「ご命令を 我が主」





闇を割くほど鋭く低い声で呟き それは
ルーデメラの前へ片膝をついてかしこまる





「街に侵入した、或いはそれを試みる
魔物達の排除と殲滅…要は防御結界の完成まで
街を守るのが 今回の君の使命さ」


「失礼ながらそのご命令、些か我の手に
余るように思われるのですが?」







戸惑う影を、ルーデメラは鼻で笑う





「しばらく会わない内に弱気になったねぇ


…闇の眷属を従える闇神の剣と呼ばれた使者には
この程度の命令、問題にならないだろう?」





台詞の途中 兵士を倒した魔物が
ルーデメラへと襲い掛かるも







振り向きもせず影が無造作に剣を一振りした瞬間


魔物はその場で、細かい破片へと裁断された







瞬く間に繰り広げられた寸劇に構わず ルーデメラは
喚びだした使者にニコリと笑って一言





「それじゃ僕は橋に行くから、頼んだよ?


「…畏まりました 我が主」





走り去る主を見やり、影の使者は闇へと
混ざるようにして溶け込んだ…











〜No'n Future A 第四十三話「橋の死闘 再来6」〜











魔物軍の奇襲に、深い闇に沈んでいたパイラの街で





あちらこちらで戦火の瞬きと狂騒が満ちる







「くそっ頑丈な奴等だ!」


「自衛団の名誉にかけて、これ以上奴等が
パイラへ侵攻する事を許すな!!」





自衛団の兵士達は街の各所にて前線を展開し


要所要所で出現する魔物へ、携帯している剣と
なけなしの小銃で立ち向かう







猫っ!この弾薬を至急アスクウッド街道の前線に
届けに行けっ!!」





やや乱雑に物資を手渡され、慌てて駆けるシャム





「あわわわわっ、マジ人使いアラいニャこいつらっ!」







戦闘の合間を縫って進んでいる途中





キキケケェ!ウマソウナ猫獣族ガイルゾ!!」





何匹かの魔物がシャムに目を付け、捕食せんと
群れを成して追いかけてくる





「ニ゛ャ〜!オイラ食べてもおいしくニャいって!
カルロスぅぅぅぅぅ〜!!」








涙交じりの叫びが路上に木霊した…











兵士達が戦っているとはいえ、魔物達の数は多く
手の回らぬ何体かが街中をうろつき回っている





少なからず派遣された魔導師の姿が見えるものの


実戦慣れしている者は少なく 無数の魔物に
攻められ打ち倒される事も起こりうる







「オマエモクッテヤロウカガキガァァァァ!!」





人の姿から正体を露わにした怪物が腕を振りかざし







その目と、腕と胴に間髪入れず矢が突き刺さる





「グギャァァァァ!」


悶え苦しむ怪物を兵士の一人が切り伏せる間に





愚か者めが!…後は任せたぞ」





矢を射掛けたノールはそう言って
シュドの手を引き、先へと進む







戦う術を持たぬシュドに代わり


ノールが得意の弓矢やチャクラムで敵を怯ませていく





「大丈夫ですかノールちゃん」


「心配は無用じゃ あの程度の魔物で
わらわが屈すると思うてか!」





強気な微笑みを見せる彼女だが、ちらほらと
疲労や恐怖が浮かんでいるのは隠しきれていない







シュドの目が悲しげに伏せられる







「ごめんなさい…僕が弱いばかりに…」


「何を言っておるのじゃ!」





怒鳴られ、不意に彼は肩をびくつかせる





「戦う力などなくとも お主には人を支える
強い力があるではないか!」







その一言に シュドはすっと顔を上げた





「案ずるでないシュド、お主は自らの務めを
果たす事にセンネンするのじゃ!」


「…はい!次の結界地点までもうすぐです!」









街を徘徊する魔物達や空を飛ぶ魔物達が
重点的に攻めるのは


パイラを囲むように設置された六辺の結界地点







「ホワイティガーディアル!」





駆けつけ様で早速、結界地点を中心に
防御呪文を展開するシュド


戦っていた兵士達の顔に 僅かに希望が灯る





「シュド殿っ、結界完成までどうか
この場を持ちこたえてください!」


「はい!がんばります!!」







呪文を唱え、魔法陣に魔力を注ぎ込む術者の周囲に
ひしめく魔物へ兵士達が身体を張って立ち向かう中





「スロミル!」





呪文で彼らの援護を勤め シュドはノールと共に





完成次第、結界地点を順に渡り歩く







「ぐぁぁぁっ!」


「結界係の一人が負傷したぞ!」


シュド殿 すぐに回復魔法を!」





頷き、彼は呪文を唱えながら負傷者へ手をかざす





「ヒーリング!」













…奇襲で大半の数が街へなだれ込んでいるものの


あくまで魔物達の本陣は橋から押し寄せている為





ヴァロブリッジでは本格的な死闘が繰り広げられていた







橋の中程からやや街側へ押し進んでいる魔族軍達を
兵士達が一丸となって止め、制圧に全力を注ぐ







あちこちで硬く鋭い何かがぶつかる音や
悲鳴や呻き声が鳴り響き





松明の獣脂が焦げるニオイと血臭と獣臭などが
混じり合った 独特の異臭が漂うそこは







―正に戦場だった









「っぐ…ヒデェ状態だなこりゃ」


「遅くなった、戦況はどうなってる!」





駆けつけた三人に気付き 近くにいた兵が
何人か振り返る





たっ隊長!皆さん!!」


「今の所、強化された罠が功を奏してか
どうにか劣勢ながらも持ちこたえてはおります!」







彼らの話によると 街中での異変からさほど
間を空けぬタイミングで魔族軍が攻めてきたらしい







が…幸か不幸か明るい内に仕掛けたトラップにより


そちらの軍勢が街へ入る事は防げたとか





「なるほど…備えておいて正解だったようだな」


「ええ、大半は潰れましたけど まだ仕掛けが
残ってるようで…ほら」





言って兵が指し示すのは 橋のある場所で
立ち止まったそれぞれの魔物達







トラバサミのような仕掛けに足を挟まれた直後


間髪要れず、足元から謎のガスが噴射され





「ギャァァァァァ!
目ガァァァ…鼻ガァァァッア!!」






罠にかかった相手と周囲の魔物達が各々の
目や鼻を押さえて悶え苦しみ







また 大陸側の大地に幾つか掘られた落とし穴の下に


踏めば発動する魔道装置が仕掛けられており





「ナッ何ダコレハブギュg





迂闊に足を取られた魔物が、装置によって
発動した火炎魔法で黒焦げに焼かれたり


召喚された石人形数体に袋叩きにあっていた







「うおぉ…スゲェなシャムのトラップ…
てーか魔術強化するとあんなにえげつなくなんのか?」


「うぎゃぁぁぁっ!」







一人の兵士が上げた悲鳴が、呆然としていた
石榴達を我に返らせた







「って、のん気にしゃべってる場合じゃねぇな!
リオスク アーク!





彼の言葉を合図として、三人が
戦地となっている橋上へと突入した









「"爆ぜろ"!」





石榴の銃弾が魔法の使える魔獣を蹴散らし







「自衛団の隊長を務めるだけあって、アズル殿の剣技
かなりの腕とお見受けする」


「いや…カルロス殿も中々の腕前
しかし、努々油断なされますな」


「ご忠告 謹んで受け取っておこう!」





アズルとカルロスの剣が、闇を割いて閃く







三人の獅子奮迅の活躍により、徐々に橋の形勢が
自衛団の側に盛り返されつつあった







「ギギェェェ…シブトイ人間ドモメ!」


「オイ、早ク街ヲ落トサナイト…」


「何をもたついている!」







地の底から響くような重苦しい声が轟いて





たむろしていた魔物達の群れが突如、左右に分かれる





出来上がった道から悠々とした足取りで現れたのは


三叉の矛を手に身体を頑強そうな鎧で覆い
威圧感をまとっている、巨大な豚のような魔物





コレハコレハゴルフォナドン様!
ワザワザオ手ヲワズラワセテシマイ申シ訳アリマセン!」







大陸寄りの位置で戦っていた石榴が肩越しに
アズルへ振り返り大声で訊ねる





「アズルのおっさん、あの豚野郎は何なんだ?」


分からん!だが 雰囲気からして
奴等の総大将であることは間違い無さそうだ!」


「気をつけろ石榴…奴は只者では無さそうだ」





言って、カルロスが石榴の側へ移動せんと
まとわり付く魔物を蹴散らし駆け始める







「奇襲までかけ大半の戦力を割いておきながら
何故たかが街一つがまだ落とせぬのだ!!」



「存外、人間ドモガシブトイモノデ…」





オドオドする魔物を侮蔑の眼差しで見下し


ゴルフォナドンが石榴達へと視線を向ける







「小賢しい人間どもめ…我が力の前に平伏すがいい!





重々しく呟き、奴が手にした三叉の矛を一回転させ


矛の柄底と足で同時に橋を叩いた直後





かつてない振動が 橋全体を揺るがした





『どわっ!?』







橋上で戦っていた者は皆等しく体勢を崩し戸惑う







その内の何人かは、言い知れぬ不安からか
或いはこれから起こる事を察知してか


急いで橋から街の方 或いは大陸側へ移ろうとするも





度重なる戦いと長い年月によって脆くなった橋に
先程の振動が致命傷となって







両端の部分を残して 中抜きに橋が崩壊した








『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』







崩れ落ちる瓦礫と共に中程にいた兵士の大半と
数匹の魔物達と…カルロスが、川へ落ちていく









「カルロス!!」







辛うじて残された部分にいた石榴やアズル達は


落ちた兵士達や壊された橋に大きな動揺を見せる





「何て事だ、ヴァロブリッジが…!」


「驚くのはまだ早いぞ人間ども!」





嘲笑うように叫び、ゴルフォナドンが三叉の矛を
空と街へと振りかざす







途端に 空からは滲み出るようにして翼を生やした
魔獣の群れが現れて街に飛び去り





街へ向けられた矛から発せられた稲妻が


いくつもの建物や地形を容赦なく破壊していく







「ぐっ!」


「ぎゃああぁぁぁっ!!」







橋上の両端にそれぞれ取り残された石榴とアズル





そして何人かの兵士を魔物達が群れを成して
取り囲み 包囲を狭めていった…













物資補給の激しさが増し、街に上がる悲鳴や
火の手が大きくなり始めた最中







「ニャ…ニャんだあの音は…
まさか、カルロス…!?







シャムの耳が 微かに橋での凶事を捕える











上空からの魔獣増援と突然飛来した稲妻による
破壊は、明らかに街の形勢を悪化させていく







「倒しても倒してもっ、全くキリがない奴等め!」





ノールとシャムもまた 結界地点にて
魔物達に追い詰められていた





「結界の完成まで…僕達の方が、持たない…!















やがて橋に残っていた自衛団の人間と石榴は





立っているのがやっとの状態まで追いやられていた







「ふん…我等の邪魔をした人間どもがいると
聞いて出向いてみれば こんな小僧どもか」


「小僧で悪かったな…この豚野郎が





侮蔑の言葉を吐く石榴だが、肩で苦しげに息をし
片膝をついての虚勢である





「口だけは達者だな…しかし我等が元覇王様直属
精鋭部隊には手も足も出まい」


「くそっ、例え貴様等に殺されようとも
我等パイラ自衛団は最後まで屈しはっ」


「やかましい!我等に楯突いた報い
ただ殺すだけでは済まさん!!」








矛の先を向けられ、アズルは悔しげに沈黙する







「ドノヨウニ殺シテヤリマショウカ?」


「そうだな……いつかの街のように、貴様等の
目の前で女子供から先に喰らって―」





愉悦を浮かべながら、ゴルフォナドンが口走った瞬間







石榴の様子が 変わった







「オィ豚野郎…テメェ今なんつった?





ゆらりと彼は…ボロボロの身体のまま立ち上がる








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:室温34度という悲鳴モノの状況下で
どーにか続きを書き上げましたっ!


石榴:戦いの逆転っぷりが目まぐるし過ぎ


ルデ:黙っててやりなよ…懲りずに夏企画の準備とか
次回でこの話に決着つける算段だのを
熱でやられた愚脳で企んでる結果なんだから


狐狗狸:同情するならクーラーをくれっ!!(倒)


シャム:ニ゛ャ…マジあいつら人使いアラ…(倒)


ノール:シュド、二人同時に倒れたぞ!?


シュド:だだだっ大丈夫ですかお二人とも!!


カルロス:近くに川は…無いようだ


石榴:いやいやいやぶち込む事前提かよっ!?




総大将は某ゲームのボスキャラを名前とビジュアル
ままパロってたりします(名前はアナグラムですが)


…色んな方々にスイマセンでした


次回 石榴ぶち切れのターン!そして現れる
もう一人の救世主…!?