「カムスピリット ウォルフロスト!」







ルーデメラの目の前にあった魔法陣が輝きを増す





そこから、バケツをかぶった水色の髪の少年が姿を現した





「なにルデ、ぼくおやつ食べてたのに…」


見た目にたがわず子供っぽい口調で言う少年の
青い目は 早くも泣き出しそうに潤んでいた







守護像の腕とカルロスの剣がぶつかり合う音が
部屋の中に激しく響き渡る





「シャムと石榴が罠を作り終えるまでは…私は
お前を他の者の所へ行かせない!





群青の眼差しを強く輝かせ 果敢に向かうカルロス





効き目が切れる前にシュドが術をかけ直すため
彼の身体能力は格段に上がっている


しかし 元々の体格差や重量、受け止める衝撃は計り知れず


その身体は、時折攻撃を受け損なって
傷だらけとなっていた





散発的に繰り出される体当たりを事前に察知し


シュドがカルロスの背後へ回って防御呪文を発動させ
どうにか攻撃を防いでいる






「このままじゃ カルロスさんの身体が持ちません
罠は、まだなんですか…シャムくん…!





息を切らし 彼も罠の完成を待ちわびていた







「…よし、ワナはオッケーだニャ!石榴!





最後の仕上げを終えたシャムが 短く告げると
台座の方へ走り出す準備をする





「任せろ!」





即座に石榴は銃口を 高くせり上がっている
台座の土台部分へと向け


目をつぶり、意識を高め


赫い眼を見開くと、右腕を僅かぶれさせ
上へと持ち上げながら連続して引き金を引いた





発射された光の弾丸は 間隔を開けて土台へ直撃し


その位置のまま、岩の板のような足場に変わる





「信じられニャい…やっぱりそれホンモノの
魔術銃だったのか」


「しゃべってるヒマがあったら さっさと行け!


「分かってるニャ オイラのキャクリョクと
盗みのウデを見せてやるニャ!」






得意げにキバを覗かせて笑い シャムが床を蹴る


あっとゆうまに台座の土台まで駆け


屈めた足をバネに飛び上がり、台座の土台に
打ち込まれた足場へ飛び移り

間を置かずにジャンプして次の足場へ移っていく





「マジで猫みてぇ…!」





石榴がその様子を見て ボソリと呟く











〜No'n Future A 第二十六話 「泥棒猫のお供」〜











等間隔で打ち込まれた足場を踏み台に
シャムはドンドン上へと駆け上がってゆく







「お宝 ゲットだニャ―――――――!!」





一番上へたどり着き、勢いに乗ったまま
シャムが宝珠を掴み取る







足場を蹴り、今度は下へと降り立ったシャムに


守護像が猛然と襲い掛かる







すぐさま駆けるシャムだが背後には既に守護像の
巨大な腕が迫り それが振り下ろされようとしていた


まさに刹那のタイミングで





「ラピッドフィード!」





シュドの術がかかり、急激に守護像とシャムの距離が
ぐんと開いた







「やーい オイラとお宝はここだニャ
追っかけて来いデカブツ〜」





聞こえぬはずの挑発に憤ったかのごとく


守護像の動きが速さを増し、シャムへと一直線に進む









つかず離れずの追いかけっこを繰り返し


繰り出される体当たりを避け 柱を崩しつつ





シャムは罠を張った辺りへ守護像をおびき寄せていった









「さあっオイラをつかまえに来るニャ!!」





罠の手前でシャムが床を蹴り、その空間を飛び越え


守護像がそれを追って空間に足を踏み入れた


途端 像の重みで床がたわみ





急に下へ開いた穴へと落下し、腰から下が完全に
穴の中へ埋まり込んだ








よっしゃ引っかかったニャ!
で、あとはどうするニャ ルデメ!!」


「よくやったよ泥棒猫君、後は任せて」





シャムの声に答えながら、ルーデメラが
罠の場所まで歩いてきた


…先程の小さな子供の手を引きながら





「何だこのガキは」


「ウォルフロスト…だと思います 水神の従者の一人
小さな子供の姿をしてるって言われてます」





訝しげに子供を見る石榴に、駆け寄ってきたシュドが
やや自信なさげに答え





それに対してルーデメラが満面の笑みを浮かべる


「その通り、正解だよ天使君 こいつはウォルフロストさ」


「名前はどうでもいいニャ、こんニャ子供よびだして
ホントにたよりになるニョか?」





シャムが不安げに子供と、そして守護像を見比べる





「ならなきゃ喚ばないさ 精霊の術は魔法と少し違うから
奴に効果があるだろうしね」


「本当かよ…?」





苦悩のポーズをするルーデメラに疑心暗鬼で石榴が呟く





「え…ねぇルデ ひょっとしてぼくがアレなんとかするの?」


さっきも言ったよね?忘れたフリはなしだよ
さ、がんばって一発かましておいで」





ルーデメラがウォルフロストの背中を押して
守護像とご対面させる







守護像は今にも穴から這い上がろうともがき、





偶然にもウォルフロストと目が合った瞬間
カッと目が光った


見る見るうちにウォルフロストが怯えだす





「何あの怖いのっ ぼくと目が合ってビカってした!
やだぁぼく帰るう!!」



「無理もない…怖いのだろう」





ようやく寄ってきたカルロスが、

ウォルフロストの頭を撫でようとして逃げられる









守護像が床に両腕をついて 体を持ち上げようとしている


そんな一刻の猶予もままならない状況で





ルーデメラは眉間にしわを寄せ、深いため息を吐いて
静かに だけどハッキリした声で呟いた







「ウォルフロスト…そうやってごね続けてると
僕がどうするか 忘れたとは言わせないよ?」






彼の 影のついた怪しい微笑みに


ウォルフロストが真っ白な顔を分かりやすいくらい
青ざめさせ、目に涙を溜めながら震えだす





「わっわかった やるからやめてアレだけはっ!







「……お前 ガキ相手にも容赦ねぇな」


「精霊だからって甘やかすとつけあがるでしょ?
しつけは早いうちの方がいいんだよ」


「ルーデメラ、精霊とはいえ子供に
手荒な真似をするのはよろしくないぞ」






渋い顔をするカルロスに、ちっちと指をふり





「見た目に騙されちゃダメさ ああ見えて
船長さんよりずーっと年上なんだから」









そんな会話が聞こえているのかいないのか





ウォルフロストは頭にかぶったバケツを両手に抱えると、
バケツの口を守護像へと向けた







『我、水神の使いとして命ず 彼の者を氷河の氷に鎖せ!』





呪文に呼応し、空のバケツから大量の水が噴き出し
守護像へと降りかかっていく


そして 瞬く間に水が凍りだし


守護像は厚い氷の中に閉じ込められた







「すっ…すごい!あんな大きな守護像を氷の塊に
閉じ込めてしまうなんて!!」


「おお、今のは俺もすごいと思う」


「うたがって悪かったニャ さすがは水神の使いだニャ!





三人のほめ言葉にウォルフロストがすっかり舞い上がる





えへへ〜すごいでしょ!ぼくこれでも水神の使いだもん!
もっとほめてほめて!!」


「ああ、流石は水神の使いだ えらいぞ」







カルロスが声をかけた途端、ウォルフロストの

得意げな顔が怯えた顔に早変わりした







「カルロスさんは優しい方だってみなさん
分かってますから ね?」


「まぁ顔のことなんか気にすんなよ なっ!」


「おっオイラはカルロスかっこいいと思ってるニャ!」





三人は、今度は悲しげな顔をするカルロス
慰める羽目になった









その騒ぎに加わらず





ルーデメラは真剣な顔で 守護像を
内包する氷塊を睨む





ここまでは計画通り…うまくいけばこのまま
奴は機能停止するはずだけど……」







まるでルーデメラの言葉を否定するかのように







ピシリ、と鋭い音が鳴り響いた









「マジかよ こんな厚い氷にヒビが…!?





大きな氷塊に一筋のヒビが入り込んでいて、
そこを中心にどんどん細かいヒビが増えていく





「…さすがエルフの作った遺跡の番人、
嫌になるくらいしぶといじゃないか」


「そんな 急いで何か対策を考えま…」


「水神の使いでさえムリだったんだニャ!
もうオイラたちここでおしまいニャんだあぁ〜!!」



シャムが絶望的な声音をもらしたのが響いたのか





「ええええぼく一生けんめいやったのに〜!
もうヤダ帰るぅぼく帰るぅぅ〜!!






とうとうウォルフロストが声を上げて泣き出してしまった







「…わかった、さっさと帰れば?」





ため息つきつつルーデメラがウォルフロストを帰還させた







「だからアイツ喚びたくなかったんだよね…
やっぱり あとは君が頼りだよ、クリス君







この土壇場での賭けに 普段なら石榴は
怒鳴り散らして行動を渋っただろう





「…わかってる 絶対俺が何とかしてやる」





だが、この時ばかりは 素直に引き受けた







足止めのため守護像と戦ってボロボロになったカルロス


罠を造り、自らを囮として敵をおびき寄せたシャム


自分の身を守りながらも 守護像と対峙する者の
補助を最大限勤めたシュド





そして 精霊を召喚して守護像を追いつめたルーデメラ








(こいつらがこれだけやってんのに、俺だけ
何もしないで終われるかよ!)









目を閉じ、魔術銃を構えなおすと 石榴は
意識を集中する





(想像するんだ…頑丈な奴に効く弾丸を…!)










彼の頭の中で 様々な兵器が浮かんで消え

やがて、一つのイメージが固まった





あのデカブツのどてっぱらを貫ける 貫通力のある弾丸…!)







氷に入る亀裂が増える中、魔術銃の水晶のような部位が
ちかちかと強い明滅を繰り返していく







「まずいぞ 氷がもう…限界に近い





焦りを含んだカルロスの声を合図に





石榴は両目を開いて狙いを定め


間髪入れずに引き金を引いた







放たれた弾丸はいつもの光球状ではなく、まるで
ライフルの弾のような鋭い形状をしていた





鋭い弾丸が輝きを放ちながら 一直線に守護像へと向かう





「間に合えニャ〜〜〜!!!」


「お願いです 氷よ、砕けないで…!」







祈るような気持ちで五人は弾丸を見つめていた












だが弾丸が着弾する直前、氷の戒めが完全に破壊され

守護像が姿を現した








全員の顔に 驚愕と絶望が浮かぶ中





(当たれ…あたれ、壊れろ!!)





念を込めて 石榴は弾丸を睨みつけた







一瞬、その眼と弾丸が共鳴したように赫く輝き





守護像へ弾丸が着弾した









「弾丸が…消えない…!」





誰のものとも付かぬ言葉がもれて







弾丸は 掻き消されること無く守護像の胴体を貫いた





貫通した所を中心に、無数のヒビが入り


程なく守護像は崩れ落ち 動かなくなった







や、やったニャーーー!守護像がぶっ倒れたニャ!!
オイラたちが勝ったんだニャーーーーー!!!」


「やるじゃないかクリス君 僕でさえ
一瞬もうダメかと思ったよ」


「…ああ、マジでうまくいくとは
思ってなかったけどな」







五人が安堵したのも束の間、





最大級の地響きが遺跡を襲いだした







激しい揺れに柱や台座の土台が倒壊し、天井も崩れだす





「宝も守護像も無くなった今、どうやら最後の罠として
この遺跡は崩壊を始めたらしいな」


「ゆーちょーなこと言ってる場合じゃニャいって!
このままじゃオイラたち生き埋めニャ!!」



「どうしましょう、入り口はまだ閉まったままです!」


「おいおいおい マジでここで生き埋めかよ!?」





崩れつつある遺跡からの出口を捜し求めて
右往左往する四人


…の中 ルーデメラは涼しい顔をしていた





「さ、みんな ここが崩れる前に地上へ出ようか」


どうやってだよっ!出口塞がってんだろが!!」


ツッコむ石榴にちちち、と指を振ると





「実はアイツ呼び出す前に穴掘りの得意な奴
喚んどいたからさ、その脱出経路を使えばいいよ」





いつの間に、と三人が 声を揃えてそれだけ口にしていた





「初めっからそいつを呼べばよかったろ!
したら宝取るだけですんだじゃねぇかよっ」


「何言ってんのさ、召喚術は時間と集中力が不可欠だし
すぐには地上まで開通しないだろ?」





その一言で 石榴もそれ以上は
何かを言う気力を無くしてしまったのだった











ルーデメラが導いた壁の穴から五人は上へと這い出し







五人が外へ脱出した頃には、
地下遺跡は完全に崩壊し 土砂と一体化





そのせいか山で地滑りが起き、形も少し変形していた







「気付かなかったが、結構深い遺跡だったのだな」


「ルーデメラさんが脱出経路を作ってくれていなければ
僕達 危ない所でしたね」





しみじみ呟く二人に 石榴は複雑な顔をする





「ああ、そうだな」







その三人の様子を他所に シャムが手に入れた宝珠を
ルーデメラに手渡しながら大きく深呼吸をする


「ふはぁ…お宝をゲット出来たのはいいけど
もうこんな命がけはコリゴリだニャ…」


これくらいで参られちゃ困るよ、まだ盗んだものの
十分の一も返してもらってないんだし」


「そっそんニャ、ボウリだニャ!
あとは手持ちのジョウホウでみのがしてほしいニャ!!」



「いや、今回の件で君の情報よりも盗賊としての
能力の方が高いと気付かされたからねぇ」





イタい所をつかれ、シャムがうっと唸る





「もちろん情報集めとの両面で、旅先で
手伝ってくれるよね?泥棒猫君?」








ニヤニヤ笑うルーデメラに


しかし反論しても効果が無いことをシャムは
今までの経緯で悲しいくらい理解している





他の三人も、ルーデメラのこの様子には
何を言っても無駄だと承知している







完全に及び腰となり、





「う…そ それならカルロスもいっしょじゃニャきゃ
オイラは旅しないニャ!」





カルロスの陰に隠れながらシャムは情けない声で言った





別に僕は構わないよ?船長さんがいたら
それだけ戦力が高くなるわけだしねぇ」





二人の顔を交互に見て、溜息を一つつくと







「そういうことなら…しばらく行動を共にするとしよう」


諦めたようにカルロスは宣言した





「あ、ありがとうございます シャムくん
カルロスさん!」


「さっ、パーティーのバランスも取れたし
サクサク次の目的地に移動しようか」


「…本当にRPGみたくなってきやがったなオィ」







呆れてため息をつく石榴だったが、


内心は二人の仲間に 少し頼もしさも感じていた








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:シャム編ラスト ようやっと終了〜
ふひーぃ長かったよー


石榴:今回はいつにもまして詰め込み気味だな
いつも通り展開が所々すっとぶし…ったく


ルデ:僕 あいつ喚びだすの嫌いなんだけど?
ぶっちゃけ無駄にMP使わされたなぁー


石榴:……ルデの奴、珍しくふて腐れた顔してやがる
あのガキとなんかあったのか?


狐狗狸:いや 単に泣き虫で怖がりなお子様のウォルに
指示与えて使うのが面倒くさいから嫌いなだけ(笑)


カルロス:…精霊とはいえ子供に嫌われるとは、
やはりこの顔はそんなに恐ろしいのだろうか……


シャム:そっそんなことニャいニャ!カルロスは
すっごくカッコいいニャ!!


狐狗狸:船長 子供好きだから地味にダメージだね


シュド:ルーデメラさんは精霊召喚も出来たんですね
やっぱりすごいお方だなぁ…


狐狗狸:まーラノダの世界に五人ほどの二つ名つき
魔術導師ですからね(笑)


ルデ:全部で六体と契約してて、お気に入りは
グリフィクスと実験体用のモ゛ライムかな?


石榴:聞いてねぇよ!何だよモ゛ライムって!!


シャム:すっごく弱っちい魔物だニャ、今時の
子供だって知ってるニャ!!


カルロス:形は不定形で獲物を自分の体内に
取り込んで消化するが 大半は草食だな


狐狗狸:よーするにスラ○ムの一種?だね


石榴:……作者、一回 版権で訴えられて来い




訴えられる前に狐狗狸は逃走しました(何)


五人の前に現れたのは なんとルデの…!?