三人が入り口をくぐってから、





「石榴たちが入って行ったぞ、わらわたちも…」


「ちょっと待ちなよ五歳児ちゃん」





急かすように進み出ようとするノールを
ルーデメラが手で押しとどめる







「さっきは仕掛けを破壊することないって言ったけど、
やっぱある程度は壊しとかないと進みにくいでしょ?」


「何をユウチョウなことを」


「ノールちゃん、ここはルーデメラさんに従いましょう」









シュドからも説得され ノールは渋々引き下がる





その様子を理解してルーデメラは笑い





「今のクリス君達の先行で、ある程度のアタリ
ついてるから そんなに時間はかけないさ」







短く呪文を唱えると、塔のある一点を指し示す







「ディヴォルト!」





彼の指先から生まれた電撃が虚空を走り、塔の石壁に
突き刺さり そこから火花が散る





次々と呪文を唱えて電撃を生み出し


ルーデメラは塔の壁に隠された仕掛けをあらかた
稲妻で焼くと、二人の方に振り返ってウィンクした







「…ま、大体こんなものかな?
あとは 天使君の呪文の効果に期待してるよ?」


「はい がんばります!」





勢いづいて答え、シュドも呪文詠唱を始める







ノールは黒い煙を上げる壁の仕掛けを
まじまじと見つめていた





「…すごいのう、お主ら」











〜No'n Future A 第三十一話「少女と塔探索1」〜











先に塔の中へ入った三人は、真っ直ぐ見える
階段を上がった扉の前で立ち往生していた







「取っ掛かりがねぇ上に押しても引いても
びくともしねぇ…何だこの扉は」





石榴が扉に蹴りを一つ入れるが、鈍い金属音
あたりに響いただけ









怪しげな文様の描かれた一枚板のような扉は
やたらと頑丈で、





三人がかりで押しても引いても反応はなく





更にはカルロスの剣石榴の銃も跳ね返し
欠ける様子もなく二階への通路を阻んでいた









「やっぱりこれはマジュツで強化されてる
シカケとびらと見てまちがいニャい」


「そのようだな…しかし」


「何か気になるのか、カルロス?」





カルロスは一つ頷いて、





「考えてもみろ、塔の壁にあった仕掛けといい
この扉といい…野盗達のねぐらとはいえ いささか
魔導を利用した仕掛けが多すぎはしないか?」





その言葉に シャムが納得したような顔で
カルロスに賛同する





「たしかにそうだニャ、こんニャシカケ
ただのヤトウが作れるわけニャい!」








石榴はあまりピンと来ていなかった様だが
話の筋は何となく理解していたようだ







「あー…要するに、奴らの中に魔導師かなんかが
いるってことでいいんだな?」


「仕掛け全てを用意したかまでは分からんが
そう考えた方がいいだろうな」





石榴は渋い顔で頭をガシガシと掻き毟る





「まったくこれだからファンタジーは…
とにかく、この扉を開ける仕掛けを探すぞ!」


「それもそうだな」







我先にと階段を降り始める石榴に続いて
カルロスも階下へと足を進める







「二人ともっオイラをおいてくニャ〜」









シャムも階段を駆け下り始めた時











地下の階段から顔を出した貧相な男と
三人の視線がかち合った








男は慌てたようにすぐ地下の階段を駆けて行く











「だだだダレだニャ今の!?


「恐らく野盗だとは思うが…」


「まっ…待ちやがれ!!







逃げる男を追って三人が降りた先には―









「なっ…なんじゃコリャ!?









三方にそれぞれ扉が一つずつついた
石壁と石畳で出来た狭い部屋に繋がっていた





壁は古く、あちこちが欠けており





何処かから微かに水の滴る音が聞こえてくる







「ニ゛ャ…このニオイは…下水だニャ〜!





室内に漂う悪臭にシャムが鼻を押さえて叫び
二人も思わず鼻を摘んだ





「とにかく 先程の男は間違いなくこの先の
どこかにいるはずだ…扉を開けよう」







石榴が階段から真正面の扉に立ち、カルロスが
右の シャムが左の扉に手をかける









三人が全ての扉を同時に開けると、そこには
また同じような造りの殺風景な部屋があり







その内の石榴の開けた扉から
一部屋か二部屋通した向こうに





貧相な男が驚いたように後退るのが見えた







「あっ、待てコラ!」





石榴が目の前の部屋に足を踏み入れた直後


何かの軋む微かな音が、シャムの耳に届く







「石榴!そっちはダメだニャ!!」


「えっ…うわっ!!?





部屋に入りかけて振り返った石榴の身体が
下へと落下してゆく







「「石榴!!」」







シャムとカルロスが両側から駆け寄って


落ちてゆく石榴の腕を掴んで踏みとどまり





すんでの所で 石榴は落下を免れた







「う…わっ…あぶねぇ…!」









どうやら、部屋の中に重量を感知すると
床が開く仕掛けのようだ





遥か下には毒々しい色合いをした大きい蛇の群れ
ウジャウジャととぐろを巻いている





その中にちらほらと、白い骨が垣間見えた







上半身を二人に引き上げてもらい そのあと
自力で石榴は部屋へと這い上がった









「悪い、ありがとな二人とも…ったく
やっかいな仕掛けだらけだなこの塔は」


「全くだ」


「ここのワナって、チュウイしニャいと
見つけにくいのばっかでタチ悪いニャ」





荒い息をつきながら ゆっくりと床が
閉じかける部屋の方へ三人が視線を向けると







貧相な男が今はニヤニヤしてこちらを見返していた





「落ちりゃよかったのによ バーカ







それだけ言って、男は右の方へ走って消えた











「…あんっの野郎!ぜってぇ一発ぶん殴る!!





握りこぶしを作り 石榴が吼える





「落ち着け石榴…とはいえ あの男には色々と
聞かねばならぬから、捕まえる必要はあるな


「ああ面倒くせ…って、何やってんだシャム?」









シャムはクンクンと鼻を鳴らし





「……やっぱり、こっちの方がニオイが強いニャ」


「何か臭うのか?」





カルロスの言葉に頷いて、階段の方から見て
右手側の扉の先を指差す







「さっきまではわからニャかったけど、
よく嗅ぐとこっちのが下水クサいニャ」


「それとあの野郎を捕まえるのとなんか関係あんのか?」





石榴の一言に彼はチッチ、と指を振る





「こーいうバアイ 下水に近い方にシカケがあるのが
ジョーシキだっておそわったニャ!」








恐らく仲間だった"盗賊ギルド"の一人に
教わった知識を披露したシャムに対し


「どんな常識だよ!?」





石榴は盛大に叫んでオレンジ色の頭を叩いた





「うわーんカルロス〜石榴がボウリョクふるうニャ〜!」


「シャムの言うことも一理あるぞ 石榴」





泣きついたシャムの頭を撫でながらカルロスがいさめる







「…下水近くに仕掛けがあってどんなメリットがあんだよ」







不機嫌そうに呟く石榴に 苦笑交じりで
カルロスは説明を始めた









「罠にかかれば、死ぬものや怪我をする者も出る…
いくつか罠が存在する複雑な場所の場合 死体の腐敗臭
血臭で罠の位置が露見してしまうこともある」





続きを シャムが引き継いで話す





「つまり、こーいうバショなら下水のニオイで
ほかのニオイをかくせた方がいいってことニャ!」









話の内容を自分なりに解釈して飲み込み
どうにか石榴は納得して 結論を出す







「ってことは…あの野郎が通るのは仕掛けが
少ない道ってことでいいんだな?」


「その可能性は、高いはずだ」







こくりと首を縦に振って辺りを軽く見回し





「とにかく どこにどんな仕掛けがあるかわからん
以上、三人一緒に行動するべきだ」





最後にまとめたカルロスの意見に、二人は頷いた







ワナだったらオイラにまかせるニャ!
めざすはヤツラのお宝ニャ〜!!」


「うっし、それじゃあの野郎をとっ捕まえるぞ!」







そして 石榴達は左側に見える部屋へと足を進めた













三人が足を踏み入れた地下は





最初の部屋こそ扉が閉まっていたものの


あとは全て開いた状態の全く同じ部屋が
連続して連なっている迷路になっていた







「目印がなきゃどこにいんのか
わかんなくなりそうなトコだな…」


「進む方角さえ見失わなければ大丈夫だ」


「ん これは…石榴、何かモノをあっちに
向かってなげるニャ」







三部屋目でシャムが
入ってきた進行方向上にある部屋を指差した







「何かって言われても…これでいいか」





ポケットを適当に探り、出てきた木の実を石榴が投げ


それが部屋の扉を通過しようとした刹那







扉の縁から大きな刃が落下し、木の実に直撃する





「げっ、なんじゃありゃ!?







刃はすぐさまキリキリと上がって縁の中に隠され





木の実は部屋の向こう側に キレイに
二つに割れた状態で転がっていた







「あの縁を越えたモノに反応するギロチンか…
中々えげつないな」


「でも、かからなきゃニャんてことないニャ!」









他にもいくつか扉の縁に隠された仕掛けはあったが







シャムの耳や鼻のよさや盗賊としてのスキルで
それらをうまく回避し 三人は先へと進んでゆく











そして、何部屋か進んで行くうちに







先程の男と一部屋挟んだ対面を果たす





「ちっ ここまで来るとはテメーら中々やるな」


「ちょこまか逃げてんじゃねぇ撃つぞコラ」







赫い眼に怒りを灯し、石榴が男に向けた銃口を
カルロスが右手で押しとどめる







「待て石榴、それはこの男を捕まえてからでも
遅くはないぞ」





男は引きつったように笑い





「オレを捕まえれるもんなら捕まえてみな!」





言うが早いが 球状の物をいくつか取り出し
間の一部屋に投げつけた


見る間に進行方向の室内に白い煙が立ち込める





「ちっ、目暗ましかよっ」







石榴が毒づく合間にも、男の足音と煙玉の
爆ぜる音が次々と重なってゆく







「シャム 進む方向は?」


「こっちのリョウホウはトビラのとこにワナが
あるから…このまま直進ニャ!







三人が駆け込むようにして同時に 煙の中に
踏み込んだ、その瞬間


床が 勢いよくグルグルと回転し始めた





「なっなああぁぁぁぁっ!?」


「ニ゛ャアァァァ目が回るゥゥ〜!!」


「……うっ







その速度に三人は立っていることさえ危うくなる









回転が収まると、まずふらふらと石榴が立ち上がった





「うぇ…気持ち悪い…」


「流石に、今のは少し堪えたな…」





右手で頭を抑え カルロスは膝を立てた状態で
目をつぶりジッとしている







「あ、アタマがまだグワングワンしてるニャ…」





立ち上がってなお倒れそうな足取りのシャムが







ある事に気付き 青い顔で呟いた









「やばいニャ…オイラたち、どっちに進んでたっけ?


「……げっ、マジかよ…!」





「ひゃははバーカ!その部屋の床は回転すんだよぉ!」







煙の向こう側から、嘲笑を含んだ男の言葉が響く







「呪文も使えないお前らじゃ避けて通れねぇだろ!
そのまま罠にかかってくたばっちまいな!」








笑い声と共に 軽い爆ぜた音がまた鳴って
辺りの煙はやたらと濃さを増してゆく









憎々しげに石榴は煙の向こう側を睨みつけるも





その身体はさっきの仕掛けの余波を
引きずっていて、軸が定まらずぶれている







「ちっ…きしょ、この気持ち悪さがおさまりゃ
こんな煙幕全部ぶっとばして


「無駄に力を使う必要はないぞ、石榴」












凛とした声で言い放ち カルロスが目を開く







立ち上がった彼は煙幕の立ち込める中
ある一方向を向き その先を指差して







「進む方向ならわかってる…こっちだ


「カルロス お前、進む方向がわかんのか!?」


「ああ 海での生活が長いせいか…確実とはいわぬが
どんな状態でも方位を見失ったことはない」


「さっすがカルロスニャ!!」







感心したように見つめる二人の肩を


カルロスがふっと微笑んで叩く





「だから方向は任せろ、罠の確認は頼んだぞ」









石榴が、隣りのシャムに目だけを向ける







「だってよシャム…俺が煙を吹き飛ばす間
四方の罠の有無、見抜けるか?


まかせるニャ!必ずオイラがワナを見抜く!」







同じようにシャムが返し、二人はニヤリと笑った











近づいてくる足音を察知し、男はが煙幕を立てつつ





回転床の仕掛けがある部屋を浮遊呪文で
超えて奥へと逃げてゆく…が、







撒かれる煙幕を石榴の銃で生まれる風が吹き飛ばし





わずかに晴れる視界の中、シャムが罠の有無を見極め





カルロスが正しい道順を示してくれる以上、
もはや彼らと男の距離は着実に狭まっていくだけだった








――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:どうせ一ヶ月遅れるから月一更新にしました
てゆうか六月に更新できなくてゴメンナサイ!


石榴:今更すぎんだよ 一発撃つぞコラ(銃装備)


ノール:全くじゃ!一月以上も待たせおって!(チャクラム装備)


狐狗狸:ゴメンって、今月は先月分の挽回の意味も
込めてあともう一話更新するつもりだから許して!


シュド:まあまあ、石榴さんもノールちゃんも
あんまり狐狗狸さんを責めないであげましょうよ


シャム:ニャんでトウの地下に下水があるニャ(鼻摘み)


狐狗狸:RPGとか映画のファンタジーもので
下水の近くに仕掛けがあること多いなって思ったから


カルロス:言われてみれば、よく見かけるな…


狐狗狸:あと下水ついでで汚い話になるけど、
ラノダムークじゃトイレは野外・汲み取り・簡易水洗が主流です


ルデ:もう少しネタを考えて話しなよ
君って空気読めないよね


石榴:お前が言うなお前が…けど確かに
普通はそーゆう汚ぇネタは書かねぇだろ


狐狗狸:でも下水の話でつい色々考えちゃったし
それにトイレは人の営みに必要でしょ?


シャム:それもそうだニャ〜


カルロス:…ウチの船は一応簡易水洗だが、
汲み取りや外へ落下させる様式の船もあるらしいぞ


ルデ:ちなみに魔導技術を利用した自動水洗式の
トイレはあるけど それは都市並の街の施設か
一部の城くらいにしかない高級品なんだよねぇ


石榴:そう考えるとファンタジーも不便だよな


狐狗狸:君の世界だと科学が進んで自動水洗式が
主流になっちゃってるもんねぇ


シュド:石榴さんって、実はスゴい世界に
住んでらっしゃったんですね(驚)


カルロス:いずれ遠い未来 自動水洗式
主流になる日が来るだろうか…?


シャム:そんな世界、オイラにはゼンゼン思いうかばないニャ


ノール:いずれと言わず今からでも
自動水洗式を主流にすればいいと思うぞ


シュド:……ノールちゃん、それはちょっと…


ルデ:無知は恐ろしいねぇ




食事談義に続いてトイレ談義で終わるあとがきで
もう、本当にスイマセン(平伏っ)


次回こそ、ノールが活躍します きっと!(←殴)