後から塔へとやってきた三人も
二階に続く扉で少し立ち止まっていた







「なんじゃこのトビラは!」







ノールもまた石榴同様、扉に蹴りを入れていた





彼女の手にあるチャクラムが少し刃こぼれしている
所を見ると、扉の破壊を試みたのであろう







「やっぱり、かすかに魔力を感じます」





扉に手を触れ じっとそちらを見つめながら
言うシュドにルーデメラも頷いて





「元の持ち主の残した代物にしろ、野盗に
魔導師がいるのは間違いないだろうね」





奇しくもカルロスと同じ事を口にする





「ああもう 本当にメンドウな塔じゃな!





悔しげに扉を睨みつけるノール





「開かないものは仕方ないから、この扉は後回しで
まずはこの階に何か無いかを調べようか」


「下のカイはしらべなくてよいのか?」







言って階段を下り始めるルーデメラへの問いかけに
彼は 首だけを向けて笑う







「まずは近い階から調べるのが先だよ
それに、クリス君達が先に調べてる可能性もある」


「そうですね 僕たちもまず出来ることから
やっていきましょう」


「よし、行くぞものども!」





俄然やる気を取り戻し、ノールは階段を駆け下りる







「ノールちゃん 急いだら危ないですよー!









一階のフロアは、入り口から真っ直ぐ行った
通路の先に 地下と二階への階段が続いている





その通路の左右は大きな部屋となっていて


どちらも扉が一つずつ付いていた







手近な左の扉を 警戒しながら引くシュド


だが ガチ、と硬い手ごたえで引っかかる





「左はカギがかかっています」


「メンドウじゃ ルーデメラ、このトビラをこわしてしまえ!」


「自分でやれば?」





ばっさり言い捨てて右の扉を調べ始めるルーデメラ





「仕方ないですよ、僕たちは開錠呪文を知らないし
このトビラも強化されているかもしれませんから」







思わずチャクラムに手が伸びそうなノール
手で制して宥めながら やわらかく言うシュド







「残るは右の方だけど…」





そこで言葉を止め、ルーデメラが手招きをする









二人が 扉に近寄った時







扉の奥から、ワサワサ…と妙な物音が聞こえた











〜No'n Future A 第三十二話「少女と塔探索2」〜











「今、なにか変な音が聞こえませんでした?」


「まちがいない わらわにもワサワサって聞こえたぞ!」





口々に言うシュドとノールに頷くと





「この部屋に何かいるのかな…?」







少し考えて、ルーデメラは人差し指を立て
ニッコリと笑顔を浮かべて二人の顔を見る







「天使君と五歳児ちゃん ちょっと頼みがあるんだけどさ」


「まさか、入れというつもりではなかろうな?」





引き気味に警戒するノール





クリス君ならともかく君らにそこまで頼まないさ
ちょっと中を確認して欲しいだけだよ」









…何気に含まれた恐ろしい発言は







二人に石榴への同情心を沸き起こさせるに
十分すぎる威力を持っていた









「確認できたら、扉を閉めてくれていいから」


「わかりました やってみます」


後ろからつき飛ばすとかはナシじゃぞ?」







それぞれルーデメラに返事を返してから、





シュドは扉を隙間ほど開け ノールと共に恐る恐る中を覗く









やたらと広い部屋の中は 異様に暗かった







中の様子が全く分からないほどの黒







聞こえていた音が、一層大きさを増して
こちらに迫るような錯覚さえ起こす









二人は扉を閉めて顔を見合わせる







「どうだった?」


「中は暗くて…でも たくさんの気配を感じました」


「クラヤミの中で何かが動いてるように見えたぞ」





口々に告げられる報告に、ルーデメラは満足そうに頷いた





「予想通り…じゃあ二人とも、
僕が合図をしたら扉を開けてくれる?







二人が首を縦に振ったのを見届けて


口の中で呪文を唱えると、ルーデメラが足を
タン!と踏み鳴らした





二人は扉のノブに手をかけ、一気に開け放つ







「レイストフレア!」







声に呼応し、ルーデメラが向けた手の平から生まれ
巻き起こる炎の波が 部屋へと一直線に駆ける





炎の明かりに照らされて


室内が刹那、黒の正体を映し出す







「二人とも 早く扉を閉めて!」







ガサガサと大きな音を立てて、黒が部屋から外へ出る寸前





二人は勢いよく扉を閉めると その扉から離れ





直後―







ドムン!







炎が室内で弾け、人外の断末魔が響き渡った









扉の側で耳をそばだててから ややあってルーデメラは言った







「…さて、そろそろ入ろうか」











扉を開けると 室内は煤だらけになっていて







「わっ、むむむむむ虫じゃあっ!?


「ノールちゃん落ち着いてっ苦し…!」







辺りには部屋を覆っていた黒―やや大きめな
虫達の無数の死骸が山となって転がっていた





その死骸に驚いたノールに抱きつかれ





シュドは顔を赤くしたり青くしたりしてもがく







「やっぱり虫の群れだったか…さーて
隣の部屋のカギはどこだろ?」











平然と死骸を踏みつけながらルーデメラが
辺りを見回しているところ







「るっルーデメラさん、う 腕が!







聞こえたシュドの悲鳴に振り返る









たしかにそこには、虫たちの死骸から
突き出した一本の腕があった







近寄ったルーデメラが無造作に腕をひっぱると





虫の死骸山の中から コンガリ焦げた
ゴロツキが転がり出てくる







「う…ぐ……」


「あ、生きてる さすがに悪人はしぶといもんだねぇ」





呻くのも構わずルーデメラはゴロツキの服を
くまなく調べ始める







「な 何をやっておるのじゃイキナリ」


「虫の中にいたって事は、こいつが虫を
操ってたって事だと思うから…お、あった





首にぶら下げていた小さな皮袋から
銀色に光る鍵を取り出して





「いやーこいつが鍵持ってて助かったね、
あの虫の山に埋もれてたら探すの大変でしょ?







言ったルーデメラの言葉で





恐怖か感嘆かは分からぬ沈黙が訪れる









それを破ったのは、下から聞こえた声だった







「……テメェ、逃がすか!


「うわっ 何だテメ…!」







二つの大きな声の後、ゴガァン!





何か大きなものが爆発するような音が部屋を揺るがし







その後、ガラガラと崩れる音が少し聞こえた









「ナニゴトじゃ今の音は!?」





腕にすがりついているノールをそのままに
シュドが先程の声の主に気付く





「ルーデメラさん、今のって…」







ルーデメラも床に視線を落としたまま頷く







「この下にクリス君たちがいると見て間違いないよ
危ないから君達お子様は下がってて〜」


「お子さまとは何じゃ!」


「本当に危ないですから下がっていましょう」







ノールを押さえながら 部屋から一歩出た位置まで
シュドが下がる





ルーデメラは近くの壁に背を預けて呪文を唱え、





「メルティボム!」





床の真ん中目掛けて解き放つ







放たれた呪文は床下を爆破貫通し、破片は
ガラガラと階下に落下する







舞い上がる土煙が一通り収まってから





「なっなんだ!?また罠か!!?」





破壊された床の穴を通して、見上げている
石榴の姿が現れ ルーデメラは笑った







「思った通り そっちの守備はどう、クリス君?





ボコボコにぶちのめされた男の襟首を掴んだ
状態で 石榴が下から睨み返す





「今からこの七面倒な迷路の奥にある
スイッチとやらを押しに行くとこだバカヤロー!」










その後、現れたカルロスの説明によると







野盗の一味である男を苦労の末に捕まえて
ボコボコにして 扉の仕掛けについて白状させた所







地下一階の 迷路の奥の壁にあるスイッチ





一階の 左の部屋の壁にあるスイッチを押せば
ロックがはずれ、扉が開くらしい







だが、他の事を仕掛けを聞く前に男は失神したようだ









「ダメだよクリス君、そーいうのは生かさず殺さず
じわじわと吐き出させなきゃ」


「うるせぇよ こっちはこいつに散々
おちょくられててハラワタ煮えくり返ってんだ!







気絶している男を指し示しながら吼える石榴







「みなさん、そちらは大丈夫でしたか?」







下を見下ろしながら声をかけるシュドに





ビシ!とブイサインしながらシャムが返答する





ゼンゼンよゆうだニャ なんせオイラが
ダイカツヤクしたからニャ!」


「ふぅん なら五歳児ちゃんと泥棒猫君を
今からでもとりかえっこしない?」


「それはイヤだニャ!」





態度を急変させ、カルロスの影に隠れるシャム







「…ルーデメラ その発言はノールに失礼だ


「おっとそうだね、ゴメンゴメン」





咎めるような視線を受け、ノールに謝るルーデメラ







「じゃ、俺達はさっさとスイッチ押しに行くから
そっちは頼んだぞ


「わかってるよ 遅れたら置いてくからね」







告げて先へと進む石榴に ルーデメラはそう返した









ぐい、と袖を引っ張る感触に シュドが振り返る







「…どうしました?ノールちゃん」


「さ、わらわたちも早く次の部屋へ行こうぞ」







ノールに急かされる形で、二人は部屋を出て
鍵のかかっていた左の扉へ集う











「この部屋に、スイッチがあるんですね」


「クリス君たちの情報が正しければね」







鍵を開けて、扉を開けた瞬間





風切音が耳を裂き 三人は扉から横へと避ける







扉から真っ直ぐに飛来した物体が次々に
向こうの壁にぶち当たり 壁を焦がし煙を上げていた









「このニオイ…酸性の強い劇薬のものだね」





漂う煙を嗅ぎ、ルーデメラが冷静に呟く





「わらわにも薬品の入った大きい砲弾
三つほど飛んできたように見えたぞ」


「…五歳児ちゃん ちょっと部屋の中を確かめてくれる?」







頷き ノールが瞬時に部屋を覗いて中のざっとした様子を確かめる





むろん、その僅かに顔を見せた瞬間にも





物体が順を追って飛来し また壁に焦げ目を作る







「大丈夫ですか ノールちゃん」


「それで、どうだった?」


「中に三台並んで、投石器みたいなものが
セッチされていて そばにゴーレムが一体ずつおった」







たしかにノールの言うとおり





室内には 大柄な人ほどのゴーレムが三体いて







自分達と同じ位の大きさの投石器の後ろを陣取り、
意思の宿らぬ瞳で扉の辺りを見つめている







「さきほどの砲弾は ゴーレムが投石器を
あやつって発射したものでしょうか?」


「どうやら 部屋に入ろうとする者を
攻撃するよう命令されてるみたいだね」





シュドの言葉を肯定するように頷くルーデメラ





「思ったより、厄介な仕掛けだね…」







ふう、と息をついて 彼はたずねる







「天使君の使う防御呪文って 防御したまま
攻撃できるものはないかな?」







シュドは 悲しげに首を左右に振る







「防御呪文は相手の攻撃はふせげても、
こちらから攻撃や移動すると消えてしまうんです」


「参ったねぇ…僕は天使君の呪文を少しは
当てにしてたんだけどなぁ」


「ごめんなさい…」









沈むシュドといまだ悩むルーデメラを交互に見やり







「何を迷っておるのじゃ」







自信ありげに口を開いたのは ノール









「あのタイプは前に見覚えがあってのう
大小の歯車でうごくシカケじゃ」


「それは見聞きすれば誰だってわかるよ」


「ならば歯車を狂わせれば コウゲキは止まる」





彼女の物言いに 小バカにしたように笑うルーデメラ





「屋外ならともかく 攻撃の範囲が限定されてる
この状況であっちの攻撃を防ぎながらかい?









大型の投石器とゴーレムを破壊するには
生半可な呪文や攻撃では意味が無く







室内へ侵入しようにも 扉へ顔を覗かせた瞬間に
時間差で攻撃されるのでほぼ不可能







威力の高い呪文では 逆にスイッチそのもの
壊してしまう危険性もあり







先程の要領で壁の一部を破壊して侵入するとしても





そこから狙われるため、状況は変わらない







現在の三人では 突破するための力が不足しているのである









しかし、ルーデメラの言葉を意に介さず





「なら わらわの出番じゃな?」





手荷物から弓と矢を取り出すノール







「近づけぬのなら、遠くから射抜けばよいのじゃ」


「…それだけの腕があるならね」


「できるんですか?」





弓に矢をつがえて引き絞り、





「お主らはそこで見ているがよい!」







扉から瞬時に身を出してノールは矢を放つ







入れ替わりで放たれる砲弾を 身体を
引き戻して避け、次の矢をつがえる









その様子は まさに矢継ぎ早という言葉が相応しく







入り口という限定された空間に







砲弾の飛び交う間を縫って室内に矢の嵐が吹き荒れ







そしてついに、仕掛けの要である歯車を打ち貫いて
その動きを停止させた





「ざっとこんなもんじゃな」







二人が入り口から室内を覗くと





投石器の故障に気付かず 砲弾を発射させようと
空しく作動を続けるゴーレムがいるばかり









「すごいですノールちゃん!」


「ふふん、わらわは訓練をつんでおるゆえ当たり前じゃ」







シュドに賞賛され ノールは鼻高々







見直したよ五歳児ちゃん」





短く呪を紡ぎ、ルーデメラがゴーレムを一体ずつ破壊していった











ほどなくして 無事に仕掛けを沈黙させ
三人は室内に入り、スイッチを押す







ガコン、と派手な音が響き





遠くでガラガラと重い鎖のような音が聞こえる







「さて、これで二階に上がれるようになったね」


「石榴さん達も上に戻ってきてる頃でしょうか?」









階段へ行ったルーデメラ達は ちょうど上がってきた石榴たちと合流し







さあ!この調子で進むぞ!!」


「だから お前が仕切るなよ」







六人は阻んでいた扉の消えた二階への階段を上がった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:宣言通り、挽回としてこの一話を更新しました


ノール:まあ 内容はともかくとして、わらわが
カツヤクしていたから今回は多めに見てやろう


石榴:お前、何でそんな偉そうなんだよ


ノール:ふふん、わらわは


狐狗狸:(遮り)だからネタバレはダメだってばー!!


ルデ:最近 とみに某小説の影響受けすぎてない?
またアニメ始まったんだし自重しないと訴えられるよ?


シュド:あ、あのっルーデメラさん あまり
作者さんを責めないであげてください


カルロス:あまりその辺りをつつくと この話を
途中で打ち切りしかねんからな


シャム:それはすっごく困るニャ!


狐狗狸:……余計な気ぃ回さんでええわい!(半泣)


石榴:けどよ、ルデ お前地下に降りようと思わなかったんだな


ルデ:だって 下水に繋がってるし


狐狗狸:いやそれこのあとがきで判明した事実でしょ
本編内ではその時点だと 君はそれ知らないはずだし!


シャム:ルデメがイキナリ天井ぶちぬくから
オイラたちマジでおどろいたニャ


カルロス:今思えば、その時の天井の破片が
あの男の頭にいくつか当たっていた気が


シュド:そ そうなんですか!?


狐狗狸:ちょ、それ話の展開変わるから言わないで!




グダグダなまま あとがき終了(謝)


次回 塔を次々攻略していく六人、だが…!