『ぐあぁっ!?』







唐突に生まれた眩しさは四人の目を灼く


特に至近距離にいたシャムはたまらずに
身体のバランスを崩してしまう





その一瞬の隙を逃さず ルーデメラは
彼の腹にきつめのエルボーをお見舞いする





「ぐぅっ!」







くの字に折れ曲がる身体を躊躇せずに
突き飛ばして 彼は距離を取ると





「天使君!さぁ早く呪文を!!





光が収まらぬ内にシュドへと呼びかける





「えっ…は、はい!」







距離が幸いしてか、目を瞬かせながらも
シュドは呪文を唱え始める







「小癪な真似を…!」





眩い閃光が消え去ってから


目を瞬かせつつ シャムが地を蹴った





「"止まれ"!」


銃口を構え弾丸を放つ石榴だが





回復しきっていない視力では狙いが定まらず
あっさりと攻撃をかわされてしまう





「くそっ、逃げろシュド!!」







着弾した光球の効果により、手足を戒めていた
粘着弾が跡形もなく消えうせるも





身を起こしたシュドの眼前には


既にシャムが迫っていた







「あくまで詠唱を止めないのなら
もう一度その身体を奪うまで…!





ヌルリと身体から飛び出た黒い陰が
三本の指がついた腕らしき部位を素早く伸ばし―







「させん!」





寸前で二人の間に割って入ったカルロスが


影の腕を胸で受け止めた











〜No'n Future A 第五十一話「荒野の躁狂」〜











「「カルロス(さん)!」」


「私はいい…早く、こいつを…ぐっ!







苦しみもがく内に影が染み込んで







カルロスは立ち竦んだまま頭を垂らした









「ニャっ!か、カルロスっ!!」





正気を取り戻したシャムが呼びかけながら
その身体へと取り縋る





何やってんだお前!
今、あの野郎がとっついてったの見てたろ!?」


「でもオイラの時もイシキがあったから
よびかければトドくはずニャ!」


「届いたって身体の自由はアイツに
支配されてんだから、無駄だと思うけど?」


「でも、でもでもっ!カルロスニャら
きっと何とかできるニャ!!」


「お前どんだけカルロスに信頼寄せてんだよ!
いー加減離れろっての!!」







思わず詠唱を途切らせてしまったシュドが
一歩下がりつつ、彼へ言葉をかける





「シャム君 お気持ちは分かりますが
今は石榴さんの言う通りにした方が…」


「お前までそんニャハクジョウなこと言うニョか!
オイラはあきらめニャいニャ!カルロス!!







叫びながら大きく身体を揺すぶった瞬間







「ぃやかましい!」





まとわり付いていた小柄な身体が突き飛ばされた





「ニャ!?」







尻餅をついた彼にシュドと石榴が駆け寄る





「大丈夫ですかシャム君!」


「ったく、だから言ったろーが
アレはもうカルロスじゃねーんだよ」


「う、ウソだニャ!カルロス!カルロス!!







必死な叫びに対し、返ってきた







喧しいぞお前等は!だから私はガキが嫌いなんだ!
大体この旅に同行しているのだって船員どもが稼ぎが
少ないとかうだうだ言いやがるから」





流れるようなマシンガントークの不平不満


状況を把握していた四人も 流石に固まる







「いつも落ち着いてるカルロスが…」


うわぁぁん!カルロスがグチっぽく
なっちゃったニャーーーーー!!」









ショックを受ける約三名に構わず





いまだにブツブツとグチを吐き出し続ける
カルロスを前に、落ち着き払ってルーデメラは言う





「クリスくーん ガキのお守りより
船長さんからアイツを追い出すの優先ね?」


「ルデメには人の心がニャいのかー!?」


何とでも言えば?天使君は今度こそ
何があっても術を中断しないように」





その言葉が終わらないうちに







カルロスが動き様に
強烈な殺気を吹き付けてきた







「"囲め"!」





反射的に放った石榴の弾丸が足元に撃ち込まれ


そこからカルロスの四方を囲む分厚い壁が
競りあがってくる





…が、素早い剣閃の前には一秒も持たず


壁は無残にも細切れになって崩れ落ちていた





「邪魔するなら切り裂いてやる!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」








勢いよく左手を振り、恐ろしい哄笑と
共にとんでもない速さで彼が迫る





「うわちょっ、シャレになんねぇぞこれ!」







標的にされてしまい 石榴は慌てて遠くへ
逃げながらも足止め用の弾丸を撃つも





普段よりも研ぎ澄まされた感覚により寸前で回避し


何事もなかったように距離を詰められていく







石榴さん!今すぐ防御呪文を唱えますから」


「待った 言っただろ天使君?
今度こそ何があっても術を中断させるなって」


「で、でもこのままじゃ石榴さんが!」









葛藤するシュドに答えるように
悲鳴じみた石榴の叫びが響き渡る





「何でもいいから早くコイツを大人しくさせろ!!」







どうにかスレスレで逃げ続けていはいるが





半ば切り裂き魔と化したカルロスの剣撃は
恐ろしく的確に付近の岩を切り飛ばしていく







今はまだシャツや薄皮程度で済んではいるものの





気を抜けばいつ首が飛んでもおかしくない状況だ









「モタモタしてたら、クリス君から真っ先に
バラバラになっちゃうから頼むよ?」


「ははははい!!







真っ青になりながら浄化呪文に取り掛かるシュドへ
やれやれとため息をつくルーデメラ







「にしても咄嗟のコトとはいえ、僕らから
離れて逃げるとは中々いい判断してるねクリス君」


ユーチョーこいてるバアイか!ルデメは
あのまま石榴をミゴロシにするキニャのか!?」





糾弾に しかし彼は態度を一ミリも崩さず





「そうなると後々面倒だからね、どうにか
術の完成まで持ちこたえててもらう…よ!


袖から取り出した球状の物体を 次々に
石榴へ向かって投げつける





「ってどこ狙ってんだぁぁぁ!!」







ギリギリで避ける石榴の巻き添えをくらい
怯んだカルロスへ





「メルティボミング!」


息をつかせぬ攻撃呪文の連打が降り注ぐ







しかし、相手はニヤリと口元に笑みを浮かべ





「甘い甘い甘いぞぉ!!」





まさに紙一重の差でかわしながら
今度はルーデメラへと目標を変える







バリアーを瞬時展開して攻撃を防ぎつつ


タイミングを見計らい薬品をぶちまけながら
時間差で炎の雨を降らせるが





驚異的な跳躍と見切りを使われ


僅かな間の足止めにすらならなくなっている







「全く…普段より能力上がってるから
避けるのが上手くなっちゃって腹立つね」





ため息をつきつつ 自分の荷物入れを抱えて





「仕方ないから意識を失わない程度に
動けなくするから、覚悟しなよ船長さん?


「待て待て待て待て!お前何する気だ!?」





目を細めるルーデメラに、思わず問う石榴





「決まってるでしょ?動きを鈍らせて
簡易召喚道具でグリフィクス喚んで全力で叩く」


「そんニャことしたらカルロス死んじゃうニャ!」


「運がよけりゃ死なないって、それより
巻き添えくらいたくないなら離れてなよ」





一方的にそれだけ言うと彼は即座に口の中で
呪文を唱えながら、片手で不思議な光沢の石を
繋いだ細い鎖の端を握りしめた





「召喚獣など、出すヒマを与えるか!!」







鎖が円を描いたと同時にカルロスが
地を蹴って距離を詰める







直後飛来する毒爆弾や光球を身を翻してすり抜け





鋭く突き出された刃先が喉元へと


―迫る直前





「ミスィルオクティア!」





ルーデメラがかざした手の平から迸った
光の帯が カルロスを貫いた







「ぐはっ、これは…身体が……!







その場に屈み込み くず折れる相手を見下ろし





「僕が精神系の呪文を使えるの忘れてたでしょ?
さー観念してもらおうかな」





悪魔のように笑いながら鎖を回し





「"契り結ぶ者 我が声と力を頼りに現れん
汝の名は…」






呼びかけと共に円が光を帯びた刹那







石榴とシュドが飛びかかってルーデメラを押さえた







やめろぉ!もう今の時点で十分だろ!?」


「それイジョウやったらカルロスが
マジで死んじゃうニャー!!」



いい加減にしてくんない?さっきまで
死にそうになってたくせに、瀕死の今で
トドメを刺さずにいつ刺すのさ」


「テメェ真剣に殺る気満々か!!」


「だったらヨケイやらせられるかニャー!」







召喚術を中断された事と必死に縋り付く
二人へ苛立ちを覚え


無理やりどかせようと 袖口に忍ばせた
劇薬へと手を伸ばした僅かな隙に







ひっそりとカルロスの身体から出た影が


蛇のように地を這い、ルーデメラの足へ
絡み付いて染み込んできた






「っぐ!


「ニ゛ャ!しまった!!」


「あの野郎 今度はルデに取り付いたぞ!!」







ガクリと糸の切れた人形のように
身体を弛緩させた仲間から


四人は戦々恐々ととしつつ 僅かに距離を取る









やがて、顔をふっと上げたルーデメラは







「…皆さん どうしたんですか?」





緊迫した状況には場違いな程 友好的で
明るく爽やかな微笑を浮かべて問いかけた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:この話は年内に終わらせる予定なので
次回の更新に続き載せるつもりで執筆中です!


ルデ:予定で終わらなきゃいいけどね


石榴:むしろ全く期待しないでやってくれ
…つっても 読んでる奴なんていねぇだろーが


狐狗狸:悲しいコト言うなよ!泣くぞ!!


シャム:オイラとしてはルデメにあのまま
とりついててくれた方が…ニ゛ャー!!


ルデ:いらない事言わないの泥棒猫君


カルロス:その辺で勘弁し…うう…(よろけ)


シュド:かっカルロスさん しっかり!!




年内に無事 収まりますように…(願掛け)


次回、荒野の戦いに決着なるか!?