魔物を仕留め、総隊長のアズルに
散々疑わしげな視線を送られながら





六人はパイラへ足を踏み入れる







「……なんつぅか、ヒデェなこりゃ」





街の風景に対する石榴の第一印象は
"橋よりはマシ"程度のものであった







生々しい屍や血痕などは流石に見当たらないが


立ち並ぶ建物の中に 焦げ痕のついたもの
半壊しているものなどがぽつぽつ見受けられ


石畳なども所々ヘコみや抉れが目立つ





道を歩く者達はまばらで、大きな街に
付き物の活気はほとんど無い





…巡回しつつこちらを疑わしげに見やる
自衛団の兵士が鳴らす足音が


一番大きく鳴り響くほど 静かだ







「これがあの パイラの街なのか?」





信じられないと言いたげな顔をするノールに
カルロスも、眉をしかめて頷く





「魔物の被害が増えてきたとはいえ…これは
流石に普通ではないな」


「とにかく、早いトコどっかにヤドとって
メシ食いがてらジョウホウきくニャ!」


「そうだね それじゃ僕と船長さんは
辺りの聞き込みをしてみるから、宿取りよろしく」





ルーデメラとカルロスがそれぞれ別行動を始め


残された一行は早速宿を探し始めたのだが…











〜No'n Future A 第三十九話「橋の死闘 再来2」〜











「申し訳ないのですが…あなた方を泊めるな
きつく言われておりますので」







入る宿屋はことごとく、彼らの宿泊を拒否し







移動をするその度 四人の近くに
兵士の姿がついて回っていた







「何だよこの街は!」


まったくじゃ!以前はここまで閉鎖的な
街ではなかったと言うのに!」


「石榴さんもノールちゃんも、落ち着いてください」


「にしてもニャんのつもりだニャアイツら…」





シャムが恨めしげに 背後にいる兵士を睨み







そこにルーデメラとカルロスが戻ってくる







「宿は取れたか?」


「それが…どの場所でも拒否されてしまって」


「で、そっちは上手く行ったのか?」







訊ねる石榴に、彼はため息混じりに呟く





「生憎 街の者は硬く口を閉ざしたままでな…」


「街の近くに運良く語り石があったから
最近のこの辺りの事情を聞いてみたんだよね」





あの石どもか、と短く呟き 石榴は顔をしかめる





「どうしたニャ?石榴」


「語り石に何かイヤな思い出でもあるのか?」


「…何も聞かないで置いてあげて下さい」





フュリオン大陸での一件を思い出し、シュドは
二人にそう言って宥める







「どうやら 魔物の軍勢が最近になって
現れたらしく、橋の辺りで攻防戦が続いてるとか」


「…それでこの状況か」


「ニャールデメ、あの後ろのヤツどうすればいい?」





指し示された兵士に しかしルーデメラは
興味無さそうに一瞥する





「僕らの後をついて来てたのもいたけど、
別に実害はないから放っておけば?」


「何を言うか!十分無礼で目障りじゃ!」





憤るノールの言葉も無視し、





「さて 動いたらお腹が空いたねぇ
ちょうど目の前にお店もあるし、入ろうか」


「ってちょと待てよルデ!」







近くにあった小料理屋に進むルーデメラに
釣られて六人もその店へと入った









中にいる客が一斉に入り口の石榴達へと視線を向ける


ほとんどは疑いと剣呑の混じった重たい眼差し





さほど多くも無い客にちらほらと
自衛団の人間がいるのが分かる







…まといつくような死んだ魚の目の中







おや、この時期に外からの旅人とは珍しい」





六人に明るく声をかけたのは、一番奥から
顔を出した 老いた店主だった







「ここの所景気が悪くて退屈しとってのぅ〜よかったら
メシ食いがてら、話し相手になってくれんかの」





フレンドリーに手招きをされ、戸惑いながらも
石榴達は店の中へと入る







店主は店内や彼らの後ろにいる兵士へ
それぞれ視線を向け 手で追い払う素振りを見せる





「なんじゃ、お主らは メシはもう終わっておろう
さっさと警備なりなんなり行くがいい 後ろのもな」


「しかしガネットさん!
自分はこの者達を見張るよう総隊長から」



固い事を言うな、アズルには後でワシから言っておく」





言い含めるような老店主に 兵士達は渋々頷き
店から姿を消した







それを目で見送り、彼は席に着いた六人に笑みを送る





「さて旅のお方 ご注文は?


「え、あ…じゃあ俺はこのアラゴナ牛ステーキセットで」


「僕はクンツァ鴨のグリーンソースにパンと
カシスジュース、あと食後にティラミス二つ」


「オイラはこのシーフードシチューっての!」









それぞれが注文を終え、テーブルに並べられた
料理をパクつく様を見つめながら





店主のガネットは話を始める







「ここはアスクウッドへ連なる数少ない街道に
ある街だから、争いが起こるまでは栄えとったんじゃよ」


「それは…災難でしたね」


「オイラたち、間のワルい時にきたみたいだニャ」


「おかげでわらわ達もあの橋の兵どもに
いいがかりをつけられて散々な目にあったぞ」


「あー橋の自衛団どもにあったのか…そいつは
さぞかし難儀したじゃろう」





機嫌悪げにパンをかじるノールにガネットは
苦笑しながらこう告げる





「じゃがなぁ、あやつらも悪気があるわけでは
ないのでのう 勘弁してはもらえんじゃろうか?」


「じいさん、何でアイツらは俺達をあんなに疑う?」


「この街の人々の僕らに対する対応も
あの人達に関係しているのでしょうか…?」





シュドのその一言に 老主人は頷く





「地図を見れば分かる通り、パイラから
アスクウッドまではごく近い…それゆえか魔物や
他の国から狙われやすくての」







どこか困ったような目を外へと向けて
ガネットは眉を潜めたまま続ける





それらの侵略から守るのがあやつら自衛団の役目でな
ゆえに街の者達からの信頼も厚いんじゃ」


「なるほどねぇ、あのヘボ自衛団が幅利かせてるから
僕らの処遇がよろしくないわけだ」


ルデ、いくらなんでもそれはちっと言いすぎだろ」





諌める石榴に カカカとガネットは笑って





「いいんじゃよ、あやつらはここの所
要らん気を張りすぎて旅人をほぼ閉め出しとる
そう思われたとて 仕方のないことじゃ」


「あの…失礼ですが、店主さんとあの人達は
どのような間柄かおたずねしてもよろしいですか?」


なぁに、単に付き合いが長いだけさ


ガキの頃のあいつらを知っておるし 街の長とも
仲がいいから多少の融通が利くんじゃよ」


「そうなのか なら、わらわ達の泊まる所
なんとか都合をつけてはもらえぬか?」


「あぁいいとも」







いともあっさりと承諾され、彼らは
喜びと同時に驚きを露わにする







「あ、ありがとうございます!


「じいさんスゲェなアンタ…」


「でも…ニャんでジイさんは
オイラたちをあっさり信じるんだニャ?」





ガネットはニコリと笑って 石榴達にこう答える





「客商売で長生きしとるとな、ツラを見れば
大体の事情やいい悪いは分かるもんでの」







彼のその言葉に、石榴とシャムは感心し
ノールとルーデメラは得意げに笑い


シュドとカルロスは深く頭を下げた





「かたじけない 失礼ついでにご老人…この街に
橋と共に伝わる伝承があると聞いているのだが…」


よく知っておるの〜お兄さん」


「以前、船の上にて噂を耳にしたまでです」





一同は カルロスの見識の深さに改めて感心する







「さよう 君らの通ってきたヴァロブリッジは…
伝承では一度、覇王の手の者に壊されたと伝えられとる」


「本当ですか!?」


「詳しく聞きたいかね?」





ガネットの言葉に、全員が首を縦に振り







…そして 昔話が紐解かれる











遥か昔、橋を建設した際 パイラの出身者である
ヴァロと言う鍛冶屋がアスクウッドの王家に貢献し


その功績を称え、橋に彼の名がつけられた







由緒あるその橋は覇王の君臨していた時代





貴奴が率いていた魔族軍に攻め入られ
一度 見る影も無く全壊したという









「くそっ…栄誉ある橋が…!」


隊長!このままではこの街は…!」







大挙して押し寄せてくる魔物達の軍勢を前に
僅かに残った兵士達は屈服寸前だった


街も打撃を受け、壊滅の危機へと晒され





戦局をひっくり返すのは絶望的かに思える







「くそぉぉ!たとえ命尽きるとて
このパイラの街を守るため戦ってやる!!」








しかし、覚悟と共に剣を振り上げた隊長の前に







「あなたは 死んではいけませんよ」





ある一人の男が、現れた









「……何者ダ!


「私は、この街に留まっていた旅人ですよ」





橋の対岸にいる魔物の総大将が、旅人を嘲笑う





「命ガ惜シクバトットト逃ゲルガイイ!!」







ゆったりとした服を身にまとったその旅人は
蒼い目を魔物の軍勢へと向けると





「そうも行きません…私は神の使命により
今から、この町に害なすあなた方を」





懐から、奇妙な形の銃を取り出し







「全て 排除させていただきます」







銃口を向けて 弾丸を放った











「……その旅人こそが、勇者様だったのじゃ」





店主は、誇らしげに笑うと目をつぶり
詩を朗読するようにこう言った







"パイラに留まりし勇者 橋の縁に立ち


大挙し押し寄せる魔物どもの軍勢を


伝説の武器 魔術銃を構え、誰の助勢も
請う事無くただ一人で立ち向かい





圧倒的な力により、ことごとくを退けた"








「…それにより、すんでの所でパイラは壊滅を
逃れる事が出来たのじゃよ」


「スゲー!ユウシャってスゲーニャ!!」


「勇者様の伝承が、この街にあったなんて…」





話にただひたすら感心するシャムとシュドを
横目に、石榴は微妙な顔で肉を一切れ口にする







「ふぅん…所でさ、どうしてこの街は
魔物にそこまで狙われるのかな?」





ケーキを食べ終えたルーデメラが、追加で
注文したタルトにフォークを突き立てつつ訊ね





「アスクウッドを攻める拠点にするとしても
この街で無くともよいではないか」





触発されたようにノールも口を開く







「旅のお方、いい所に気付きなさったな
実はこの土地に昔から―


「何を話している!!」







入り口から、肩で息をしつつ現れたアズルの叫びが
ガネットの言葉を遮った







「なんじゃアズル、人の話の腰を折りおって」


父さん、こんな得体の知れない奴等にまで
街の伝承なんか話して…いい加減にしてくれよ」


あぁっ!さっきハシにいたエラそーなオッサン!!」


「何でアンタがこんな所にいんだよ…って
今アンタ、父さんって言わなかったか!?」





石榴の言葉に眉をしかめながらアズルは答える





「ここは私の生家だ、交代巡回中に立ち寄ったとて
別段おかしい事ではない」


「偉そうに言うでない このバカ息子が」







腰に手を当てガネットがアズルへとそう言うと
ふぅと大きなため息をついた








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:橋の荒れよう&彼らの実情を何とか書けました
…でも本当はもうちょっと書くはずだったんですよ


ルデ:それは君の力量がヘボだからでしょ?


狐狗狸:はいはいどーせヘボでござんす


シュド:そんな事ないですよ…あの、パイラの街の
勇者様の伝承なんてすごくいいお話でしたし


シャム:オイラもあれはスゲーと思ったニャ!


狐狗狸:ありがとう二人とも あの部分はどうしても
入れたくて力入れてみたんだよね


ノール:しかしあの無礼者が街でそれ程
発言力があろうとは…納得いかんのじゃ


狐狗狸:仕方ないでしょ、君が身分明かしたら
えらい事になるんだし それに彼は橋で色々な敵から
街とか守る自衛団の先頭で身体張ってるし


石榴:なるほどな…橋の辺りが最終防衛ライン


カルロス:石榴 それは何だ?


石榴:え、あー…こっちの話だ




とりあえずキャラの名前があんまり増えなきゃ
いいなーと不埒な事を考えてます(殴)


次回 魔物殲滅にルーデメラが出した条件は…!?