「滅べ この雑魚悪魔が!」







気合の入った叫びと共に短刀を脳天に突き立てると


断末魔の叫びを上げて 悪魔はチリと化して消えた







「ちっ…この土地にはしけた奴しかいやがらねぇ
もっと手強い奴ぁいねぇのかよ」







地面に転がる短刀を拾い上げ、舌打ちを一つ









ルチルは僧侶としての力を持っていながら、





自らの力を無闇に魔物に振るい 高額の祓い料を
吹っかけて悪魔祓いを行使したり





或いは逆に呪いや悪魔を使役する破戒僧だった









「さてと、邪魔モンもいなくなったし
ルーデメラの野郎の位置を確認しとっか」







ルチルは辺りを伺うと地図を取り出して広げ、





首飾りを右手で外して地図の上に掲げると
短く呪を唱えた









淡い輝きが首飾りを包み グルグルと回転を始め







右手を移動させてルチルは首飾りの反応を確かめる









やがて、一つの大陸で回転は激しくなり
その大陸のとある部分に小さな光が炎のように灯る











「どうやら…今はパープラ大陸にいるらしいなあの野郎
今度こそ、ぶっ殺しに行ってやる!







呟くと 地図をしまい、首飾りをかけなおす











彼は兄であるルーデメラを殺すため
修行と発見を兼ねて世界を回っているのだが





いまだにルーデメラに逢いまみえたことはない









それは…本人に自覚はないが









「悪運の強いテメェでも そういつもいつも
逃げ切れると思うなよ…パープラはこっちか







反対方向を自信満々に進む 極度の方向音痴と、









「邪魔だこの岩ぁ!」







目に付いた邪魔なモノを破壊していく行動が
彼が来る狼煙となって兄を遠ざけるからに他ならない











〜No'n Future A 第二十八話 「二つの凶星」〜











ガラガラと音を立てて崩れ去った元・岩を見下して





「ったく、たかがデカイだけの岩の分際で
オレの進路を邪魔しやがって…!」







ルチルは息巻いて悪態を一つつく









「自らの力を誇示したいか?」







いつからいたのか、音もなく一人の男が佇んでいた





全身をフードですっぽり包み 顔は下半分が
辛うじて見える







「誰だテメェは」









殺気のこもった蒼い目で射すくめられても
男は表情を変えず、同じ言葉を繰り返す







「自らの力を誇示したいか?」


「おっさん、テメェ人間じゃねぇだろ







ルチルの指摘に 男は口の端を持ち上げた







「…ほう よく分かったな」


「オレをそこらの破戒僧と一緒にすんなよ
滅びる前に少しは楽しませろよ?」







抜き身の短刀を構え 素早く呪文を唱えるルチル





男はうろたえる様子もなく、静かに口を開く







「こちらの話も聞いてからでも 遅くはないだろう」









少し考えて ルチルは唱えかけた呪文を中断する









「お前は兄を殺すため旅をしているが
いまだ逢えず放浪を続けているのだろう?」


「あの腐れ緑頭が逃げ足早ぇだけだ!
ケンカうってんのかネクラ野郎」


「何 お前に我が軍勢を貸してやろうと思うてな」









悠然と言いながら、男が片手を持ち上げる







すると 男の背後から滲み出るように多数の闇が生まれ
それは見る間に魔物の形を現した









「この軍勢達はお前を導き お前の命令にのみ従う
お前の兄と、共にいる異界の男の命を奪ってもらいたい







ルチルは男と魔物達を しばし値踏みするように
交互に見やり、頭の中で損得計算を始める







男の策に乗るか 否か









「…それも面白そうだな やってやるよ」







どうやら、今回は乗ることにしたようだ









(オレにとって損はねぇし、あの野郎以外は
雑魚どもに任せときゃいい)















そして、ルチルは魔物達の軍勢を引き連れて
五人の前に現れたのだ









「覚悟しやがれルーデメラ ここがテメェの死に場所だ!」


「魔物と手を組むなんて卑怯な手を使うとは
さすがは破戒僧だね ルチル」







その皮肉に、ルチルの顔色がまともに変わる







卑怯だとぉ?テメーだって怪しげな薬品や
道具を散々使ってんじゃねぇか!!」





ルーデメラは肩をすくめて鼻で笑った





負け犬の遠吠えは見苦しいね」


「誰が負け犬だくそだらぁ!!」







ブチブチと血管が千切れる音がするぐらいの形相で





背後の魔物に振り仰ぎざま、ルーデメラを指差して
ルチルは高らかに叫ぶ







「テメェらっ、皆殺しでいくぞ!









叫びに負けない雄たけびを上げ 魔物達が襲いかかってくる









「お前マジで人の神経逆なでするような
ことしか言わねぇのな!!」


「仕方ないだろう、あいつ死ぬほど嫌いだし」


「仕方なくないニャールデメのバカーー!!」







シャムがそう叫ぶ間にも、魔物達は迫り来る







「とにかく 今は戦うしかないみたいですね
僕としては残念なんですけど…」


「そのようだな、行くぞ皆の者!」







カルロスが先陣を切って魔物達へ突撃し







「ちっ…起こっちまった事は仕方ねぇか
"リオスク アーク"っ!」









敵味方が入り乱れての乱戦が ここに始まった













「遅いっ!!」







シュドに速度を上げる術をかけてもらった石榴が
駆け抜けざまに 次々と弾丸を放つ









やーいノロマ〜オイラはここニャ〜」


『待てええェェェ!!』







囮となったシャムが魔物を多く引きつけ、





横手から一気にカルロスが斬り倒し 一網打尽にする







「さっすがカルロスだニャ〜」






感心するシャムの背後に、地面から何者かが飛び出し
大きなカギ爪を振りかざす





すかさず駆け寄ったシュドが術を展開する







「ホワイティガーディアル!」





半円状の光がカギ爪を弾いた次の瞬間





「"爆ぜろ"!」







脳天に石榴の弾丸が直撃し、たまらず魔物は地に倒れ伏す







「間に合ってよかったです 大丈夫ですかシャム君」


「平気だニャ〜ありがとニャ二人とも」


「ったく、敵が多いんだから油断すんな?」







忠告をする石榴に、上空に舞い上がった魔物が





狙いをつけて急降下してきた







辛うじて気付くものの石榴の動作は遅く 反撃に間に合わない









あと数秒で衝突するその位置で魔物はニヤリと笑みを浮かべ







跳躍したカルロスに中空で斬り落とされた





「お前も人のことは言えんぞ 石榴」


「おー悪ぃなカルロス」









四人が見事な連携プレーを見せれたのも、束の間だった











「地に潜む稲妻よ 我が意のままに駆けろっ!」







ルチルが突き立てた短刀から地響きが縦横無尽に走り、





吹き出た衝撃波が 敵味方関係なしに襲い掛かる







「う、うわあああっ!?


『貴様、やるのはアイツラだ…グアァッ!!







石榴が足を踏み外して落下しかけ 巻き添え
地割れに魔物が数匹成す術もなく落下してゆく、







構うことなく衝撃波を連発させるルチル











その一方で





「メルティボム!」







ルーデメラの放つ爆砕呪文が辺りに散らばり
魔物達をぶちのめし







「ニ゛ャアアァァァ!!」





爆風にシャムも巻き込まれた













気がつけば、魔物達は一匹残らず全滅







シャムとカルロスも巻き添えを食って倒れ





辺りはすっかり地獄絵図のようになっていた









おいルデ!争うのやめろ!!
このままじゃこの土地が危ねぇよ!!!」







必死に石榴が叫ぶが その声は全く届かない







「クソ兄貴!テメェだけは絶対ぇぶち殺す!!」


「それはこっちのセリフさ 今度こそ
お前の存在を止めてやるよ!!」








もはやルーデメラとルチルは互いの味方そっちのけ
殺し合いを始めている









「どうしましょう石榴さん…!」







二人を止めたいのは山々なのだが、流石のシュドも
あの乱闘の間に割って入るのは恐ろしいらしい







「あの二人を何とかして止めねぇとやばいな
なぁ、確か動きを止める術を知ってたよな?」


「ええ…でも、アレは一人にしかかけられないので
どちらかを止めても……」


「残りのどっちかが、を見るよな」







ルーデメラにしろルチルにしろ、どちらかの動きを
止めさせた所で攻撃をやめる性格ではなさそうだ





むしろ、相手にトドメを刺してから


止めさせた者を血祭りにあげるだろう
……少なくとも ルーデメラは







「いっそ二人同時にかけられねぇかな…」





そう呟き、石榴はあるものに目を留めた









そばの地面に大きく穿たれた地割れ、その所々に
枝分かれした裂け目







途端 彼の頭にあるイメージが巡り出す









「飲み込む…増える…分裂…」


「あの、石榴さん?」







地割れを見つめて考え込む石榴を心配して
顔を覗き込むシュド









やがて考えがまとまったらしく、







「シュド 上手くいくかわからないけど
試したいことがある、協力してくれるか?」







二人に聞こえないよう用心しながら 石榴は
シュドに浮かんだ案を耳打ちした











「…わかりました!」









コクリと頷き、シュドは呪文を唱えて
いまだ争う兄弟に向けて手のひらを伸ばした







「フィクスホルダル!」







術が発動し 淡い光の粒子が二人に向かい始める





同時に石榴は銃の引き金を引いた









発射された光の弾丸が 先を行く淡い光の粒子を
包み込み、その輝きを増した







「すごい…上手く術を飲み込みましたよ石榴さん!」


「安心すんのはまだ早ぇ、肝心なのはこっからだ」







やや興奮するシュドを抑えながら、石榴は
弾丸をじっと睨みつける











弾丸は真っ直ぐ ルーデメラとルチルへと向かう







それに気付いた二人は難なく光球を避けた





不意討ちのつもりかいクリス君!」


「こんな遅いもん誰が当たるかボケ赫目がぁ!」





自分達を通り過ぎていく光球を見送り、
勝ち誇ったように笑う二人









しかし 石榴の目は死んでいなかった











光球が、その場で数秒止まると







「今だっ "割れろ"!







声に反応して光の弾丸が小さく そして無数に分裂した





「「!!?」」





驚き 目を見張るルーデメラとルチル







慌てて身をかわすが避けきれるはずもなく
弾丸の幾つかを受けてしまい 二人は身体を硬直させた







ボロボロの地面に、





悔しそうな顔をしたルーデメラとルチルが
仰向けの格好で転がる









今にも恨み言を言いそうなその表情に恐怖したのか





もしくは二人に術をかけた罪悪感からか
シュドが固まる二人に謝り始める







「ごっ…ごめんなさい二人とも本当にごめんなさい!」


「シュド そんなことやってる場合じゃねーよ
今のうちにカルロスとシャムを回復させよう」







腕を引いて石榴がシュドを促した













二人は回復させたカルロスとシャムに手短に事情を話し









「…分かった」


「まっ まだジュツはきいてるみたいニャっ」


「ああ、せーのっ!!







三人が手分けしてルーデメラを持ち上げる







「それじゃ船に行こ…ってシュド 何してんだよ!





ルチルの金縛りを解こうとしていたシュドを咎める石榴





「でっ でもルチルさんをこのままにするのは」


「いいって、放っておきゃ効き目も切れるし
それにルデの弟だから大丈夫だろ」


「そうニャっそれにもしそいつとルデメが復活したら
今度こそ手がつけられニャいし!!」








先程の惨状を思い出し、シャムが青ざめて首を振る









まだどこか心配そうなシュドを説得しつつ







三人はルーデメラを担いで 大急ぎ
カルロスの船へと向かったのだった









…悔しげに固まるルチルをその場に放置して








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:これにてルチル話終了です 何とか二話で
終わってよかったよかったー


ルチル:いいわけあるかボケカスがぁ!!


狐狗狸:ぎゃあああっ!?ちょっ、何で怒るの話書いたのに!
ねぇみんな この子説得して!!


石榴:いや それはルチルのが正しいだろ


ルデ:こんなぬるくて寒い文書いてて恥ずかしいと
思わないの?ねー?


シャム:ルチルのこわさもイマイチつたわらニャイし
そもそもジカクなしの方向オンチはアンタだけで十分ニャ


狐狗狸:うう、味方がだれもいねぇ…(泣)


シュド:あの…放った術を後から包み込んで、更に分裂して
発動させるアイディアはすごいと思いました


カルロス:ルチルは探知の術も使える所や 戦いの場面を
しっかり書けてはいたな、偉いぞ


狐狗狸:でしょでしょ〜!君たちはわかってくれてるうんうん!
こんなヒドイガキたちとは違うねぇ〜


ルチル:すっっげぇムカツク、呪うぞゴラァ(術発動)


ルデ:今回だけは協力するよ?(上に同じ)


狐狗狸:呪われるのはイヤだから逃げます!


シャム:そーはいくか 通せんぼニャっ!


石榴:避けれるもんなら避けてみやがれ!(分裂弾発射)


狐狗狸:イヤアアアアアアアァァァァァァ




呪いの内容は 言えません…怖くて


次回 とある少女と五人が出会う