
ハリケーンなんだし こっからまだ語る事が


カルロス:それにしてもハーメリアを蔑ろにしすぎだ


シュド:そうですよ、あんなに苦労して
お二人を探してらしたご様子でしたのに…


シャム:それより…オイラなおして…(弱)


シュド:は!ごごごごめんなさいシャム君!!




年明けてからの急展開&超展開ですが
どうかしばしのお付き合いを…


次回 深手を負わされたシャムの安否は…!?