「…何か いかにも港町ですって感じの場所だな」


「当たり前だろ?港町なんだから」







活気に溢れた店が並び 建物や路地の向こうに青い海と
白い帆を張った大小様々な船が垣間見える―



まさにファンタジー小説お決まりな港町の
中央にある噴水つきの広場で


石榴は不機嫌そうに眉をしかめていた





さっきから機嫌が悪そうだねクリス君
お腹でも痛むのかい?」





薄ら笑いでニヤニヤ訊ねるルーデメラへ
返ってきたのは、苛立ち交じりの眼差し





「さっきから周りの奴等に 物珍しい目で見続けられりゃ
誰だってそうなんだよ」







確かに、辺りを通り過ぎる人々は


一様に彼へと視線を向けている


主に好奇の色をありあり浮かべて





「当然じゃないか 君の格好はこっちにしてみれば珍しい
肌や髪の色もあまり見かけない方だし、そもそも
君自体が余所者だからね」







言うルーデメラの服装も 周囲を動き回る人々のいでたちも


確かにどちらかというと
中世ヨーロッパ時代の物を感じさせる





港町だからか行きかう人種は様々なようだが、


黄色人種らしいものは殆ど見かけず
黒髪もかなり少なめである…ものの





「…一々もっともだが気にいらねぇ、つーか
ジロジロみんなっ!





余りの視線の多さに 石榴はつい怒鳴り声を上げる


その声の大きさに、ビクッと後退さる周囲の人々





「一々気にしない方がいいよー?ド田舎なんか行ったら
下手すると悪魔呼ばわりされるしさ」


「されたことあんのか?悪魔呼ばわり







問いかけに ルーデメラは肩を大げさにすくめ





偏見じみた薄汚い奴等はこれだから困るよ…


まぁ、僕の前でそんな呼称を持ち出そうものなら
二度と口がきけない程の目に遭わせるけどね」





言いながら にんまりと邪悪な笑みを称えた





(…呼ばわりっつーか まんま悪魔じゃねぇか)











〜No'n Future A 第五話 「魔物退治入門」〜











「それよりもクリス君 いつまでここで立ち尽している気だい?」


「へ?あ、ああ…つーかお前がここまで連れてきたんだろ?」


「まぁね でもここに寄ったのは単に食料を調達するため
あとは食事ぐらいかな?」







言いながらルーデメラは噴水から離れ、歩き始める





「港町なら海の物がおいしいだろうから 好きに食べてきなよ
食べ終わったらここに集合してね


「ちょっ ちょっと待てよ!?







一人でサクサク移動しようとする彼の服を慌てて掴めば


非常にウザったそうな目が石榴へと向けられる





「…何かなクリス君 問題でもあるの?





ため息混じりな態度にまなじり吊り上げつつ
彼は断固として抗議する





「大有りだ、飯食ってこいって…
俺はこんな世界の金なんて一銭も持ってねーぞ!!










よくよく考えてみれば 石榴は半ば強制的に
ラノダムークに"呼び込まれた"


しかも財布等が入っているカバンも向こうの世界に
置いてきてしまっている


(ラノダムークで使えるかは別として)





となれば当然武器はおろか 金銭など身につけてはいない







正に文字通り無一文、素寒貧なのだろう









「おやおや ニャンコイン一枚持たずに現れるとは
随分と間抜けな勇者だ」





明らかに馬鹿にしたように笑われて、益々
苛立ちを覚える石榴





うるせぇ勇者じゃねぇ!つかここの金ってコインなのかよ」


「そうだよ、金銀銅の貨幣があって通過はニャン
貨幣神が使い始めた ラノダムークでの共通貨幣さ」







当たり前のように言いながら ルーデメラは袖から
一枚の金貨を取り出し、石榴に見せる









(…メチャメチャ見覚えのある猫の絵が彫られてるぞ
ってかオモチャみてぇだけど 金だよな、本物の)





ふふん、と笑って金貨を袖の中にしまい







「お金が欲しいなら 魔物退治でもしたら?」





と彼は、満面の笑みで言い放つ





魔物退治ぃ?どうやってだよ…俺は丸腰だぞ?







刺々しい石榴の台詞を しかしルーデメラは
意に介さず、と言った顔で





出来るだけやってみたら?
まぁ退治の時に見物ぐらいはしてあげるよ
じゃ 僕は買出ししとくから」







やや一方的に宣言し 広場を後にする









残された石榴はしばらく立ち尽くしていたが







あんの緑頭…っ仕方ねぇ、とりあえずは行動あるのみだ」





頭を掻きつつ呟くと、辺りを見て回る事から始めた










「大抵魔物退治って 街の奴とかが情報持ってんだよな…」







RPGのセオリー通り、まず街の住人から情報収集を
始める石榴だったが





声をかけようとするも 相手の方が石榴を避けて通ってしまう








「……くっそー やっぱこの格好がマズイのか?」







何かを聞き出すことはおろか、声をかけることすらままならず


落胆した石榴が 頭を抱えた時だった










「そこのお方…魔物を退治なさるそうだね」





顔を上げると、いつの間にか目の前に
ローブを着たみすぼらしい男がいた





「そうだけど…あんた何者だ?


「最近街の西にある洞窟に、人を喰う悪魔が
住み着いたらしくての…何とかしてもらえんかの?」







訝しげに問い掛ける石榴の言葉をあっさり無視し
男は、自分の要件を告げる





「って俺の質問無視かよ!何者だって聞いてんだよ!」


「最近街の西にある洞窟に、人を喰う悪魔が
住み着いたらしくての…何とかしてもらえんかの?」


オイコラ、同じ事しか言えねーのか!質問に答えろって…」


「最近街の西にある洞窟に、人を喰う悪魔が
住み着いたらしくての…何とかしてもらえんかの?」


いい加減にしろよ!?質問に…」





「最近街の西にある洞窟に、人を喰う悪魔が
住み着いたらしくての…何とかしてもらえんかの?」









何度問い掛けても 同じ言葉しか返ってこないので


石榴はとうとう諦め、顔に手を当てつつ溜息をついた







「わかった やりゃいいんだろ…ったく
これだからファンタジーはっ」





その言葉を聞いた途端 男の声色に歓喜の色が混じる





「その言葉を待っていた…頼んだぞ、石榴


!?何で俺の名前を知って…」







驚いて男の方に視線を向ける石榴だが


そこにはもう、男の姿はなかった







「……何だってんだ 一体?」







先程の男の正体も、彼の言う情報も疑わしかった





他に頼れるものも無いので 石榴は実際に
ダメ元でその場所に赴く事にした









丁度待ち合わせ場所に戻った所で、ルーデメラも
タイミングよく合流する





お待たせ、退治する魔物の当てでもついたかい?」


「…おう お陰様でな」





苦虫を噛み潰したような微妙な顔の石榴を見て
彼は感心したように目を細める





「へぇ…案外やるじゃないか じゃあ武器のない君が
何処までやれるのかお手並み拝見させていただくよ」









そして二人は 人喰いの悪魔が住む洞窟へ向かった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:第五話、ちょいグダグダながらファンタジー展開に…
相変わらず石榴はすっぴん状態ですが


石榴:つか あの怪しいローブ男は何なんだ一体!


狐狗狸:あ、それは言えないの…ちょっと事情があってね


ルデ:ちなみにその男は 僕に予言をした奴と
瓜二つなんだけど(ニッコリ)


狐狗狸:わー!言っちゃ駄目だってば!!
ルデのバカッ!!!



ルデ:作者は後で実験体にするとして、この次の話で
クリス君がどうやって魔物にやられ
もとい魔物退治するのか見物だねぇ(愉快気に笑い)


石榴:テメェ今ものすっげぇ失礼なこと考えたろ?


ルデ:べっつにー(ニヤニヤ)


狐狗狸:っていうか 私また実験体かぁ…




何か謎の人物とか出て来ちゃってますが お気になさらず!(爆)
次回にはようやく石榴に武器が…!?