程なく橋にいた部隊も引き上げたらしく


橋の方で戦っていた兵が何人かアズル達の元へ駆け寄り
その様子を報告した







「そうか…ご苦労だった、引き続き橋の警備へ戻れ!」


『了解しました!』





短く命令を下している合間に 街で戦っていた
兵達が次々に石榴達へと話しかける







すごい剣技だったよ!どこで習ったんだ?」


「…昔、拾ってくれた親代わりの人に
鍛えてもらった それだけさ」


「あの距離から魔物を射がけれるなんて
大した腕前じゃねーか お嬢ちゃん!」


「ふふん、やっとわらわの実力がわかったか!」





淡々と答えるカルロスと、胸を張るノール





「他に怪我をされている方、いらっしゃいましたら
お声をおかけください!」


「お〜こっちこっち!早く来てくれ!」





路地のあちこちにうずくまる負傷者の治療に
シュドは甲斐甲斐しく駆け回り始め





「オィこれ本物の魔術銃か!?」


「いやニセモンだろ、それにしてもこんなの
扱えるなんてただの異界人じゃねーなボウズ」


痛てっ、叩くなっつーのオッサン!」


「危機一髪のトコを猫獣族に助けられるとはな」


ニャンだよ、オイラをバカにしてるのか!」


「はっは悪い悪い お前さんは命の恩人だな」





石榴とシャムは少々手荒い歓迎を受けていた





「へぇぇ!あんたがあの"夢幻の使者"!」


「君らねぇ、気付くの遅いよ」







戦い続きで張り詰めていた空気が少し緩む







彼らと団員達の交流を眺め、アズルは口元を緩め
ため息をついた後―怒鳴った











〜No'n Future A 第四十一話「橋の死闘 再来4」〜











「貴様等!何をのんびりとしているのだ!
街での負傷者確認や修繕などの仕事が残っているだろう!!」






思わず動きを止めた石榴達とは対照的に







『し、失礼しました隊長!!』





兵士達は立ち上がり、姿勢を正して各自が
街へと散って動き始めた







もう一度ため息をつき アズルは石榴達に視線を向ける







「ご一同殿、私はこれから見回りに行きますので
先に自衛団の本部にてお待ちを…おい、案内しろ





言われて近くにいた兵が右手を上げて敬礼した





はっ!それでは皆様、私についてきてください」


「おお…って、どうしたシュド?」


「あ あの僕、隊長さんにお願いしたい事があるんです」


「…え、何ですかな?」







シュドがおずおずと隊長を見つめて頼み出る





「あの、負傷した方々の治療をお手伝いさせて
いただいてよろしいですか?」







五人は僅かに驚きを見せたようだったが、シュドの
性格を考え すぐに納得する







シュドの顔をまじまじと見つめ、アズルは一つ頷いた





「…ぜひともお願いします 終わり次第
近くの兵に本部の場所をお伺いください」


「あっ、ありがとうございます!!







礼をして駆けて行くシュドを見送り アズルと
石榴達一行はそれぞれ別々に動き始める













由緒あると言うだけあって、自衛団の本部は
古いながらも 大きく堅牢な作りとなっていた







「やたらデケェ場所だな…つか、何この丸太みてーなの」


「ここは訓練所ですからね 訓練用の器具が
そこらにあるんですよ…あ、足元気をつけてくださいね」









通路上の幾つかの部屋を素通りし







「それでは、隊長が来るまでしばしお待ちを…」







来客用の広間に通された五人は 長いテーブルに
並んだ椅子へ着席し…







「ってお前何してんだよ?」


「見れば分かるだろ、魔法道具や薬の点検だよ」







早速テーブル上に 透明化してる荷物入れから
私物を出し始めたルーデメラに石榴のツッコミが入る





じゃなくて!何でイキナリんなことやり出してんだ
おっさん戻ってきたらどーすんだよ!」


「平気でしょ、仮にも隊長なんて肩書きの人間なら
街での仕事もそれなりにかかると思うし」


「ニャるほど〜じゃオイラもヘヤの物色…グェ





ニヤニヤしながら立ち上がりかけた
シャムのチョーカーを、力任せに石榴が引っ張る





「自重しねぇとソッコで牢屋にぶち込まれるっつーの」


「そうじゃそうじゃ、お主ら少しは旅の者として
自覚をもった行動をしたらどうじゃ」


「そーいうノールこそ、ブキみがきはじめて
ちっともおヒメさまらしくニャいニャ!」


「なんじゃとこの化け猫もどきが!!」







目を吊り上げチャクラム片手に立ち上がる
ノールとシャムの追いかけっこが室内で始まり





「っだあぁぁぁ!ちっとは大人しく出来ねぇのか
これだからファンタジーはぁぁぁぁ!!」






二人の騒がしさに叫びながら、両方を取り押さえようと
石榴もドタバタに参加しかかる









一人 作業に没頭していたルーデメラは
ある事に気付き、ため息と共に一言告げた







「三人とも 騒ぎすぎると
船長さんにお仕置きされるよ?


「「「え゛」」」







動きを止め、恐る恐る三人そちらへが目をやると





カルロスは己の腕を枕にし テーブルに
突っ伏すようにして眠りについていた







少し唸っている所を見ると、ドタバタ騒ぎで
眠りが浅くなりつつある危険な状態らしい







「通りで静か過ぎると思ったら…寝てたのかよ」


「なんじゃ疲れたのかふがいない、これ
起きぬかカルロ「バカ!おこすニャ!!」





呼びかけるノールの口を、シャムが慌てて塞ぐ





「む……どうしてじゃ?」


ネオきのカルロスのコワさをもうワスれたニョか!?」







小声で叱咤され 彼女の脳裏にも思い当たる映像が甦る







「あ…うぬ、すすすすすまぬ」


「…とりあえず"起こさぬカルロスに祟りなし"だな」


「上手いこと言うねクリス君」





淡々と告げつつ私物を手に取るルーデメラの言葉を最後に


三人が、カルロスを起こさぬようにそっと着席し直した







そこに兵士に連れられたシュドが入室してくる





「遅くなりました皆さん!申し訳ござ」


『しーっ!』


「え?!あの…どうかされたのですか?」





戸惑うシュドに、ニッコリと微笑みながら
作業を止める事無くルーデメラが答える





「お勤めご苦労様天使君、運悪く船長さんの
睡眠タイムみたいだから ここから先はお静かに頼むよ」


「あ…ご、ゴメンなさい」





声を潜め、頭を下げつつシュドも手近な席に座る







「ん…」





一際大きな唸りに室内の空気が張り詰める


すぐさま安らかな寝息に変わると、五人もほっと息を吐く







…が、ホッとしていられたのも束の間







「待たせましたなご一同殿!それではこの場で
作戦会議を始めたいと思います、依存はありませんな?」






ドアを勢いよく開け、息を切らせながら戻ってきたらしい
アズルの土間声が 室内によく響き渡った







空気と共に 五人は音を立てて凍りつく









「どうかしましたかご一同?」







事情を察していない隊長と側にいた兵には


約一名を残して ゆっくりと椅子から立ち上がり
テーブルから退避し始める五人の行動が理解できていない





…ちなみに一番遠くに退避しているのは、ちゃっかり
広げていた私物を全てしまい終えたルーデメラ









「…うるさい、これでは眠れぬでは無いか!







機嫌の悪さを露わに身を起こしたカルロスは
物静かな常態とはかけ離れた鬼気をまとっている





…いや、むしろ物静かに見えるのは半分睡魔に意識を
持って行かれているせいなのかもしれないが







とにかく彼の言動は アズルをやや不快にさせた





「カルロス殿…待たせたのは申し訳なかったが
会議を行うのだから寝てもらっては困る、起きて頂きたい」







言いつつ近寄り、水場に連れて行こうと
腕を取りかけた瞬間 その群青の瞳がギラリと光り







「眠りを邪魔する気かぁぁぁぁ!!」


「待て待て待てカルロスっ!」





寝起きで気が立ちまくり、暴れ始めたカルロスが


アズルと思わず止めに入った石榴を巻き込み







『ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ…!』







しばし室内で死闘に相応しいレベルの大乱闘が展開された











色々と大騒ぎを引き起こしたものの、どうにか
カルロスの機嫌を沈静化させ







ゴホン…それでは会議を始めてもよろしいですかな?」





ボロボロになったアズルが、六人に向けてそう言った







室内には 兵士達の立ち入りを禁じたため
彼を含めて七人しかいない







「誠に済まない事をした…許して欲しい」


「あー…うぬ、気にせんでくれ まずここで一つ
ご一同殿に念を押しておきたい事がある」





彼の台詞を、ルーデメラが先読みして口にする





"あの土地"の事はここにいる僕らだけの秘密に
しておけって所でしょ?」


「その通り、再三言うが土地の事は兵達はおろか評議長
司教ですら知らぬ秘密だからな…くれぐれも内密に頼む」







六人が重々しく頷いたのを見て アズルは言葉を続ける







「まず始めに敵の兵力についてだが…」









敵国の尖兵や魔物が攻めてくるのは、今に
始まったものではなかったらしい





しかし戦神月の半ばほどから魔物達が統率を取りだし


徐々に軍として攻め入る事が増えてきたようだ







「勢力が急激に増えたのは、つい最近になるがな」


「……やっぱりそうなんニャ」





ポツリと呟いたシャムの言葉は 相槌こそ無いが
全員は心の中で納得していた







「で、奴等は主にどういう風に攻めて来るんだ?」


「…地図を見れば分かる通り パイラはヴァロブリッジ
アスクウッドへの街道の二通りからしか通れぬ地形だ」





アズルは テーブルに地図を広げて示す







彼の言う通り、橋側の土地は支流の山まで土地が
流れの急な川で切り離され





その水の流れで生まれた屹立たる土地と


反対側に連なる険しい山を、切り開いて
造られた街道がパイラへの道を限定している







「天然の要塞となっているわけですね」


「そう、こちらの山は標高が高く荒涼とした岩山だから
人は元より魔物ですら ここからの侵入は困難とされる」


「それにアスクウッドには強力な退魔の結界
張られておる こちらからの侵略はムボウに近いのじゃ」


「よく知っているなノール殿…つまり
奴等が攻めてくるのは上空と橋側の二点なわけだ」







紙の上の街と橋の二点を見つめ、石榴が腕を組む







「なるほどな…それに対してのそっちの戦略
どういうカンジか よければ教えてもらえるか?」


「おやおや、結構やる気じゃないかクリス君」


「んー…似たような場面に合うことが多くてな
まぁ戦争とか物騒なモンじゃねぇんだけどな」





頬を掻く彼の言葉に少々首を捻りつつも







よろしいでしょう、我等の戦略お教えしましょう」







アズルが咳払いと共に口を開きだす








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:遅くなりまして本当スイマセなんだ!
街を守る戦い的な話は難しいと今更ながら痛感してます


石榴:…本当、適当なことばっかしてっからツケが
回ってきたんだろ 戦争モノなめ過ぎ


狐狗狸:返す言葉もございません;


ルデ:船長さんのクセで引き伸ばしたコトといい
今回も無駄に話が長くなりそうだねぇ


シャム:テンカイのバランス悪すぎニャンだニャ


シュド:あの、お二人ともその辺で…


狐狗狸:…要領よく逃げてたよね君ら二人は(涙)
所でカルロスは?


ノール:また寝始めたのじゃ


狐狗狸:えー…次回まで寝かしとこ、暴れられても
困るだけだし


ルデ:賢明だね




石榴の言ってた"似たような事"はサバゲーでの
状況を差してます




まだ会議のターン続きます…がんばって戦闘まで
持って行きますので、しばしお待ちを!


次回 彼らに割り振られた役割にこうご期待!?