パイラから険しい一本道の街道を越え





「皆のものよく見よ!
これがアスクウッド王国じゃ!!」






ついに六人は、アスクウッド王国へと足を踏み入れた







「うわぁ…!」


「「で…デケェ〜!!」」





石榴とシャムと、シュドは放心したように
辺りをキョロキョロと見回す





「ハハハハハ単純だな〜君達は」


「そう言ってやるな、この規模の城下町は
三人とも初めてなのだろう」


こらお前達!
ぼーっとしとらんで早く城へ行くのじゃ!」





ノールにせっつかれながら、五人は
華やかに活気付いた城下町を抜け


白く聳え立つ壮麗な城の門前へとやって来た







彼らとノールの姿を見るや否や





「あなた方の事は騎士団長からお伺いしております
王様がお待ちですので、どうぞ!」






すぐさま門番の一人が敬礼し 城内から
スンナリ謁見の間に案内された六人は


王国を治めるアスクウッド国王

トールウィス=ユミリス=アスクウッドと対峙した







王冠の下からゆるめのパーマがかかった白髪がはみ出て
それが、引き締まった表情に年相応の威厳を加え


立派な仕立ての衣装に負けぬような金の目は
王者に相応しい品格を備えている





「おぉ!ノール、全く心配させおって!
しかしよく無事に戻ってきてくれた!!」






が、長らく行方をくらましていた愛娘の帰還には
いともあっさりと破顔したようだ







「父上はオオゲサ過ぎるのじゃ…」


「何を言うか ワシはお前が戻ってくるまで
心配で心配でもう一度迎えを寄越そうかと」





二人の会話を少し離れた位置で見ていた石榴は
ボソリと呟く





「立場が違っても、親バカってあるんだな」


「ニャんだ石榴 オヤバカって?」


「あ?こっちの話だ気にすんな」











〜No'n Future A 第四十六話「婚約狂想曲1」〜











落ち着きを取り戻した王が、視線を五人へ向ける





この者達か ノーリディアを王国まで
護衛してくれたのは」


「はい、調べによれば魔術導師ルーデメラ様
そのご一同様との事でございます」







控えていた大臣らしき人物の申し出に、王の
目の色が僅かに変わる





「ほう…"夢幻の使者"の名はこちらも耳にしている
して、確認の方は?」


「ご安心を陛下 既に魔導師協会から
本人との確認は取れておりまする」


「それは手間が省けて助かりますね」


「おお、するとそなたがルーデメラ殿か」


「ええ お初にお目に預かり
光栄でございます国王様」







王へ丁寧な態度を返すルーデメラを
シュドが尊敬の眼差しで見つめている





「やっぱりルーデメラさんはスゴいです…
王様にまでお名前が知れ渡られているなんて…!」


「流石は二つ名付き、という所か」


「…まー 性格はアレだけどな」





呟く石榴と思わず頷いたシャムは


不意に向けられたルーデメラの笑み
一瞬だけ 身体を強張らせた







「王国を…いや、ワシ個人から感謝の言葉を
言わせてもらいたい 本当にありがとう





五人へ深く目礼すると、王は手を叩いて
使いの者を呼んだ







アスクウッド王国は貴殿らを歓迎しよう!
…ノーリディアを無事送り届けてくれた恩人じゃ
丁重に持て成すよう!!」







使いの者に案内される五人に向かい





「それでは皆のもの、また後でな」





ノールは言って 別の者に連れられて別れた









こうして石榴達は王国の客人として
持て成されることとなり







早速、歓迎と感謝の意を込めての
夕食会に招待された









「客人達よ、次の旅の予定は決まっているのかね?」







上座からの問いかけに 五人は食事の手を止める







「オイラはおタカr「主にこの二人が行き先を決めます」


「あのっ…僕らは、お二人に付いて行く形です」





言葉を降られ、石榴は少しだけ戸惑いながら





「俺達というか…この魔導師が求める素材を
探して旅をしてる感じです」





ちらりとルーデメラへ話を降る







彼は軽いため息をつくと、ごく自然にこう言った





「王国の魔導師協会の方々にご挨拶もありますし
様々な研究や書物なども見て回るつもりですから
一週間ほどの滞在になると思います」







その答えに満足したように首を振り





「なるほど、ならばゆるりと過ごされるがよい
五日後には大きな催しがあるのでな」





言って、王は杯に注がれた酒を乾した











宴が終わり 五人が客室に戻って行った後





「…父上、五日後には何があるのじゃ?」





髪を解き正装となったノールは、王へと問いかける







「お前ももう年頃になったのだ そろそろ
心を決めるべきじゃ…そう思わんか?


「何がいいたいのじゃ父上!」





苛立った口調に王は少しだけ落胆の表情を見せ


一拍の間を置いて 言い放った





「五日後、隣国のウェスタ王子との
見合いを行う…心せよ」








浮かんだ驚愕は、一瞬の内に嫌悪に変わった





嫌じゃ!わらわは見合いなどせぬと何度」


「ワガママを言うのも大概にせぬか!」





轟いた怒声にノールは口を閉ざす





「相手は同じく王族、それにあちらも
お前の事を好いているのだぞ?」


あんな無粋な男は大嫌いじゃ!いいや
他の誰とも見合いなどするつもりはない!」


「一体何に不満があるというのだ ノール」


「父上には分からぬことじゃ!」







ソッポを向いた彼女には、以前ならば
子供ゆえのワガママしか見出せなかったが





今は…もう少し別のものが仄見えている







「家出の最中…誰か好きな者でも出来たのか?」







王の指摘に、僅かにノールの頬が赤くなる







それを図星ととりつつも敢えて言及せず
彼は言葉を続ける





「ワシは身分云々で相手を差別することはせぬが
誰とも分からぬ相手に、お前を渡すつもりも無い」


「…父上」


「お前も一国の王女ならば 己の言動に
責任を持つべきじゃ、ノーリディア」






その言葉の正しさに ただただノールは沈黙する











…二人がいる部屋の扉の側の暗がりで







「……これは大ジケンだニャ!」







小さく呟いて、足音を殺した人影が走り去る









そして客室に一大ニュースがもたらされ







「ノっ…ノールちゃんがお見合い!?





シュドは顔を真っ青にし、目を見開いた





「それって本当なんですか!!?」


しーっ!シュド、声がデケェよ」





慌てて忠告され 彼は口元を押さえる





「あっ…ご、ごめんなさい」


「聞き間違いじゃないよね?泥棒猫君」


「失礼だニャ、オイラとおりがかりに
ちゃんときいたんだニャ!」


「…用を足した帰りなら そんな場所
通らないのではないか?」





鋭い指摘にさっとシャムの顔が青ざめる





「ニ゛ャ!ささささすがカルロス…」


「やっぱり宝漁ろうとしてたなコノヤロ」


ニャー!ボーリョクハンタイ!!」


「あの石榴さん 止めてあげてください」





シュドが割って入り、すんでの所で
グーで殴られるのを回避するシャム







「ねぇ、見合いの相手って隣国の
ウェスタ王子だって言ってたんだよね?」


「そのとーりニャ」


「隣国…となると恐らくクリプトメリアか」







納得する四人に対し、約一名だけ
置いてけぼりを食らった表情をしている







「頭の悪いクリス君の為に 一つ復習を兼ねて
お勉強をさせてあげようか」


「余計なお世話だ」





ちょっと機嫌を悪くする石榴に構わず


地図を広げての簡素な説明が始まった







…ラノダムークの大陸には、幾つかの王国や
領主が存在し それぞれ領域が設けられている





その中で"有名な王国の名を上げろ"
道行く住人に問いかければ


必ずといっていいほど出る名前の一つが





「ここ、アスクウッドと言うわけだ」







指差され、改めてまじまじと地図を見つめて





「なるほどなぁ…確かに結構領地の広さが
ハンパねーもんな」





感心したように石榴は言う







地図上で"アスクウッド"の領地に隣接しているのは
"クリプトメリア"という国の領地





「クリプトメリアは以前からアスクウッドとの
交流が盛んな国です」


「アスクウッドほどじゃニャいけど
それなりに有名な国だニャ」


「…と言うわけだよ、分かったかな?」


「あーどうもありがとさん…しっかしお見合いねぇ
ノールにはまだ早すぎるんじゃねぇの?」





が、しかし彼の言葉はあっさりと否定された





「王族の結婚は大半が政略絡みだからな
…年齢は関係ないんだ」


「マジかよ、なんつーかわかんねぇ世界だな…」


「ひょっとしたらノールは、そういうのが
イヤでおシロ出てったのかもニャ」







しんみりとした空気の中







「ノールちゃんは…その方とお見合いして
結婚、されるのでしょうか…」





不安げに俯くシュドの言葉が、やけに
重々しく漂った







「なあシュド…お前、ノールのこと好きだろ?」





訊ねられ 彼の身体はビクリと跳ね上がった





えっ!?
ああああのっ石榴さんどうしてイキナリ?」


「あ?そりゃお前とノールが仲いいし
今のお前の態度見りゃ何となくは」





照れて顔を掻く石榴をルーデメラが揶揄する





超鈍感クリス君でも流石に分かってたか〜」


「テメェは一々俺をバカにしねぇと
気がすまねぇのか!あぁ?


「落ち着け石榴…とにかく私達から見ても
ノールはシュドに好意を抱いているようだったぞ」


「のっノールちゃんが…僕に…?」







一気に耳や首まで赤くなるシュドに
ニヤニヤしながらシャムがつっかかる





「まったくどっちもじれったいニャ〜
もうお見合いの前に告白すればいいニャ!


「ええええっ!?」


「だってノールは相手をイヤがってたし
それにシュドのことが好きニャら、きっと
首をタテにふると思うニャ!」





唐突過ぎる提案にシュドは慌てて弁解する





「けど、相手は隣国の王子様ですよ!?
僕のような素性の知れない者が名乗り出ても…」


「素性ならルーデメラが保証してくれるだろう」


「それに、ノールを送り届けた恩人の一人なら
王様も納得してくれるんじゃねぇか?」


「だけど元の立場に戻られた今、どうやって
ノールちゃんにお気持ちを…」


「手紙か何かでさり気なく呼び出せばいいのさ
少なくともこの前のダメ神より望みはあるだろう?」


「そっそんな大それたこと僕には…」





煮え切らない態度のシュドに対し







石榴は更に過激な提案を思いつく





「いっその事 見合いの最中に乱入して
ノールを連れ出して告白するのはどーだ?」


「いーこと思いつくニャ〜石榴!うまくいけば
コンランにジョーじておタカあイタっ!





よからぬ事を企んだシャムは拳骨を頂戴した







「でもっでも、お見合いに乱入なんかしたら
ノールちゃんに迷惑が…!





うろたえるシュドを落ち着かせるように
カルロスがささやく





「あくまでそれは最終手段だ」


「…まぁ何にせよ君が行動を起こすなら
五日間の間が、刻限だね」







ルーデメラの一言を最後に、沈黙が広がる







ジッと考え込んでいたシュドは





「スミマセン 少し外の風に当たってきます」





とだけ呟くと、静かに部屋を出た







「…勢いとはいえ 何か悪いことしたかもな」


いいんだニャ!いつまでたっても二人とも
シンテンしニャいんだから そろそろキチンと
ケジメをつけるべきニャ!!」


「それは違うぞシャム」





興奮している彼に淡々と言葉を続けるカルロス





「あくまでコレは当人達の問題だ、私達が
とやかく言うものではない」


「そーそー僕も天使君じゃなかったら
相談も乗らずに放っておくね こんな面倒なの」


「…面倒ってお前なぁ」








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:やっぱり色々組み込んでると長くなるので
もーいっそ長話スタイル貫こうかと考えてます


石榴:ついにさじ投げたかコイツ


ルデ:自分の遅筆技量不足を完全に棚上げしたね


狐狗狸:何とでも言うがいいさ この話が無いと
次の展開に不都合が出るから仕方ないし


ノール:もっとアスクウッドの素晴らしさや
城の内装の部分を書き出さぬか!!


シャム:てーかオイラさいきんナグられっぱニャし…


カルロス:よしよし泣くなシャム(頭撫で)


狐狗狸:その辺りはもう少し何とかなるかも?
シュドとノールが主役だからねーこの話


シュド:ええと…あの、が、がんばります…(赤)




蛇足ながら…クリプトメリアはとある木の学名から
そのまま持ってきていたりします


次回 タイムリミットはあと五日…!