森を抜けて、六人はアスクウッド王国を目指し
ひたすら直線上へ進行していた







「なんだか 魔物と戦うことが多くなってきたのう」


「確かに…やたら色々出てきたよな」







ノールと石榴の言葉が示す通り


これまでの道のりの間、やたらと魔物が
六人の前に立ちはだかった





「森にいた時はそうでもなかったのに
本当 ウザったくてやんなるね」





地図を手にしたまま、ルーデメラが淡々と呟く





「ニャンか、このトコロ魔物が強くニャった
ような気がするニャ…」


「アダマスのこの辺りは、然程魔物の被害は
ないと聞いていたのだがな」





腑に落ちないと言いたげな顔をするカルロスに触発され
シュドも 不安げな表情になる





「闇の面が強まってきてるんでしょうか…?」







石榴以外の全員が、その一言で一斉に動きを止めた







「ま、まさか〜 ハオウがいたころじゃ
あるまいし、ニャいニャい!それはニャい!


そうじゃそうじゃ!エンギでもないことを申すでない!」


「ご、ごめんなさい 流石に今の言葉は
自分でも軽率すぎたと思います」





ぎこちなく否定する二人に、すぐさまシュドも謝る







余りにもあからさまな慌てぶりは
石榴の好奇心を刺激したらしかった





覇王がいた頃ってのは、そんなに酷い時代だったのか?」







その問いかけに、場の空気が再度固まる











〜No'n Future A 第三十八話「橋の死闘 再来1」〜











「ひどいニャんてもんじゃニャい!
ジゴクだったってきいてるニャ!」



「このアダマスも 覇王の率いる魔物達に攻め入られて
大きな被害が出たと教わっておる!」


「パープラで語ってあげた伝承をもう忘れたのかい?
言っただろう、"悠久の時を 絶望に変えた"って」







厳しい返答にたじろぐ石榴へ、カルロスが静かに諭す





「石榴、あまり覇王の話はせぬ方がいい
いまだにしこりを残す国や都市などもあるからな」







シュドも頷き そっと耳元でささやいた







「それに…今でも魔物達に壊滅させられた町や村も
あるみたいですから その話題はあまり…」


「そうだったな 悪かった」





石榴は済まなさそうな顔になり、素直に頭を下げた











六人が途中立ち寄った町や村でも、魔物の出没が
増加してきた事や壊滅した場所の噂を耳にしていた







つい昨日立ち寄った場所でも


その話を噂する鳥獣族の姿を目撃している









「少し向こうのユタも魔物に壊滅させられたってよ」


「あそこには腕利きの騎士や魔導師がいた筈だろ!?」







茶色の短い髪の青年にクチバシをつけたような姿の
鳥獣族が驚いたように叫ぶ





それがさ、と軽い感じで返すのは


四十雀に似たような鳥の頭をした鳥獣族







「どーも最近魔物どもが力を増してきてるみたいで
太刀打ちできなかったそうな」


「物騒な世の中になったもんだなぁ じゃあ
こないだモルダがボロボロだったのも奴等の仕業か…」







"モルダ"の単語に 石榴とシャムの二人が
小さく肩を震わせた







それに気付かず シュドが小声で訊ねる





「モルダって確か、アダマス大陸に上陸する前
ルーデメラさん達が…」


「ぐ、偶然だろ」


そーだニャ オイラたちニャンもなく
もどってきたじゃニャいか〜」





やや早口でそう返す二人をクスリと嘲笑い





「そう、無法都市が更地になったことなんか
僕らにはあずかり知らぬ事だよ」







余裕たっぷりにルーデメラは答えた





「なんじゃ、お主らわらわと会う前に
モルダによったのか?」


「いや ワケあってルーデメラが石榴とシャムを
連れてモルダまで鉱石を買いに行ったんだ」


「僕らは船に残ってたんですけど、海上からモルダが
ひどく騒がしかったのでみなさんの身に
何かあったんじゃないか不安になってしまって…」







それ故に海上からグリフィクスに乗って
降りてきた三人の姿を見て、シュドは安堵したらしい







「天使君にはちょっと心配かけて悪かったなーと
思ってるんだ、今でもね」


「いえ、僕の方こそお役に立てずにスイマセン」







やたら爽やかな笑顔の ルーデメラの背に





「…オイラにもシュドへの十分の一くらいでいいから
そのやさしさを分けてほしいニャ」


「俺にはその100倍くらい悪びれろこの野郎」





石榴とシャムの恨み言がこっそりぶつけられた







「あ、悪ぃ オレそろそろパープラの方へ
配達しなきゃなんないからまたな〜」


「おー、気をつけろよ〜」







話し込んでいた鳥獣族の二人が 背中の羽を
数度羽ばたかせながら地を蹴って、宙へと舞った











「まぁ、こうして素直にあやまっていることじゃし
許してやろうぞ石榴」





フフンと笑いかけるノールをシャムが横目で見やる





「エラそうニャのだけは板についてるニャー
てゆうか、おシロはまだニャのか〜?」


「あともう少しだから、がんばってください」


「うぅ〜あの森と魔物どもが邪魔をしなければ
わらわ達はとっくに王国についていたのに〜!」





握りこぶしを振るわせる彼女を シュドと
カルロスが手振りで宥める







地図で見る限りでも、直線上でなら
イールからアスクウッドまで最短で七日だったが





森の中でのハプニングやら


道中での魔物達の襲撃やらで時間をとられ
既に現時点で二週間は経過していた







「なぁルデ、今は大体どの辺りになるんだ?」


「そうだねー…この地形で行くならここかな」







手にした地図のある部分を指差し、ルーデメラは
その指を少し先の町の名前へと滑らせる





「このペースなら 夕方になる前には
パイラで宿を取ることが出来るだろうね」


マジで!やったニャ〜したらアスクウッドまで
あと少しだニャ!」


「久々にマトモなベッドで眠れるというものじゃ」





喜ぶ二人にと地図を見比べ、石榴は誰にとも無く呟く





「パイラってとこ 俺らの目的地に近いのか」


「ああ 王国の手前に位置する街で、そこそこ
大きい自衛団も設置された治安のいい場所だ」


「もうすぐヴァロブリッジという大きな橋が
見えるはずです、そこを渡った先がパイラの街ですよ」









彼の言葉が終わるか終わらないかの所で





六人の目の前に、石造りの立派な階段が現れる







「あの白いのが橋か 確かにデカ…」


お〜ホントだニャ!あれがヴァ……!?」







しかし 彼らが言葉を無くしたのは
その階段の優美さでも周囲の風景との調和でもない







あちこちが被弾したように抉れ、或いは欠け


辛うじて原型を留めているような白亜の階段の
その悲惨な姿に
 である





「何だこれは…」


「とにかく、先に進んでみよう」





ルーデメラに促され、みんなが一斉に
段を駆け上がった先に 大きな橋が姿を現した











堅牢に象られた橋に、穿つように幾つかの支柱が貫かれ





橋の欄干も石造りながら上質の素材と瀟洒な作りと
なっているのが見て取れる







だが…階段と同じような抉れや傷跡 火事のような焦げや
かと思うと切断されたようなキレイな断面も存在し





石畳には魔物のものらしき体の一部や


争いによって命を落とした兵士の屍





そしてどちらのものとも分からぬ血痕
橋の向こうまで転々と転がっている







あちこちに刻まれた生々しい戦の後が、


橋の景観を台無しにしていた









ひどい…どうしてこんな…」


「なんだよこれ…ここも戦地だったのか?」







あまりの惨状に 二人はそれ以上の言葉が
浮かばないようだ





ノールは思い切り首を振って答える





そんなはずはない、この辺りは比較的
魔物や他の国々の侵攻が少なかったはずじゃ!」


「…でも、これどう見たって
魔物と争ったアトにしか見えないニャ」


「風格ある橋として誉れも高い
ヴァロブリッジが、なぜこのような…」









しばし言葉も無く立ち尽くす五人に活を入れたのは







ねぇ いつまでそこでみんなで佇んでるつもり?」





冷めた目をしたルーデメラの一言だった







「そ、そうだニャ とりあえず街に入って
ニャニが起きてるのか聞くニャ!」


「だな ジッとしてても埒があかねぇし」





二人の言葉を皮切りに、他の三人も
頷いて 橋を渡り始める









階段付近にいた時には少し遠めで分かりづらかったが





進むにつれ、中程に結界のようなものがあるのが見え


その手前に陣取るようにして、鎧に身を包んだ
兵士達の目が 一斉に六人へと向いた







『貴様等止まれ!ここがアスクウッドへ続く街道への
通り道と知っての事か!!』








呼びかけに立ち止まった六人の目と鼻の先まで
陣取っていた兵士達が近づくと





その中で、目立つ頭飾りをつけた兜を被った
屈強そうな背の高い男が進み出る







「貴様等、何者だ」





外見から予想されるよりも少し高めの


それでも幾分ドスの利いた声音で、男が詰問する







「あの…僕達 ワケあってアスクウッド王国を
目指す旅の者なんです」





やや怯えながらも丁寧に答えるシュドに
男は疑わしげな視線を投げかける





「異界人や猫獣族や、いかにも海賊然とした
怪しげな男を引き連れた旅人など聞いたこともない!」








彼の言葉に お子様三人組が同時に声を上げる







何じゃ、イキナリ人を呼び止めておいて無礼者め!」


「ひっでー!サベツだニャそれ!!」


悪かったな どーせこっちの常識なんか
わかんねーよクソオヤジ!」





石榴の叫びに、男を含め兵士達が動揺を露わにする





「なっ…なんで異界人なのにこちらの言葉で
話が出来るんだ?!」


「俺が知りてーよんな事は!」





今にも殴りかからん勢いの石榴を手で制し







「私達は用あって王国へ行くだけだ 害意を
なすつもりは毛頭ないのだ…通してはくれないか」







静かに頼むカルロスだが、男はにべもなく断る





ならぬ!我等の任務は王国と街に害をなす可能性の
ある者を食い止め、退け、排除することなり!」


「っだあぁぁぁぁ融通のきかねぇ!
これだからファンタジーはぁぁぁ!!」



「何だ異界人の分際で生意気な!」





男と石榴が火花を散らした その時









「ギィエアァァァァァァァァァァァ…!」





場違いなくらい耳障りな悲鳴が上がった







全員が勢いよく横手へ顔を向けると





「会話に夢中とはいえ、上空からの侵攻を
見落とすなんて…大した自衛団だねぇ?」





どうやら呪文で叩き落したらしき魔物の頭を踏んづけて
皮肉げに笑うルーデメラがいた







「お前、いつの間に…」


「そこのオジサンの寝言があんまりヒマでさ」





端的に答え 彼は不敵な笑みを湛えたまま
男へと視線を向けて、こう言う





「別に街に入れてくれなくてもいいんだよ?
そしたらコイツにトドメを刺さず街へ放りこむけど









足元で足掻く魔物は、踏みつけられているのと
彼が油断なく構えるせいで動けぬだけである





もし宣言通り街へと送られたなら


被害者が出ることは明らかだ







五人は心の中で"鬼だ"と強く思った









「……くっ、仕方が無い 街への通行を許可してやる」





苦々しい顔で決断を下し、すぐさま彼は続ける





「だが 私の目が黒いウチは勝手な真似は許さんからな」


えっらそーに、何様のつもりだよオッサン」







反抗的な茶褐色を高圧をもって返し、
男は身分を名乗った







「よく覚えておけ異界人、私はアズル=ロバイト
パイラ自衛団の総隊長を勤めるものだ」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:遅くなって正直スマンカッタ…新章突入&
深刻っぽい話になるカンジの展開です


石榴:つか、捧げモノの展開ねじ込んできやがった


ルデ:よっぽど書くネタが無かったのかねぇー
この作者の浅ましい底が見えたね


狐狗狸:U・RU・SA・I・WA!


シャム:てゆうかあのオッサン、スッゲー
ムカツクニャっ!


ノール:まったく、何たる無礼者じゃ


狐狗狸:まー彼も立場とか色々あるからねぇ
ところでルデ あの魔物はどうしたの?


ルデ:ああアレね?交渉が成立した時点で
ちゃんとトドメ刺しといたよ


シュド:…る、ルーデメラさん…(怯)


カルロス:交渉というより、事実上の脅迫では?


ルデ:何か文句でも?


全員:ありません(即答)




ルデのS振りは間が空いてもハンパないです(震)


次回 壊滅しかけた街と橋の実情が、明らかとなる