階段を駆け上がった先の光景を前に
六人は呆然と立ち尽くす







「…塔の中なのに なんだよこのあからさまに
ヤバそうな針山はっっ!







二階は自分達が上がって来た階段からの数歩分の床と
向こう側の階段の周りの床





そしてその二つを繋ぐ一直線の広い橋の様な床板と
床板を囲むように点在している大き目の松明を除き





全てが鋭い針山の連なる空洞だった







「よくよくおかしな塔じゃのう」





呆れたように言うノールの背後で、カルロスと共に
辺りを伺うシャム





「シャム、周囲に罠はありそうか?」


「…おかしニャ音はきこえニャいし、見たカンジ
とくにイジョウはないみたいだニャ」


「けど今までのことからして 見た目通り素直に
通れるもんだと思えねぇよ」







石榴の言葉が示す通り、罠のない大きな一本道は
あからさまなくらい怪しい







誰もが今だその場に足を止めている中、





シュドが あることに気が付いた







「あの、この部屋…何か違和感が…」


『違和感?』





全員の視線が集まり、慌てふためいて





「上手くは言えないんですが…あのかがり火の
たかれた壁の辺り 何かがおかしい気がして」







シュドが指差したのは 現在位置から一時と二時の
間ほどの方角にある、床から離れたかがり火側の壁







「別に…普通の壁、だよなぁ?」


「わらわにもそう見えるぞ」


「どこがヘンだっていうんだニャ?」





三人が同じように首を傾げる中、カルロスは
ルーデメラの様子が違うことに気が付く





「…何か気付いたのか」


「まぁね、よく気付いたよ天使君
どうやらこれは僕の得意分野ってところさ」







ニッコリ笑いかけ その場で呪文を唱える







「ヴィジョニレイス!」







ルーデメラを中心に青い光が周囲へと広がりながら放たれ





光が収まると 二階の室内は少し様子を変えていた











〜No'n Future A 第三十三話「少女と塔探索3」〜











目の前にあった大き目の一本道の通路は、
人一人が通れる分ほどの 曲がりくねった通路に変化し





シュドの指摘した壁の辺りには


文字の様なものが刻まれた、丸い盾のような
紫色の鏡
が 周囲に青い光をまとってそこにあった







「何と…部屋に幻術がかけてあったとは!」


「あ、あのままススんでたらアブなかったニャ…」







床から突き出た針を見つめ、シャムは思わず喉を鳴らした







自分の術によって幻術を押さえ込まれた鏡を
彼は興味深げな目で見つめたまま呟く





「僕ですら気付くのに時間がかかった…野盗ごときが
こんなに高度な幻術道具をつくれっこないな」





カルロスも その言葉に頷いて





「どうやら、この塔は元々魔術師が住んでいた
考えて 間違いはないみたいだな」


「んなこと分かってもここの仕掛けが
メンドウなのは変わんねぇんだよ、行くぞ!







先へと歩き始める石榴に ため息混じりに
後へと続いていく面々









「狭くて歩きにくい足場じゃのう…おおっ!?」





足を滑らせ よろけて針山へと転落しそうになるも
ノールは何とか堪える





「大丈夫ですか、ノールちゃん?」


「気にするでない 少しバランスが崩れただけじゃ」







振り返ったままのシュドが おずおずと手を差し伸べる







「……あの よかったら、僕の手に捕まって下さい
ちゃんとゆっくり歩きますから」







金色の目が、交互に彼の顔と手を見つめて







「別に平気じゃが…せっかくの好意をムゲに断るのも
悪いからのう、特別に許す





自らの手をその手に乗せて握り返した







「ホントはうれしいくせにニャ〜」





グルリと首だけを後ろに向けてノールが睨む





「シャム、キサマここを渡ったらおぼえておれ!」


「ウニャ〜コワいコワい」











三階はさほど入り組んでもおらず、いくつかの
部屋への扉があった





階段を上がりきったすぐ側の、鳴子モドキを解除して







「じゃ、泥棒猫君とクリス君 偵察よろしく」







ルーデメラの半ば命令に近い言葉に 二人は諦めて頷き


静かに歩きながら 気配を探りつつ通路や壁
部屋の扉の位置などを確認する





扉に耳を当てると、それぞれの場所から
柄の悪いダミ声が聞き取れた









「…下の音がしねぇな、さっきまでハデにやってたのによー」


「ずっとカンヅメだとだりぃなー」


「ヤツラ、ここまで来るか?」


「知るかよ 地下や二階の仕掛けでくたばって
くれりゃ楽でいいけどよー」


「もしあのガキどもが生きてたら…」


「そん時ゃ階段の仕掛けが鳴るだろうから
待ち伏せりゃいい」









程なくして二人が足音を殺しつつ戻ってくる







「…どうだった?」


「ワナとかまちぶせはなかったみたいだニャ」


「なんか、オレ達がここまで来てるの気付いてねぇ
みたいだぜ…ナメられたもんだな」


「気付かれてないなら このまま先へ進みませんか?」







提案を、しかしルーデメラは首を振って否定する







「さて、それじゃ皆には手分けしてこの階の
全ての扉の隙間にこの発明品を塗りこんで」





言って 普段は透明にしているバッグから
容器に入った何かのクリームを出し、


石榴以外の四人に渡していった





「これ あぶニャいものじゃないよニャ?」


「はじめてみる物ですけど、これは一体…」





答えたのはカルロスだ





「見た事がある、電気を通すと硬化する性質を
持った接着クリームだ」


「正解、それは僕が更に硬化作用を強くした強化版
僕が仕上げを終えれば扉はと化すはずさ」


「そんなことをする必要があるのか?」







たずねるノールにルーデメラはふっと笑って







「二つもあるさ、発明品のテストと
雑魚たちを部屋から出さないって言う…ね」


「つまり、閉じ込めてあいつ等を無力化すんのか


「その通り 中々冴えてるじゃないクリス君
君は普通に銃で扉を塞いどいてね」









術や道具で全ての扉を開かないように細工を施し







四階へと上がった石榴達の目の前に広がったのは、
木製の壁に遮られた急ごしらえのような迷路





「また迷路かよ…」





階段から見える範囲では、


迷路は真っ直ぐ進んで右に曲がるまでの通路の間に
左、右と分かれ道があり


すぐ手前の左の道は行き止まりになっていた







「しかし、この通路の壁 なんか安っぽいね」


「うむ 場所は狭いが斬れないことはないな」





カルロスも壁を軽く叩いて 彼の言葉に同意する







「ニャーんかアヤしいニャこのカベ…」





皆に続きつつ、ジッと壁を見つめるシャム







ちょうどそこに 六人の進行方向の曲がり角から、
大型の虫のような魔物が姿を現す







中空にピタリと止まると身を後ろに仰け反らせ





「ホワイティガーディアル!」





魔物の吐き出した液体が四方八方に降りかかり
咄嗟に展開された防御呪文が大半を受け止める


受け止められない壁や床に飛んだ液が コゲを作る







「げっ、消化液かよ…!」


「何にせよ 早めに叩いておいた方がいいな」







各々が戦闘準備をはじめ、シュドの呪文が解除される







「ここはオイラのデバンじゃニャイからまかせたニャ!」


「わらわも見物に回らせてもらうぞ」





二人は言いながら左手側の壁を背に後ろへ下がった







その時 後ろにあった右の分かれ道から、腕を
六つ生やした魔物がシャムとノール目掛けて突進してきた





「「と、トロールっ!?」」





勢いで二人が背後の壁にぶつかるぐらい後退し、









その壁が くるりと回った







『えっ!?』





全員が驚く間に壁は二人を向こう側に送って元に戻る









二人がいた辺りから少しずれた場所に
トロールが壁に突っ込み、頭を殴打し面食らう







「今 壁が回りましたよね!?」


「オイ、そっちは大丈夫か!?」





虫の魔物を一発で仕留め、石榴が壁の方へ声をかける







「大丈夫ニャ〜モンスターは来てニャい」


「さっきはカベが回ったのに今は回らぬ、一体
どうなってるのじゃこのカベは!!」





ノールの声の後に、ドン!と壁を叩く音が響く







「多分、一方通行の隠し扉なんじゃない?」


「オイラもルデメと同じイケンだニャ」







襲いかかるトロールの腕を順に三つ切り落としつつ
カルロスが呼びかける







「今から私達もそちらに行くから、二人とも
少し壁から離れていてくれ」


「わかったニャ!」







シュドが壁を押して傾きを確認し、





ルーデメラが呪文でトロールを足止めした一瞬に
全員が 呼吸を合わせて壁を押した







壁は先程同様くるりと回って


彼らをシャムとノールのいる通路へと誘う







すぐさま石榴が銃で回った壁を固定した直後
魔物が突進した振動が、壁を振るわせた







「あっぶねー」


「間一髪だったな、よくやった石榴」





笑いかけるカルロスに 石榴は親指を立てて返す





「ちゃちな壁だったからちょっと不安だったけど
一応そこそこは頑丈だったみたいだね」







ヒビの入らない壁を見つめて呟くルーデメラ









シャムが涙目でシュドへと近寄る





「シュド〜」


「なんですか、シャム君」


「さっきトビラをとおった時にイキオイで
コケてすりむいたから、なおしてほしいニャ」







言って、血のにじむ擦り傷を負ったヒジを
シュドの目の前に差し出す







「いいですよ そのままじっとしていてくださいね」







彼が呪文を唱え、あっという間に擦り傷は完治する







「ありがとニャ〜シュド」


「どういたしまして…ノールちゃんは平気ですか?」


「わらわは、何ともないぞ」





言うノールの後ろに回された、


右の手の平を隠すような左手の動きを
石榴は目ざとく見つける





ウソつけよ この手は何だよ」







掴んで引き上げられた手の平に、赤い血の筋
伝う擦り傷がありありと刻まれていた







「手を離さんか無礼者!」


「痛って!」





空いている右手で殴られ、石榴が力を抜いた
一瞬の隙に左手を引き戻すも


すぐさまシュドに掴まれてしまう





「ダメじゃないですか、ケガを負ったなら
すぐに言ってくれなくちゃ」


こんなの軽いすりキズじゃ!かまうでない!」







強がるノールだが、シュドはかぶりを振る







ケガに重いも軽いもありません!
それに血だって出てるでしょう、手を貸してください」







黙ってしまったノールの手を引き 短く呪文を唱えると
怪我をした部位に自分の手の平をかざす









迷路は行き止まりが多かったが、





幸いにして魔物はあれ以降さほど現れず
六人は部屋の奥へと順調に進んで行く…のだが







「ったく、この迷路いつになったら抜けんだぁ!?」


全くじゃ!野盗のブンザイでこんな手の込んだ
塔に宝をためこみよって!!」





短気な二人が何度目か分からぬ愚痴をこぼし始める





「二人とも、お気持ちは分かりますが
どうか落ち着いてください」


「ムダだって天使君 最近のお子様はキレやすいから」


「「お子様言うな!」」







茶化すルーデメラに二人が反応し、シュドは
ますます困ったように宥めかかる









普段通りの様子を眺めながらも歩みを進め


先の通路を覗いたカルロスが言う





「また行き止まりだが…先程までと様子が違うな」







塔の壁と同じ石で出来た壁面を挟むように
木造の壁で区切られた袋小路


しかし、正面の石壁は何故か周囲が土で汚れている





さながら今の今まで埋まっていたのを発掘されたように







「あのカベ 思い切りあやしいニャ…
もう少しだけ近よってしらべてみるニャ!」







駆け寄ろうとしたシャムの視線の先







壁の周囲が怪しく蠢いた







「シャム!」





真っ先に気付き シャムの腕を掴み、
強引にカルロスが引き戻し


彼の顔スレスレに壁から生えた爪が通り過ぎた







「ニャ…ニャンだぁ!?





叫ぶ間に爪は壁へと戻り、周囲は蠢き捩れ
壁の前に一塊の泥が落ちた





「何だよアレ、新手の魔物か!?







うねうねと泥が起き上がり その場で何かの形を作る







それは、小さな人のような姿だった







「あれは…まさか、ゴーレム…!?」


「なぜこんな場所にゴーレムがいるのじゃ!」







少しの間を置いて ルーデメラは言った







「考えられる事は二つ、前の持ち主が残したモノ
そして…この先に隠し部屋がある







目の前に立ち塞がる泥の番人
石榴たちを空洞の目で睨んだまま、動かない








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:結構危ない橋を渡りつつ、何とか月一に
間に合いました ノンフュ33話!


ルデ:月一にしたくせにギリギリだなんて本当才能ないね


狐狗狸:ぐべぼるぁっ!


石榴:何だよその悲鳴は…つーかいい加減
ルデの暴言に慣れろよ


狐狗狸:メンタルダメージはいつだって慣れません


シャム:そのキモチ ニャんかわかる気がする


シュド:あ、あの…お二人とも 何か辛いことが
あったらいつでも相談に乗りますよ?


ノール:しかし、前回とは違い 一気に塔の中を進んだのぅ


ルデ:その分 割り増しで文の展開が雑だけどね


狐狗狸:ぐっがふぶ


カルロス:…石榴の言う通り、慣れないと吐血量
増えていく一方だぞ?


狐狗狸:だから慣れないんだってば


石榴:なぁ、塔に前は魔導師が〜みたいな部分
すっげぇ後付けくせぇんだが


ルデ:それは僕の発明品にも言えることさ


狐狗狸:ほぶぁぁっふぁ!



全体的に赤いあとがきでスイマセン、発明品は後付けに
近いですが 前の持ち主〜の辺りは前から考えてました


次回、泥の番人が守っていた壁の先には…!