「主にこちらは街の守護に重点を置いている…無論
今後も方針を変える気は無い」





基本の戦略は、敵が主として攻め入る橋と
街の両方に戦力を割り振り





派遣された魔導師や神官達が街に
対魔物用の防御結界を張るまでの間


兵士達は敵の攻撃を死力を尽くして防ぎ


結界完成後は敵の撃退・討伐に全力を挙げる





…行動連携こそ違えど、根本はこの繰り返しらしい







「結界が一度張られたなら、維持する魔力が尽きない限り
魔物が侵入する事は無いのでは…?」





シュドの疑問にアズルは渋い顔をして答える





「どうやらあの土地に対し 厳重に張られた結界が
影響を及ぼしているせいで、街の結界の強度は脆く
完成しても長くは持たないようだ」







その答えは、そのまま街の状況と一致していた





短期間で何度か張り直さなければならぬ結界は
防御側にとって大きな弱点の一つとなる


特にパイラの街の大きさや 対象が
魔物のみという事をあり


術の完成に時間がかかり、結果として戦局が苦しくなるのだ







「実際、完成する前に結界を壊されたり
術者を失う事も一度や二度ではなかった」





憂い顔で続けるアズルの言葉通り





敵の兵力に対し、街に残る戦力はあまりに少なく


相次ぐ戦闘での負傷のせいか魔導師や神官の手が
足りなくなり 助力が期待できなくなっている





「特に魔導師協会はこれ以上の被害を嫌がり
魔導師の派遣を減らしているのが現状だ」





そこでルーデメラが手を上げて言う





「だから魔導師は嫌いと?」


「いや、魔導師が嫌いなのは元からだ」


「ああそう」


「しかし今日の戦いを見る限り、ご一同の力量は
こちらにとっても心強い戦力となる そこで
それぞれに次のような配置についてほしい」





アズルの目はまず、石榴へと向けられる











〜No'n Future A 第四十二話「橋の死闘 再来5」〜











「石榴殿は橋の戦力を強化するための戦闘要員
魔術銃らしき武器の火力は、高いようだしな」


「まあな…じゃヨロシク頼むぜアズルのおっさん」


「次に街の防御を固める為、結界を張る
その手伝いと回復要員はシュド殿に手伝ってもらおう」







言われてシュドも真剣な面持ちで頷く





分かりました 微力ながらお手伝いさせていただきます」





頷き返し、彼の視線は舟を漕ぎかけるカルロスへ







「カルロス殿は先程の剣技の腕前から、石榴殿同様
橋での戦闘をお願いしようと思…聞いていますか?


「……大丈夫だ、続けてもらおう」


「え、ええ…」





ややたじろぎ気味になったアズルへ、すかさず
シャムとノールが飛びついてくる





「だったらオイラもカルロスといっしょのヤツがいい!
いっしょにたたかうニャ〜!!


「わらわの役割は何じゃ!?」


待て待て!お前ら落ち着けよ!!」





石榴に宥められ、とりあえず口をつぐんだ二人へ







「…シャム殿は橋へのトラップを設置し終えたら
敵察知と物資補給の手伝い、ノール殿は空中からの
敵の狙撃に備えて それぞれ街に待機してもらおう」







端的に告げ 彼の視線はルーデメラへ移る





「最後に…ルーデメラ殿はトラップの魔術強化と
敵に対する魔力対抗の切り札として控えていて欲しい」





無言のまま眼差しを交わす魔導師へ、アズルは
テーブル上の地図のある地点を指し示す





「街と橋の中間地点だ 念のため今から
私の部下も一人付けよう」


「部下を一人、ねぇ それって
僕を警戒してるって意味で取ってもいいのかな?」


「…取引の件を気にしてないと言えば嘘になるが
こちらとしても貴重な魔力戦力を失うワケにいかぬのです」







やや間があって、ルーデメラはため息混じりに了承する







「なるほどね…僕は街と橋、両面でのカバー
回る形になればいいわけだ」


「ぜひともお願いしますぞルーデメラ殿」









そしてアズルから残存兵力や持てる手立て
結界の手順などを詳しく語られ







「しつこいようだが第一は街の守護だ、我等はそれを
最優先に行動している事を忘れないで欲しい


兵士達にはルーデメラ殿とそのお供殿ご一同として
魔導師協会から派遣された戦力だと伝えておきます


…皆様も その様に振舞っていただくように」





首を縦に振った六人を順繰りに見回してから





「以上で解散!」







これで一旦、今回の作戦会議は終了した











それから兵達への彼らの紹介や、街の施設や
防御結界を張る地点と物資箇所などの案内







更には罠設置の手伝いで 殆どの時間を費やし…







「すっかりおそくなってしまったのう…もう夜じゃ」


「本当に恐れ入ります、兵舎を貸していただけるなんて」


「我等に協力していただく以上 皆様方に
相応の処置を取るのは当然です」







五人は兵士の一人に 今夜泊まる兵舎へと案内されていた







「ルデメはいまごろニャにしてるんだろニャ」


「あちらにも色々と考えがあるのだろ…私達は
信じて待つだけ…だ…ぐぅ」


ちょっ、もう少しだから踏ん張れカルロス!!」





うつらうつらするカルロスを半ば引きずりながら
石榴は歩いている







そう…案内されているのは ルーデメラを省いた五人









会議を終え、また自らの仕事に戻ったアズルとは別に





「…じゃあ僕は早速、この街の魔導師協会に
挨拶がてら根回ししに行っとくよ」


「って、トラップの魔術強化とやらはどうすんだよ」


「それは後でちゃんとやっとくさ、近くの兵士君に
聞けばどれか教えてもらえるだろうし」


「それもそうか…じゃ気をつけろよ、ルデ」





小声でささやき、ルーデメラは途中で
別の兵と共に魔導師協会へと赴いたのだった









「にしてもアイツ…どのぐらいで戻ってくんだ?」





石榴がぼやく合間に 全員は目的地に到着した







「つきました、ここが皆様が泊まる兵舎となります」


『……くさっ!?』





薄汚れた兵舎から漂う、何とも言えぬ
据えたニオイに五人はたまらず鼻を摘んだのだった











ほぼ同時刻 それなりに賑わってきた飯屋にて







「ほほう、そいつぁ大変じゃったのぅ」


「全くだよ…ここの魔導師協会の連中ったら
自衛団の諸君以上に頭が固くてやんなっちゃうね」





語りかけるガネットへ、ルーデメラは
注文した三品目のデザートを口に運びながら言った





ちなみに彼についている兵士は


近くのテーブルで簡単な夕食をパクつきつつ
呆れたようにその様子を見ている





「昔から自衛団と魔導師協会は仲が悪くての
色々と面倒をかけてスマンね、旅の方」


「まあいいさ コレくらいは何てことない」





フォークを振りながらルーデメラが淡々と続ける





「問題は、どれぐらい奴等が大人しくしてるかだ…」







直後 ガタンと勢いよく椅子から立ち上がった
客の一人が、ガネットへと顔を向ける





勘定…ここに置いとくよ」


「あー毎度、気ぃつけてな」





短く頷き、立ち上がった男は店を出ていく







「…店主さん あの人はこの街の人間かな?」


「そうじゃな、アズル達自衛団が旅人をほとんど
締め出しとるから 身元は保証済みじゃよ」


「ふぅん…」





片眉を跳ね上げ、訝しげに唸るルーデメラ









店を出た男はそのまま振り返ることもせず
人気のない裏通りまで歩いて、立ち止まる







辺りを確認すると 低い声で男はささやく


…いや、呪文を唱えている







声と共に彼は見る見る内に形を歪ませ





「ルグァォォォォォォォォォン!!」





咆哮を上げ、この世ならざる怪物へと変貌した







一方 別の通りでは…







「ママー、何か変な音がするよー?」


「そうね…外からかしら?」





訝しげに窓から路地を覗いた親子が見たのは







石畳を割って飛び出してきた、魔物の姿





「「キャアアアアアアアアアァァァァ!?」」





闇夜に響いた悲鳴を聞きつけ 翼を持つ
怪物が窓ガラスを割って部屋へと侵入する







その頃、崖に近いエリアでは





「…何だあの地響きのような音は?」


おい!アレを見ろっ!!」





遥か頂上から群れを成して行軍する魔物達
麓にいる兵達はいきり立つ





「ば、バカな!魔物達が崖を降りてきた!!」









時間差で起こされた思わぬ奇襲攻撃に、街は
混乱の最中へと叩き落された







兵達は街へと侵略する魔物との戦いに奔走される









「何だと…あの崖を駆け下りて侵入しただと!?





その知らせはすぐさまアズルの耳へと入り





「それだけではありません!街中でも多数の魔物達が
突如発生し、橋からも軍勢が攻めてきております!!」








騒ぎを聞きつけ 彼の元へ石榴達も駆けて来る







「おいアズルのおっさん!敵の奇襲だって!?」


「ああ、よもやすぐに急襲するとは…!」


「起こってしまったものは仕方が無い、ルーデメラが
戻らぬのは不安だが…戦うぞ!







顔を見合わせ頷いて、まず始めに動いたのはシュド





「僕はここから近い防御結界地点へ行ってきます!」


「わらわもシュドと共に行くぞ!!」







弓矢を手にノールもシュドの後へと続いていく







「おっ、オイラ…オイラは」


「シャム お前は兵の者達について彼等を
手助けしてやってくれ…頼んだぞ


「わかったニャっカルロス!!」







指示に従い、兵の一人へとついていった
シャムを見送って







「っし、俺達も橋に行くぜ!!


「「ああ!!」」





三人はそれぞれの武器を手に、橋へと向かった











魔物達の戦火は ルーデメラのいる飯屋にも伸びていた





「ルーデメラ殿っ、これは一体!?」


「そんなに慌てる事でもないさ…奇襲や
不意打ちは何も人間だけの芸じゃないよ」





こちらへ飛びかかる魔物へ薬品をかけて怯ませ





「しっかし今夜の状態で攻めるとは…それほど
兵力に自信があるか、或いは僕らをなめてる
命知らずかのどっちかかな」







呟きながらルーデメラが、間髪入れず
怯んだ魔物を切り伏せた兵士に告げる





「ちょっと術が完成するまで、時間を稼いでて」





返事を待たず 彼は地面になにやら魔法陣を
描き始め、呪文を唱える









上空や路地から現れる魔物達へ剣を振るうも





力及ばずに兵士は次々と倒されていく







そして、ルーデメラの側にいた一人もまた
魔物のカギ爪に胸を割かれて倒れた…まさに直後





「カムスピリット シェイルダート!!」





唱えた声に呼応するように魔法陣の中心から
闇が生まれ、膨れ上がり伸び上がって…


やや背の高い 剣を携えた人の形を取った








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:やっと敵が攻めてくる部分まで突入しました
…色々と急展開過ぎますが諦めてください(謝)


シュド:けど土地の結界の影響で、街へ張る
結界の効果が短いなんて…大変ですよね


石榴:いやそもそもさ、何で土地に結界が?
んな事する意味あんのかよ…


ノール:街自体ならまだしも、なぜその土地だけ
結界を張っておるのじゃ?


シャム:カルロス!カルロスなら分かるニャ!!


狐狗狸:つーわけで船長、お答え下さい


カルロス:…魔物や魔術師などに土地の正確な場所を
探知されぬよう、結界で封印が施されているのだと思う


ルデ:船長さんは頭の回転が速いね、恐らくそれは
ほぼ正しいよ…ただ 大分昔の封印だから
力は弱まりつつあるらしいよ


狐狗狸:本当、これ本編で書けたら良かったんですが


石榴:なら書けよ!(殴)




次からは戦闘中心でお送りします!がんばらねば…


次回 伝説は再び繰り返される…!