「ああもう、いくらコウゲキしても
全く答えぬとは腹立たしい!!」








腹立たしげにノールは、袋小路に佇む
小さなゴーレムに向けてチャクラムを投げる





弧を描いて当たった輪は泥の身体をすり抜けて戻るも





断ち割れた泥はすぐさま集まり、固まって
元通り ゴーレムの姿を形成する







「無駄だよ五才児ちゃん アイツは泥で出来てる
粘土を叩いても元に戻せる事くらいわかるよね?」


"固まれ""固まれ"…だぁぁもうすばしっこい!!」







皮肉げなルーデメラのすぐ側で石榴が弾丸を連発させるが
素早い動きで回避され 空振りが続く







「あのゴーレムを破壊しない限り、奥の壁を
調べることは出来なさそうだな」







壁の泥のほとんどは、ゴーレムの出現と共に
剥がれ落ちたものの





いくばくか残っている泥が床へと流れ、


一筋の線となりゴーレムへと繋がっている







「魔法に対する反射速度も早いし、前の住人は
中々面倒なモノを残してくれたねぇ」


「ため息ついてるヒマがあんなら
ちっとは状況打破する手でも考えろ緑頭!」






苛立つ石榴の叱責に、不敵な笑みを返し
ルーデメラは言い放った





心配無用 策が無い事も無いさ」











〜No'n Future A 第三十四話 「少女と塔探索4」〜











「まずはクリス君と船長さん、
それと君ら二人でコンビを組んで協力してもらうよ」





指差され シャムとノールが不満を漏らす





「なっ…わらわがコヤツとか!?


それはコッチのセリフだニャ!
オイラこんなワガママ女と組みたくニャんか」


「泥棒猫君は弱いし 五才児ちゃんはノロい
二人合わせて一人分でしょ?」





渋い顔でお互いを見つめる二人に、ルーデメラは
トドメの一言を口にした







別にいいよ?君ら二人程度いなくたって
ゴーレム排除に支障は無いだろうし」





彼の言葉は、見事に二人の闘志に火をつける





「おっオイラはやるけどニャ〜ノールより
きっとカツヤクするけどニャ」


何を言うか、わらわも戦うわ!お主こそ
足を引っ張るでないぞ シャム!」


「二人とも、あんまり無茶しないでくださいね…」





共にやる気を発揮する二人を心配そうに
見つめながら シュドが呟いた







「で、今回はどーいう役割なんだ 俺ら」


「君ら四人に頼むのは、あのゴーレムを出来る限り
壁に追いやってほしいんだよね」


「あのゴーレムの行動範囲を狭める為の包囲か」





言うカルロスに ルーデメラはニッと笑いながらも
指を軽く左右に振る





「それもあるけど、壁に残ってる泥も
落としとかないと 後々厄介だろうからね」









短く作戦を告げられ 六人は互いに陣形を取る







通路を塞ぐように三人ほどが横並びし





石榴やカルロスがゴーレムに攻撃を繰り出しながら
じりじりと前進していく







壁に近寄らせまいと素早く復活したゴーレムを
ギリギリまで近づき誘うシャム





それに釣られて襲いかかる攻撃を


入れ替わったノールが複数のチャクラムで無効化させる









「そろそろ頃合かな、天使君 呪文を」


「はい!」





頷き、包囲網の背後でシュドが詠唱を始める







ルーデメラの作戦通りに事は進み、


泥ゴーレムはすぐ後ろに壁を背負う形で追い詰められ
攻撃もほとんど無効化されていた





焦れたらしく自らを液状化し、津波となって


入れ替わったノールを飲み込もうとする







「スロミル!」







間一髪でシュドの呪文が完成し


彼女の横から手を伸ばして相手へと発動させる





泥全体が青白い光に覆われ、ゴーレムの動きが
目に見えて衰えていく







ノールが急いで退避したのを見計らい





「いつもながらいいタイミングだよ天使君!」





短く呟いて ルーデメラが素早く手を動かし
空中に光るやや大きめの魔法陣を描き出す







「宙に混ざる水よ、集いて注ぎ形を穿て!」







陣から長い雲が尾を引いて出現し
ゴーレムの真上にぐるりととぐろを巻く





そして、雲から叩きつけるような雨が降り始め


泥で出来た番人の身体は見る見るうちに
形を失い とろけ崩れていった









「おお〜ゴーレムが崩れていく!
ルーデメラ お主スゴイ術を知っておるのう」


「ただの水を生み出す呪術師の初級魔法さ
多少、継続時間をアレンジしてあるけどね」


「そんな単純な方法で倒せるもんなのかよ」





理不尽さを感じる石榴に、カルロスが補足する





「ゴーレムは核となる身体が完全に崩壊すれば
術が解けるからな」


「ルーン魔法陣にも精通してらっしゃるとは
流石はルーデメラさんですね」







柔らかな緑色の目をキラキラさせて言うシュドに
彼は、少し困ったように笑う







「師匠の受け売りで、簡単なものだけだけどね」


「ル、ルデメがケンソンするニャンてメズらしい」


「どういう意味かな?」


「ニャンでもありませんごめんニャさい」











程なくして、ゴーレムは壁の泥と共に
キレイに水に溶けて流されていった







番人が貼り付いていた壁を力を込めて押すと
壁は動き、その奥に続く部屋へと六人をいざなう







石壁で囲まれた殺風景な部屋の中には





袋に入れられた金貨や宝石
まばゆく光る金銀財宝が無造作に転がっていた









「ニャ〜!!タイリョウのお宝ニャ!!」





目を限界まで大きく見開き、興奮しながら
シャムが真っ先に突進し品定めを始めた







「わー流石は泥棒猫君 こーいう時だけは早いねぇ」


言うべき事違ぇぇぇ!!シャムお前
罠の有無を調べてから動けよ!!」


「全くだ 浮かれすぎだぞ」







呆れ交じりの彼らの声も 全く耳に入らないらしく
品定めに夢中のシャムに





同じぐらいの速度で近寄ったノールのパンチが飛んできた







こらシャム!わらわの許可無く漁るでないわ!」


ニ゛ャ!?な、何するニャ〜!!」







頬を押さえて抗議するシャムとノールが
つかみ合いのケンカをおっぱじめ





「二人とも、ケンカしちゃダメですよっっ」





慌ててシュドが二人の間に入り込んで仲裁すると


すまなそうにお互い頭を下げて 宝探しを再開する









「ない…ない!どこにあるのじゃ!!







顔を青くし、呟きながらノールは
宝の山をひっくりかえすように掻き漁る





あーあーあー!ランボウに放るニャー!
キズがついたらカチが下がっちゃうだろニャ!!」





彼女の行動に文句を言うシャム







「アイツ、一体何探してんだ?」


「僕らも手伝いましょうか?」





申し出に、しかしノールは首を横に振る





「いい これはわらわ一人でやる!」


「しかし、これだけの宝を一人で見て回るのは
大変じゃないだろうか?」


平気じゃ!お主らには関係ない!!」


「本人がほっとけって言うんだからほっときなよ
君らって本当お節介だねぇ」







ルーデメラの一言が終わるか終わらないかで







唐突に気配を感じ、五人は弾かれたように動き出す









彼らの遥か後方の、下からという
予想だにしない方向から炎が吹きだしてきた







探し物に気を取られ ノールが炎から逃げ遅れ





咄嗟に呪文を唱え、シュドがかばうように割って入る







「ホワイティガーディアル!」







光り輝く障壁が発動するも、タイミングが僅かに遅れ
彼の身体を炎が焦がす







「ぐぅっ…!」


「シュド!」





火傷を負い、倒れるシュドに寄るノール





おろか者!何故こんな無茶を…!」


「怪我は、ありませんね よかった…」





シュドはノールを見上げて微笑むと、そのまま
ガクリと意識を失った





「こんな時にまで、わらわの心配を…!」


シュド!待ってろ、今俺が直してやる!!」







駆け寄る石榴の足元に 空のビンが落下した









ガシャン、と安い音を立てて割れるビンの
飛び着た先に視線を向けると





そこには 床の一角を押し開けて現れる
竜の頭をした二人の男がいた





息つく間もなく、次々と男達が部屋の中に侵入し


手に手に武器を携え 六人を睨む







「お探しのものはこれかな?お嬢さん」







赤い竜鱗族が爪の先に摘んで掲げるのは 小さな指輪







「キサマが隠し持っておったのか!
それを返さぬか この盗っ人どもめ!!」






金の瞳に込められた敵意を、指輪を弄びながら
男は鼻で笑い飛ばす





「そいつは聞けねぇなぁ、安心しろよ
お前さんだけは生かしておいてやるからさぁ!


「テメェらよくもオレらを閉じ込めてくれたなぁ…
たっぷりお礼をしてやるぜぇぇ!」






悪党の常套句をひとしきり並べ終え、定石通り
ゴロツキ達が六人へと襲いかかる







そんな様子をうんざりしたように見つめるルーデメラ





「やられたね まさか床にまで隠し扉があるなんて」


「シャム、私の側を離れるな」


「わわわっ分かってるニャ!」







大急ぎで持っていた宝を手放し、左手の剣を
構えるカルロスの側へ駆け寄るシャム





火傷を負ったシュドをかばうようにして
ノールはその場に留まり、チャクラムを取り出す







「…ったく、これだからファンタジーはあぁっ!







室内に怒声を木霊させ、石榴が眼を赫く輝かせ
ゴロツキ達に照準を定めると弾丸を発射した








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回も月一ギリギリで更新ですよ、てゆうか
書き上げるのが本当綱渡り


石榴:予定日に間に合わずズレこむのは
お前のクセなのか なぁ?


ルデ:あと話のつながりがあちこちヤッツケで
読者に申し訳なさを感じないの 毎回さぁ


狐狗狸:二人ともーそれ今更だから言わんといてね


カルロス:ルーデメラがルーン魔法陣を使うのは
初めて見たな


狐狗狸:あーそういや、前使ってた時って
連れ去られてた時でしたっけね(笑)


ノール:あの図形の魔法が使えることが
そんなにめずらしいものなのか?


シュド:ルーン魔法陣は普通の呪文と系統が違い
僧侶呪術師などが主に使うものなんですよ


ルデ:そう、複雑な呪文詠唱を図形化することで
短縮させ初心者に習得しやすくしたお手軽呪文


カルロス:しかし祝詞と図形の組み合わせで
高度の術の試行も可能になると聞いているぞ


シャム:ジュモンってオクが深いんだニャ〜


石榴:出たよ、いかにも説明くさい穴埋めの会話形式


狐狗狸:それ言わないでぇぇ!!(焦)




ようやっと宝までたどり着きました、そろそろ
このシリーズも終わりになると思います


次回 彼女の元に指輪は戻り、そして…!