「あの時は不意打ちにやられたが、正面でなら
テメェにやられやしねぇよ!」







吼えて赤い竜鱗族が鋭いカギ爪をカルロスへ振りかざす







義手の剣で受け弾き流すも、カルロスのコートに
少しずつカギ裂きが刻まれる…だが、





「言うだけはあるが…私が不意打ちだけで勝ったと思うな?





鮮やかに剣を翻すカルロスの斬撃もまた
硬い竜鱗族の皮膚に 傷をつけている







「よくもサイフとりやがったなこの猫ガキぃぃ!」


「ニャ〜!」





緑頭の竜鱗族やゴロツキに追われ、シャムは
足を生かして室内を縦横無尽に逃げ回り





「こっちにゴロツキつれてくんじゃねぇよ
この泥棒猫っっ!!」






石榴の側へ誘導し、彼も文句をたれながらも
律儀に追っているゴロツキ達を撃ち倒す









こちらも幻術によって現れた複数のルーデメラに翻弄され







それに攻撃を仕掛けるも、たやすくかわされ
或いは当たった瞬間に幻覚が消滅し





「フリーズィート!」





惑わされる間に彼の攻撃に沈黙させられる







近づいてきた一人のナイフ攻撃を見切り、
そいつのアゴを蹴り上げて ルーデメラは笑う







ゴロツキ風情が 僕に適うと思ってんの?」









手負いのシュドと側にいたノールに







「野郎ども!そのガキ二人を人質に取れ!!」







緑頭の竜鱗族とゴロツキ数人がそれぞれ
爪とナイフを振りかざして襲いかかる





その場から動けぬ子供二人ならば楽勝、と
思っていたのだろうが それは大きな間違い







「無礼者どもめ!女と思うてわらわを甘くみるな!!」







烈白の気合と共にノールが投げ放った
複数のチャクラムが弧を描く







それはゴロツキの持つナイフをいくつか弾き





竜鱗族の皮膚に浅くだが傷をつけ


近寄らんとする彼らを牽制する







「チョコチョコと小賢しいマネを…小娘ぇぇ!







苛立った緑頭の竜鱗族が、息を吸い込むと
口を大きく開いて炎を吐こうとする


その直前で





「"凍りつけ"!」





石榴の放った弾丸が開かれた口を凍らせ
炎の発射を封じた







うろたえる竜鱗族やゴロツキ達を





「ワンパターンに手負いのガキを人質にしようと
してんじゃねぇぞコラぁ!!」



「同感だ 人の風上にも置けん!!」





石榴とカルロスによる怒りのツープラトン
完膚なきまで叩きのめした









見る間に部下のほとんどが戦闘不能に陥ったのを見るや







「ちっ…役に立たねぇ奴らめ!」







舌打ちをし、赤頭の竜鱗族が壁の一部に手をかけ
そこから部屋を抜け出した











〜No'n Future A 第三十五話「少女と指輪」〜











「待て 指輪を返さぬか!!」





竜鱗族を追いかけるようにノールも壁の先へ消える







ノール!一人では危ないぞ」


「あっ、置いてかないでニャっカルロス!」





急いで彼女の後を追うカルロスにシャムも続く







「やれやれ五才児ちゃんには困ったもんだ…クリス君、
天使君を回復させ次第 追いついてきなよ」







残る石榴にそう言い捨てて、ルーデメラも駆けて行く









弾丸の効果で火傷の癒えたシュドが まぶたを
震わせゆっくりと目を覚ます







「…石榴さん 僕は」


「ったく、無茶すんなよシュド 歩けるか?」





尋ねる石榴に、身を起こしながら頷くシュド





「大丈夫です ありがとうございます」


「治ったばっかで悪ぃけど、ノールのバカが
突っ走りやがったからな アイツら追っかけるぞ」


ノールちゃんが!?石榴さん、急ぎましょう!!」





狼狽たえている様子を諌めながら





「そう焦んなくても、この面倒くせぇ迷路じゃ
そんな進んでね―







先程の彼らのように壁を抜けた
石榴とシュドが見たものは







コゲ跡やら切り裂かれた壁の残骸やらを周囲に残し





今いる場所から一直線に創られた
強引過ぎる通り道だった







「…さっきまでの道のり無視かよ
これだからファンタジーはあぁぁぁっ!!













最短ルートで二人がたどり着いたその先は
筒のような吹き抜けとなったフロアだった







そこに存在するのは階下への階段と赤い頭の竜鱗族


ノールを先頭に竜鱗族と対峙する六人


そして、竜鱗族の側にある 異様に巨大な檻だけ







「おい 何だよあのデケェ檻」


「アレは…本物じゃない、魔法で出来てる結界です」


「前に住んでた魔導師はそこそこの実力を
実に悪趣味な研究に使ってたらしいね」





ルーデメラのセリフに、石榴は
"人の事言えんのか"といった視線を送る





「そのせいか 何がいるかわからんのは」


「ニャんか、ニャんか生グサいニャ…」







檻から感じ取れるのは生臭さだけではない





絶対的捕食者や猛獣のそれに似た"射殺す"ような
強烈な視線が場の空気に圧力をかける







しかし、そんな事などお構いなしとノールが叫ぶ





「もう逃げられんぞ 観念して指輪を返すのじゃ!


「はっ、言われてハイそーですかなんて
返すアホがいるか!」







負けずに叫び返すと、竜鱗族は爪で檻を切り裂いた







澄んだ音と共に檻は砕けて消え


そこから姿を現したのは 一体の巨大なドラゴン







六人の内、その出現に多少なりとも驚愕し





「ニ゛ャーーー!!ドラゴンだニ゛ャーー!!」


「…こーいうデタラメな世界にいる以上は
いつか出てくるような気がしてたよ畜生!!





その中で先に声を放ったのはシャムと石榴







「命令する こいつらを残さず食っちまえ!」





短く言うと、ドラゴンの後ろに隠れ
何やら呪文を唱え始める









「げっ あの野郎、魔法使う気か!?」


「いや、僕もあんな呪文は聞いたことがない」





石榴の言葉をルーデメラが即座に否定する





「聞いた話では 竜鱗族は特殊な術により
その背に羽を生やすことが出来るらしい」


「ってことは、その羽でこっからにげる気かニャ!?」


「おのれ逃がしてなるものか!!」


「そんなことよりみなさん、このままじゃ
僕らドラゴンに食べられてしまいますよ!?」







シュドの言う通り、ドラゴンが大きく身体を広げ
竜鱗族との間を阻みながら一歩ずつ、六人へにじり寄る









「仕方ないね…それじゃあ最短でケリをつけようか」





ルーデメラはノールとシャムとカルロスを指差し、





「五才児ちゃんと泥棒猫君、あと船長さんも
今回は出番が無いから階段辺りに非難しててよ」





言い終え、次にシュドの方を向き





「で、天使君は僕とクリス君に耐火呪文を
それぞれかけたら同じように非難して…


残ったクリス君は何をするべきか わかってるね?





最後に石榴に尋ねる







「言わなくてもわかるっつの、お前と一緒に
あのドラゴンをぶっ倒しゃいいんだろ





彼もため息混じりにドラゴンを睨みつける







「援護は氷の攻撃で頼むよ 勇者様」











作戦が決まってからの彼らの動きは素早かった





三人は言われた通り階段付近まで下がり







「レディストマナファイ!」







シュドも石榴とルーデメラの二人に
それぞれ耐火の呪文をかけて移動する









「フリーズィート!」


「"凍りつけ"!」








二人の放った術や弾丸は、ドラゴンに被弾し
次々とその身体を凍りつけていく





負けじと身体を大きく揺すり 火炎の息を吐くが


彼らにかかった耐火の術が、炎を跳ね除ける









「のう、シュド…」







二人の攻防を眺めながら、ノールが尋ねる





「はじめに会うた気にも聞いたのじゃが 石榴は
何者なんじゃ?なぜ魔術銃が使えるのじゃ?」







首を横に振り シュドは答える







「…僕にも、わかりません
けど これだけはわかってます」





戦っている石榴へ 真っ直ぐな視線を向けて





「石榴さんは 帰るべき場所を目指してる」


帰るべき場所…か」











ようやく全身を凍りつかせ、ドラゴンが
その場に崩れ落ちる







「すっげぇーーーニャ!ドラゴンをたおすニャんて!!」


「ああ…しかし、少々遅かったようだ あれを見ろ」





倒れたドラゴンの遥か後方で、


術によって羽を生やし終えた竜鱗族が
床を蹴って高く舞い上がる







「あっテメ待ちやがれ!!





銃口を向ける石榴だが、途端に魔術銃は
形を失い宝珠へと戻る





「弾切れ…っくそ ルデ!」


「無理だよ、さっきの今で魔力切れ
それに竜鱗族は血に高い魔力を持っているから
生半可な攻撃じゃ役に立たない」


「ニャらクスリとかで力をカイフクすれば」


「回復してる間に逃げられるね」







竜鱗族は塔の縁の辺りまで舞い上がり
彼らの様子を面白そうに一瞥し







「ケケケ あばよ!」





翼をはためかせ、塔の外へと逃げようとした直前







その翼を 一本の矢が貫いた







「なぁっ!?」





バランスを崩す竜鱗族に、次々と矢の雨が襲いかかり


幾つもの矢の刺さった翼は力を失い
竜鱗族は塔の中へと墜落した





「あの程度の距離なぞ問題にならん!
わらわの矢は 百発百中じゃ!!」



「やるじゃねぇかノール!」







倒れ伏し 羽が消えて尚よろよろと身を起こし





「く…くそぉぉぉぉ!!







口を開いた竜鱗族に、駆けつけたカルロスが
トドメを刺した







「…安心しろ 峰打ちだ」


「大して働いてないくせに おいしいトコだけ
持ってくのってズルくない?」


「スマンな」







つまらなそうに言うルーデメラに、
彼は苦笑交じりで謝る







ノールは弓と矢を放り出して、倒れた竜鱗族を
徹底的に調べている





「指輪…わらわの指輪…!」







他の四人も辺りに無いか目を光らせ









やがてシャムが、隅の方の小さな光に気がつき
反射的な速度でそれを掴んだ





「ニャ〜!ここに落ちて……ニャ!?







指輪を見た途端 シャムが限界まで目を見開き







「カカカっカルロス、これ!!





慌ててカルロスへと手渡し、全員が
その手の中身を注目する









それは金で出来た大ぶりの指輪で 暗青色の石を
中心に精緻な細工が施されている





石には 紋章らしきものも刻まれていた







「この紋章…アスクウッド国の王家に伝わるものと同じだ」


アスクウッド?なんか、どっかで聞いた名前だな」


「船で話をしただろう?この大陸を治める王国の名前だよ」







その言葉に、五人はある事を思い出す









"例の姫様がまた家出したらしいよ"


"大臣や兵士達も半泣きで日夜捜索してるとか
本当、困った王女だよなぁ"


"この大陸を収める王国の姫でさ、おてんばで有名なのよ"









「指輪を探してたということは…まさか、ノールちゃん!







シュドの一言で、一斉にノールへ視線が集まった







彼女は 少しばつが悪そうな顔で頷く





「…その通りじゃ 騙すつもりはなかったが
わらわの本当の名は


ノーリディア=ユーム=アスクウッド


「ニャ…ニャんでオウゾクがわざわざおシロを
抜け出したりするニャ」


「大方、お城での生活に飽きたんじゃないの?」


「その通りじゃ わらわは冒険がしたかった
だからいつものように城を抜け出した…」





カルロスの手から指輪を受け取ると、手の中に握り締め





「その最中に この指輪を魔物に取られてな、
どうしても取り戻したかったのじゃ」







腑に落ちないような顔で石榴が言う





「なら、最初からそう言やいいだろ」


「うかつにも一国の姫が 家宝を…母の形見
うばわれたなどと言えるものか」


「じゃ、じゃあ宝もみつかったんだし
とっととおシロにかえればいいニャ」





勤めて明るく言ったシャムに、ノールは
猛烈にかぶりを振った







いやじゃ!お主らと一緒に旅をする!!」


「…ノール ダメだ」


いやじゃいやじゃ!帰ったらまた
わらわは一人になってしまうではないか!



初めて…初めて信頼できる仲間が出来たのに!!」







聞く耳を持たないノールの視界に
石榴の茶褐色な瞳が割り込んでくる







「あのな、お前はそうやってつっぱるけどよ
お前がいなくなって困ってる奴は無視か?
悲しんでる奴の事 何も考えてねぇのか?」


「あんまり苛めない方がいいよクリス君
何不自由なく帰れる場所がある子に わかるわけない」







彼の身体を引き離し ルーデメラは冷たく言い放つ











俯いたまま何も語らなくなったノール







シュドは、彼女の両肩に手を置いて語りかける







「…ノーリディア様、いえ ノールちゃん
気持ちは嬉しいですが、あなたのお父様やお城の人達
それに 亡くなったお母様が心配されてますよ」







顔を上げた先にあったのは







「僕らもご一緒しますから、帰りましょう」







とても優しい 慈愛に満ちた笑顔









ノールはしばらく彼の顔を見つめ







ややあって、頬を染めながら呟いた





「お主がそこまで言うなら…特別にわらわの
護衛を引き受けさせてやってもよいぞ」


「ノールちゃん…!あ、いえノーリディア様」





わたわたと慌てるシュドを、クスリと笑って





ノールでよい、父上や母上はわらわをそう呼ぶ
これもお主らだけに特別に許すぞ」







胸を張って ノールはそう宣言した







「なんだよ エッラソーに」


「ま、たまにはこういう道楽も悪くないね」


「ゴエイのお礼、たんまりハズんでくれよニャ」


「これからの道のりも よろしくな、ノール」







笑顔を浮かべた五人の顔を見回し、ノールは
握りこぶしを突き上げて叫んだ







「アスクウッド王国まで ゆくぞものども!」








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:やっとノール話が終わったァァァ!


石榴:遅ぇぇぇ!(ダイビングキック)


ノール:まったくじゃあぁぁぁ!(同じく)


狐狗狸:Σブルァァァ 何すんのこのお子様ども!


石榴:るっさい!毎度毎度ご都合主義な話ばっか
展開しやがってこの病弱狐!!


ノール:そうじゃそうじゃ!
わらわをもっと可愛く書かんか!!


狐狗狸:…出番あるだけありがたいと思いやがれ(ボソ)


石榴:テメッ何言った今 ああ!?(銃構え)


狐狗狸:ちょちょちょ!そこまでキレることないでしょ!
魔術銃しまって!!


ノール:…所で、他の四人はどこじゃ
シュドはどこへ行った?


狐狗狸:シュドは夕飯買出し、船長は四度寝突入
ルデはシャムを実験体に研究中


石榴:…ついにアイツもルデの目標になっちまったか(合掌)




結構ありきたりなネタでスイマセンでした


蛇足入りますが、竜鱗族は魔法は使えないけど
その血に高い魔力を宿す種族です(羽の術は魔法にあらず)


なので半端な魔法を受けても全然平気で
大半の結界なら素手で壊せます




次回 シュドが病に倒れて大ピンチ!?