石榴とルーデメラの戦いを見物しようと







煙幕の張られた大広間に、黒い魔物だけでなく
城中の魔物が一斉に集まってきた











「あの魔導師 派手にやってんなぁ」


「いや、あの銃使いも中々がんばってるぞ?」


「ともあれ 人間同士が戦うのは
見ていておもしれぇなぁ」


「この煙幕がもう少し薄くなりゃ見易いんだがなぁ」









煙幕の中、増える気配とうっすら見える
魔物達の影 そして聞こえる声に石榴が忌々しげに呟く







「ちっ、魔物が集まってきやがった…」


「メルティボム!」


「うおぉっ!?」








瞬時に沸き起こる殺気を頼りに、石榴が横へと飛ぶ





ほぼ同時にルーデメラの放った魔法が
スレスレで石榴を掠め、煙幕の向こうで爆発を起こす







「よそ見してていいのかい?クリス君!」


「…マジで油断ならねぇ奴だな テメェはよ!」









繰り出される相手の攻撃を共に、避け 掠め
或いは 狙いが外れる事を承知で牽制のために放つ









「ギャアッ!?」


「うわっ!!」


何処狙ってんだ!攻撃がこっちにも
飛んできたじゃねぇか!!?」







外れた攻撃の幾つかが魔物を直撃したようだが





煙幕で見えない上、互いの命をかけたやり取りを
している二人には外野の声は関係ない










「"弾けろっ"!」









肩で息をつきながらも、







石榴が何発目かの光球を煙幕の向こうに発射した









ぐっ!?







今までとは違い、確かな手ごたえと
ルーデメラの短い悲鳴があった







「っしゃ!覚悟しやがれ!!」









初めてルーデメラに勝てる期待に胸を高鳴らせ
石榴が自信万満に銃の引き金を引いた









だが、光球はそれ以上発射されなかった











「え あれ、マジかよ 弾が出ねぇ!?」







石榴が焦って何度も引き金を引くが
全く何も起こらず





程なくして、魔術銃は宝珠へと戻ってしまった







「宝珠に戻っちまった…クソ こんな時に!」


「さすがに精神力が底をついたようだね…
覚悟しなよ クリス君?







石榴の悔しげな呟きとは裏腹に好機を得た
ルーデメラが間髪入れず反撃を始めた









ルーデメラの呪文と薬品のコンボ攻撃を





何とか避け続けていた石榴が、何かに突き当たる









それは ルーデメラによって眠らされたシュド







「シュドっ…しまっ」







床に横たわるシュドに気を取られた一瞬
石榴の体に ルーデメラの術が直撃する





うぐあっ!が…はっ…」





まともにくらい、その場にがくりとひざをつく







「さあ、終わらせてあげるよ!」







すぐ近くで、ルーデメラの呪文を唱える呟きが響く









防御が、間に合わない









そう予感して石榴は身体を強張らせた







「レイストフレア!!」







ルーデメラが唱え終わった呪文を解き放つ











〜No'n Future A 第二十一話 「野望の終焉」〜











『うぎゃあああああ!?』







戦いを見物していた 魔物達の方に向けて









「…え?」







覚悟を決めていた石榴が驚いたように
ルーデメラを見る









「さて、茶番はここまでにしようか クリス君」


「茶番…?どういうことだよ!?」







問いかけにルーデメラが答えるより早く







「何のつもりだ!!」







広間の一番奥に いつの間にか現れた
黒い魔物の怒号が響き渡った







「貴様 ニラムロトの結晶が惜しくないのか!」







責めたてる黒い魔物に ルーデメラは不敵な笑みで







「だって、君ら全員倒せば総取りできるじゃない」





思わずその空間が凍りつきそうな、恐ろしい台詞を
あっさりと言ってのけた







「人質の命がどうなっても…」







なおも言いすがる黒い魔物の言葉を鼻で笑い







「ペラペラペラペラうるさいね、その肝心の人質なら
今頃 全員脱走してると思うけど?」







ルーデメラの言ったその一言に 今度こそ
その場の空気が凍りついた







「一つの檻の中に人質を一纏めにしておいてくれて
ありがとう 手間が随分省けたもん」







ハッとしたように黒い魔物が水晶を取り出して
城の地下牢を映し出し、覗き込む







「牢の床に デカイ穴がっ!!」







牢の中に 言う通り巨大な穴が開いており
代わりに中にいた人質は全て消え失せていた









ようやく事態を理解してきた石榴が呟く







「まさか、お前が俺に戦いを仕掛けたのは
人質を逃がす為の時間稼ぎで…?」


「まーね 天使君はそういうの不向きそうだから
戦闘に外れてもらったけど」







言いながら ルーデメラが指を鳴らすと





ウソのように煙幕が掻き消えた











広間は先程までの二人の戦いでボロボロになり







石榴とルーデメラ、そしてシュドから半径
二十メートル間隔で魔物達が取り囲み







広間の奥に 歪んだ顔の黒い魔物が佇んでいる







「…何でそれを言わねぇんだよ!」


敵を騙すには先ず味方から、だろ?
それに捕まってから人質がいるのを知ったんだし」







文句を言おうとする石榴を押し止めて





ルーデメラが 倒れている魔物と周囲の魔物を
それぞれざっと見回すと







「思ったより魔物の数が減ってないねぇ…
まあ 新作の道具を試す丁度いい機会かな?」







袖口から細い鎖の先に不思議な光沢の石が繋がったモノ
とりだして、にやりと笑う







「銃を使えない役立たずなクリス君は
天使君の側にいなよ」


「誰のせいだ誰の!」







石榴の非難を無視し





ルーデメラが鎖の端を握り、右腕を伸ばして
石の部分が円を描くように回し始めた









魔物達が一斉に三人の方へ向かう







「"契り結ぶ者 我が声と力を頼りに現れん
汝の名は…グリフィクス"!!」













ルーデメラの声に呼応して 描かれた円が光を帯び―







そこからグリフォンに良く似た、巨大な鳥のような獣
飛び出して 魔物達へと向かっていく









グリフィクスが三人へ向かう魔物を全て引き受け







魔物は召喚中のクチバシに貫かれ、獅子の爪や
頭部の角に引き裂かれ 尾の蛇達の毒を受け





どんどんその数を減らしていく







「…なんだよそれ」







石榴が満足げなルーデメラの右手の道具を指す







「召喚術ってちょっと時間かかるから短縮出来るように
作ってみた召喚道具さ…そろそろ目を閉じて!







道具の成功に嬉しそうにするルーデメラが
急に態度を変えて 目を瞑る





石榴もその理由が思い当たり 慌てて目を瞑った









グリフィクスが閉じられた目をゆっくりと開いた







鋭い一対の金色の目が周囲をぐるりと見渡し







目を合わせた魔物達が次々と体液を吐き出し
或いは頭部などを破裂させて絶命する









そして 殆どの魔物が全滅すると







グリフィクスの目が閉じ、甲高い鳴き声を
残して空間に掻き消えた













「うーん、急ごしらえだし呼べる時間は
大体こんなもんか」







目を開け、辺りの惨状と石の砕けた道具を
見て ルーデメラがしみじみ呟く







「ルデ、油断すんな 何かまだ
手ごわそうな奴が残ってるぜ」











石榴の視線の先 広間の奥に、黒い塊が蠢いている









それは段々小さくなり、歪んで黒い魔物の形をとった







「残念だったな ワシは闇の力を操り
全ての攻撃を無効化できるのだ」


「闇の力って んなのアリかよ!」


「アリだよ、使える魔物も術者も少数派だけどね」


「これだからファンタジーは…!」







平然とするルーデメラと額にしわ寄せる石榴







「部下の魔物が全てやられてしまうとは、
こうなれば貴様ら全員 ワシが直々に片付けてやる!」







黒い魔物が壇上から降り立つと同時に、







己が身体の回りに黒いオーラをまとう









「オイどうすんだよ!俺は銃が使えねぇし
あんなのお前一人で倒せんのか!?」


「無理だろうね、二回も召喚したり結構術を放ったから
魔力がかなり減ったし…使えて後数回くらい?」


ダメじゃねぇか!お前何も考えてねぇのか!?」







じわじわと黒いオーラを膨らませ







力を溜めている魔物を前にして
石榴が思わずルーデメラに向かって叫ぶが







ルーデメラは落ち着いて、気絶したシュドを指差す







「切り札はあるさ、ここらで天使君を起こさなきゃね
お願いできるかな クリス君?」


「だからどうやってだよ!」


「これを飲んでだよ」







またもや袖から出された中身入りの薬ビン
石榴は反射的に半歩身を引く







「安心しなよ、この薬は既に実験済みの
市販体力回復薬さ 飲めば少しはマシに戦える」







まじまじと 中の薬を見る石榴







色は蛍光オレンジだが、これまで見た
ルーデメラの薬の中では比較的まともな色







しかし、普段が普段だけに





先程までの行動も相まって余計疑心暗鬼に
かられる石榴に、ルーデメラが微笑んで







「疑うなら飲まなくてもいいけど、飲まないと
足を引っ張るだけの本当の役立たずになるよ?」


「…飲めばいいんだろ飲めばよ!」







やや乱暴にビンを奪い、フタを開けて
石榴は一息に薬を飲み干した







そして、ビンをルーデメラに返し







しまっていた宝珠を取り出して、呪文を唱えた







「リオスク アーク!」









宝珠が光を放ち、魔術銃が石榴の右手に具現化された









「ね、僕もたまには本当の事を言うのさ
さあ 早く天使君を!」







頷き、石榴がシュドに銃を向けた











光球が着弾し シュドが目を覚ました







何度か瞬き、よろよろと身体を起こす







「ここは…僕は 一体何を…?」


「目が覚めたかい、天使君」







シュドは先程のことを思い出すと、
少し距離を取って訊ねる







「ルーデメラさん あの、僕達を裏切ったんじゃ…」


「ヤダなぁ あれは人質を助ける為の
演技だよ、え・ん・ぎ♪


「え、人質…!?」







初めて聞く事実と得意満面のルーデメラの笑みに





シュドはすっかり呑まれてしまう







「そうなんだ、信じられねぇけど
ルデは人質を助けるためにあんな事をしたんだと」


「そ、そうなんですか…」







渋々説明する石榴を見て シュドは何とか納得する







「それより お二人とも傷だらけですよ
今、治しますね!」







シュドがすかさず呪文を唱え、二人の身体を癒した











「仲間が増えたとて 無駄な事よ…」







どうやら力を溜め終えたらしく、以前より
大きく凶悪に変貌した魔物が三人を睨みつけていた







重量が増したのか 床にヘコみとヒビが入る







「ずいぶんデカくなったもんだな」


「ボスっぽいのは意味無く巨大化するもんだから」


「あなたが黒幕だったのですか、どうして
こんなことをしたのです!?」







棒読み気味にしゃべる二人と逆に
シュドが真剣に魔物の方に問い掛ける







魔物がシュドと目を合わせ、くぐもった笑いをあげる







「よかろう…冥土の土産として、貴様らに
我らの目的を教えてやろう」







黒いオーラをちらちら揺らしながら魔物が
厳かに語り始めた







「我ら魔物は、あの方の命にずっと従って
人間どもに恐怖と闇を振り撒き続けていた」











(あの方…ルデの言ってた"赫眼の覇王"って奴なのか?)







話を聞きながら、石榴はふと そう考えた










「むろん ワシも例外なく各地を移りながら破壊を、
略奪を行い、そして18年程前…アイドという男が
ワシにこんな取引を持ちかけた」











(あーなんか先が読めちゃったなー 話の)







興味なさそうに ルーデメラが心の中で呟いた







「この地で取れるニラムロトの結晶を我らの力で
独占させる代わり、この城と餌を提供し 我らが
暴れまわることを黙ってやる…とな」











魔物のその言葉に、シュドが青ざめた顔をする







「そんな…」


「人間として腐ってやがんな、そのアイドって奴」







シュドの隣で苦々しく吐き捨てる石榴







「悪人はどんな世にもいるし 貴族が魔物と手を組むのも
ありがちな話だよ、二人とも」







ため息混じりにルーデメラが二人を見やる









「話は終わりだ、そろそろ死ぬがいい!!」







床を蹴り抉り 魔物が三人に真っ直ぐ駆ける







「来やがったぞ!」


「散るんだ!」







三人はそれぞれバラバラに散り、魔物の攻撃を
交わしながら走り回る







「"爆ぜろ"!」







石榴が魔物に向けて光球を放つも





黒いオーラが瞬時に光球を取り込み







何事も無かったかのように 魔物が石榴に襲いかかる







「マジで攻撃がきかねぇ こんなのと
どうやって戦えってんだよ!」







振り上げられる腕を交わしながら、
石榴がやや やけ気味に声を張り上げる







「闇属性は攻撃が効かない…けど、正確には
ほとんどの攻撃が効かない、なのさ」







ルーデメラがシュドに 魔物を目で示して







「天使君 浄化呪文をアイツにありったけ
ぶち込めるかい?」


「や…やってみます」







返事を返し 少し距離をおいて立ち止まると







シュドが、急いで呪文を唱えだす







「セレスティウィスプ!」







シュドが向けた手のひらから、白い光が
魔物へと一直線に向かい―





光が当たった瞬間 黒いオーラが揺らぎ







「ぐぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」







魔物が苦しそうな叫び声をあげた







光が消えると、魔物の姿が少し小さくなった







「効いてる…シュド どんどん頼むぜ!


「はい!」







シュドが答えて呪文を唱え、魔物がそれを
阻止せんと シュドに向かう







しかし 石榴が銃を放ち、足止めしたり







ルーデメラが幻術を使い シュドの
幻を生み出したりして魔物をかく乱させ







一撃ずつ シュドは浄化呪文を当てていく











だが、魔物は弱る一方で素早くなりつつあり
段々 足止めも攻撃も難しくなった







避けるのもおぼつかなくなり、







三人は 攻撃を掠めた腕や身体に傷を負う









「ヘカトンメイク!」





ルーデメラの術が発動し、







広間の床がうねり 一箇所に盛り上がって
やや小ぶりなゴーレムが生まれた







何やってんだよルデ!ゴーレムなんか
作り出したってあいつには効かねぇだろ!?」







ぼやきながらも 何とか被弾させようと
銃口を向ける石榴をルーデメラが止める







「待った!クリスくん 狙うなら
奴じゃなく、下だ!







初めはその言葉の意味が飲み込めなかったが





言われた通り下を見て、石榴にも
ルーデメラが何を狙っているか伝わったらしい







「なるほど…そう言うことかよ!」







銃口を下に向け 石榴が引き金を引く







狙いたがわず、光球は魔物の足元で爆発する







「何処を狙って…なっ!?







がくりとバランスを崩し、魔物が驚愕の声をあげた









ルーデメラの術によって 薄くなった床板
石榴の一撃で崩壊し、足を取られたのだ







もがいて、体勢を立て直すほんの僅かな時間







そこへ シュドの放った光が直撃し





魔物が 断末魔の叫びをあげて
光の中へ掻き消えていった













城の魔物が皆倒れ、ルーデメラがゴーレムに
二、三命令して 一息ついた







「魔物も皆倒れたし、結晶も必要な分 ゴーレムに
取りに生かせたし…もうここに用は無いよね?」


「…ここにはな







引っかかる言い方に ルーデメラが石榴を見る







石榴が、目に怒りの炎を宿して言った







「ルデ 今からそのアイドって奴を
ぶちのめしに行くぞ」







ルーデメラは嫌そうなしかめ面をして、







「クリスくん、再三言うけど僕らは正義の味方じゃない
そんなことをする義理も義務も無いんだよ」


「…僕も石榴さんの言うことに賛成です」







見るとシュドも真剣な顔をしていて、





ふぅ とため息をつくとルーデメラは
かんで含めるようにシュドへ語りかける







「天使君 落ち着いてよく考えてごらんよ」







青い目がライトグリーンのキレイな目を真っ直ぐ捉え







「ここに巣食っていた魔物は全部退治したし、
囚われていた人質も全員助けた」







優しく語られる言葉に、シュドはこくこくと頷く







「あとは周囲の村や近くの街の警備兵に
アイドの事を通報しておけばすむだろ?」


「それは…そう ですけど…」







優しげな説得と真っ直ぐ自分を見据えるルーデメラの
態度に シュドはそれ以上何も言えなくなる







それを納得したととって、ルーデメラが
シュドから顔を離して 歩き出す







「天使君もわかってくれた事だし 通報するためにも
この場所から出よう」


「そんなんでいいのかよ、証拠とか…」


「ここに転がる魔物の骸・助けた人質達
ある程度残したニラムロトの結晶…他に必要なものは?







用意周到なその台詞に、石榴とシュドが
同時に目を丸くする







「ルデ、お前って やっぱりかなりの確信犯だな」


「君とは頭の出来が違うからね さ、僕らも
そろそろここから出ようか」


「…はい」







石榴とルーデメラが会話しながら広間の
出口に向かうのを





シュドが何か釈然としないものを感じつつも







二人の後へとついていく











それに気付いた二人は、同時に立ち止まり
シュドへと振り向く







「天使君、これからもどんどん戦闘にも
参加してもらうから気を引き締めてね」


「まあ 頼むぜシュド」







言い終えると、二人は返事を待たずにまた歩き出す







「…はい!」







シュドは信頼された嬉しさを顔に出しながら
石榴とルーデメラの後についていった








――――――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ようやっと野望シリーズ終了〜


石榴:終わったのはいいが、詰め込みすぎだろコレ


ルデ:無駄に長引かせたしわ寄せが来たんだね
不精ばっかりしてるからだよ


狐狗狸:君ら がんばったんだから労いの言葉一つくらい
かけてくれたって…(泣)


シュド:あの、僕の出番を増やしてくださって…
あ ありがとうございます!(照)


狐狗狸:薄情二人と違ってシュドは本当いい子だ〜


?:ほのぼのしてないで早くオイラたちの
話を書くニャ!!


狐狗狸:こら君は次回キャラだからまだ出ないの!




イラとかでネタバレといて、今更ハテナとかついてますが
見ないフリの方向でお願いします…


次回 ようやく船長カムバック!!(何)