「うう…」







倒れたシュドの顔色は見る間に赤から薄紫色に変わり
目を瞑ったまま 時折苦しげに唸っている







ダイジョウブかニャ〜!シュド〜!」


シュドっ、しっかりするのじゃ!」





側に付き添うシャムもノールも、シュドの様子に
ただただ心配するばかり







「おいルデ これ早く医者に見せるとか
した方がいいだろ!?」





石榴の言葉に頷くルーデメラだが、その顔色は冴えない





「困ったね…この辺は惑わしの森と呼ばれていて
慎重に進まないと あっという間に全員が
散り散りになるんだよね」


「ってことは イシャをよびに行くことは
できないってことかニャ?」


「単独行動はまずオススメできないね」


「したら、全員で森を進むか戻るかしか
シュドの病気を治す道はねぇってことか…」







彼の言葉に反応し、ずっとシュドの顔色を
伺っていたノールが勢いよく振り返る





「それならなおさら進むに決まっておろう!
戻るなんてもっての他じゃ!!」



「下手に戻るよりも進んだ方が
早く森を抜けられるだろうしな」





強気なその意見にカルロスも賛同し、


今後の進路については 全員が先へ進む方針で
あっさりと一致した







しかし…それとは別に新たな問題が浮かび上がる







「さて困ったね、今夜も野宿だから食事を
作らなくちゃいけないわけだ…僕らの内の誰かが」







シュドが仲間に加わってから


これまでの旅路で、野宿の際の食事面は
ほぼ全面的にシュドへと任されていた





つまりは、何とかして森を抜け
早くシュドの体調を直してやらない限り





料理は他の者がやることになる







飲み水や調理に必要な水は 森の中に点在する水場や
手持ちの分、雨水を蓄える等で補えるため


重点となるのは やはり料理だ











〜No'n Future A 第三十七話「地獄に仏」〜











「オイラはリョウリなんてつくれニャいニャ
味見ニャらソッセンしてやってもいいけどニャ」





挙手しながら率先して言うシャム







「簡単に酒のツマミくらいしか作れんが
それでもいいのなら」





次いでカルロスも自らの腕前を宣告する







料理など下々のやることだと教わっておる
現にわらわは一度たりとも料理なぞしたことはない」





ノールが妙に偉そうに言い切り、みんなの視線が
自然と石榴へと向いた







「俺に料理をつくれっつーのかよ…」







ため息をつきながらも、調理道具と材料を渡され
やむなく石榴は調理を始める







出来上がった料理は記憶を頼りに作られた
野菜炒めとスープのようなもの





「なんじゃこのスープは、塩味がきついぞ」


「ニャんか、ヤサイがところどころカタいし
コゲてるのもあるニャ…」


「二人とも せっかく石榴が作ってくれたんだ
黙って食え」


「まぁ、そこそこ食べれる味だね」


「文句言うなら食うなよ!」







がなり立てながら石榴は、シュドに自分の料理を
少しでも食べさせようと口元へ運ぶ





しかし 食べたのは僅か一口分のみ







「すい…ま…せ…石榴さ…」


「あー、気にすんな お前弱ってんだし
無理して食わなくてもいいよ」









とにもかくにも食事を終えて夜を過ごし


朝はカルロスが担当したが、石榴よりはマシという
レベルでしかなかった







「クリス君は仕方ないにしても 船長さんは
もうちょっとがんばってくれないと」


「エラそうに言うなら 次はテメェが作れよ!」





機嫌斜めに言い放った石榴の言葉を受けて、





「やれやれ、すっかり忘れてるんだねぇークリス君
作ってあげてもいいけど…後悔しても知らないよ?」





渋々ルーデメラが作った料理が 皆の手に渡る







それは、一見するとシュドの作っていたものと
ほぼ代わりが無いような キレイな出来栄えだった







「おー結構うまく出来てんじゃねーか」







が、一口を口に入れた途端





四人の顔が これ以上ないくらい引きつった







『ま…マッズゥゥゥゥゥ〜!!』


「僕が作ると どうしてか見た目と味が
反比例してるんだよねぇ」





"だから言ったのに"と言わんばかりの表情で
ルーデメラが小バカにしたような笑みを浮かべた







食材を無駄には出来ず、涙ながらに全員は
マズイ料理を 無理やり嚥下し





ルーデメラには料理を一切作らせないという


暗黙の不文律がここに出来上がった









こうして、半ば仕方なく石榴とカルロスが
炊事を担当することとなったのだが







不慣れな調理や 偏った味付けなどに
不満が出ないはずも無く





もうこんな料理ばかりはイヤじゃ〜!
シュドの料理を食べさせてたもれ〜!!」





はや二日目にして、ノールがだだをこね始める





うるさいニャ ワガママばっか言うなら
一人でとっととカエればいいニャ!」


「なんじゃとこの猫モドキめ!」


「うるっさいなぁガキども、あんまり騒ぐと
フルコース実験受けさせるよ?」






ちょっと殺気立ったルーデメラの瞳に射竦められ
二人はケンカをピタリと止めた









シュドの容態は良くなる所か日に日に
悪化しているような状態で


食事もマトモに取れないため、


ルーデメラが特別に調合した栄養剤を
どうにか摂取させることで生命を維持している





重病人を背負った状態では森を進むペースも
落とさざるを得ず それだけ野宿も長引いて


まさに、パーティー間は阿鼻叫喚の地獄絵図と化している











しかし…不満が多数あったとしても、
食事にありつけるだけ幸せだったと全員が気付いたのは





手持ちの食材等が ほとんど底をついた時だった







「もう…食うモンがニャい……おわりニャ」


何を言うか!ここは森なんじゃから
キノコでも木の実でも取ればよいではないか!!」





わめくノールへ、突き放すようにシャムが呟く





「ウカツに野生のショクブツに手を出して
ドクにあたって死にたいニャらな」







戸惑う中、何とか打開策を見つけようと
石榴は懸命にたずねる





「なぁ、カルロスは食えるキノコとか
木の実がどんなのか ちょっとは分かるんだろ?」


「すまないが 私は森に生える物については
名前くらいしか…毒の有無も分からん」


「そんな…っそういやルデ、
お前 やたら草とか植物詳しかったよな!」


「僕が知っているのはあくまで魔導実験
必要なもので、一般の食用とは用途が違うんだ」







その一言を最後に、石榴の理性の糸は切れた





頭を抱え ガリガリと掻き毟りながら叫びだす





「〜っああああ どうすりゃいいんだっ!


「だからわらわは早く森を抜けようと言ったのじゃ!」


「あわてて迷って、みんなでのたれ死ぬなら
ケッカはイッショだニャ!」


「そもそも料理を担当した君らが、食料の配分
考えなかった事が問題じゃない?」


「過ぎたことを言い合っていても仕方なかろう!」





口ゲンカをし合う五人のイライラが
臨界点へと近づいている









そんな最悪のタイミングで





少し離れた茂みから、一匹の魔物が姿を現した







「フハハハハハ!何だ貴様等はぁ!」





マッチョでツルッパゲのオッサンの上半身と


逞しく立派な牡馬の下半身


正にその姿は、ファンタジー世界では名高い
ケンタウロスそのものの姿だった





片手には長い槍のようなものを携え


もう片方の手で、誰かの髪らしき部分を
掴みしめて引きずっていた







「イタイ…イタイイタイイタイ…」





風に揺れる木の葉のような弱々しい声で悶えるその人は


よくよく見れば その髪は瑞々しいまでの
緑色をした草で出来ており


肌の色も人間のそれではなく


その人の下半身から下は まるで
植物の根のようになっている





「なぁ、何だあの緑色の奴」


森樹族(フォレスツ)だね 平たく言えば植物と人間の中間
煮ても焼いても食べられないよ」





端的に発した石榴のセリフに、これまた
無愛想な感じで答えるルーデメラ







魔物に対して問いかけが無いのは 状況に
慣れたからか…はたまたそこまで口を聞く気力がないのか


とにかく五人はこの闖入者に対し険悪な視線を向ける







それを、興味の視線だと勘違いしたらしく





「フハハハハ 何をジロジロ見ている!
貴様等も食らってやろうかぁぁ!!」






高圧的かつ居丈高に挑発する半人半獣の言葉は


偏った食生活と、訪れた食糧難で
極限まで気が立っていた五人の理性を





いともあっさり ぶち切った







「間の悪い時に、寝言ほざきやがって
こんのぉぉウマもどきがぁぁ!」



「食われるのは貴様の方じゃ!」


「もうオイラたちに
コワいもんニャんてないニャー!!」


「いい所に食材が来たね、皆で生け捕るよ!」


「無論だ 捌くのは任せろ!」






最早瘴気とも呼べそうなくらいにまで
昇華してしまった負のオーラを惜しげもなく噴出し


五人は一斉にケンタウロスへと飛び掛った







戦い慣れしている五人にとって、


油断しているケンタウロスの長い槍を潜り
先制攻撃を加えることなど造作も無く





あっという間に持っていた槍は粉みじんに斬られ


チャクラムで森樹族の握っていた髪を切断されて


逃げ出す森樹族に気を取られた一瞬で
乱れ爪引っかきをくらい肌に傷を受けまくり


薬と魔法攻撃と連続で繰り出される弾丸に
畳み掛けられるように吹っ飛ばされ





起き上がる間ももらえず五人に囲まれて





顔面の原型がボッコンボッコンに変わるくらい
ズタボロにされたケンタウロスは







ヒィィィ〜!おそろしやぁぁぁぁぁぁ〜…!」


と情けない悲鳴を上げて、森樹族をその場に
残したまま森の奥へと逃げていった









「あっこら待ちやがれまだ殴りたんねぇぞ
逃げんなウマやろァァァァァ!」






拳を振り上げ、血気盛んに追いかけようとする石榴を
流石に冷静さを取り戻したルデが後ろ襟を掴んで止める







「いいよあんな雑魚、僕等がこうして痛めつけたんだし
しばらくは森で隠れて暮らすでしょ」


「…無駄に体力を使ってしまったな」





ため息をつき カルロスが近くの木に背を預ければ





「ニャ〜せっかくのニクが…」


「動いたらよけいに腹がへったのじゃ…」





シャムとノールもまた、ガックリとその場にへたり込む







やり場のない怒りをケンタウロスにぶつけた事により
険悪さだけは すっきりと晴れたのだが


それで六人の現状が変わったわけではなかった







先程ケンタウロスに捕まっていた森樹族が
おずおずと、五人の所へ進み出なければ







「タスケテクダサッテ アリガトウゴザイマス」


「おおっ、お主 まだおったのか
周囲に溶け込んでいてちと気づかなんだぞ」


「オクビョウな森樹族が、オイラたちになんか用?」





素っ気なく問うシャムの言葉に首を縦に振り、


ルーデメラお手製の魔法道具によるシールドに
守られた状態で寝かされたシュドをちらりと見つめ





「ナカマノカタノビョウキ、ワタシタチノ
シュゾクナラ スグニナオセマスガ…イカガデスカ?」


『えっ…本当に?』







全員の期待と疑念の渦巻く視線を受けて
森樹族は 重々しく頷いた







「マジで、治せるってのか?」


「たしかに森樹族は治癒の能力に長けた種族だと
聞いてはいるが…」


「どっちにしろ僕等に残された手段は少ない
ダメもとで一度試すのも、悪くないさ」







ルーデメラがシールドを解除すると、


森樹族は仰向けに寝かせたシュドへ静かに寄り
頭の上へ手をかざす





そこから 緑色の柔らかな光が降り注ぐ









やがて緑色の光が治まり、森樹族が手をどける







すっかり血色の元に戻ったシュドが目を覚まし
ゆっくりと体を起こすと





「皆さん、ご迷惑をおかけしました」





深々と、五人へ頭を下げた







「コノサキヲマッスグヌケテイケバ、イチニチデ
モリヲヌケラレマス…オゲンキデ」







道を示し、頭を下げると森樹族は茂みの中に
入って すぐさま姿が見えなくなった









『ありがとう 森樹族!』





全員が茂みの方へ、最大級のお礼を返してから


気を取り直し シュドがキビキビと動き始める





「休んでいた分、皆さんに栄養のつくものを
作りますから…まずは材料を集めますね!」


「お前病み上がりなんだから無理すんなって!」


「そうとも、私達にも何か手伝わせてくれ」


「スイマセン…それじゃあ、材料集めを
手伝ってもらえますか?」







指示で集められた沢山の材料を、シュドは
手際よく処理し 流れるように作業を進め





ほどなくして、周囲にいい香りが立ち込める







「お待たせしました 完成です」







言ってシュドが開けた携帯鍋から


暖かな湯気と、とてつもなく食欲を増すニオイ
立ち上って みんなの脳髄を蕩かした







『いただきます!』





出来上がり 盛り付けられた簡素なシチューを
熱さに構わず一斉に口に入れ





『お…おいしい…!』







思わず涙し、五人は異口同音にそう言った







「皆さん 大げさですよ」





顔を赤くして照れるシュドに、一斉に首を横に振り





「大げさなどではないのじゃ!」


「そうとも あの森樹族とシュドには
感謝してもしたりないくらいだ」


天使君のありがたみが、今 わかったよ」


お前の存在がどんだけ俺達に欠かせなかったか
この数日間で気付かされたぜ…!」


「うまいメシばんざい!シュドばんざい!」





まるで神様のように自分を拝み始めた仲間達


シュドはただただ困り果てているのであった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:年内に話に収拾をつけるべく、ひたすら書いて
詰めてUPしました〜


石榴:前回以上に詰め込みすぎだろ お前最近
話のKB数かけ過ぎ、無駄


ルデ:スッパリ話をまとめることも出来ずに、
悪戯に文字強調したり空間作ってるからねぇ


狐狗狸:裏事情をここで吐かないで!
しょうがないでしょ、これが私のスタイルなんだし


シャム:で、けっきょくシュドは何のビョウキ
だったんだニャ?


狐狗狸:疲労による重度の風邪だね、野宿長かったし
彼もいい加減まで我慢してたんでしょ


シュド:ご迷惑おかけしました…


ノール:なんじゃただの風邪か、それなら
ルーデメラが魔法で治せばよかったろうに


カルロス:ノール 風邪などの病気は怪我と違い
魔法で治すことは出来ないんだ


狐狗狸:だから医者がいるわけだしねぇ
それに、ルデは回復魔法使えないから


ノール:ならあの森樹族がやったのは
魔法ではないのか?


狐狗狸:あれは正確に言うと治療でなくて、
自然とかの生命力を分けて 本人の免疫力を
瞬間的に高めただけなんだよね


シャム:ニャンかむずかしくてよくわかんニャい


カルロス:平たく言うと、シュドの風邪が治るのを
手助けしてくれたということだ


石榴:なるほど 分かりやすいな


ルデ:僕はその辺の理論は知ってたけどね
…しっかし惜しかったな 捕まえとけばいい実験z


狐狗狸&石榴:恩人捕まえんなぁぁぁ!!




年内最後がこんなネタで重ね重ねスイマセン…来年もよろしく


次回 彼等の進路上に、壊滅しかけた街が…!