古びた塔から脱出した石榴達一行は、


アダマス大陸のちょうど中央に位置する
アスクウッド王国へと向かっており





現在は 直線距離で四分の二ほどの部位に
差し掛かる森の中に留まっていた







一夜をそこで過ごし、爽やかな朝に目覚めた六人は





朝食の後の僅かな休憩を思い思いに過ごしている







石榴は周囲の木々に何かを取り付けており
時折カルロスもそれを手伝っているようだ





野営した場所から少し離れてその場に座すルーデメラ





シュドは後片付けに勤しみ、退屈紛れに
ノールがシャムへとちょっかいを出していた







「旅というのも、案外くたびれるもんじゃな」


「なに言ってるニャ シロからあんなトコまで
抜け出してきといて」


「お主は知らんのか、この世界には馬車荷車という
文明のリキがソンザイするのだぞ?」


「バカにするニャ!それくらい知ってるニャ!」





飛びかかろうとするシャムを寸前で宥めるシュド





「シャム君落ち着いて…それではノールちゃんは
馬車や荷車で ずっと旅を?」


「もちろんじゃ!」


「どうせだから、詳しく聞かせてもらえないか?」







あらかた手伝いを終えて手持ち無沙汰になったらしい
カルロスが、ノールへと語りかけた





彼女は 得意げに胸を張って







ふふん よろしい、聞き逃すでないぞ」











〜No'n Future A 第三十六話「地獄の始まり」〜











お転婆王女様が城の警備を縫って、何度目かの
奇跡の大脱出を成し遂げた後


城下町から出て行く馬車や荷車に乗り込んで
探し回る兵士達の目を誤魔化し


目的の町に着いたら 別の街へと進むモノへ乗り換え


それらを次々と乗り継いで行き





少し遠回りのルートでイールの町の周辺まで
やって来たようだ







「…そこまでは良かったのじゃがな」







着いた途端 背後から虫のような魔物に飛びかかられ





必死に抵抗する内に指輪が懐から零れ落ち


それを奪われてしまったのだった







虫のような魔物を探し回って辺りをうろつく内





盗まれた指輪を持つ竜鱗族につけ狙われ始め







…そしてノールは、石榴達に出会った









「ノールちゃんって、積極的なんですね
ちょっとうらやましいなぁ…」





ニコリ、と頬にを浮かべて微笑むシュドに
ノールも釣られて赤くなる





「ふふんそうじゃろそうじゃろ、シュドも
わらわを見習ってもう少し活発になるといい」


げー、シュドがノールみたくなったら
オイラすっげーやだニャ!」


「何じゃとこの猫もどきめ!」





チャクラムを数個取り出したノールを見て
慌ててシャムがカルロスの後ろへと隠れる





ニャ〜!カルロス〜!!」


「こらこら、今のは言いすぎだぞシャム」


「ノールちゃんも…そんな危ないものは
しまってください」







そこで 木々に仕掛けを終えた石榴がやって来る







「…っし、こんなもんか おいシャム
後はアレに適当なタイミングで石投げてくれ」


アレをやるんだニャ?オッケー!





頷き シャムが側にあった小石を拾って身構える







魔術銃を具現化させ、両手に握りなおして
石榴は両目を閉じ 精神を集中させる







「…何が始まるのじゃ?」


「ああ…ノールちゃんは 初めてでしたっけね
危ないですから、少し下がっていた方がいいですよ」





首を傾げつつも 大人しく従うノール









シャムが予告ナシに小石を一つ、先程の仕掛けの
一部らしき部分へと当てると


勢いよく 木で出来た的が飛び出し―





石榴は瞬間的に、その的へと弾丸を放った







息つく間もなく次々に小石が仕掛けを作動させ


様々な位置から 的や振り来る石つぶてが
飛び出してくる







身を捻り、確実に弾丸を命中させ





石榴は次々に的の中央や石つぶてを
粉々に粉砕していく







「おぉ〜!」





目の前の光景に、ノールは驚いたような声を漏らす





「…見事なものだな」


「こっち来てからは最近やり始めたんだけどよ
練習しねぇと腕が鈍るからな」





感嘆とした呟きをもらすカルロスに、石榴は
やや自慢げな笑みを浮かべて 銃を構え直す









しかし最後の一つ という所で







吹いた風と共に流れた大量の煙が視界を塞ぎ
弾丸は 的のやや上の方にずれた







銃の具現化を解き 流れてくる煙に咳き込みながら





「っルデ!また煙出てんぞ!」





石榴はその根源…ルーデメラに向かって怒鳴る









彼は 座した手前に携帯している実験器具の数々を広げ


様々な材料を、タイミングを見計らって
手にした瓶の中へと投入しているのだが





素材と液体とが融合し科学反応を起こす過程で


もうもうと 何ともいえぬ異臭と煙が立ち込めて
それが風に乗って流れていた







「仕方ないだろう、精製経過でどうやっても
煙が出てしまう組み合わせなんだから


これでもなるべく煙が出ないようにとか
色々気を使ってるんだよ?」


でも煙いモンは煙いんだよ!なっシュド」





話題を振られ、少し戸惑いながらか細い声で
遠慮がちに答えるシュド







「あ、あの…スイマセン 僕もちょっとだけ
煙たいかなって」







我が意を得たり、としたり顔の石榴を睨むも





表情を曇らせるシュドを見て ルーデメラは
諦めたようにため息をつく







「流れの旅だと気兼ねなく研究が出来ないからやんなるなぁ…
せめて一つでいいから自分の実験室が欲しい」


「ルーデメラは 協会に自らの部屋を持たないのか?」





カルロスの問いかけに、彼はゆるりと首を振る





「協会に名を連ねてはいても、協会の個室に属さず
あちこちを渡り歩く魔導師は少なくないんだよ?」


「オイラ ムズかしいことはわかんニャいけど
それってムジュンしてニャいか?」


「全然、僕は協会の介入もない
完全な個室が欲しいって言ってるのさ」







話題についていけなくて退屈しきっていたノールが叫ぶ







「そんな事はどうだっていいのじゃ
休息もすんだし さっさとこの森から出る方が先ぞ!」





言ってから辺りを見回し 手近にいた石榴の袖を
ぐいぐいと引っ張るが


石つぶての残骸を拾っている本人は物凄く迷惑そう







「ちょっと待てよ、今 仕掛けとかで出た
ゴミを片付けてんだから」


「そんなモノは放っておけばよかろう」


ダメだ!ゴミはキチンと片付けんのがマナーだ
ほったらかしたらサバゲーじゃ一発で
ブラックリスト入りになるしな」


サバゲーとは何じゃ?」


あ?…俺の世界にあるもんだ 気にすんな」







黙々と片づけを続ける石榴に期待するだけ
無駄だと悟ったか、ノールは標的をカルロスへと変える







カルロスよ どうにかみなを説得してたもれっ」







答えたのは いまだに調合を続けているルーデメラ





「まあ待ちなよ五才児ちゃん、たとえ最短で進めても
イールからアスクウッド王国まで七日かかるんだよ?」


「そうとも それにこの森は厄介だからな
別段急ぐ理由も無いし、ゆっくり進むのも悪くは無い」







諌められても、尚諦めきれずに彼女は頬を膨らませる





「わらわが早く進むといったら進むのじゃ〜!」


「あーもう、またノールのワガママが始まったニャ」







その一言をきっかけに、ノールが矢を射かけたので
シャムは悲鳴を上げながら周囲を走り回る









追いかけっこをする二人の間に 息を切らして
手に魔法瓶と木のコップを持ったシュドが割って入る







「落ち着いてくださいノールちゃん…はいお茶
皆さんも 温かい内にどうぞ」







その場で注がれた、温かいハーブティーを受け取り





ノールは 黙ったままそれを飲む







「…うまい…!」







他の四人も それぞれコップを受け取って
お茶を飲み、表情を綻ばせる







「シュドはお茶を入れるのがうまいのう
その不思議な入れ物も 気に入ったぞよ」


「あ、ありがとうございます…」


「本当、野宿続きだとシュドの料理だけが
唯一のなぐさめだよな」





くぴくぴとお茶を喉へ流し込む石榴を


コップを熱そうに抱えたシャムが
信じられないものでも見るかのように眺める





「石榴 よくこんニャアツいの
そんなペースでのめるニャー…アチ


「茶は熱いうちがうまいんだよ」







コップの中身をしげしげと見つめ、もう一口すすり
シャムはベェッと赤い舌を外気にさらす







「好みは人それぞれだ、無理に飲まなくても
大丈夫だぞシャム」


「でもさっきのクリス君の言葉は中々的を射てるよ
天使君の料理が無かったら 僕は野宿なんてゴメンだね


「…目が笑っていないようだが 気のせいか?」


「やだなぁ船長さん、気のせいだよ」





胡散臭いくらいまでに爽やかな笑みを浮かべて
ルーデメラがお茶をすする







全員の様子を眺め、シュドもお茶を口にする











ようやく彼の異変に気付いたのは 一番に
お茶を飲み干した石榴だった







「…なぁ シュド、お前顔赤くねぇ?


「そう ですか?」


「あ、ホントだ赤いニャ」







他の者達も次々にシュドの顔色に気付き
ルーデメラすらも、作業を中断して彼へと寄る







「昨日は寒かったから、風邪でも引いたのかい?」


「まったく 情けないのぉ」


「大丈夫かシュド」









その顔色は、どんどんと赤くなっていて
まるでトマトのようになっていき





「大丈夫ですよ…スイマセンみなさん…ご迷惑 おかけし…て…」







途切れ途切れに呟いたのも束の間







まるでスローモーションのようにゆっくりと





シュドは その場に倒れた







『シュド(天使君)!?』








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:五時前ルール更新でスイマセン、そして
緩急話題なのに一話で終わらずスイマセン


石榴:下手に設定盛りすぎっから一話で終わんねぇんだろが


狐狗狸:うん…でも、どーしても石榴の訓練シーン
ルデの実験シーンは入れたかったの


シャム:ちなみにあのシカケづくりをおしえたの
オイラなんだニャ!


シュド:それまでは、僕やルーデメラさんが遠くへ
投げた石を撃ち抜くことをしてましたね


カルロス:石榴の話によると、元いた世界で
やはり飛び出す的の訓練や飛ぶ皿を撃っていたとか


ノール:なんと、皿が飛ぶのか!?


狐狗狸:あーフリスビーかー…けっこう本格的だなぁ
さすがサバゲー好きのモデルガンマニア


ルデ:クリス君の訓練なんて 取ってつけたような
ネタはいらないと思うけど


石榴:逆に万年実験してるこいつの記述を削れよな


狐狗狸:ここで険悪になってどーすんの、次回は
もっと険悪になっちゃうってのに


シュド:そ そうなんですか…?


シャム:え、何が起こるんだニャ?!


ノール:シャムが倒れた以上に どんな災いが
降りかかるというのじゃっ



石榴:来月に その謎が明かされるってのか!?


ルデ:…天使君は兎も角、君ら三人は何が起こるか
知ってるだろ あからさまな猿芝居はやめなよ


カルロス:よせ 仕方なくやっているんだから
…とりあえず、次回へと続く




ヤラセくさくてスンマセン、多分次回には
きっちりカタをつけれると思います


次回 阿鼻叫喚の地獄が彼等を襲う…!!?