「それじゃ、オイラはしばらくここをはなれるニャ」







シャムの言葉を皮切りに、路地のそこかしこに
顔を出すスラムの者達が口々に切り出す







「そうかー寂しくなるな」


「なんか情報あったら知り合いの鳥獣族よこすからな」


「元気でやれよ」


「じゃあなシャム」







人の姿をした者、シャムのように猫の姿の者
或いは鳥の頭をした者もいて 年齢も性別も様々だが





彼らの顔には一様に 少し寂しそうだった











スラム街に面する路地から戻ったシャムが
噴水で待っていた四人に言う







「…待たせたニャ、オイラの用はおわったニャ」


「案外早く終わったね」


「何をしゃべってきたんですか?」





たずねるシュドに、シャムは何てことないかのように答える





「別に、ここをはなれるって言って
サヨナラしただけだニャ」







その答えに石榴は少し釈然としないものを感じた







「そんなあっさりした別れでよかったのか?
仲間だって言ってただろ」


「…スラムはキホン 来るもの拒まず去るもの追わずニャ」


「持ちつ持たれつ助け合うが、生きる上で
必然的にお互いの利益が絡む世界だからな」





続けるカルロスの言葉は、どこか真実味がある





「そう 自分のミを守れるのはケッキョク自分だニャ
ドジやってつかまった奴は、だれも助けニャいしニャ」


「僕には想像もつかない位 過酷な世界で
生きてきたんですね」







労わるようなシュドの視線に気付き シャムは苦笑した







「まあニャ…でも、そんなトコロでだって
仲間やシンライはつくろうと思えばつくれるニャ」









何処となく沈んだ空気を変えたのは、自分のバッグから
地図を取り出したルーデメラだった







「話が一区切りついた所で、次の進路はどうする?」





広げた地図の端を石榴とシュドにそれぞれ持たせ





「街から南の砂漠地帯には特に用がないし ここを
横にそれて別の大陸へ行こうかと考えてるんだけど」







指で位置を説明しながら ルーデメラが問いかける







するとカルロスがロウライツの街から
それほど離れていない パープラ大陸の端を指差し







「…それなら この辺りに船が止めてあるから
良ければ乗っていくか?」









提案に 他の全員の顔つきが変わる







「いいのかカルロス?」


「ああ 知らぬ仲でもないし、事情を説明すれば
船員達も分かってくれるだろう」







石榴はやや嬉しそうな顔をするが、ルーデメラは
逆に眉をひそめている







「僕はあんまり気が乗らないなぁー結構
嫌われてるし?」


「それはお前だけだろが…つかお前はカナヅ





言いかけて、石榴はルーデメラの蒼い目に宿った殺気
気付いて言葉を飲み込んだ





「おっオイラ船にのったことニャいニャ!
ゼヒのせてほしいニャ!!


「僕も…乗ってみたいです!!」







シャムとシュドはやたらと目をキラキラさせている





歳相応の無邪気さに、ルーデメラは若干気圧される









「私は別にどちらでも構わぬが」







控えめにカルロスはそう言うのだが





他の三人は、船に乗りたいオーラをかもし出している









「…多数決ってこういう時はヤなんだよね」







ルーデメラが諦めたように溜息をついた











〜No'n Future A 第二十七話 「凶星現る」〜











五人がカルロスの船へと向かう道中、
シャムは気になっていたことを石榴に聞いた







「ところで石榴、ニャんでデンセツの魔術銃を持ってるニャ?」


「ああ…ある洞窟で悪魔と戦った時に、ルデから
渡されたんだよ」


「そうニャのか、でもどーしてルデメが
ホンモノの魔術銃を持ってるんだニャ?」







話を振られ ルーデメラはすんなりと答える







「まぁ、色々あってね…僕としてはクリス君が
魔術銃を使えることがいまだに気になるけどね」





その口調は滑らかで、





「天使君も そう思わない?」


「あっはい、僕も 魔術銃を使ってる時の
石榴さんの眼が少しだけ気になってます」


「オイラもだニャ あんニャ真っ赤だニャんて…」







促され 続いたシュドの言葉もあって









ルーデメラが問いかけをはぐらかしたことに
気付く者はいなかった











「異界の者である石榴が なぜ聖戦跡地
いたのかも気になるな」


「そうですよね」


「なあ、俺もずっと聞きたかったんだけどよ」







石榴が訝しげな顔で 四人に尋ねた







「この魔術銃といい赫眼の覇王といい、あの島といい
…なんか有名な伝承でもあんのかよ?」








それぞれが顔を見合わせ、まずカルロスがしゃべりだす







「伝承というか、神話なのだがな」


「異界から来られた石榴さんは知らなくて当然ですけど
このラノダムークに伝わる由緒正しい話なんですよ」


「多分 ここで知らニャいやつはいニャいと思う」







三人の言葉を聞きながら、石榴は今更ながら
自分がこの世界の住人でないことを実感していた







異界嫌いのクリス君は ラノダムークの神話を
聞く気があるかい?」


「……おー望む所だコラ」







ケンカ腰な石榴の態度にフゥ、と軽く溜息をつくと
ルーデメラは静かに語りだした













―それは、昔から語り継がれてる神話









ある時 神が落とした果物の実が大陸となり
果汁が水へと変わって川や海に、へたや皮が樹木などを象り
そして 残った種の一つがとなった





その世界に様々な神が訪れ 色々な祝福を与えていった







しかしある時 神の世界で戦いが起き
そのとき流れた血を浴び、もう一つの種が魔物を生み出した





魔物が世界に蔓延っていたが、神々の力は絶大で
強大な魔物もおらず 魔術導師達や騎士達で何とか
奴等を退け、世界の均衡は保たれていた





だが 赫眼の覇王が現れ、魔物達の力も強くなり
世界の均衡は崩れた







…覇王は魔物を操り 魔の本性と負の力でラノダムークを覆い
悠久の時を絶望に変えた









神は種となった人間の血を濃く引く者に





一人の偉大な魔術導師に創らせ力を注いだ神器(魔術銃)
渡し 勇者の使命を与えた―













「で、勇者様魔術銃を使って覇王をやっつけたのさ」







あっさりと締めくくるルーデメラに、





石榴は胡散臭そうな顔をしながらも質問する







「そんなあっさり終わるもんなのかよ…
本当に覇王ってやつはいなくなったのか?」


「はい 今は覇王もいなくなって、何とか
魔物達の脅威も退けられてるんですよ」





おばーちゃんが言うには その頃は本当に
恐ろしかったらしくて!
と力説するシュド





「そっそうか、で あの島は何に関係してるんだ?」


「かつて呪われた城と呼ばれた覇王の住まう城が
あったのが、ラグダス島だ」


「城って…あの島 ガレキしかなかったぞ」







ルーデメラの召喚獣に乗って島を飛び立った時、





上空から石榴はラグダス島を見下ろしてみたが
そこに建造物は全くなく





ただただ 大きなガレキの山々が見えるだけだった







「ニャんでも、ハオウは倒せたもののユウシャも命を
落とすほどのセイセンだったらしいニャ」


「それで 崩れた城のガレキ山が聖戦跡地
呼ばれてるのさ」


「なるほど…でも、それなら会った魔物の言ってた
あの方ってのは「船長ぉぉ〜」







言いかけた石榴のセリフを遮って





声が上から降ってきた









空に目を向けて、石榴は見えたものに硬直した







晴れ渡る空 白い雲に翼を広げ宙を舞う鳥







はばたく鳥の内の一匹…いや 鳥のようなもの
どんどんこちらに降りてきていた





魔物かと思い、石榴とシュドとシャムは身構える









五人の目の前に降りたそれは、翼の生えた人だった





…いや、口の辺りに鳥のクチバシがあるから
人とはあまり言い切れない見た目だが





バンダナを頭に巻き、いかにも海賊下っ端!といった
格好をしているその男は


着地すると同時にカルロスに駆けよる





「船長っみんな待ってるんスよ!
早く船に戻っ…ぎゃあああスマイルクラッカー!!





彼はそこでルーデメラを一目見るなり、即座に身を引いた







「アイツ 確かカルロスの船にいた奴だよな」


「そうだね」







石榴の言葉に ルーデメラはどうでもよさげに答えた







「カルロスの船には鳥獣族(バーズ)ものってるニョか」


「通達人以外の鳥獣族の方は、初めて見ました」







シャムもシュドもカルロスの側にいる男に 興味を示す









とある成り行きでカルロスの船に乗っていたあの日
石榴も 彼に驚かされていた





鳥の姿をした亜人種で よく見かける種族だと聞かされ





その後、空をふと見上げるとごくたまに見かけたりもした







…ごくたまに見かけるだけなので、石榴は
それ以上深く考えず 脳内から記憶を消し去っていた









「本当、分かってても慣れねぇな ファンタジーって奴は…」







目の前のしゃべる鳥男ととなりの猫少年
否定したい気持ちで一杯の 憂うつげな石榴の呟きに


当の本人達は それに全く気付いていない







「何でまたスマイルクラッカーと一緒なんスか船長!」


「成り行き上 しばらくこの者達と
共に旅をすることになってな」


「えええええっ!?ちょっ待ってくださいよぉ!!
他のはともかくスマイルクラッカーはちょっと!!!」










そのまま、しばらくカルロスと男の会話が続き







やがてカルロスが 男にこう言った









「スマンがドーヴェ、先に船に戻ってこの事を
伝えておいてくれるか?」


オレがですかぁ!?バンザ副船長に何て言われるか…」


「頼む」







ドーヴェと呼ばれた彼は、ルーデメラとカルロスを
交互に見やり 渋々頷いた







「……分かりましたよ」







空を振り仰ぎ、背中の翼を大きくはためかせ





ドーヴェは船へと舞い戻っていった











「あの、カルロスさん 僕らご迷惑でしたでしょうか…」


「気にするなシュド」





戸惑うシュドを落ち着かせるようにカルロスが言い


その姿に シャムは少しだけ不機嫌になる





そうだニャ!メーワクなんかじゃないニャ!!
さっ はやくカルロスの船にいくニャ!!!」


「何 不機嫌になってんだよ」







そこにしたり顔でルーデメラが口を挟む





待ちなよ泥棒猫君 天使君の言う通り、僕らが
急に船に乗ったら迷惑になるかもしれない」





どうやら、まだ船に乗るのを嫌がっているようだ







「もう少し考えてから…」







急にルーデメラは言葉を切った





彼は素早く石榴とカルロスに視線を投げる


二人も頷き、石榴はシュドに背中に来るよう促す







「どうしたニャ、ル…ニャニャっ!?





辺りの茂みから現れた影にシャムが叫び声を上げる





突如として現れた魔物達の群れがあっという間に
五人を取り囲んだ







「ニャー!モンスター!!」


「こんなにたくさんの魔物 一体どこから!?」







シャムは急いでカルロスの後ろに隠れ、シュドは
早くも防御呪文を唱え始める







「気をつけろ、いつ襲ってくるか分からんぞ」





左手の義手を剣に付け替え、カルロスは周囲を警戒する





「ちっ…大勢でやってこようが 片っ端から
全員ぶちのめしゃ済むことだ!


「同感 即効で蹴散らすよ?」







石榴が宝珠を取り出し、ルーデメラも呪文を唱え始めた









シュドとルーデメラの呪文が完成する
正にその直前







「テメェら ちょっとそこどけや!」







柄の悪い蓮っ葉な怒鳴り声が、魔物達の群れの
奥から響き渡った





それと同時に魔物達の群れが左右に分かれ


奥から一人の少年が姿を現した









所々金色の筋が入った銀髪、





黒と灰を基調とする 魔導師たちの着るような
ゆったりした衣服に首から下げた赤い宝石のペンダント





釣り目がちのその目は蒼く







顔立ちも どこかルーデメラに似ていて
石榴達も思わず、彼とルーデメラを見比べる









彼はニヤリと口の端を上げ、ルーデメラに話し掛けた







「…よぉ、久しぶりだなぁ ルーデメラ」





四人が驚きを隠せずに立ち尽くす中、
ルーデメラもニコリと笑って 返事を返した





「そっちもムダに元気そうだね」







二人の表情は笑顔だったが、言葉の端々には
何処となく黒いモノが滲み出ている







「あの…お二人とも、お知り合いですか?」


「ルデメ あいつニャにモノなんだニャ」







聞いた二人は、自分達に向けられる貼りついた笑顔
背筋を凍らせ たずねた事を少し後悔した







「ああ、あれはルチルって言って 忌々しい事
僕の弟なんだよね」


「ルデ お前弟いたのかよ!」


「言われてみれば…似ているな 二人とも」





カルロスのその一言に、ルチル少年が見る間に顔を歪める





似てるだとぉ?二度とそういうんじゃねぇ
このクソッタレが 反吐がでらぁ」


「僕もあいつに同感だよ船長さん
アレと一緒にされたら魂が穢れちゃうよ







ルーデメラも 表情は笑顔のままだが、





言葉は嫌悪感を露わにしている









ルチルは五人をじろりと睨みつけ







「野郎二人だけじゃなくヘンな獣まで連れてるとは…
相変わらずの変人ぶりだなぁクソ兄貴」





けっ、と鼻で笑い飛ばす





「ニャんだと!?オイラはちゃんとした猫獣族だニャ!!
ヘンなケモノ呼ばわりするニャ!!」



「僕は男です!!」







シャムは爪とキバを剥き出し 珍しくシュドも憤慨した







「まあんなこたぁどうでもいい、オレの目的は―」









ルチルが左の袂から短剣を取り出すと







刀身を抜いて、切っ先を石榴とルーデメラに向けた









「そこの異界の野郎とテメェの命だ」


なっ、何で俺まで!ルデの奴はともかく
俺はお前に命狙われる覚えなんかねぇぞ!!」







叫ぶ石榴だが ルチルは全く取り合わず
ルーデメラを睨みつけていた







「覚悟しやがれルーデメラ ここがテメェの死に場所だ!」











突然現れた魔物達とルーデメラの弟・ルチル







何故 ルチルが魔物達を引き連れて現れたのか?
石榴とルーデメラの命を狙うわけは?









話は、少し前へと遡る―…








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:えー色々と新事実を発掘しながら書きました
ノンフュ二十七話でございます


石榴:発掘しすぎだろ、カルロスんとこにいた鳥人間といい
ルデの弟といい…


ルデ:アレの話はやめてよね、虫唾が走る


ルチル:それはこっちのセリフだクソ野郎


狐狗狸:ちょっなんでこっちサイドに来るかな!?


カルロス:石榴が聞こうとしていた「あの方=赫眼の覇王」
疑惑についても答えられてないな


シャム:それよりニャんで石榴が魔術銃を使えるニョかも
使うとき眼がアカいのかもわからニャ…ギャー!?(爆撃受け)


シュド:シャ、シャム君!?


ルチル:死ねやあぁぁぁぁ!!(呪い解放)


ルデ:死ぬのはそっちだろ?(爆砕呪文発動)


狐狗狸:うわぁ大変 ルデとルチルがケンカし始めたよ
…あ、カルロスも被害にあってる


石榴:見てねぇで止めろぉー!(怒)


シュド:やめてください二人ともーーー!!(叫)




あとがきまでカオスになったので、鳥獣族について
補足説明を少し


猫獣族と同じ亜人種ですが


彼らは通達人という情報伝達者(郵便配達や宅配便なんかも
まとめてそういう)として働く者が殆どで


迫害されることは少なく、規模の大きい街では一人か二人
見かけることもある種族だとか


次回 ルーデメラとルチルが繰り広げた死闘
みんなは生きながら地獄を見ることになる!?