色々あったものの一行はカルロスの船に乗り、
パープラ大陸から海を越えてアダマス大陸へと辿り着いた







港町から少し離れた 森に繋がる入り江に船を止め





五人は上陸して、近くの町へと歩き始める









「船にはじめてノったけど アンガイゆれるんだニャ…」


「大丈夫ですかシャム君?君もお薬飲みます?」







ふらふらとよろけながらも歩くシャムを気遣う
シュドの顔色も青く カルロスが二人の背を無言でさする







二人ともだらしないなぁ、乗る前はあんなに
楽しそうだったのに」





そう言うルーデメラも少し足元が頼りない





「船室から一歩も出なかったくせに偉そうに」







足取りがしっかりしているのは、どうやら
石榴とカルロスの二人だけのようだ









「カルロスは船長だからわかるけど…ニャんで
石榴は平気ニャんだ〜 うう」


「あの…本当に船に乗られた回数少ないんですか?」


「おう、初めにカルロスに会った時とこれとで
二回くらいしか乗ってねぇよ」







ため息混じりに返す石榴だが、二人は
信じられないと言う表情で見つめ返す





その雰囲気に気づいたルーデメラも率先して茶化す







「クリス君も人が悪いよね、本当は
元の世界で船に慣れてるんでしょ?」


「あのな、何度も言うけど俺はここに来るまで
船に乗ったことなんか一回もねぇんだよ!」









彼の言うことは真実である







生まれた場所も内陸で、両親の仕事の都合もあり
元の世界では一度も海に訪れたことすらない









しかし、揺れる船でバランスを崩すことはあっても





石榴が船酔いすることは全くなかった







三人が疑いの眼で見るのも無理からぬことである











「何度か乗れば皆もそのうち慣れてくるはずだ
それまでの辛抱だと思ってくれ」







ため息混じりにカルロスが間をとりなす











「何じゃ何じゃお主らは!!」





鋭い声が空気を裂いて横手から飛んできた







少し向こうの木々の間から、唐突に人の気配と
ざわめきが生まれる







五人が少し身を伏せて戦闘体勢を整えつつ





声のした方に視線を向ける









お嬢ちゃん、悪いことは言わねぇからよ
黙ってオレ達についてこいや」









見えたのは柄の悪いチンピラたちに囲まれる
紫色でウェーブがかった髪の少女





チンピラたちや少女は五人に気づいておらず
単に野盗が女の子を襲おうとしているように見える







しかし、先程から漂う少女に対する彼らの態度





話しかける男の姿がそうでないことを示している









周囲の者よりもふた周りほど大きな身体中に深紅の鱗をまとい
首から上の頭は、正に竜そのものだった







よく見れば隣にいる男も、色は緑だが同じような姿だ











〜No'n Future A 第二十九話 「少女と宝探し」〜











「…もう驚かねぇと思ってたけどよ、あの頭は反則だろ
何だアレ 新手の魔物かよ!!」


「落ち着け、アレは竜鱗族(ドラグ)と言って亜人種の一つだ」







叫び声をあげそうになる石榴に、カルロスが
指を口に当てながらささやく







「見たままの竜人で竜の魔力と力を持ってるくせに
単細胞ばっかりだから 皆に嫌われてるのさ」


「でも竜鱗族はもっと北に生息してるはずなのに
どうしてこんな場所に…?」





呟く二人に石榴が立ち上がって少女に近づこうとするのを
シャムが掴みかかって止める





「何してるニャ石榴!」


「決まってんだろ、何にせよ助けにだよ」


ダメニャ!あいつらこっちに気づいてないし
逃げようニャ〜竜鱗族は怒らすとコワいんだニャ…」







涙目で震えながらシャムが訴える中









少女と男たちの話し合いは激化する







「誰がお主等薄汚い盗人なぞの言う通りにするか!」


「そうか…仕方ねぇな、じゃあここで死んじまえよ!







赤竜男が取り巻きの男と他のチンピラたちを
少女へとけしかけた











「石榴さん!女の子が!!」





叫んでシュドは 呪文を唱えながら駆け出す







「さすがにあーいう状況は普通ほっとけねぇな…
リオスク アーク!





魔術銃を具現化し、石榴もシャムの手を
振り払って駆けていく







「二人は危ないからそこにいろ」


「ええっ、ま 待ってニャカルロス〜





二人に続くカルロスを追ってシャムも渋々走る









「一応僕も行っておくか…気持ち悪いのに全く…」







ぶつぶつ言いながらルーデメラも重い腰を上げた















少女も何かを投げ、応戦してはいるが





襲いかかる男たちの数は圧倒的に多く


いずれ少女が参るのは目に見えるようだ







「があぁ!」





赤竜男が口から吐いた炎が少女を焼き尽くさんと宙を翔る





咄嗟に右へと大きく跳んだ少女を狙うように
緑竜男があんぐりと口を開け







「ホワイティガーディアル!」





少女を背にしたシュドが呪文を発動させ
目の前に吐き出された炎を防いだ


次の瞬間





「おるああぁぁぁぁぁぁ!!」







駆けながらも石榴が放った弾丸の一斉掃射
少女へと襲い掛かる竜男たちとチンピラを片付けた





「ぎゃああああぁぁぁっ…!」


「ぶるあぁっ!!」







次々に倒れ付す男たちを尻目に、石榴が
シュドと少女の方を見る









「そっちは大丈夫か?」


「はい、ありがとうございます石榴さ…危ない!







振り向いた石榴の目に映るのは、一斉掃射から
早々と復活した赤竜男のカギ爪だった





咄嗟に魔術銃で受けるが





続く猛攻をかわしきれず腕に赤い爪傷を刻んでいく







「ぐっ…!」


「その獲物も撃てなきゃおしまいだなガキィ!」







赤竜男が石榴をせせら笑いながら 口を開いて
炎を吐かんと息を吸い込んだ









喉の奥に見えた炎が吹き付ける前に





カルロスが赤竜男の背を斬りつけたため、男は
地面へと倒れこんでいた







「背後からの不意打ちは卑怯だが…もとはそっちが
先だから、お互い様だな」


「いや 助かったぜカルロス…ってあれ、シャムは?」


「ニ゛ャー!助けてニャ〜!!」









木綿を裂くようなシャムの悲鳴は石榴たちのすぐ側で聞こえた









泣き喚きながら逃げようとするシャムがっちり抱え込み





緑竜男が首にカギ爪を構えていた







「へへ…こいつはテメェらの仲間だろ?
斬り殺さるか焼き殺されたくなきゃ大人しくしやがれ!」


だあぁもう次から次へと!
これだからファンタジーは嫌いなんだよ!!」


「貴様、その子供から手を離さんか!!」





男の恫喝に屈することなく…むしろ怒りを増長させて


石榴とカルロスが同時に男に攻撃を仕掛けようとする







うるせぇ!お前ら動くんじゃねぇ!!」





苛立ったように緑竜男がシャムの首に
カギ爪を食い込ませようとした







しかし、





「痛ぁっ!」





飛んできた何かに弾かれ 反射的に男が手を引っ込める


カルロスが瞬時に地を蹴り、石榴も引き金に指をかけた





慌てて男が口を開けて炎を吐こうとして







「メルティボム!」







こっそり男の背後に移動してた
ルーデメラの爆砕呪文が炸裂した











「全く…船降りてばっかりで気持ち悪いのに
騒がしいんだよ、死んでくんない?





コゲて倒れる男の背を思い切り踏んづけて


不機嫌そうにルーデメラがにらみつける







「ルデメまじコワいニャ…」









シャムは懲りずに倒れたチンピラたちに近づくが





ほどなく何人か気づいたのを見て取ると慌てて逃げる











『お、覚えてやがれクソガキどもーー!!』







ザ・定番な捨て台詞を吐いて男たちは倒れた
竜男や仲間を担いで逃げていった













「誰が覚えるかっつーの アホか」







ケッ、と忌々しげに睨む石榴の傷をシュドが治す









カルロスがシャムの持っている皮袋に気づく





「ん?シャム 何だそれは?」


「どうせだからやつらのサイフ盗んだんだニャ
これで今夜は宿のシンパイなしニャ!







どうやら先程の人質騒ぎや近寄った時にスり取ったらしい







「さっすが泥棒猫君、手が早いね〜」


「あんニャ目に合わされて手ぶらでいたらオイラの面目
丸つぶれだニャ!…さてさて どれだけあるかニャ〜」







泥棒呼ばわりされたことにもかまわず、早速
金額を調べ始めるシャム









「石榴さん、治りましたよ」


「おう サンキュ…さてと」







怪我の治り具合を確かめた後、二人は少女に向き直る







「で、大丈夫か?」


「ずいぶん怖い思いされたみたいですが…
お怪我はありませんか?」







今まで俯いたまま何もしゃべらずにいた少女が
すい、と顔を上げた





金色の眼が、シュドと石榴を交互に睨みつける







「無礼者ども!助けてもらわなくとも、あれ位の者どもなぞ
わらわ一人で倒せたわ!」



「「は?」」







予想外の台詞に固まる二人に構うことなく
少女の口から文句が出てくる







「現に先程もお主等の仲間を助けたのはわらわじゃ」









少女の手にはチャクラムが携えられていた







どうやら彼女の放ったそれが男の手を弾き
攻撃の隙を作ったらしい


はじめに応戦していた際、投げていたのも
このチャクラムだろう









「余計な手助けをしおって」







不服そうに言う少女の言葉で、ようやく我に帰った
石榴が見る見るうちに怒りをあらわにする







んだとぉ!こっちはお前が困ってるみたいだから
助けに行っただけなのになんつー言い草だコラァ!」


「頼んでおらん まぁしかし、助けてもらったから
礼を言っておく…ご苦労だったな」


「なっ えらそうにこのガキ」


「まあまあ石榴さん 落ち着いて」





まなじりを吊り上げる石榴をなだめるシュド





「で、君は何をしていたのかな?お嬢ちゃん?」


「見てわからんのか、旅をしているに決まっておろう!」







からかい混じりのルーデメラにキッパリと少女は答える







「わらわはトレジャーハントをしながら
一人で旅をしているのじゃ」


「女の子が一人旅だなんて、危険ですよ」


「何を言うか、お主のようなわらわよりも
か弱そうな女子でさえも旅をしておるのじゃぞ?」









言い切った少女に、シャムとルーデメラは
思わず笑いをこらえる







シュドは困った顔でおずおず呟く









「あの 僕は男なんですけど…」


「何じゃ紛らわしい!」





ついに二人がこらえ切れずに腹を抱えて笑い出した





「お前ら笑うな!特にルデ!!


「おや、女の子に口でも勝てないからって
僕に八つ当たり〜クリス君?」


「違わい!」







ムキになる石榴とからかうルーデメラとで
口ゲンカが始まる一方で







「シャム、人の容姿を笑うのは礼儀に反することだ」


「う、ごごめんニャさい…」





カルロスに叱られ、耳と頭を項垂れさせるシャム









気を取り直したシュドが 少女に言い聞かせる







「とにかく、一人だとさっきみたいに危険に
さらされることもあるんですよ?」


「なんじゃ お主もわらわの力を信用しておらぬのか!」


違います!女の子一人だと危険な目に会いやすいから
もう少し考えて欲しいんです!!」





シュドの真摯な様子に、少女は目を見開く







そして少し考え込むようにあごに手を当てて唸る





「そうか、そこまで言うならお主ら
わらわのトレジャーハントに付き合ってみるか?」


「え!?」







放たれた言葉に場の空気が固まったが





少女はまったく気づかずに要件を続ける







「ここから先の塔に さっきのようなやつらが
人からうばった宝を溜めこんでいるとのことでな
わらわは今からそれをうばいにいくんじゃ!」


「お宝!?」





の一言に反応し、シャムが目を輝かせる





「女一人じゃ危険だと言うのなら、一緒についてまいれ!







言い切って、少女はそれきり口を閉ざした











「あ、あの 皆さん…どうします?」







シュドが困惑気味にと四人に振り返る







「俺はあんな生意気なガキについてくのは嫌だぞ」


「僕はクリス君と同意見だね、子供のお守りって
大っ嫌いなんだよね 騒がしいし」


「俺はそこまで言ってねぇよ」





笑顔でさらっとアレなことを言うルーデメラに
裏手ツッコミをいれる石榴







「竜鱗族に会うのはイヤだけど〜お宝は
ミリョクテキだニャ〜!」


「私としては実力があろうとも 少女一人が
宝探しに行くのは賛成できない」





怖いくせにお宝に目がくらんでるシャムとは
対照的に保護者のごとく少女を心配するカルロス









ちょうど反対派と賛成派とで二つに分かれている











「どうやら…天使君 君がどっちにつくかで
決まるみたいだよ?」







彼の言うことはもっともである





多数決で決まってしまえば 反対する者がいたとしても
共に旅する以上逆らうことはできないのだ





逆らってしまえば旅仲間の瓦解を意味する









「ええと…僕は……」







シュドは四人の顔をそれぞれ見つめ、少女の顔を見つめ





しばらく目をつぶって考え込んだ







そして 再び四人に目を向けて答える









「僕は あの子について行くべきだと思います」







漏れたため息は、誰のものだったろうか





石榴とルーデメラは苦笑に近いような笑みを浮かべていた







「決まり、だな…俺は緑簾 石榴っつーんだ
足手まといになんじゃねぇぞ?」


「まー天使君の意見を無下に断るわけに行かないしね
僕はルーデメラ=シートルーグイ 名前位は
聞き覚えあるよね?」







言いながら 少女に進み出て自己紹介を始める







「オイラはシャム=バステトだニャ
お宝見っけたら多めによこして欲しいニャ〜!」


「こらこらシャム…カルロス=スキルニルだ」







意気揚々と少女の前に飛び出してねだるシャムを
たしなめつつ、カルロスが出来るだけ柔らかく微笑む







「わかった 覚えておいてやろう」







腕を組みつつ、傲岸不遜に少女は頷く





何かを言おうとする石榴を押しとどめ







「僕の名前はシュド=エンブラといいます
これからの旅 よろしくお願いしますね?」









優しい微笑を浮かべて頭を下げるシュドに
少女は少し戸惑いを覚えた







「う、うむ、わらわの名はノーリ…」





そこで慌てて口を押さえ、少女は言い直す





ノール、ノール=アスクじゃ よろしく頼むぞ皆の者」








―――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ノールちゃんようやく出場させて
あげられた〜!長く待たせてゴメンね!!


ノール:全く、待ちくたびれたぞ(ふんぞり)


石榴:オィ 何だよあの豪華な赤い椅子は!


シュド:ノールちゃんが座るから持ってきて
狐狗狸さんに頼まれて、カルロスさんと運んだんです


カルロス:しかし、急になんなのだろうな


ルデ:それはね、今の所唯一のヒロイン候補だから
丁重に扱ってるんだよきっと


ノール:喉が渇いたのぅ…飲むものを持ってまいれ!


狐狗狸:はいただいま〜シャム君、ひとっ走りお願い!
(お金を渡しながら)


シャム:ええ〜!オイラさっきおかし買ってきた
ばかりニャのに……(文句を言いつつ退室)


ノール:シュドにカルロス!こっちへ来て
退屈しのぎに面白い話をしろ!!


シュド:えっ、は はい!(駆け寄る)


カルロス:……む(同上)


石榴:いいのかよ作者とノール、ここで
こんなことしてて(ため息混じりに見やる)


ルデ:これじゃ次の話のネタバレしてるような
ものだよねぇ…二人とも本当バカだよね〜




色々な意味深発言の謎は次回以降明らかに!(コラ)


次回、五人はノールと共に 宝の眠る塔に踏み入る