答えたのはゴルフォナドンではなく
その側にいた、蛇頭で鎧をまとった魔物







「クケケ、ガキヲ食ッタノガソンナニ気ニ食ワナイカ?
テメェモ食ッテヤルカラ安心シ」






言葉半ばで 蛇頭の片腕が吹き飛ぶ





「ガ…ガオァァァァァァァァ!!







苦しみもがく濁った叫びは、立て続けに撃たれた弾丸で
頭部ごと消え去った







銃口を魔族軍に向ける石榴の表情に狂気が滲む





痛ぇか?でも安心しろ…テメェみてぇなクズどもは
一欠けらたりとも残さず一瞬で消してやるよぉ!」






怒号を合図に、魔族達への総攻撃が始まって





「グギャァァァァァ!


「ゲェェェァァァァァァ…!」







人外の呻きと破壊音が周囲の音と言う音を埋め尽くし


兵達を押し包まんと迫っていた魔物達が
瞬く間に、屍と化して積み重なってゆく











〜No'n Future A 第四十四話「橋の死闘 再来7」〜











魔物の率いる軍団によって パイラの街と
橋の上の兵士達が壊滅の危機に晒されし時


伝説の武器 魔術銃を携えて現れし旅人が





たった一人で橋上にはびこる魔族を


圧倒的な力によりて一掃する








まさにアズルの目の前で起こる光景こそが


街に代々語り継がれた勇者の逸話と、同様の光景





「それなのに何故 あの異界の少年の目は赫い…!









叫んでいるその声も、銃を放ち続けるその姿も







「滅べ滅べ滅べ滅べ滅べ
ホロベホロベぇぇぇぇ!!」






普通の高校生のそれではなく…
人ならざる存在のものへと変わっている





赫い目で笑う石榴の殺気は尋常ではなく


敵味方関係なく、誰もが恐れを抱いて身を竦める







「な…何だあのガキは……あの姿は…
まるで、あのお方の……!」







ゴルフォナドンの呟きは他方から上がる大音量に
飲み込まれて掻き消される









止める者のない破壊が続けられ





ただただ増える魔物の死骸に、両陣営の
恐慌状態が最高潮へと高められていき―








まさにそれが爆発する直前







「バンプソニック!」





ルーデメラの放った衝撃波が石榴の後頭部に直撃した









もろにダメージを喰らい、たまらずに石榴は
その場に倒れこんで悶える







硬直した両陣営の空気などまるきり無視して


浮遊呪文で大陸側に残る橋の残骸に移動し





足音を響かせ 近寄ったルーデメラが
冷たい視線を下で転げる少年に浴びせる





「何一人でたぎってんのさクリス君
うるさいから土に還れば?







そこでようやく石榴は、涙目になりながら
むくりと身を起こす







「〜〜〜ってぇ!テッメいきなり何しやがるルデ!」





怒鳴りつつ睨み返すその目は茶褐色に戻っており


表情や気配も 先程までの人ならざる恐ろしさは
キレイさっぱり消えうせていた







「その言葉そっくりそのままお返しするよ
君らだけじゃ心もとないからワザワザ加勢に
来てあげたのに なーに暴走してるのさ」





ノンブレスで捲くし立てられて言葉に詰まる石榴へ
追い討ちをかけるように


手の中にあった魔術銃が光を放って





あっという間に、元の宝珠へと戻る







「っげ 魔術銃が宝珠に戻っちまった!」


「そりゃあれだけ暴れればね、むしろそこまで
乱発出来る力がある事に驚いてるよ僕は」


「のん気な事言ってる場合かよ!」







その叫びに、ようやく我に帰ったアズルが告げる





「そっそうとも!奴等の総大将はまだ生きているし
魔物軍の多数がまだ街に攻め入っているのですぞ!!」







彼に続き兵士や魔族が徐々に落ち着きを取り戻し


反動でいきり立ち、飛びかかった魔物の一匹を
爆弾で吹き飛ばし ルーデメラは不敵に笑った





「大丈夫、街の守備は喚びだした精霊に任せてある
契約してる中でも一番強いヤツをね」













やや前後して…ヴァロブリッジの下を流れるイールズ川





パイラの南地点、崖下に流れる急流から
顔を出している幾つかの岩石の一つに


ザバリと現れた手が勢いよく張り付く





その手が岩を基軸に水没した身を引き上げれば
カルロスが姿を現した







「…ぷはっ 大丈夫か皆?」







見回した群青の瞳に、同じようにしてどうにか
岩にしがみつく兵士達が映る







「ええ、何人かは流されてしまいましたけど」


「でも この急流じゃオレ達もいずれは…」





轟々と唸りを上げる水が疲弊していた彼らの体力を
容赦なく奪っていく







危うく一人が力尽き、川へと沈みかけて…







「つかまるニャ、カルロス!」





上からの声に顔を上げたカルロス達の目の前に
数本のロープが垂れ下がった





そのロープは中空で太い一本のロープへまとめられ


垂らされた崖の先に顔を出していた人物に
カルロスの目が、驚きに見開かれる





「シャム…!何故ここに!?」


「ものスゴい音がハシからきこえたから
やなヨカンがして いそいでかけつけたんだニャ!
さぁっ、早くロープにつかまるニャ!!


「しかし、お前の力で私や他の者達を
ここから引き上げるのは…」


「オイラだけじゃニャいニャ!!」





そう叫ぶシャムの後ろから、何人かの兵士が
崖下へと顔を覗かせる





「お前ら…街の守備はどうしたんだ!?」


心配ない!ルーデメラ殿の召喚したらしき精霊が
魔族軍を半数以上蹴散らしている!」







話によると 飛来した稲妻の被害と上空からの
増援に苦しめられていた兵士達を救ったのは


影から滲むように現れた、幾つもの黒い人影だった







グゲェェェ!何ダ貴様等ハ」





言葉半ばで 魔物は一塊の肉片と化して
次々と路上に転がる





『思いの外、進入せんとす輩の排除に手間取ったが
主の命により 貴様等の相手は私が勤めん…行くぞ!





人影達は全く同じタイミングで声を揃え
剣の切っ先を他の魔物へ向け、駆け出していく







「…お陰で無事な兵の何人かは街の救護に
当たれるんだ!」


「引っ張り上げるから、早くロープを掴め!!







互いに顔を見合わせ…カルロス達が下がったロープへ
しがみつくと





『せーの!!』





呼気を合わせて上の兵士達がロープを引っ張り上げ









数分後、彼等は再び大地へと足を下ろした





「はぁ…ふぅ…た、助かったぁ〜」


「ホント 間に合ってよかったニャ〜
カルロ「伏せろシャム!」





声に反応して咄嗟に伏せたシャムの頭上スレスレで


風切り音と共に鋭いクチバシが通り過ぎる





「キキィィィィ!!」







鋭利なクチバシを武器に鳥型の魔物が
戦闘機のような素早さで兵士達目掛けて飛びまわり





次の瞬間 クチバシの根元を


カルロスの左義手に叩き切られて墜落する







呆気に取られた自衛団の面々に、カルロスは言う





「…とにかく、橋は石榴達に任せて
私達は街へ侵入した魔物達を討伐しよう!」


『はい!カルロス殿!!』


「分かったニャ!!」









賛同し、彼等が街へと戻ってから程なくして







街の端々から一筋の光が駆け上がり…それが
中心部の空へと集った瞬間


光の幕が パイラの街を覆い尽くした









「これで…結界が完成です!





シュドの宣言に、ノールや兵士達の顔に
安堵の表情が浮かび上がる





「ようやくやったか、シュド!」


「ええ…後は怪我をした方々への治療に回ります
ついて来ていただけますか?ノールちゃん」





返事は、ニッと口を吊り上げた笑みで返された





「何を言うのじゃ 共に行くに決まっておろう!」





微笑んで頷くとシュドはノールと共に
結界地点から駆け出していった







「……後は頼みましたよ皆さん」





上空の結界へと目をやって、小さくシュドは呟いた











突如出現した結界に阻まれ 上空からの侵入を
行っていた魔物達が動揺を見せ





宙に立ち往生していた内側の魔物の兵は


矢や砲弾などの遠距離武器や攻撃呪文の集中砲火を
浴び、悲鳴を上げて落ちていく







その様子を横目にルーデメラは楽しげに言い放った





「おや…やっと結界が完成したみたいだ、天使君も
随分手こずらされたようだねぇ」







よろよろと身を起こしたゴルフォナドンが
矛先をルーデメラへと向ける







「偉そうに言ってはいるが…貴様からは最早
欠片も魔力を感じぬぞ


「へぇ、豚頭の割にはよく見抜いたね
お察しの通り僕の魔力は殆ど無いよ…自慢の道具も
そろそろ底を尽きかけてて参ってる所さ」


「じゃお前何しに「人間の分際でここまでやった事は
誉めてやろう!しかし貴様等の抵抗など無に等しい事を
ワシが教えてやるわ!!」






石榴のツッコミを遮り、哄笑を響かせ
ゴルフォナドンが上空を舞う魔物達を呼び寄せるが







「そうはいかない 言っただろ?加勢に来たって」





余裕の態度を崩さぬまま…ルーデメラは
近くの瓦礫に出来た影へと呼びかけた





「聞こえてるよねシェイルダート!
結界も完成したようだし、僕を手伝ってくれる?」








同時に下から生えるように両側の橋影に
一対ずつ 黒一色の人影が現れ


その場にいた全ての者達が驚愕の声を漏らした







人影はそんな様子を微塵も気にかける事無く
それぞれルーデメラへと跪き、淡々と告げる





「「…魔物どもは粗方排除いたしました」」


「期待を裏切らない働きぶり、見事だよ」


「「感謝の極み」」


「なっ…何じゃありゃ!おいルデっ
そいつらもお前の召喚獣って奴か!?」





指差した途端、ギッと人影が瞳の無い顔で石榴を睨む





「「失礼な事を抜かすな人間風情が」」


「そうだよクリス君、彼は神の使い…精霊の中でも
上位に位置する存在なんだ 獣と一緒にしちゃダメだよ」


「分かるかんな事!!」







しかしルーデメラへと噛み付いているのは石榴のみ





他の者達は…特にゴルフォナドンは
明らかに黒い人影達に対して畏れを抱いている







「シェイルダート…まさか、剣神の片腕と呼ばれた!?」


「ご名答!さぁシェイルダート 君の剣閃
思う存分こいつらに叩きつけてあげなよ!!」


「「…承知しました 我が主!」」





同意したシェイルダートが、一陣の風と化して
橋にいる魔物達の間を縫って暴れまわる








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:かなり長くかかりましたが、石榴ぶち切れ
シーンと形勢逆転的な部分が書けました


石榴:つーか後ろから呪文ブチ当てやがって
マジで殺す気かルデ!


ルデ:やだなぁ、殺すならもう少し殺傷能力
高いヤツをブチ当ててるよ〜


狐狗狸:笑いながら怖ぇ事言わないでよ…


ルデ:それにしても性懲りも無くまた話伸ばしたの?


石榴:いい加減、次ぐらいで終わらせろよな
飽きられるぞしまいには


狐狗狸:容赦ない子達…所で後の四人はどしたの?


ルデ:イールズ川の淵に行ったよ、ここ暑いから


狐狗狸:ちょ!?急流なんですけどあの川!!




救助に行ったら案の定、シャムが流されかけてたとさ


次回 死闘に決着!そして伝説に…