「ニャー!はなせぇぇ〜!」





耳と尻尾をばたつかせながら、少年が叫ぶ







あのあと少年は縄で全身余すとこなく縛られて
その縄の一端をカルロスに握られていた









「誰が放すか お前、俺の荷物返せ!







石榴が目を吊り上げて詰問するも







「はなさニャいニャら おしえニャい〜







少年はべーと舌を出してそっぽを向く





「この…!」


「石榴さん!」







ようやく抜け出してきたらしいシュドが
後ろから石榴に駆け寄ってくる







「シュド、大丈夫だったか?」


「はい あの方達に持っていたお金を
全て取られちゃいましたけど…」







苦笑を漏らしたシュドが、石榴の後ろに
佇むカルロスを見て立ち止まる







「あっ…あの 石榴さん、後ろの方は…?」









カルロスを見るシュドの顔に 不安と怯えが混じる









「ああ、心配すんな こいつは悪い奴じゃねぇ
泥棒も捕まえてくれたんだ」


「そうなんですか」







感心するシュドの前に、カルロスが握っていた縄を
石榴に手渡し 進み出て







カルロスだ、石榴やルーデメラとは
以前 色々あってな」


「お二人のお知り合いだったんですか!?
そうとは知らず失礼しました!








申し訳なさそうに頭を下げて 礼儀正しくシュドが言う







「僕はシュド=エンブラといいます
よろしくお願いします カルロスさん!」


「シュドと言うのか よろしくな」







微笑みながら差し出したカルロスの手を
シュドはおずおずと握り返した











〜No'n Future A 第二十三話 「泥棒猫の償い」〜











「ところで カルロス、どうしてここにいるんだ?
船の奴らはどうしたんだ?」


「実は我が海賊船もここの所、財政難でな…」







石榴の問いかけに、カルロスは頭を抑え
細くため息を吐きながら答える







「海賊として追われる一方 獲物となる
他の海賊船や怪物が目ぼしくなった」


「…苦労してんだな」


「船の皆が必死でやりくりしている中
私だけがのうのうと寝てもいられまい」







苦笑交じりのカルロスに シュドが目を丸くして







「海賊の方なのに なんて立派な人なんだろう…!


「立派と言う程でもないさ」


「そうだニャ、カイゾクニャんてゴロツキの
よせあつまりばっかだニャ」










先程まで黙って三人のやり取りを見ていた少年が
冷たい声音で口を挟む









「お前に何がわかんだよ」


「オイラにはわかるニャ だてにスラム仲間から
ジョウホウもらってるわけじゃニャい」


「じゃあ、さっきの人たちはあなたの
仲間なんですか?」







シュドが訊ねるが 少年は途端に黙り込んだ







「どうやら…スラム育ちのようだな、この少年は」


「……仕方ねぇ とりあえずルデが来るまで
広場で待つとするか」













とりあえず少年を縄で縛り、カルロスが
逃げないように見張りつつ







四人は広場でルーデメラを待った













「そうか シュドは神官系の魔術導師となるため
石榴達の旅に同行しているのか…」


「はい、けど僕も カルロスさんと
石榴さん達にそんなことがあったなんて…」







シュドとカルロスがお互いの身分などで
意見交換している間







「何で俺の荷物盗んだんだ 泥棒は犯罪だぞ


「オイラはわるくニャい 盗まれるほうが
まぬけニャんだ」


「…ちっとは反省して荷物返せよ!」


このナワをといてくれニャきゃ返せニャいね」







石榴は少年について色々聞き出そうとしていた









そして日の位置が少し変わった頃、
ルーデメラがニコニコしながら現れた







「ゴメンゴメン 魔法道具を作るついでに
研究室をいくつか覗いてたら時間かかっちゃって…」







四人に駆けより、そこでカルロスに気付く







「おや、船長さんが陸の上にいるなんて珍しい
山賊にでも転職したの?


違ぇよ カルロスは用があってここにいんだよ」







石榴の言葉に頷くカルロス





ルーデメラは興味なさげな顔をする







「ふぅん、まあいいけど…で、その猫獣族が犯人?


「…そういや店の親父も言ってたけど、
キャッツって何なんだよ?」







問いかけに ルーデメラは鼻で笑って







君のアホ面と無知ぶりには 心底
ウンザリさせられるよ」


「なんだとこの野郎!」


「お二人とも ケンカしないで下さいっ」







ルーデメラに掴みかかる石榴をシュドが止める







「ニャんだこいつ、そんニャことも
知らニャいのか」


「この世界には ごく少数ながら人とは違う
亜人が存在する、猫獣族もその一種だ」





そこで石榴の神妙そうな顔を見ると
カルロスは少し言葉を切って、こう付け足した





「分かりやすく言うなら 人と猫のハーフだ」


「…そういうのもアリなのかよ、で こいつ
俺の荷物返しやがらねぇんだよ 何とかしてくれ」







渋い顔で石榴が少年を指差す





少年はその待遇が気に入らなかったのか、
ムッとした顔で怒鳴る







「さっきから猫獣族とかこいつとかシツレイニャ!
オイラにはシャム=バステトって名前があるニャ!」


「知るかよ とにかく荷物返せよ!


「ナワでグルグル巻きじゃ返せニャいニャ!」







ケンカ腰の二人の間にシュドが入り、二人を宥め







「とりあえず、シャム君のナワをほどいて
服と魔術銃は返してもらいましょう」


「いい加減 クリス君のその格好は見苦しいしね」







ルーデメラがカルロスの方を見て、シャムを指差す







「船長 縄を解いてあげて」


「…承知した」











カルロスが縄を解いたと同時に、







自由になったシャムが 走り出す







バーカ、オイラがお前たちに盗んだものを
返すわけニャい…!」






駆けざまに振り返ったシャムが 本能的に
危機を察して横へ飛んだ瞬間





ルーデメラの放った術が着弾し、


先程までシャムがいた辺りの石畳を丸く抉っている







「返さないなら、君の死体からでも剥ぎ取るよ?」







微笑んで、ルーデメラは呪文を唱えながら
艶然とシャムに歩み寄る





三人は逃げ出したシャムと、そのあとのルーデメラの
起こした行動に 唖然としている









シャムは立ち上がろうとして、顔を歪める







どうやら先程の爆発で 足を少し負傷したようだ









「ニャ…た、助けてニャ…!







近づいてくるルーデメラに シャムは怯えながら
命乞いするが、術を唱える声は止まない







ルーデメラが右手を上げてシャムに向け―









「やり過ぎだルデ!なにもそこまでしなくていいだろ!?」







石榴が ルーデメラの側まで行き、肩を掴む







シャムを庇う形で、カルロスも
ルーデメラの前に立ちふさがる







同感だな、この者もやむにやまれぬ事情がある
それに先程は私が油断していた」











ルーデメラは石榴とカルロス、そして
カルロスの後ろで震えるシャムを順に見つめ











「…冗談だよ、こうしとけばそこの泥棒猫君は
逃げるなんてバカなこと、しないだろ?」







ニッコリ微笑んで 上げていた右手を下ろした









緊張を孕んだ空気が緩み、石榴がため息をついて







「シュド、傷の回復を頼む!」


「わかりました!」







その場で固まっていたシュドがようやく動き、
シャムの足を治療した















少し場所を変え 町外れの林に五人はいた







シャムの背後にカルロスがいて、
彼の動向をきちっと見張っている







「ウニャ〜…あの宝珠をうれば盗品ぜんぶ
カンバイしたのにニャ」









シャムが持っていたのは、魔術銃と石榴の服
そして自分の服だけだった







あとの荷物類や金品の類は 影も形もない









「お前 あとの荷物や金はどこやったんだ?







ボロボロのローブから、取り戻した自分の服に
着替えなおした石榴がシャムに尋ねる







「ニモツはぜんぶ金に変えて、その金は仲間に
みーんなわけて使ったニャ」


「みんなって…あの路地の人たちですか?」







シュドに見つめ返して頷くシャム







「そうニャ スラムじゃみんな助け合って
生きてるニャ」


「バカだね、クリス君が持ってたものは結構
いい値段がつくから 分けなきゃ楽に暮らせるよ?


「バカにするニャ人でなし!オイラは仲間を
見捨てたりニャんかゼッタイしないニャ!!」








ルーデメラに噛み付くシャムを、石榴は
感心したように見る









シュドが寂しそうな目で諭すように語りかける







「泥棒は…いけないこと、なんですよ?」


そんニャのわかってるニャ、でもオイラたちは、
盗みだろうがやらニャきゃ生きられニャいんだニャ」


「…何で俺の荷物なんか盗んだんだよ」


「見たことニャいヨソモノだったし、
ニャんとニャく金目のニオイがしたからニャ」











ふぅ、と石榴がため息をつく







「もう売られちまった以上、盗んだもん返せって
言えねぇけど…償いはしてもらわねぇとな







シャムが、銀がかった青目で石榴を見つめた







「つぐニャいって どうやってだニャ?」


「え そうだな…」











急に言われて、石榴は頭を悩ませる







「僕の新道具や新術の実験体に「お前は黙ってろ!」


「働いて返してもらうとか…」


「オイラは猫獣族だしスラムの人間ニャ
どこもまともにハタラかしてもらえニャいさ」











皆がそれぞれ頭を悩ましていた時











「何か役に立つ情報を教えてもらうのはどうだ?」







ずっと黙っていたカルロスの言葉に 皆が視線を向けた









「シャム、お前はたしか仲間から
情報をもらってると言ったな」







話し掛けられ、シャムは訝しげに首を傾ける







「…いったニャ それが?」


「なら、その中に石榴達が探す魔法道具の材料の情報なども
あるかもしれん、それを盗まれたものの対価に見合うだけ
提供してもらうのはどうだろうか」







その説明に 三人はようやくカルロスの意図を理解した







「情報をもらうのはいいかもしれませんね」


「泥棒猫君の情報が確かなら、情報集めも楽だし
なにより下手な情報屋にお金を払うよりいいかもね」


「え、情報って金かかるのか!?」


モノによってはかかる事もあるさ、例えばある街の
魔導師協会で開発される道具のノウハウとかね」







そこはファンタジーでも現実でも変わんない、とか
石榴は呟く







「ニャ、ニャるほど〜アタマいいニャあんた!









目を丸くして シャムがカルロスを見つめる





ルーデメラが少し唸って、









「材料よりは今はお金が欲しいかな、協会で
魔法道具を作ったりしたら結構かかってさ」


「僕もお恥ずかしながら 手持ちが…」


「まあ、金がねぇと不便だよな」







シュドと石榴もルーデメラの言葉に続く







「お宝…それニャら きいたばかりの
ネタがあるニャ、一口のるかニャ?」


「最近聞いたばかりのネタ?」







シャムは頷くと 辺りを伺い、声を潜める









「さいきんこのマチの近くで古いイセキらしき入り口
見つかったらしくて…もしかしたら手付かずのお宝とか
あるかもしれニャいとオイラはふんでるニャ」







ほーと感心する石榴やシュド、カルロスの様子に
満足そうにしながら シャムは続ける









「ふだんニャら旅のセンシとかにジョウホウ売って
金に変えるけど、お前たちニャら
ひょっとしてお宝ゲットできるかもニャ」


「場所は分かってるの?」







問いかけるルーデメラに、





自信たっぷり胸を張って返すシャム







もちろんだニャ!あいまいなジョウホウ売って
もしバレたらこっちがあぶニャいからニャ!!」











その様子を見て、石榴が頷いて言う







「なら、決まりだな 今からその遺跡に行くか


「だね まずはお金を稼がなきゃ」


「皆さんがそうするなら、僕も賛成します」







ルーデメラとシュドも同意し、







「私も金が必要だし、同行させてもらうつもりだが
構わぬだろうか」







訊ねるカルロスに 三人も快く了承する







「いいに決まってるだろ」


「皆さん一緒の方が心強いですし」


「泥棒猫君を見張ってもらってるわけだしね」







シャムが、という顔をして呟く







「…ひょっとしてオイラも行くのかニャ?」


「当たり前だろ、場所を案内してもらうしな」


「まだ償いは終わってないからね 覚悟しなよ?







うう、と小さく唸ってから 観念したように
ため息つきつつシャムは呟いた







「まあ にげられそうにニャいし、オイラも
そこのお宝にキョウミあるからいいけどニャ」













五人は、シャムの案内により 遺跡へと向かった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:はい、長らくお待たせしましたシャム編続きっす


シャム:またせすぎニャ!てゆうかオイラ
ルデメに殺されかけてニャいか!?


ルデ:当たり前でしょ?クリス君の持ってた荷物は大半
元々僕が彼に預けてた材料なんだから


石榴:いやでも、お前自分でも材料結構持ってただろ


ルデ:予備は大量にあるに越した事はないのさ
それを無駄にしてくれたんだ…どうしてくれよう?


シャム:ニャ〜!殺されるニャ!!(隠れ)


シュド:ルーデメラさん、シャム君にも悪気が
あったわけじゃないと思いますし ここは穏便に…


カルロス:ZZZZZZZ…


狐狗狸:この状況でも 前の話から寝てるって
すごいね船長…(汗)




も一つ補足するなら ラノダの亜人は五種族くらいで
多くは畏怖もしくは迫害の対象となってます




猫獣族以外の種族についても詳しく書きたいです
…機会があれば そのうちに(爆)


次回、遺跡で魔術銃に異変が!?