六人は森を抜け、イールの町の食堂で
腹ごしらえをしつつ情報収集を始めた







「ずいぶんと粗末な店じゃのう」





店内をぐるりと見渡し ノールは不満げに言う





「お前、来たばっかでそーいうことを
大声で言うんじゃねぇよ!」


「そうだよ五歳児ちゃん、見た目が悪くても
味がよければ許されるのさ」


「テメェも黙れ!」







一際大きい石榴の声で、店中の目が一斉に
六人の座るテーブルの方へと向く







「あ、あの…とりあえず 何か注文しませんか?」





いたたまれない空気を和ませるために、シュドが
テーブルにメニューを広げてみせる





オイラっこのシーフードパスタにするニャ!」


「シャム あまり身を乗り出すと椅子から落ちるぞ」





無邪気にメニューを指差すシャムをカルロスがたしなめ


それを皮切りにそれぞれが食べたいものを決めて
店員にメニューを注文した









「ずいぶんと変わった旅人達だねぇ〜
あんた等、どこか行く当てはあるのかぃ?」


「ん、ああ この先の塔に行くつもりだけど?」







料理を置いたおばちゃんに軽く相槌を打ちながら
石榴は旬のキノコソースハンバーグステーキに手を伸ばす







こりゃたまげた、あんた等 塔にいくのかぃ」





おばちゃんの言葉に触発されて、向かいのテーブルに
座っていた男がもらす





「あんた達 あの塔には近寄んねぇ方が良いぞ


「何故なのじゃ?」







シュリンプサラダを口に運ぶノールに
向かいの男はビールをちびちび飲みつつ続ける







「元々ゴロツキだの魔物だのが出入りしてたんだけどさ
最近 野盗連中がねぐらにしてるらしくてね」


「そいつら、最近この辺りで暴れまわってる
有名な一味だよな」


「やっぱり 竜鱗族の一味はキョウボウなんだニャ…」







別の男の言葉に、パスタを口に運びながら
シャムはポツリと呟く









構わず他のテーブルでもあちこちで 口々に意見が飛び交う





「何でも塔の中は怪しい仕掛けだらけらしくて
宝目当てに入って 生きて帰った奴はいないとか」


「ドラゴンを見たって奴もいるとか」



「おっかないねぇ…あんたらも危ないことはやめときなよ」





たしなめるようなおばちゃんの一言に


ノールは口にドレッシングを付けていることに
気づかず、自信ありげに言い放った





「ふふん、そんな者はただの噂じゃ!
今にわらわ達が宝を取り返して見せようぞ!







辺りが一瞬沈黙し…どっと笑い声があふれ出した







「頼もしいこというなぁお嬢ちゃん」


「期待してるぞー」


「バカにするでない無礼者ども!わらわは本気じゃ!」


「落ち着けよ、ってか口元のドレッシングふけよ」





ムキになって叫ぶノールに 石榴はナプキンを差し出す







店の客達はひとしきり笑ったあと、また別の話題を持ち出した





「それはそうとさ、例の姫様がまた家出したらしいよ」


「またかぁ よくやるよな〜本当」


「大臣や兵士達も半泣きで日夜捜索してるとか
本当、困った王女だよなぁ」


「例の姫様って?」





ラム肉の香草ソテーをつつきながら ルーデメラが聞く





この大陸を収める王国の姫でさ、おてんばで
有名なのよ〜お会いした事はないんだけどさ」


「そうなんですか どんなお方なのでしょうか…」





グリーンサラダを食べる手を止め、会ったことの無い
のイメージを頭に思い浮かべるシュド







…その時、彼女の動きが僅かに止まったことに


気づいたものは いなかった









「…ごちそうさま」


『早っ!』





運ばれた出来立ての料理をものの数分で平らげたカルロスに
店にいるほとんど全員の声が唱和した











〜No'n Future A 第三十話「少女と塔潜入」〜











塔のとある一室にて







「あの小娘が塔に向かってる、だと?」





食堂での六人の動向を聞いた手下の報告に
赤竜頭の男が吼える





「へい どうやらさっきの連中と一緒にこっちに来るそうです」


「あの連中とここへか…どういうことだ?」


「さぁ 何でも宝を取り返すとか言ってたでやんす」







男はしばし頭の中で考えを巡らせる









少しして とあることに思い当たり、手下にたずねた







「オイ、盗んだ宝の中に 例の指輪があったな」


「え、ああ、ありやしたね」


「もしかするとアレを取り返しにわざわざ
こっちに来るのかもしれねぇな…」







その言葉に 手下が目を見張る







「ってことは やっぱりアレは本物ってことですかね?」


「その可能性が高くはなったな、もっとも
あの小娘が本物であるかは依然わからんが…」





赤竜頭の男は 窓の外に広がる空に目を走らせると





「それならそれで こっちも好都合だ」







ニヤリ、と鋭い牙を見せて笑った















五人は意気揚々としたノールの後について





町の側にある高原にそびえる塔へと近づいていた









小高い丘に建てられたその塔は五〜六階建ての
ビルほどの高さがあり





四角く規則的な形ながらもかなりの大きさで


石造りの外壁に所々絡まるツタが長い年月を感じさせる







入り口らしき所には もはやドアは無く





覗く入り口は通路のようになっていて奥は闇に包まれている









塔の建つ丘の周囲には大小様々な岩がいくつか転がっていて
どこか近寄りがたい雰囲気をかもし出していた











…しかし、構わずズンズン進もうとするノール





さぁ!それではゆくぞものども!!」


「お前っ一人で先にずんずん進むなよ!







石榴に引き戻され、ノールは頬を膨らませて地団駄を踏む







「わらわは早くやつらから宝を取り返したいのじゃ!」


「ノールちゃん お気持ちはわかりますけど、
お一人で先に進むのは危ないですよ」


「そうニャそうニャ どんなワナがあるかもわからないし
タンドクコウドウはキケンだニャ!」





なだめる二人を横目で眺めつつ ルーデメラが問う





「辺りはどうかな 船長さん?」


「どうやら見張りなどが待ち構えてはいないようだが…」







カルロスは辺りの岩を睨み、気配の有無を確認する







「見張りがいニャいなんて、逆にあやしいニャ


「そうですね…とにかく皆さん 気をつけて行きましょう」







五人は頷き 入り口へと視線を固めて





六人は塔に少し歩みを進めるが







「思うんだけどさー別に行儀よく入り口から入らずに
上から潜入してもいいんじゃない?





ルーデメラの意外な提案に 五人はその場で
再び足を止めて顔を向けてしまう





「どうせ小悪党なんて、高い所に宝を置いて
悦に入るんだから 上の階から攻める方が楽だと思うよ?」


「なるほどのぅ、頭いいなお主!」







感心したように金色の目を煌かせるノールに
ルーデメラは僅かながら優越感を見せた







「上に無かったらどうすんだよ!!」


「いやでも、イガイとルデメのセツは的をイてるニャ
タカいタテモノは地下か上に宝があるって言うし」


「そうなんですか!?」


「知るかあぁ!これだからファンタジーはぁぁっ!」





石榴は世界の不条理さに頭を抱えて叫びだす





「それも一つの手だが…上に登る方法は?」







カルロスが聞くと ルーデメラはさして悩まず言う







「クリス君の銃でも僕や天使君が魔法を使ってもいいし
自力で登るのも 出来なくはないんじゃない?」


「あんニャカベ いくらオイラでもムリだニャ」


「いくら俺の銃がデタラメでも、そーいうことが
できるかは自信もてねぇぞ!?」


「すいません…僕の浮遊の呪文だとあの高さまで
飛んでいくのは、少々無理が…」


「それなら僕が何とかしてあげようか〜但し、高くつくよぉ?





ルーデメラの浮かべた悪魔の笑みに、四人は即座に
首を横に振りまくった







こうなると自然に上から行く案は却下されるようである









なんじゃなんじゃふがいない!あのていどの高さなぞ
どうということもないではないか!」





それが不満なのか いまだ不機嫌そうに、
ノールが塔に近づいて上階を仰ぎ見る











塔の上の壁の辺りから何かが輝いたことに


真っ先に気が付いて―





「あぶない!」





シュドがノールを横から突き飛ばし、自らの身体で庇う







無礼者!いきなり何を」


「ニャアアァァァッ!!」





怒鳴りつけようとノールが声を張り上げたと同時に
シャムが大きな悲鳴を上げた







六人の視線の先には 地面に突き刺さる一本の矢があった


ちょうど ノールが先程までいた辺りの空間









二人に駆け寄ろうとする石榴の頬をまた矢が掠め





それを合図に矢の雨が六人へと降り注いできた







「走れ!」







石榴の声が響き渡るよりも早く、全員は動き出している









「行きましょう ノールちゃん!」





すぐさま立ち上がり、続いて立ち上がろうとする
ノールの手をとってシュドも走った











矢の大半は逃げる際にかわされ





残る大半も命中する前に撃ち落されたり斬り落とされたり
或いは術により巻き起こった突風に吹き返される







「みんニャっここニャ〜!!」





いち早く逃げ出していたシャムがみんなを手招きし





六人はどうにか大きな岩の陰へと避難すると、
塔からの一斉射撃もピタリと止んだ











「ノールちゃん 大丈夫ですか?」


「…っ無礼者 気安くさわるでないわ」


「あっその…ごめんなさい…」







本気ですまなさそうに頭を下げるシュドに、
ノールは少し表情を和らげる







「まぁ、礼ぐらいは言うてやる 感謝する









二人の微笑ましいやり取りに興味を持たずに
いつの間にか出現させた自分の袋の中を漁りはじめるルーデメラ







残る三人は岩から少しだけ顔を出して塔を見やる









何だよこれ やっぱり待ち伏せされてたのか!?」


「しかし、それならば何故 今何も攻撃を仕掛けてこない」


「そういや…あれから何もしてこねぇな」





カルロスの言う通り、六人が岩へ非難したその後は
全く何も起こらないのだ







袋の中身を物色する手元から目を離さずに
ルーデメラも会話に参加する





「それに 待ち伏せであんなゴロツキども
こんな回りくどいことをやるかな?」


「だよなぁ…待ち伏せるつもりなら町からここに
来るまでや塔に入る前とか入り口でもいいわけだし」


「オイラ 見たニャ







そこで、塔の方を睨んでいたシャムが口を挟んだ







「にげてここからトウを見た時、カベからいくつか
へんニャしかけが出てたのを」





銀色がかった青い目がスゥ、と細くなる





「どのマドにも人のスガタないし、まちがいニャい」


「シャムお前 ハッキリ見えんのかあの距離が!?」







六人がいる今の位置からだと 最上階の窓は
小豆大くらいの大きさだ





この状況で人の有無を確認するのは難しいだろう







「オイラ猫獣族だから目はきくニャ…鳥獣族には負けるけど」


「ただのヘタレな猫もどきではなかったようじゃのう」


「ニャ ニャんて失礼ニャ!!





ノールの呟きにシャムが尻尾をピンと立てて膨らませる





「なるほど 見張りが要らないわけだ」


「どういうことですか、ルーデメラさん」







ようやく視線を上げて 自身ありげにルーデメラが語り始めた







「恐らく、壁に仕掛けられた装置に この塔へと近づいた
竜鱗族と側にいるモノ以外の奴は射殺せとでも
呪いをかけられてるんでしょ?」









呪い、の単語に反応し 石榴が顔をしかめる









「そんな都合のいい術があんのかよ」


「あくまで僕の推測だからね でも侵入者を射殺す
仕掛けは現にあるし、それに」


「仕掛けが動かないのは…ここが射程の外だからか」





彼の言葉にカルロスが続く





「そゆこと、船長さん飲みこみ早いね」


「な〜る…じゃあまず仕掛けを全部潰して」


「正確な場所も数もわからないのにかい?」







冷ややかな一言が石榴の提案をあっさり潰す







「それにもしゼンブつぶせても、トウの中にもワナがある
カノウセイは高いニャ」









シャムの言う事はもっともだ





怪しげな塔に、住み着いたゴロツキ達
周囲に見張りはまるでおらず 壁に仕込まれた矢の仕掛け


…これだけ揃えば 罠が無い方がおかしい







だが、このままじっとしているつもりも何か策を
考える時間も惜しい者が 約二名いた









「…じゃあどうするつもりなんだよ どうせ
塔には入んなきゃならねぇだろうがよ!」


そうじゃそうじゃ!
わらわは早く塔に入って宝を取り返したいのじゃ!!」







短気なお子様二人のブーイングを意に介さず
指を軽く左右に振り、







「別に行儀よく仕掛けを破壊することも
みんなで入って塔を探検することも無いだろう?」






ルーデメラは言い聞かせるようにこう言った





それぞれ分かれて塔に入ればいいのさ
ちょうど六人いるから、三人一組でね♪」











沈黙の後 戸惑いや反論の言葉を口にする者もいたが









「…現状では 他に策がないようだしな
案外こういう事は少人数の方がいいかもしれない」







カルロスのこの一言が決め手になり、





チームに分かれることが決定したようだ











「みんな納得したみたいだし 公平にグーパー
出したもので二組に分かれようか」







他人事のように楽しげに笑うルーデメラ







「俺こーいうのでのチーム決めでいい思い出ねぇんだよな…」


「おっオイラはカルロスと同じがいいニャ〜…!」







石榴には振り返りたくない苦い思い、シャムは不安
それぞれの胸中に渦巻いている









どうやらルールを知らないらしく





グーパーとはなんなのじゃ?」


「ええと、今からみんなで合図をした時に
握りこぶし開いた手のひらを出してください」





グーパーについて聞かれ、シュドは彼女に教えていた









二組へのチーム分けグーパーは幸か不幸か
一度だけで済んだ











「よかった〜カルロスと同じだニャ!


「…ルデの奴と別れられただけマシか」







石榴とシャムとカルロスの三人チームと







「意外とバランスよく分かれたねぇ」


「ま、そこそこ頼りがいがありそうじゃな」







ルデとシュドとノールの三人チームだ











チームわけも一段落し、改めて石榴が問う







「で、どっちが先に進むんだよ」


クリス君達に決まってるでしょ?」





間髪いれずに返ってきた答えに石榴は口をあんぐりと開ける





「先陣戦闘型が二人もいるし、大人もいるし
まず物見は君の役目でしょー?」



「…テメェと組まなくてもこうなるのかよっ」







苛立たしげに吐き捨てながらも諦めの色が混じっているのは





この男に反論が通じないことを彼自身が今までの旅で
よくわかっているからだ











「…うっし、いくぞ!」


「おうだニャ!」


「ああ」







やけ気味に気合を入れて駆け出す石榴にシャムと
カルロスもついて走り出してゆく








塔のある範囲に近づくとまた矢の雨が襲来するも







斬り払い、撃ち落とし 上手くかわしながら
三人は入り口へと入っていった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:今回も遅くなりましたが塔に潜入したので
次回はバトルが増えるんじゃないかと思います


石榴:ほんっと、このオリジ話一話に平気で
一ヶ月とかかけてていいのかよ


ルデ:先はまだ無駄に長いのに、さらに
長くするつもり?


狐狗狸:ひっ、ひどいや無駄に長いとか幾つで
終わらすんだとかネバーエン○ィングス○ーリーとk


石榴:(遮り)誰もんなこと言ってねぇよ


シャム:それよりカルロスは何食べてたんだニャ
あっというまだったから しっかり見てニャいんだ


狐狗狸:船長はー…そだな、軽くポークリブのセットに
温野菜の煮込みシチューをつけてた


石榴:どこが軽いんだよ


狐狗狸:少なくともルデの甘い物食いまくりよりは


カルロス:…ルーニヴル・アウトで買っていた量は
確かにただ事ではなかったな


ルデ:旅の金銭管理は船長さんが責任持ってるんだし
はみ出た分は自腹切ってんだから いいでしょ別に


シュド:そうなんですか、僕 初めて聞きました!


石榴:俺も初耳だぞっ さらっと重大なことを
こんな所で言うな作者ぁ!



狐狗狸:ちなみにノールもシュドも何気にセットを
食べてます(値段はノールのが高いけど)


シャム:あっさりムシしてるニャ


ノール:あの食堂、ルーデメラの言う通り
見た目はボロくとも味はそれなりに満足したのじゃ


シュド:のっノールちゃん、あまりそう言う事は…




食事談義で終わるあとがきって…


次回 先へ入った石榴達に迫る罠…!?