目にも留まらぬ剣捌きと闇を伝うその動きに翻弄され


群れ集う魔族軍の数は目に見えて減っていく





「小癪なぁぁぁぁぁぁ!!」





稲妻と矛を操り、反撃をするゴルフォナドンだが





その攻撃はシェイルダートにとって


余りにも鈍く掠りもしないか 当たっても
自らの闇に吸い込まれるだけの無意味なモノと化す







「マジで最強だな…つーかアイツがいりゃ最初から
勝てただろ、これだからファンタジーは…」





圧倒的な光景に不満を捲くし立てていた石榴に





「はい、クリス君これ」


蛍光オレンジの液体が入った瓶を手渡すルーデメラ





「それ飲んで総隊長君をこっちに連れてきなよ
彼なら少しはマシに動けるでしょ?」


「え…でもお前の召喚した奴等で
カタがつくんじゃねぇのか?」





ゆっくりと、彼の首が横に振られる





「計算じゃそろそろ召喚時間が切れる頃だからね
露払いで頭が瀕死になれば御の字だよ」







魔法などの仕組みを知らない石榴であっても


喚びだしたモノに"活動時間"がある事だけは
今までの経験で理解していた





「…結局、あの豚は俺達で片付けろって事かよ!」


「当たり前、僕はもう魔力切れてるし
疲れたからね…任せたよ?」





言って笑うと、側に寄ってきた魔物に
取り出した爆弾を喰らわせて昏倒させ


ルーデメラは道具で作り出したバリアーに退避する











〜No'n Future A 第四十五話「橋の死闘 再来8」〜











「ったくしょうがねーな」





瓶のコルクを開けて中身を一気に飲み干し







己を磁石として アズルをこちらまで
引っ張っていくイメージを脳裏に浮かべながら


再び魔術銃を具現化させて





「"引き寄せろ"!」





照準を合わせ、弾丸を放つ石榴







「何をする石榴ど…っうわぁぁ!?





狙い違わずアズルに光球が着弾し その身体が
ぐんと見えない力に引っ張られ宙を舞う







そのまま橋の合間の空間を越えたまでは良かったが





「げっ、ちょ早…どわぁぁぁ止まれ止まれっっ!!





自分へ近づく相手の速度が尋常ではないと
見て取って 慌てて石榴が制止の声をあげる







…あと0.1秒遅かったら間違いなく正面衝突


どちらも戦う所ではなくなっていただろう







石榴と3cmの空間を隔てた位置で
アズルの身体は急激にブレーキングし


その時点で魔力から解放され、橋の上に落ちた





「ぐべっ…痛たた…」


「うおぉ危ねぇー、磁石はちっと失敗だったか」


「危ないのはこちらの方だ!
いきなり宙を引きずられて何事かと思ったぞ!」






したたかに打ち付けた箇所を擦りながらも
怒り交じりにアズルが身を起こした時







「「我が主、これにておさらばです…失礼!」」





通りのいい声だけを残し 二体のシェイルダートは
ゆらりと身を揺るがせ、影に沈んで消えた







彼らの検討により 先程まで
アズルのいた側の魔物達も


現在三人が佇んでいる端の周囲の軍勢も





ゴルフォナドンを残して、全て沈黙している







「ぐっ…何故だ、何故我等が、ワシが人間ごときに
ここまで追い込まれねばならんのだぁぁぁ!!」





引き絞るような叫びと共に振りかざされた
三叉の矛から稲妻が奔り


咄嗟に回避した二人の間の空間が焦げつく





「覚悟しろ!貴様等だけは骨も残さず
焼き尽くしてくれる!!」








向けられた矛先が稲妻を発するより早く







「"壊れろ"!」





石榴の弾丸が命中し、ゴルフォナドンの手の中で
三叉の矛が灰と化して脆く崩れる…そして







「ぐっ…貴様らぁぁ!!」


「これで終わりだっ!」





剣を構えて飛んだアズルの一撃が


振り上げられた足が橋を踏み抜く前に
ゴルフォナドンの額を貫いていた







「申し訳ございませんっ…覇王様ぁぁぁぁー!!」





断末魔が尾を引き、崩れ落ちた巨体が
灰も残らず消え失せる








それが、パイラを落とさんとした魔族軍の
総大将の最期だった













「…皆!隊長達が戻ってきたぞ!!」







兵の一人が上げた第一声をきっかけに





石榴とルーデメラ、そしてアズルを先頭に
戻ってきた自衛団の兵士達を


街の住民達と戦いに参加していた全員が
歓声をもって出迎えた








「大丈夫でしたか皆さん!!」





一番に駆け寄った心配そうな表情のシュドに


石榴は少し無理をして 笑ってみせる





「やばかったけど何とかな…結界完成お疲れさん


「いえ、僕はただ皆さんのお手伝いを
努めただけです」


そうケンソンするでないシュド!
わらわから見てもお主の働きは素晴らしかったぞ!」


「そうとも、シュド殿のお陰で我等も死の淵から
救われたのですからな!」





ノールを中心に褒めそやされ、シュドは耳まで
真っ赤にして恥ずかしげにうつむく







それを傍目で笑いつつ カルロスの姿に
気付いて声をかけるルーデメラ





「船長さん、無事だったんだ」


「ああ…シャムやお前達のお陰でな、ありがとう


「…面と向かって感謝されると流石に照れるね」


め、めずらしいニャ!ルデメがニクまれグチ
たたいてニャいニャんてタツマキがおこるニャ!!」


「何なら竜巻を起こして君を巻き込ませようか?」





瞬間、ニ゛ャっ!と短い悲鳴を上げて
シャムはカルロスの背後へと引っ込む







兵隊達にそれぞれ労いの言葉をかけてから





「それで…負傷者や死者はどれ位いる?」





切り出したアズルへ、おずおずと兵は申し出る







「旅の皆様のご尽力で思ったよりは被害は
出ておりません…しかし街は壊滅寸前です」





その言葉に 街の者達と自衛団の面々が
沈痛な面持ちで項垂れる







魔族の軍勢は結果的に撃退出来たものの


残された戦いの爪跡は、あまりにも
大きく悲惨であった





「ヴァロブリッジも壊れたし…最早復興は絶望的か」


「悲観する必要は無いぞ 諸君!」







突如響いた朗々たる声に、俯いていた
アズルが顔を上げれば


蹄の音を高らかに響かせ 紋章を胸に刻んだ
全身鎧の騎士が馬上から全員を睥睨していた





騎士の後ろには肩に紋章を刻む
同じような鎧姿の、馬に乗った騎士が数人







途端にアズルと自衛団の兵士達は姿勢を正し


彼らに向かって敬礼をする





これは国王軍の皆様!何故このような所に!?」







問うアズルに鎧の面を向け、先頭の騎士が答える





「姫の捜索中に、魔物どもの不穏な気配を感じ取り
いぶかしんでいた最中にパイラの騒ぎを聞きつけたゆえ
国王が援軍を派遣され…ん?!





言葉半ばで、騎士が面当てを外す







むさいヒゲ面の 案外円らな瞳が
しっかとノールの姿を認めた途端







「おぉっノーリディア姫!探しましたぞ一体何処に
…いや それよりもご無事で何よりです!!」






騎士の上げた一言にこもった驚愕が


そのままアズル達自衛団とパイラの住人達へ
凄まじい速度で伝染した





「なっ、なんだと!?君が、いやアナタ様が
ノーリディア姫だったのですか!!?」








ばつの悪そうな表情で進み出たノールが一つ頷く





「いかにも…わらわこそが
ノーリディア=ユーム=アスクウッドぞ」


「そうとは知らず数々のご無礼…どうかお許しを!





ひざまづくアズルに苦笑し、彼女は呟く





「…面を上げよ、わらわは気にしてはおらぬ」









事情が飲み込めないながらも騎士が馬から降り







「何はともあれ…お前達はここでパイラの復興と
その間の警護に尽くせ!
姫は、私と共に王国へ戻りましょう」







後ろの騎士達に命じてから
ノールへと歩み寄り、丁重に手を差し出すが


一瞥し ノールは首を横に降った





断る!わらわもパイラとヴァロブリッジの
フッコウを手伝っていく!!」


「そんな!復興は我等が責任を持って助力致します
姫は一刻も早く国王様の元へお戻りに
「イヤじゃ!」





惑うヒゲ面騎士の説得を一言で斬り捨て





わらわとて一国の姫じゃ!ここで何もせず戻ったら
魔族軍の進行を水際でせきとめた街の兵達と
わらわをここまで送った仲間達に申しワケが立たぬわ!!」





毅然とした態度で、ノールは騎士達へこう命じた





「皆の者、すぐに伝令を飛ばして父上に伝えよ!
街と橋が元通りになるまでわらわは帰らぬと!!」








周囲の戸惑いを物ともしない 堂々たる王族の物腰と


揺らぐ事の無い金色の瞳に





説得はムダと悟り、騎士はため息を吐いた







「全く…国王様が卒倒しても知りませんからね?」


「案ずるな、父上はそれほどヤワではないわ」





笑みを浮かべるノールに釣られて笑ってから
威厳のある表情に変わった騎士が、アズルを見る





「貴殿がパイラ自衛団の隊長で宜しいか?」


「はっ、不肖この私が
隊長のアズル=ロバイトであります!」


「パイラとヴァロブリッジの復興の間、貸与する
国王軍の指揮を貴殿に任せる」



「身に余る光栄…恐縮です!







重々しく頷き、騎士は背後へと向き直り





「お前達はこちらのアズル殿に従い 街と橋の
復興と警護、及びにノーリディア姫の守護を努めろ!」


『了解しました!』





騎士達に命令を下してから、馬にまたがり
王国へと引き上げていった









「さて…こうしてはおれん!皆、聞いての通りだ
姫も国王軍の皆様も復興に協力してくださる!


我等も一丸となって 街と橋の復興に力を注ごう!!





呼びかけに自衛団の兵士と街の住人全員が
力強い雄叫びを上げて同意する







そこへ石榴が アズルにこう言った





「なぁアズルのおっさん、俺らも手伝わせてくれよ


「申し出は嬉しいが…しかし石榴殿達は
旅の身なのではないのか?」







けれど、石榴を始め他の四人の誰一人として
嫌な顔をする者はいなかった







「ノールちゃんや皆さんが大変な時に
僕らだけ何もしないわけにはいきません!」



「皆には恩があるからな…出来る限り力になりたい」


「オイラたち、元々ノールを送る
タビのトチュウだしニャ〜」


「どーせしばらくはこの街に逗留することに
なりそうだからね」







数度瞬かせたノールの目から涙が流れる





「ありがとう…皆の者」





だが 表情は眩しいほどの満面の笑みだ







「我等パイラ自衛団も…心より感謝を申し上げる」


「ありがとなぁ旅のお方々」





兵士達と街の人間を代表するように口を開いた
ロバイト親子もまた、同じ顔をしている







「これで街と橋の問題がなくなったよね?
…さて、約束は守ってもらうよ?


「分かっている…ただ復興計画を話し合う必要がある
落ち着いたら、土地の場所へと案内する事で宜しいか?」


「構わないよ 約束さえ守られればね」


パイラ自衛団隊長の名にかけて誓おう…それでは」





派手な頭飾りのついた兜の長身が騎士達と
兵士達、街の人間の幾人かを集め始め


それらの人だかりに溶け込んだのを見届けると


石榴が小声でルーデメラへささやく





「……おぃルデ、土地なんか手に入れて
何に使うつもりなんだよ?」


「決まってるだろ?研究施設を建てるのさ」







淡々と語り始めたルーデメラいわく


個人だけの研究室が欲しいと前々から
検討はしていたらしい





そこに魔力的な力場の高い"土地"の話が
転がり込んできたので、チャンスと思ったとか







「僕ならうまく結界を張って、探知も守備結界の阻害も
起こさないように力だけ利用出来るしね」





心底嬉しげな彼の表情に、石榴は何処と無く
背筋が薄ら寒くなるのを感じた











それからアズルや街の長などの中心人物による
街と橋の再建計画が決定され


全員が、正に一致団結して動き始めた





石榴達も彼らに協力して資材の運び出しや
食料などの調達 或いは街と橋周辺の警護に協力する







その間 魔導師協会の人間を幾人か協力させ





かけられた封印を解いた土地に


僅か一週間ほどで、ルーデメラは自らの研究棟を
そこへと作り出したのだった







「へぇ、そこそこ悪くないじゃない」


「お前 手伝ってもらったクセに偉そうだな…」





満足げに完成した建物を見やるルーデメラに
休憩中に通りかかった石榴のツッコミが飛ぶ









魔族軍と立派に戦った栄誉を讃えてなのか


娘を早く戻らせたい親心からかは定かではないが





とにかく国王の計らいによりアスクウッドから
増援が多数寄せられてペースも速まって







…街と橋は、一ヶ月ぶりに元の姿を取り戻し







再建が完了したその日 復興と魔族軍を
退けた功績を全ての人間が祝う









が、その祝祭に参加できない者達がいた







増援として使わされたアスクウッドの国王軍と





今まさにパイラを旅立とうとしている
街一番の功労者である 石榴達六人だ







「…もう行かれるのか?」





訊ねるアズルに…出会った時の面影は無く
ただ寂しげな雰囲気を漂わせている







「街と橋が元通りになったし、これ以上は
父上が心配するからの」


世話になったな アズルのおっさん」


「オイラはもーちょいここにいてもいいけど
まだヨージのこってるしニャ」


「本当に、色々とありがとうございました」


「留守の間に魔導師協会の人間が研究棟の掃除
サボったりしないようにしといてよね?」


「アズル殿 これからもパイラを護る
よき隊長であってくれ」







それぞれに言葉を継げる六人の顔つきに


彼らの決意を組んで、アズルは微笑んだ





「そうか…ならば最早引き止めはすまい
しかし、我等はあなた方の勇気ある行為
生涯忘れることは無いでしょう!」







活気付く街を背に歩き出す六人へ





「お気をつけて!
あなた方の旅路がよきものでありますよう!!」






その姿が消えるまで アズルは敬礼を
崩さぬままで見送っていた









……再建したパイラに、祝祭と同時に
新たな伝説が一つ 付け加えられた







"伝説は繰り返され…魔物軍によって
橋が落ち、パイラの街に絶望が訪れし時


五人の旅人を連れた王女が


兵と共に戦い 街を救わん





伝説の武器を携えし赫き瞳の異界の民


影の使者を従える蒼き瞳の魔術導師





そして三人の勇士達と王女の残した功績を


我等は永久に、語り継ぎ称えん"









――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:駆け足急ぎ足でどうにか橋の話は
これにて終了でございます!


石榴:一気に説明不足の荒さが出たな


ルデ:いつもの事でしょ?こいつの作品が
ダメダメなのは


カルロス:…やはり一話先延ばしにしてでも
きちんと仕上げた方がよかったのではないか?


シャム:だよニャ〜いくら長かったからって
これじゃムリヤリおわらせたカンジがツヨいニャ


ノール:そうじゃ、全くダメ作者め!!


シュド:あの皆さん あまり管理人さんを
責めるのはやめてあげてください


狐狗狸:……スンマセン(土下座)説明不足ついでで
ルデの建てた研究棟について、本人からどうぞ




ルデ:滞在中に外装と内装を僕好みに誂えつつ
最適な実験環境に作り上げたんだ


無論、作中で語った強固な魔導防御も施したし
まさに最高の研究棟だよ


ちなみに基本的な管理と権限は僕にあるけど
掃除だけは魔導師協会の人間に―




語りが長いのでこっそり終了


次回 旅の身の彼らに訪れた、恐怖の事態!?