見合いの騒動も終わり、五人はついに
アスクウッドを旅立つ時が来た





「旅人達よ、また気軽にアスクウッドへ立ち寄るといい
…ワシらはいつでも貴殿らを歓迎しよう」


「も、もったいないお言葉ありがとうごだいまつ」


「ダサっ 何噛んでんのさクリス君」


「うるせーよ、言いなれてねぇんだ
こういうセリフは!!」


「きっと緊張してらっしゃるんですよ 王様の御前ですし」





クスクスと笑うルーデメラへ噛み付く石榴を
シュドが眉を下げつつなだめる





「申し訳ありませんでした王様、仲間が大変
お見苦しい所を…」


「よいよい、感謝の意を示してくれるだけで
ワシは満足じゃ」





微笑む国王へ無言で頭を下げてから石榴は


一言多いルーデメラを軽く睨んだ







王の隣に控えていたノールが一歩進み出ると


仲間の顔で、嬉しそうに言う





「短い間じゃったが…お主らとの旅
中々悪くはなかったぞ」



「ありがとうございます、お元気で」









「まったく…まちくたびれたニャ」





城の外へ出ると、待っていたシャムが
三人へ声をかけてきた





「ごめんなさいシャム君 お待たせして」


「いつカルロスがねむりこんであばれだすか
わからニャくて、気が気じゃニャかったニャ…」





小さく息をつく彼の側にいたカルロスが
目を擦りながら頭を軽く下げる





「すまんなシャム 手間をかけた」











〜No'n Future A 第四十九話「荒野の対談」〜











旅立つ前日の夜





王やノールへ挨拶をする話を部屋で行っていた際


堅苦しい別れは苦手だ、と言い出したのは
シャムだった





「オイラはおわるまでその辺でまってるニャ」







何気ない様子で口にしてはいたものの


それなりに旅を続けてきた四人には
彼の性格をキチンと理解していた







"一人で野放しにしてたら絶対、城の宝を
根こそぎ狙いに行く"







暗黙の内にその考えが脳裏に浮かび





すかさず声をかけたのはルーデメラだった





「それなら挨拶する時に王様に伝えておくよ」


「っていいのかよルデ!」


さっすがルデメ!ふとっぱらニャ〜じゃ」





己の意見がすんなり通って嬉しそうにするシャムだが


そう甘くないのが ルーデメラという男である





「ただし、大人しく城門の辺りで待ってるんだよ
船長さんと一緒にね」


「ニ゛ャ!?」





唐突の使命に カルロスも目を見張った





「私も挨拶くらいはしておきたいのだが」


「ダーメ 君は泥棒猫君と一緒に待ってるの」


「あのっ、でしたら僕がカルロスさんの代わりに…」





健気に挙手するシュドだが、申し出は受け入れられない





「天使君 船長さんは疲れてフラフラなんだよ?
そんな状態で王様に挨拶させるのは可哀想でしょ」





誰のせいだよ、と思い切りツッコみたい
石榴ではあったが


言っても今更効き目がない事は重々承知していた





「それに五才児ちゃんにお別れをちゃんと
いいたいんじゃないの?」


「それは…そう、ですけど…」







口ごもるシュドを哀れに思い、カルロスは
ため息混じりにこう言った





「…分かった 門で待っていよう
ノールと国王によろしく頼む」


「おいおい、いいのかよカルロス」


「ああ…それにあまり迷惑をかけられないからな
シュドにも ノール達にも





群青の視線を受けて、彼はニッと笑う





「流石に察しがいいね…さて泥棒猫君
ここで不服を垂れるほど君はバカじゃないよね?」


「ぐ…わかったニャ」







こうして渋々シャムは従い


翌日、門にて意識の半分飛びかけてるカルロスと
並んで三人を待っていたのだった









ここで彼らが周知の事実をもう一つ述べておこう







"寝入り端のカルロスの機嫌を損ねると
誰であろうと、半殺しの目にあう"







…つまりぶっちゃけて言えば





ルーデメラは手癖の悪い盗賊を門に
縛りつけておいたと同時に


誘発する危険性のある爆弾も遠ざけたのだ









「ちゃんと言いつけ通り待ってたんだね
ご褒美に魚の干物でもあげようか」





冗談交じりにルーデメラが干物らしき物体を
シャムの鼻先にちらつかせる







「ペットあつかいかオイラは…それにくれるニャら
くいモンよりキンカかお宝がいーニャ」





そっぽを向いてぶっきらぼうを装うも


彼の目や耳はチラチラとそちらへ動き
尻尾もせわしなく上下している





「そこら辺はまんま猫と一緒か」







猫をもてあそぶドSの図を呆れ混じりに見やる石榴の隣


目に涙をためて、一際大きな欠伸がかみ殺される





「カルロスさん、顔色が優れないようですが
大丈夫ですか…?」


「ああ 流石に少し疲れてるのかもな」


「ならこのクスリを試してみてください」





そっと差し出されたのは薬包紙に包まれた
淡いグリーンの粉薬





「祖母から教わったブレンドで、疲れにいいんです
ただ少し苦くて飲みづらいですが…」


「いや ありがたく頂くよ」





柔らかく微笑んでカルロスは包みを手に取り


自らの手荷物から水を取り出すと、それで
薬を飲み下していく





「…言うほど飲みづらくはないようだぞ」


「本当ですか!お気に召したのでしたら
落ち着ける場所で本格的なものもお作りしますね」





コクリと頷く彼にシュドの顔に
やや安堵の色が浮かんだ







そんなほほえましいやり取りを見つめながら





「…カルロスに対して何か言うべき奴
いるんじゃねぇのか?なあルデ」





ジロリと石榴が視線を向ければ


放られた干物へ飛びついた彼に満足げな笑みを
浮かべたルーデメラは さらりと言い放つ





「船長さんはそれなりに反射速度と上背があるから
面白いデータが取れたよ」


「誰がテメェの実験結果話せっつった!」









と普段通り騒がしい調子を取り戻しながら





五人は地図を頼りに国境を越え、魔物との戦闘を
こなしながら目的地へ進み







順調にルーデメラの指定する素材を集めていく









「それで、あとどれ位なんだよ…
俺を元に戻す方法とやらが出来るようになるのは」





石榴からその一言が零れ出たのは


アダマス大陸を三分の二ほど横断した道中に
位置する 岩山の途中にさしかかった辺り





頂上へ至る行程をあと一息の所残し


思い思いの岩へ腰かけた休憩中の会話での事







宙に浮かせてある手荷物を幾つか確認してから


ルーデメラは静かにこう告げる





「アスクウッドで思ったより素材が集まったからね
この分なら、そろそろ材料が揃うかな」


マジか!よっ…しゃぁぁようやく元の世界に
帰る希望が見えてきたってモンだぜ!!」





途端に普段よりも陽気さを露わにした石榴と


呆気に採られる三人へ気付かれぬように
彼は低く呟いた





「そう…もうすぐだよ、あと少しで
必要なものは全て揃うさ」












「あの…石榴さんを元に戻す方法って
神話の神の力を借りた魔術となるのですか?」





不意に訊ねたシュドの言葉に


珍しく、ルーデメラが戸惑いを見せる





「…どうしてそう思ったんだい?」


「いえ、これまでの旅で集めた材料に
とても著名なモノが多いので 何となく…」







触発されてか他の三人も思い当たるフシを口にする





「ニラムロトの結晶やモンバーの根ってのも
やたら集めて 精製してたよな」


「ああ、トリンケルピの蹄なども記憶に新しい」


「あー アレはすばしっこかったニャ
オイラ、アイツだけはもーヤダニャ…」





彼らが口々につづっていく素材の名前の大半は


魔導に携わるものが聞いたならば
"神でも呼び出すのだろうか"と思わせる程


珍しいものや効き目の強いものばかりであった





「術の難しさとかそー言うのはわかんねぇし
神がどーのこーのってのはツッコまねぇけど…


ここまで来たんなら、どんな術かぐれぇは教えろよな?」





ごまかしは無駄と悟り ルーデメラは
軽くため息をつくと





「お気づきの通り神の力を借りる術さ…恐らく
本当に一握りの魔術導師しか知らない
正に化石に近い術式だよ」





耳を傾け始めた四人を見回して語りだした





「術の名前は 時空魔法ミッシンガルティモル」







覇王の伝説が語られていた、その時代





古の偉大な魔術導師が叡智の限りを尽くし
様々な術を掛け合わせ


ついに誰もがなし得なかった領域へ踏み込んだ





―即ち 空間と次元を越える術式理論の完成へ







って待てよオイ!テレポートみてぇな術は
使えねぇって あのデカブツのいた遺跡で」


「せっかち過ぎるよクリス君?
話は最後まで聞くように」





話の腰を折りかけた石榴を言葉で御し
ルーデメラは先を続ける







理論上では時神ラクリィミィロワーの力を組み込み





術者の望む様々な空間や時間の移動を可能とし


操作次第では別の次元へすら移動する事が
出来る、と記されていた







そこまででおずおずと挙手し シュドが呟く





「でも そんなすごい術が編み出されていたのでしたら
伝承として残されていてもおかしくは…」


「そう、編み出されて…実証されていればね」


「どっどういうことニャ」


「簡単な話さ その魔術導師が作ったのは理論だけ
術自体はいまだ誰も成し遂げた事がないんだよ」





慌てたように石榴が腰を浮かしかけるが





「待てよルデ…それじゃ」


だから人の話は最後まで聞きなよ、僕だって
出来ない術で騙すほど人は悪くないよ」





今度は手で制され、彼は再び座り直す







「あちこち旅をしながら魔導師協会で文献を漁って
僕なりに、術の性質を探ってたんだ」







ルーデメラによれば、古代の時空魔法の施行には
三つの制約が架されているらしい







一つは術自体を扱う術者の力量





「これは言わずもがなだよね?」


「ああ…高度な術は、制御も相応の力を
要すると聞くからな」







二つは術を行った事による反動や歪みを
相殺させる為の犠牲媒体としての魔法道具






「これも分かるよね」


「はい…強い術であれば種類によって何らかの
媒体を使用しなければいけないんですよね」


「そんニャでたらめニャじゅつニャら
たしかに、これだけのソザイはいるニャー…」







納得の言った表情で皆と共に頷きながらも





「で、あと一つは何なんだよ?」





石榴が急かすように先を追及してくる





…それこそが肝心にして最大の至難
今まで術が失敗した原因と言っても過言じゃない」


「もったいぶってねぇでさっさと言えっつの」


「焦るなよクリス君、最後は―」





言いかけて ルーデメラは言葉を切ると
唐突に立ち上がった







彼だけでなく他の四人も同様に立つと


ある一点へ視線を注ぐ







五人の肌を刺激するのは、吹き降ろされる
風ではなく 刺すような敵意







それは目指すべき頂上への道へ


立ち塞がるようにして じわりと現れた
闇色の異形が放ち続けていた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:どーも、約束破りに定評のある作者でーす


石榴:今更ながら作者失格じゃね?コイツ


シャム:カンリニンとしてもシッカクだと思うニャ


ルデ:何言ってんの二人とも、既に人として


シュド:る、ルーデメラさんそれ以上はっ!!(汗)


狐狗狸:…哀しすぎる現実は目を背けます
でないと続きが書けなくなるもん


カルロス:この話は次回で終わりそうか?


狐狗狸:一応その予定…だってこっから展開が
がーっと進んで行くつもりだもん、終わりに


石榴&シュド:




色々アレなごまかしやらご都合主義やら
最終章予告フラグについてはもろもろスルー!(コラ謝)


五人の前に現れた異形が、混乱を引き起こす!