「なぁルデ、次の街までどんぐらい歩くんだよ」







フュリオン大陸から西のパープラ大陸に移り







雑木林を歩いていて、石榴は何度目かの呟きを漏らした







あと少しですよ それまで頑張りましょう石榴さん」


「でもよーシュド、お前は辛くねーのか?
俺達もう ここんとこずっと野宿だぞ?







そう問われ シュドは苦笑しかできなくなる









無理もない、石榴は普通の高校生なのだ







この世界に順応してきてるとはいえ
野宿がずっと続けば嫌にもなるだろう











おいルデ!聞こえてんのかよ」







前方を行くルーデメラは、何かが書かれた
羊皮紙と睨めっこしていて答えない







「無視してんじゃねーよ腹黒魔導師!!」







少し頭に来た石榴が ルーデメラの肩を掴んだ







「うるさいな 文句で僕の研究を遮んないでよ」









言いながら、ルーデメラは力任せに石榴を突き飛ばした









「どわあぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ざっ石榴さん!?







突き飛ばされた石榴を心配し、シュドは茂みの奥に入っていく











茂みの向こうに突き飛ばされ







石榴は倒れた身を起こした







「痛て…ん、これは…!」







目の前のものを見て 石榴はハッとする







「おい二人とも!温泉があるぞ!!」









叫びに シュドだけでなくルーデメラも
石榴の方へと寄ってくると







そこそこの大きさの温泉がそこにあった







「本当だ…温泉ですね、僕 はじめて見ました!」


「こんな所に、温泉があるとはね〜」







頬を上気させて興奮するシュドと感心するルーデメラ







「せっかくだから 湯に漬かって旅の疲れと
汚れを落としていこうぜ」


「そうですね、幸い魔物も近くにいませんし
ちょっと休憩するのもいいかもしれませんね」







提案する石榴にシュドも乗り気で賛同し





ルーデメラが鼻を抑えて







「悪くない案だね、特にクリス君は
もういい加減 腐敗臭がしてるし」


「Σそこまで不潔にしてねーよ!」











そんなわけで、三人は温泉に漬かって
汚れを落としてから出発する事にした











〜No'n Future A 第二十二話「泥棒猫と船長」〜











「クリスくーん、まだ出ないの?







茂みの向こうでルーデメラが、じれったそうに声をかける







「うるせぇな もう少しくらいゆっくり漬からせろよ」


「そんなに長風呂だとふやけるよ?」


「まぁまぁルーデメラさん、石榴さんも
結構疲れが溜まってるんだと思いますし」







ルーデメラと同じく、茂みの向こうで石榴を
待つシュドが 宥めるように言う







「天使君がそう言うなら大人しく待つか…」


「もう少ししたら出るよ、つーかお前こそ
あんなに早く出て 身体温まってんのか?」


「生憎 僕は長風呂嫌いなん…おわっと!?







突然のルーデメラの奇声に 石榴が
眉をしかめて温泉から出る







「うわっ!?」









続いてのシュドの短い悲鳴に、







ただならぬ事態を感じ取り 石榴は服を着ようと
急いで荷物の方へ駆けてゆく







一体 何があったんだ!待ってろ二人と…」







気配を感じ 振り向いた石榴の目に映ったのは、





銀色がかった青色





次の瞬間 顔に焼けるような衝撃が走った







「ウニャニャニャニャ!!」


「Σうぎゃあああああああぁぁぁぁぁ!!」







辺りに 石榴の絶叫が響き渡る











「だっだだだ大丈夫ですか石榴さん!」







シュドが慌てふためきながら、石榴に駆け寄った







「うぐっ…ちきしょう、荷物が盗まれた!!







フラフラと石榴はシュドにより、彼に
右手で抑えていた顔を見せた





そこには赤い無数の引っかき傷がついている







えええっ!?と、とにかく治療を先にしますね!!」


「…何なんだアレ!新手の魔物か!?


「さぁ…僕にもよくわかりません
イキナリ現れて 逃げていきましたから…」







すまなさそうに言いながらシュドは石榴の怪我を治す







ルーデメラは冷静に、相手が逃げた方を見やる







「どうやらロウライツの街に逃げてったっぽいね
ちょうど 僕らが次に着く予定の街だ」


「よし、こうなったらそいつを見つけ出して
絶対にとっちめてやる!!」








怒りに目を燃やし グッと石榴は握り拳を作る







「ん、どうしたんだよ二人とも」


「…あの、石榴さん 服を……」







シュドが口篭もり、顔を赤くしてそっぽを向いた











「クリス君 純裸族じゃないんだから、
恥部ぐらい隠したらどうなんだい?」







ようやく素っ裸でいる事を思い出し、石榴は
前を抑えながら慌てふためいた















三人は程なくして ロウライツの街に辿り着いた







「…ちっきしょー、まさか服まで盗まれちまうなんて」







悔しげに呟く石榴 その身体が震えているのは
恐らく怒りだけではない







「本当 間抜けもいいとこだよ、でも変わりに
置いてあったそのボロいローブ よく似合ってるよ?」









そう、ルーデメラが言う通り







石榴の今の格好は ぼろっちぃローブ
まとっただけの姿なのだ







お陰で服の間から入る空気や風が寒いわ





ローブが捲れ上がらぬよう気を配るわで散々である









「石榴さん…大丈夫ですよ 一緒に
荷物を取った人を見つけましょう」







心配そうに見つめ、元気付けようと励ますシュド







「まーがんばってね二人とも」


「何言ってんだよ、オメーも手伝えよルデ」


「それはこっちの台詞、僕はこれから
この街の協会に寄るから君らとは別行動さ」







聞いてないよ、という顔をする二人に







「そろそろ無くなりそうな魔法道具がいくつか
あるからね 終わったら広場で待ち合わせね









ルーデメラは一方的にそう言うと、







さっさと離れてしまった











「…次からは、アイツは当てにしねぇ絶対ぇ」


「とっとりあえず 先ずは情報を集めるのが先ですよね!」







場の雰囲気を切り替えるためにシュドが
明るくこう切り出した







「だな、酒場と広場の人間に聞き込みはじめっか」


「石榴さんの荷物は割と目立つから
意外とすぐ見つかるかもしれませんし―」


「ちょっ、ちょっとまってほしいニャ!!」









シュドの声を遮るように大きな声が聞こえた







それを皮切りに どこかで言い争っている声が
聞こえ、二人は辺りを見回す









そして、一つの店から聞こえるとつきとめた







汚れでくもった窓ガラスに二人が張り付くと







カウンターで店の親父らしき人物と、
オレンジ髪の少年が口ゲンカをしている様子が見えた









「値ぶみしすぎもいいとこニャ!
こんな上物の宝珠がそんな安いわけないニャ!!」



「いやね、うちも慈善稼業じゃないんだよ坊ちゃん
どうせこれ盗品だろ?叩かれるって分かってるよな?」



「ったしかに盗品だけど、それにしてももっと高く
買ってくれてもいいんじゃニャいか!?」



「冗談じゃない スラム街の猫獣族(キャッツ)にこの値段で
買い取るのはむしろ良心的だぞ?」








しばし店の親父とオレンジ髪の少年の小競り合いが
拮抗している様子だったが、







「もういいニャ!今後アンタの店はつかわんニャ!
ほかのバショにあたってみるニャ!!」








そう言うと少年は親父の手から宝珠を引っ手繰り
機嫌悪く店を離れて―











「あああああっ 俺の服!!」


「しまった 見つかったニャ!」









振り返った少年は 石榴の服を着ていて







石榴が襲われた時、間近で見た
銀色がかった青い目をしていた









よくよく見れば 少年の頭から髪と同じ色の猫の耳が、







ズボンからは同色の尻尾がはみ出している







そして彼の顔に猫髭が生えており 眼の瞳孔も
縦に裂けていることがハッキリと分かる









「なっ…何だコイツ!?」


「まさか、この人は…!」


「にげるニャ!!」







石榴とシュドが驚いている間に、少年は
きびすを返して逃げ出した







「しまった!追うぞ シュド!!


「はい!!」









路地裏に入った少年を捕まえようと走る二人











だが、





「みんニャ!後ろからくるヤツはカモれるニャ!!」







駆け抜けざまに少年が叫び、その声と同時に
建物の隙間から現れた集団にシュドが捕まった









「なー兄ちゃん 金恵んでくれよ」


「何か食い物くれよー」


「うわあぁぁぁ!?」







予想外の攻撃に 完全に虚を突かれて驚くシュド







シュド!テメェらシュドを―」


「石榴さん、ここは僕に構わずあの人を!」







シュドを助けようと一瞬立ち止まる石榴を
反対に シュドが押しとどめる







なおも戸惑うが、石榴はシュドの目を見て





頷いて 再び少年を追い始めた













「こらー!待て 俺の荷物返せー!!」







路地裏から再び大通りに戻りながらも
少年と石榴の追跡劇は続いている







しかし、一向に差は縮まらず 逆に広がるばかり







少年の足は素早く、反対に石榴はローブが
ハンデとなって動きがいつもよりも鈍い





が、石榴は諦めずに追いすがる











「しっつこいヤツだニャ〜さっきみたいに
またワナにハメてやろうかニャ…」







少年は逃走しながら赤い外套の人物にぶつかり―







「おっとゴメンニ…Σウニャ!?







その人物が間髪いれず 少年の腕を捕らえた







「…礼儀を知らぬ少年だな、私にスリをして
気付かれず逃げられると思ったのか?」


「うわわわっ、なっなんで分かったんだニャ!!?」









外套の人物と揉めている所に、石榴もようやく
少年に追いついた







「捕まえといてくれてありがとな そいつ
俺の荷物を盗ってった奴なん…!?」











側まで寄って ようやく石榴は外套の人物が
知り合いだと気がついたようだ









振り返ったその顔の右目に眼帯があり







隈の見える眠たげな群青の左目が石榴を捕らえていた











「かっ…カルロス 何でここに!?


「おお、石榴 また会ったな」









彼らの前にいたのは 海賊船"スリーパーズ"の船長







カルロス=スキルニルその人だった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:カルロス船長 ようやく出番復活!!


石榴:まずそこかよ!


ルデ:仕方ないじゃん、この作者のお気に入りが
あの寝不足船長なんだから


カルロス:…まあ、ありがたいとは思う


シャム:って オイラの名前なんででないニャ!
オイラだってこの話のシュヤクじゃニャいのか!?


狐狗狸:次回出るから 我慢してよシャム


石榴:つーかここで出してんだろオイ!


シュド:落ち着いてください石榴さん(汗)


狐狗狸:そうだよ 長風呂派なんだから


石榴:関係ねぇよそれ、てかカルロスは?


シャム:…ねてるニャ 立ったまま


ルデ:案外器用だね




関係ないですが ルデはカラスの行水派です(爆)


次回 少年から魔術銃を取り戻した石榴だが…?